ねこのきもち
アレシア・モード
元日に届いた年賀状の、一枚目がそれだった。
写真年賀状に刷られていたのは変てこに改造された猫写真だった。ベースは茶トラだが、その縞々がくっきり黒々と上から塗られている。どうやら虎のつもりらしい。強そうに見せるためか顔には太く眉が描かれているが、情けない八の字眉はただ失笑を誘うだけだった。フォトショップで描いたか加工自体はリアルだ。
まゆ毛ネコのにやけた口元からはフキダシが出て、中に台詞が書いてある。
『トラの寅次郎でーす。すぐ遊びにきてニャ』
「と、寅次郎ッ!」
全然気付かなかった。慌てて葉書の表を見る。やはり奴の年賀状だ。あの馬鹿野郎、私の寅に何をした。奴がフォトショとか使うわけない!
数十分後、私は馬鹿の部屋のチャイムを連打していた。
「開けろこらァ」
わぁいアレシアさんだ♪もう来たよ、と馬鹿な声がしてドアが開く。
「さ、入って。早く閉めてね。寅次郎が出ちゃうから」
「にゃあ」
馬鹿の足下で寅次郎が嬉しげに啼いた。その顔にはやはり太い眉が描かれていて私はがっくり肩を落とした。
「これ、落とせるんだろうな?」
「洗えば落ちますよ。でもせめて三が日はトラらしく……」
私は無視してブーツを脱ぎ、寅次郎を抱き上げ部屋へ上がった。近くで見れば一層哀れな縞々は、尻尾の先までご丁寧に描かれて、悲しいやら馬鹿馬鹿しいやら。
「一体、私の寅を何だと思ってる」
「いや私のって言われても……飼ってるの僕ですよぉ」
「寅はな、私の恋人だ。貴様は彼の食事住居その他お世話を担当してるだけだ」
「それを飼ってると言うんです。ていうかあなたの恋人って僕でしょ」
「はァ?」
どさくさに何言ってやがる、と思う間もなく馬鹿は私にのし掛かってきた。
「アレシアさん~~クリスマスも~年末も~ずっと仕事で会ってくれなかったし~寂しかったんです」
仰向けに押し倒され、私と馬鹿の目が合う。その隣にもう一つの顔が覗き込む。まゆ毛ネコの顔だった。
「にゃあ」
私は一秒間だけ脱力し、
「ええい、鬱陶しい」
顔を寄せてくる馬鹿をはね除け蹴り飛ばした。
ああ、この間の悪さが馬鹿の証拠だ。こっちは新年の朝から頭の中はまゆ毛ネコで一杯なのに、急にそんな気分になれるか。何が寂しかっただ。自分で仕掛けておいてこれだから情けない。
「とりあえず酒でも出しやがれ。正月だろ」
「はーい♪」
「にゃあ」
私は寅次郎の頭を撫でて嘆息した。こうなりゃ私がトラになってやる。