第3回 1000字小説バトル

参加作品
1 ハクチョウ・ステーション 1000
2 フューチャーズ 小笠原寿夫1000
3 幸せなうなぎ屋 ごんぱち1000
4 隠れた才能 岡嶋一人1000
5 うるはしの昼下がり zippoh1000

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バトル結果発表
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ハクチョウ・ステーション

 私と夫はハクチョウ・ステーションに向かった。
 今日は銀河鉄道のイベントがあり、ハクチョウ・ステーションからオオクマ・
ステーションの間を特別臨時特急が走るのだ。
 私達はハクチョウ・ステーション発の切符を手に入れることができ、わくわく
しながらステーションホールに足を踏み入れた。
 あちこちでフラッシュが光り、カメラやムービーを手にした人々でいっぱいだ

 ハクチョウ・ステーションのすごい所は、ホームにあると思う。列車が到着し
たり、発車するたびにホームが一番最適な状態に変化するのだ。人々をその上に
乗せたまま。微かに虹色の光を放ちながら変化していく様は見ていて飽きない。
そしてホームの上、列車に乗り込む最適な場所に並んでいることに気づくのだ。
 ホームの真ん中で歓声が上がり、イベントのゲストが登場したようだ。
 人波の中に少女と少女より少し年上の少年と白と黒の動物が見え隠れした。
 アナウンスでアルプスの少女ハイジとその友達ペーター、そして3匹のヤギだ
ということが判明した。
「おじいさんのヤギのはくちょうとくま!」
 私の言葉に夫が頷きつつ付け足した。
「そしてゆきちゃんだ」
 私はちょっと口を尖らせた。
「ステーション名にかけて、はくちょうとくまなら、ハイジとペーターじゃなく
て、おじいさんとヨーゼフの方が良いな」
 夫は苦笑しながら私を見る。
「はいはい、いつものけちつけね」
「けちつけじゃないよ。私だったらそっちのほうがいいってこと!」
 カメラを向けてみたが、うまく写りそうもないので、すぐ諦めた。
「列車はあとどのくらいで到着するの?」
「あと2~3分ぐらいかな。10分ぐらい停車してそれで定時に出発だよ」
 夫が時計を見ながら答えてくれる。
 私はホームの動きを感じて、下をじっと見つめた。
「そうだね。ホームも準備してる。もうすぐだ」
 私はそっとしゃがみこむとホームにやさしく手をついた。虹色の微かな光が人
々の足元に広がっていく。
「あぶないよ」
 夫が周囲を気にして立つように促す。
「うん。もう来るね」
 私が立ち上がったと同時にホームの端っこから歓声があがった。
「信号が青になったらしい」
 夫が呟きながら、遠くを見つめる目をする。
 私はカメラを構えて特別臨時特急が入線して来るのを待った。
 ホームが緩やかなカーブに変化した。
「ありがとう」
 私の言葉に夫が振り返った。
「ホームが列車を見やすいように動いてくれたんだよ」

フューチャーズ
小笠原寿夫

彼らの名前はフューチャーズ。かつて漫才の賞という賞を総なめにしてきた漫才コンビである。作る側の片割れは、一般企業に就職し、壊す側の片割れは、路上生活を余儀なくされていた。
ある時、東京で台頭してきたお笑いコンビが、彼らの事をばかにしたことがある。彼らは喋りよりは動きで人を笑わせるコンビだった。それは喋り漫才の終焉を物語ると共に、新しい笑いの風が吹いてきたことを予兆していた。路上生活を余儀なくされた片割れは、ズボンの後ろが屁によって破れ、降りしきる雨のなか、坂道の上で必死で、それを隠そうとしていた。
「あいつ昔、漫才やってたんだぜ」
東京で台頭したお笑い芸人は、片割れに後ろ指を差した。片割れは、情けない姿を見せまいと東京の芸人二人に立ち向かっていった。とは言え、相手の年齢はまだ若く、こちらはロートルボクサーの年齢をも過ぎた高齢者である。勝ち目はない。それでも大音声をあげ、二人に向かっていった。降りしきる雨のなか、ぼろ雑巾にされる片割れの姿は哀れだった。
そのときである。
後ろの方から聞き馴染んだ声がする。
「左ジャブ! 左ジャブ!」
かつての相方の声だった。その声に身を任せ、左の腕を出し、それが相手の顔面を捕らえる。
「手首を振って!」
指示された通りに動くと、面白いようにパンチが当たる。そのうちに回りが客でいっぱいになり、大歓声に包まれる。
「右ストレート!」
出した拳が、相手の顔面を捕らえる。相手はふらつき、血が滴り落ちる。坂道の上で雨のなか、四人のカルテットが歓声に包まれる。相手をなぎ倒した片割れはそれでも手を止めない。
「よし! ラッシュや! 行けぇー! 行けぇー!」
相手にボディーブローかまし、相手の身体がくの字に曲がる。
「距離を詰めて右フックかましたれ!」
右フックを打ち込むと、相手の身体が前のめりに倒れる。大歓声のなか、雨は止むところを知らない。
「どうもフューチャーズですよろしくお願いします!」
「こないだボクシングの練習をしてきまして、相手っちゅうのが、皆さんよくご存じの方なんですよ」
「まぁまぁ、僕も名前知ってるけど、なんとも言えません」
「勝ったんですけど嫌なもんやな」
「後輩どつくっちゅうのは」
「なんでやねん。俺のイメージ悪うてしゃあないわ」
「勝ったんでしょ?」
「……」
「それやったらいいじゃないっすか」
「血まみれで帰りました」
「雨降っててよかったな」
「晴れてたら帰られへん」

