第4回 1000字小説バトル

参加作品
1 隠し事 小笠原寿夫1143
2 遊ぶ意味 有機機械901
3 蟹と新ぶん記者 ごんぱち1000
4 さよならリスさん アレシア・モード1000
5 赤玉神話変態古事記物語 zippoh1000

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隠し事
小笠原寿夫

 宙空を鳶が飛んでいる。青空の向こうに何があるのかなんて知る由もない。ただ私は入院中のベッドに横たわり、空を眺めているだけだ。
 ホーキング博士の宇宙論を思い出す。宇宙が開いている(膨張し続ける)という考え方と閉じている(収縮を繰り返す)という二つの説があるそうだ。どちらかというと宇宙は無限に広がると考えた方がイメージは沸きやすい。そんなことはどうでもいい。いかにしてこの退屈を過ごすか。私の思考は、どちらかと言えば、そちらの方に傾いている。必要だからと学校で教わった知識はなんの役にも立たず、ただ入院患者同士の会話に相づちを打つだけだ。
「宇宙人っていると思う?」
私の答えは、いいえだった。所詮大学を中退してもその程度かと思われるのが嫌で何かと理由をつけてしまう。
「地球は違った成分で構成された生物めいたものはいるかもしれませんけどね」
先祖から受け継いだDNAなんて本当にあるのかすら疑わしい。
 まだ鳶は宙空を旋回し、我々を見下ろしているようにも思えてならない。
 急に隣のベッドの患者が私の名前を呼ぶ。
「だけど不思議やと思わへん? キリンの首が長いのは分かるわな。な? だけどカメレオンはどうして色が変わるんや? 心がそうなりたいと望めば生態も変化するってことやろ?」
私は、それを不思議だとは思わなかった。その疑問を否定するわけではないが、それはそうなるものだと決めつけているから。教科書にしたがって物事を考えてきた我々にとって教科書に載っている問題以外は問題ではなかった。知的好奇心の薄れた私は、その時点で昔、志した科学者の試験は失格なのだろう。常に何かに疑問を持ち、それを解決できたときの喜びは何にも変えがたいと聞く。当たり前の事を疑う気持ち。これは何にも変えがたい科学者の基盤となる。
 空模様が怪しくなり、鳶の群れはいなくなってしまった。
「皮膚の中で何らかの化学反応が起きているんでしょうね」
と言いかけたが、それを言うために息を吸い込んだ瞬間、次の質問が来た。
「人間も突然変異によって生まれた生物やろ?」
不意を憑かれた私は、ただ「はい」と答えるのが精一杯だった。
 知的好奇心だの学校で習った知識だのより人間同士の会話の間合いの方がよっぽど難しい。それは、肌で感じとり、自然と身に付けていくものだから。宗教家がその際たるもんだと考える。科学者と宗教家。常識を疑うか、信じるかという差こそあれ、真実を求めるという一点に限って言えば、同じものを追求していると言えなくもない。
 そう考えると、さっきまで気になっていた鳶の群れが飛んでいること自体が馬鹿馬鹿しく思えてならなくなってきた。
「人間が火を起こしたきっかけは?」
 昔、狩人が銃で鳶を落としたように、核ミサイルを迎撃できればいいのに。

遊ぶ意味
有機機械

一人、夜の会社で暴れ回っていた。
壁を殴り、机を蹴とばし、吼えていた。

車をとばし、急ハンドルを切って、夜の闇の中へ。

辞表を出して後ろ指さされる勇気はないけれども、
仕事でトラブルが起こって処分されればいいと思った。
自殺する勇気はないけれども、死にたいとさえ思った。

でもやがて一旦仕事が落ち着き、
僕も明るさを取り戻した。

それから春が来て僕は遊びまくった。
休みの度に遠出したり、
ろくに登山なんかしたこともないのに
濃い霧の中や
道のない山にも分け入ったりもした。
冒険こそが人生の喜びだと思った。

他にも新しいスポットや
食べ物のうまい店があれば出かけて行き、
東北の田舎町から
日帰りで東京までふらりと遊びに行った。

いろんな女の子とも食事に出かけ、
その度に豪遊した。

再び激務の時期が来たけれども
僕はうまく乗り切った。

まわりのみんなは
「充実した日々を送っているな」
「人生満喫しているな」
と僕を羨んだ。

自分もまんざらではなかったが、
ある時そんな声に
「まるであと一ヶ月の命みたいに
何かに追い立てられているかのように遊んでるよ」
と答えた。

確かにそうだ。
前から家でじっとしてられない方だったし、
毎月の給料だってあるだけ使ってしまう。

でもこんなに
疲れても疲れても、
身体にムチ打ってどこかへどこかへ
とまでは出かけなかったし、
貯金を崩してまで遊んでなかった。
まして死ぬかもしれない山の中へ
一人で分け入ったりはしなかった。

