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第18回1000字小説バトル
Entry19

そして世界が

作者 : るーつ
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文字数 : 899
その日…。
世界は終わりを告げようとしていた。
なんの変哲もない、静かなある晴れた日のできごとだった。

どこかで誰かが言った。
「なぜ、世界が終わるんだ?」
どこかで違う誰かが言った。
「始まりの日があるから、終わりの日があるのさ」
そうして、世界は最後の日を迎えた。

子供たちは笑わない。
誰かがどこかで泣いている。
眠らない夜。
けたたましい笑い声が響く。
喧騒の中で誰かが転ぶ。
信号が変る。しかし、車は止まらない。
恐怖の悲鳴。
暗がりの中で、人がうごめく。
道端で眠っているおとこ。
誰かが誰かを刺す。そして、誰かが死ぬ。
誰も気づかない。
目的もなく、ただひたすら歩きつづける人の群れ。
歩きつかれたように道端にうずくまるおんな。

電灯に集まる虫たちのように、明かりに吸い寄せられる子供たち。
感情に左右される、子供のような大人たち。

大人になりたくない。
子供たちが言う。
子供がわからない。
大人たちが思う。

なんのために学ぶのか。なんのために考えるのか。
なんのために働くのか。なんのために営むのか。

なにを悲しむのか。なにを哀れむのか。
なにを楽しむのか。なにを喜ぶのか。

なにがそうさせるのか。なぜそうしたのか。

だれもしらない…。

ひとりの詩人がつぶやいた。

ダレモシラナイ…。

そうしてこの日、世界は静かに終わった…。

「おはよう」
「おはよう」
「よく眠れた?」
「うん、気持ちのいい朝だね」
「そうだね。なんだかうきうきしちゃうよ」
「ほら、小鳥がないているよ」
「あたたかくなってきたからね」
「今日は洗濯ものがよく乾きそうだね」
「にわとりの卵、とってきて」
「ついでに真っ赤ないちごも摘んでくるよ」
「今日は何して遊ぶの?」
「久しぶりに、山に入ってみようか」
「パパも一緒に行ってもいいかな?」
「あなた、はやく卵を取ってきて。パンが焼けちゃうわ」

温かいスープの香り。
子供たちは楽しそうに食卓を囲む。
母親は食器をならべながら、ミルクをそそぐ。
父親が外に出るために、ドアを開けた。

太陽の日差しと、緑の草むらを駆け抜ける風の香り。
一瞬、家族がまぶしそうに目を細めて外を見る。

「まるで、始まりの朝みたいだ…」

誰かがつぶやいた。

青空の中、雲だけがゆっくり流れていた。






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