幸せなうなぎ屋
ごんぱち

 ケチな男がうなぎ屋の隣りに引っ越して来ました。
 うなぎ屋の店先からは、いつもうなぎを焼く良い匂いが漂って来ます。
「ああ、良い匂いだ、旨そうだ、ああ、本当に旨そうだ!」
 男は、うなぎ屋の店の前に立ち、匂いを嗅ぎます。
「そうでしょう、旨そうでしょう? どうです、食べて行かれちゃ?」
 うなぎを焼きながら、店主は声をかけます。
「なんだ、奢ってくれるのか?」
「え? いえいえ、まさか。お代を頂いての事ですが……」
「お足を払うぐらいなら喰わないよ。ああ、良い匂いだ!」
 男はうなぎの匂いを一杯に吸い込むと、家に帰って行ってしまいます。
 そして、家に帰るなり、男はおひつの蓋を開け、飯を食べ始めます。ケチな男ですから、おかずはありませんが。
「ああ、良い匂いだ。旨い、旨い!」
 うなぎの焼ける匂いをおかずに、男は飯を食べていたのでした。
 男は毎日それを繰り返し、結局今まで一度もうなぎを食べに行った事はありませんでした。

 ある月の三十日。
「ご免下さい、ご免下さい」
 男の家に、うなぎ屋の店主がやって来ました。
「隣のうなぎ屋じゃねえか。何の用だ?」
「三十日でございますので、お代を頂きに、へぇ、参りましたので」
「……はぁ? オレはお前んとこで何も喰った事はないぞ」
「召し上がった事はありませんが、匂いを散々嗅がれ、飯のおかずになさっている」
「はぁ? 匂いに金を払えってのか?」
「おかずをただで差し上げる食い物屋はございません。お代をお支払い下さい」
「……分かった、払ってやる」
 男は金をうなぎ屋に支払いました。

 次の日。
 うなぎ屋には、誰一人客が来ませんでした。
 匂いで金を要求する店主が営業しているという噂が立った店です。みんな気味悪がって近寄らなくなってしまったのです。
 その次の日も、そのまた次の日も、客は来ませんでした。
 うなぎ屋は悩んだ末に原因に思い至りました。
「分かったぞ、みんな匂いだけで済ませているんだ!」
 うなぎ屋は、毎日うなぎを焼き、匂いを長屋中に流して周り、月末には匂い代を集めに回りました。
 どの家も門前払いをされ、怒鳴られ、ある時は殴られ、しまいには番所に突き出されてしまいました。
 番所の役人は、うなぎ屋を詳しく調べました。結果、うなぎ屋はもう精神的に働ける状態ではないと判断され、生活保護が受給出来る事になりました。
 こうしてうなぎ屋は、一生安楽に暮らしました。
 めでたし、めでたし。