僕はどうしてしまったんだろう。

一夢庵風流記
前田慶次は明日死ぬかもしれぬ身だから
思いっきり遊ぶ。
いつ死んでもよいと思うから、
また、いつ死んでもよいように
思い残すことのないように風流する。

そうだ、
いまだに僕は死んでもいいと思っている。

かつては抱いていた
自己実現や恋や愛を通した
自らの幸福を見ることができない。

かつては描いていた
将来築くはず、築かなくてはいけない
自分の家庭のイメージもまったく描けない。

僕はこの先何のために生きていけばいいのだろう?

意味の見いだせない人生を支えるために
僕は遊び続ける。

僕が倒れるか、金が尽きるその時まで。

その時僕はやっと死ぬことができる。

それともその暗闇から
生きる意味を見いだすことができる?

蟹と新ぶん記者
ごんぱち

 母の敵をとるべく、子蟹たちは臼、蜂、栗、馬糞の助力を得て猿を殺害しました。
 裁判によって有罪は宣告されたものの、多分に情状すべき点が存在した為、執行猶予付きとなり子蟹たちは実刑を免れました。
 世間はこの結末に満足しました。

 しかし。

 収まらない者がここにおりました。

 そう、新ぶん記者です。
 記者は、この事件がもめにもめて、子猿と子蟹の法廷闘争にもつれ込む事を期待していたのです。
 けれど、子猿はどんなにけしかけても、悟ったような顔で、
「悔しくも悲しくもありますが、それは親の行った間違いに対して抱いている感情です。蟹たちを恨むのは筋違いでしょう」
 等と言うのでした。

 頭の良い記者は、ふと思い付きました。
「そうだ、一番出るべき登場人物が残っているじゃないか」
 記者は川へやって来て、石をひっくり返して回ります。
 すると。
 石の下に、大きな蟹が寝ていました。
「……ん? なんだね、君は」
「初めまして、私は『朝売日報』の谷良瀬と言います。今回の奥様とお子さんたちの事について、コメントを頂きたい」
 大きな蟹は、猿に殺された蟹の夫だったのです。
「やはり、仇討ちはするに出来ない事情がおありだったのですか?」
 記者は同情したような顔で尋ねます。
 これでもしも「はい」と答えれば、「下らない理由で妻子の危機を見逃した、最低の父親」という記事で、三回ぐらいは正義感溢れる読者を引っ張れる筈です。
「いや、仇討ちはしたよ」
 父蟹は言いました。
「えっ? そんな馬鹿な!?」
 記者は大いに驚きます。
「別に責めている訳じゃないんです、ただ、一言、『仕方なかった』そう言えば良いんですよ! 余計な事言わないで下さいよ!」
 記者は怒鳴り散らします。
「私は既に私なりに仇を討っているよ」
「嘘を言うな! あんたは、何も出来ずに物語の裏側でじっとしていただけの筈だ、そうじゃないと困るんだ、もう記事だって書いたんだ、ふざけるな!」
「私は仇を討った、諦念もないし、後悔もない。無論、虚偽を新ぶんに掲載すれば、法に訴える覚悟がある」
「この蟹風情が! もう良い! 折角新ぶんに載せてやるって言ってるのに!」
 記者は怒って帰って行ってしまいました。
 父蟹は、記者を見送ってから苦笑いを浮かべます。
「嘘は言っていないのに」
 父蟹は肘をついていた、母猿の白骨をハサミでちょんとつつきました。されこうべが、ゆっくりと川下へと流れて行きました。

さよならリスさん
アレシア・モード

 リスヲが夜、小屋の外で眠るようになったのは秋も深まった頃だった。リスヲは私の飼うシマリスで――リスとして高齢で――そして強欲だった。
 彼は強欲ゆえ常に必要以上の餌を求めた。受け取った餌はあちこちに埋めて隠す。檻から出して部屋に放すと本棚の裏とかに隠匿したりする。だが最も蓄えが多いのは小屋であり、夜は財産に埋もれニヤけて眠るのが彼の趣味の筈だった。
「それがなぜ外で寝るようになった」
 私はリスヲを詰問した。
「新しい小屋に替えろと云うアピールか?」
『答える前にひとつ。私達リスはよく《森の執事》と例えられる事があります。なぜかご存じですか』
 知らん。
『私達は秋になると木の実を集め、あちこちに埋めて蓄えます。もちろん後で食するためですが、全部食べるわけではありません。実は蓄えのうち何カ所かは、いつも手をつけず忘れてしまうのです。それは生来――先祖以来の記憶の掟なのです』
 寧ろ記憶力の限界では? と私は思う。
『そうして残した木の実が、やがて芽を吹き新たな森を育てます。私は森の成長を管理する執事なのです』
「で、お前はなぜ一緒になって埋まってる? 番をしてるのか?」
 彼は一瞬シニカルな目をして、静かに答えた。
『私はただ記憶の掟の命ずるまま動くほかないのですが』
 この身をもって肥やしとし、この森を育てる所存です。