隠れた才能
岡嶋一人

 今年五歳になる息子の雄一が、オセロのルールを覚えた。仕事があるから毎日とはいかないが、できるだけ対戦相手になってやる。
別に父と子の絆なんて大それたことではない。
妻に言われたからでもないし、オセロの日本チャンピオンにでもなれば……などという親馬鹿な気持ちもない。それが証拠に、どこぞの小説に出てくるような天才少年じゃないから、十回に一回も大人の私に勝てない。まあ、たまにわざと負けてやっても、それにも気が付かないぐらいの腕前だから、所詮子供のお遊びなのだ。
それでも、
「おとうさん、オセロやろうよ」
と言ってくると、子供心になんとか私に勝とうとしているようで微笑ましくもあり、そんな雄一の相手をしていると楽しいからだ。
 そんなある日、近所の玩具屋で催されるオセロ大会のチラシが新聞に入っていた。それと分かる写真入りの内容に、数字しか読めない雄一が興味を示した。
「ねえ、これオセロでしょ」
「ああ、オセロ大会があるってさ」
「えっ、ほんとう? ぼく、いきたい!」
 雄一は目を輝かせたが、残念なことに彼には資格が無かった。
「小学生じゃないとだめだって。雄一はまだ幼稚園だから、出られないんだよ」
「ううん、でるんじゃなくて、みにいきたいだけ」
「日曜だし、お母さんと三人で行くか」
「うん。ねえ、おかあさん、いいでしょ」
 キッチンで夕食の後片付けをしていた妻が「いいよ」と返事を返したときに、雄一の目が一段と輝いた。この時、まだ私達は雄一の隠れた才能を知らなかった。

 大会当日、雄一を連れて会場に行ってみると、すでに予選が始まっていた。十数卓の盤の両側で、腕自慢の小学生達が真剣な面持ちで盤面を見つめている。雄一はその一つ々々を見て回り、ちゃんと分かっているのか、時々参加者に負けないぐらいの難しい顔をしたりしている。そのしぐさに思わず噴出しそうになる。
 やがて、準々決勝・準決勝と進み、いよいよ決勝戦になった。まだゲームは序盤戦で盤面もほとんど埋まっていない時に、雄一が言った。
「おとうさん、黒が4で負けるよ」
何を言っているのかと思った。
 結果から言えば確かに雄一の言うとおり、白の勝ちだった。
「でも、4目差でもないし、黒の駒が4個でもないよ」
と言うと、雄一が盤面を指差して言った。
「ほら、みてよ、おとうさん」
そう言われて改めて盤面を見た。
そこには確かに、白い駒に囲まれた黒の駒がくっきりと4の字を形作っていたのだ。

うるはしの昼下がり
zippoh

 水色に澄んだ高く広がる空の午後、あなたは久しぶりの外出で待ちくたびれたバスに乗った。何年ぶりかで新調した運動靴に、あなたはすこぶるご機嫌だ。
 バスは学校帰りの大学生で満員だったから、あなたは吊り革で立つことになった。それはごく自然なことだと思った。あなたは健康だし健脚だったから。
 ただ近ごろ少し筋肉が落ちたことをあなたは気にしていた。出っ尻はいつしか貧弱なお尻になっていたし、太股にも大きな隙き間ができていたからだ。おまけに心なし顔も小さくなったような、鏡を見るたびに少し寂しい思いもしていた。
 勝ち気なあなたは、人生に一段落した歳とはこんなものだろうと、自分を慰めた。たまに思いついては腕立て伏せの練習をしたが、たったの10回で息が切れた。それを煙草のせいだとごまかした、あなたは自嘲気味に……。

 目的の街までの区間は170円。たいした時間はかからない。国道に出れば、たわいもなく着く。殺風景な国道は好きではないが、それも街の一つの風景と、あなたは新しい靴にご機嫌なのだった。

「どうぞ」

 突然、声がかかった。
 吊り革にぶら下がっているあなたの眼前に、席を立った若い女がいた。
 誰に? あなたは、うろたえた。あなたの近くに席を譲られるような年寄りがいなかったからだ。
 けれども、女の視線はたしかに、あなたに向けられていているのだった。
 あなたはシルバーですよ→どうぞ。
 あなたは、一瞬の間を置いたのち、女の言葉を理解した。

「……」

 あなたは、喉をつまらせたのか、目が意味もなく笑っただけだった。
 女はあなたの遠慮を素早く理解して席に腰を戻した、にっこり笑んで。
 そのまま前を向いてしまった女の様子を、あなたは見ることができなかった。何事もなかったかのように、流れていく車窓の風景を見つめているのが精一杯だったのだ。
 あなたは自分が赤面しているのを感じていた。それは新しい運動靴が歳不相応に思えたからではない。吊り革にぶら下がった腕が細かったからでもない。あなたはあなたが、「どうぞ」の女に、その麗しの声に、恋したことを知ったからだ、瞬間に。
 
 ……もうすぐバスが着く。あなたはバスのステップから軽やかな足どりで飛び降りることだろう。そしてきっと、女の顔を二度と見ることはないだろう。
 新しい運動靴にご機嫌なあなたが、傍目に老いていることをはじめて感じた、それはバスに揺られる秋の昼下がりのことだった。