 翌朝、リスヲは藁の下に潜ったまま冷たくなっていた。彼の想像の森、木の根元の、彼なりに掘った位置で死んでいた。なるべく深く掘りたかったのだろうが、藁は数センチ程しか敷いてないので、彼の下半身は表に出たままだった。そして彼が管理していたつもりの七十センチ四方の鉄格子の森は、彼の最期の思い入れと献身を受け入れそうには思えなかった。
 私はリスヲをそっと藁から取り出すと、生前集めた木の実や何やらと一緒に小さな紙箱に納めた。ひょっとして悪い冗談かも知れないとそのまま夕刻まで放置したが、何のオチも無さそうなので埋葬を決めた。最初は家の近くに埋めようと思ったものの、考え直して自転車のカゴに載せ、少し遠くの里山へと向う。私はそれらしい木の根元に彼を埋めてやり、その場を離れた。
 ふと振り返ると里山は送電線の下、稲株の並ぶ田に囲まれた、いかにも小さな世界に過ぎなかった。幾台か車のライトが通り過ぎて、私は首を振り、再び家へとペダルを漕いだ。そう、私もまた、私なりの世界の管理に忙しい身なのだから。

赤玉神話変態古事記物語
zippoh

 神さまだって恋をする。

 女神っ娘を遠くで見つめながら、
「いい女だなあ」と兄神が言った。
「あの娘に惚れちゃったのかい」と、弟神が訊いた。
「実は結婚してくれって頼んだが、きっばり断られちまった」
 すると、
「俺ならうまくやるけどね」と、弟は自信ありげに言い切った。
 ふん、と兄は鼻先で笑い、
「もしもお前がうまくいったら、何でも奢ってやるぜ」と、これまた言い切った。
 それからこうも付け加えた。
「そのかわり、失敗したら俺に奢るんだぞ」
「ちょろいもんだ」弟はますます図に乗る。

 で、弟はさっそくママに相談だ。口ほどにもない。
 息子がそんなだから押して知るべし。親馬鹿ママは息子のために、着物にパンツ、靴下から靴まで、女好みに薔薇の蔓で一晩かけて作っちまった。その上、意味不明だが、やはり薔薇の蔓で弓も作った。
 弟はママの苦心作を着込み、その弓を持って自信満々、女の宮殿に押しかけた。すると、摩訶不思議。弟の全身と弓は、ぱっと花盛り。薔薇の花まみれになった。ところが、昨夜の晩飯がよくなかったか。腹の具合が悪くなり、宮殿のトイレに慌てて駆け込む。もちろんこれは、ママの依怙贔屓に嫉妬した兄の仕業だ。弟の皿に下剤をまぶしたというわけ。
 トイレの横に咲いたかに見える薔薇の花。たまたま通りかかった件の女神っ娘が、それを見つけて「まあ、美しい!」と目を見開く。手にとってみると、それは例の弓だ。
 何とか持ち直してトイレから出て来たのが、これまた美しい薔薇の花まみれ。たちまち二人は恋に落ち、あっと言う間に二世が誕生。神さまの世界は何事も早い。遅いのは、下界のどこかの国の政策決定、揚げ足取り合戦の高給会議。神も馬鹿なら人間も阿呆。同じ阿呆なら、踊りゃな損々。

「なっ。兄貴。どうだい。俺の勝ちだな。約束をはたしておくれ」
「ふざけるな。ママのおかげじゃないか。奢ってなんかやるもんか!」
 と、兄は大声で叫び、弟の頭を力いっぱいこずいた。ついでに蹴りも入れる。
 弟は泣きながらママに言いつけた。それを聞いたママは眉間に青筋立てて大激怒。
「おまえという子は。人を騙しおって(て、弟は神さまでしょうが)。それでも神か。神々の風下にも置けん卑しいやつじゃ」
 散々どやされた兄曰く。
「だってママ、俺らって、新興宗教じゃん。おおよそ、いかがわしい」
 ママ曰く。
「そりゃ、そうだわね」

 今日も今日とて、家族そろってご利益の赤玉を磨く。