第11回 1000字小説バトル

参加作品
1 柴犬 小笠原寿夫1000
2
3 花子と俺 石川順一1000
4 その奥より出でしもの ごんぱち1000

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バトル結果発表
※投票受付は終了しました。
柴犬
小笠原寿夫

「良い子でしたよ。普段から大人しくって」
――そうですか。で、事件のあった日は?
「あんまり覚えてないけれども部屋で寝てましたね、えぇ」
――寝てた? あんな酷い事件があったっていうのに?
「えぇ。昼間はベッドに横たわっていることが多いんですのよ。旦那が帰ってくるまでは遅くまで寝ているわね」
――かしこまりました。で、普段はどんな子でしたか?
「そうねぇ、凄く気遣いの上手な子で気を遣う振りだけは上手でしたよ。まぁ、あの子は大日本人だから」
――今、大日本人と?
「えぇ。大日本人だからってなんだって言うの? 見た目は普通の子と変わらないじゃない?」
 ドア越しの主婦と見られる女性はモザイクに顔を隠しながら、スカートの裾を枚つかせた。
「そんなことより家に上がって行かれません? お茶なら用意してありますし」
――いいえ、仕事で伺っているものですからそういったことはちょっと……。
「あ~ら臆病ねぇ。いいじゃない臆病なくらいが丁度良いけどね」
 カメラを覗き込む主婦と見られる女性は、庭の犬小屋をチラ見した。
――犬ですか?
「そうねぇ、番犬って程じゃないけれど凄く賢いのよ、この子」
――それより事件についてもう少し窺いたいのですが。
「えぇ、結構よ。事件と言えばこないだも大きな事件があったわね。なんだったかしら」
――今回の事件についてもう少し深くまで窺いたいのですが。
「そうねぇ、まさかあの子があんなことになるなんて思ってもみなかったわね。なんたって疑惑のギの字も垣間見られなかったわよ。あの子ったらこんなこと言うのよ。柴犬のような番犬になりたいよぉ~ぉだってやぁ~ね冗談よ」
 ケラケラと笑う主婦と見られる女性はスカートの裾をバタつかせながら急に大きな鍋を奥の間からヨタヨタと抱えてきた。
――なんですか?
「これでお料理をしようと思って。なんだかお腹が空いてきたわね。何か美味しいものでも作ろうかしら」
――いえ、取材で伺っているものですから。
「案外、仕事熱心なんじゃない。見直したわ」
 横槍を入れるようにして主婦と見られる女性は甘い声を出した。
――ありがとうございます。事件の話に戻らせて戴いて宜しいですか?
「えぇ、事件と言えばあの子、こんなことも言っていたわね。飛び出す絵本に登場するキャラクターの歴史的解決はどういうつもりなんだとかね」
――それはどういった?
スカートから伸びてくる左腕から逃げ帰る舜花は西へ西へと向かった。

(本作品の掲載は終了しました)

花子と俺
石川順一

 花子と10年間付き合って来た。今よみがえる美しい思い出の数々。36階タワーの最上階の夜景を見ながらのディナーショー、沖縄の透き通るような海、北陸の荒々しい磯の海、二人で行った温泉旅行、二人で撮った無数のプリクラなどなど、数え上げたらきりが無い。
 その10年間も全てパーになって仕舞ったのだが、別れるまでの経緯がすさまじかった。だてに10年間も付き合って来た訳じゃ無いのだなと感心して居る場合じゃ無いのだが妙に感心して仕舞って、俺も酔って居たのかなあと少しは反省して居る。
 「やっぱり私の体が目的だったのね」
 と、すごい剣幕の花子に俺は言葉が無かったね。散々問い詰められて、今までの悪行の数々と言っては大袈裟だが、花子は俺の悪行の数々をあげつらい、懺悔を迫った。俺がどんな悪行をして来たと言うのだよと思うが花子が言うとシャレにならない物を感じた。鬼気迫ると言うのかね、本当に俺ももう駄目だと思ったよ。
 俺はあまりに窮したものだから言ってやったよ。
 「いやー違うんだ、俺が本当に望んで居たのは、君の体じゃ無い。君の--------そう、君の金が目的だったんだ」
 って思わず言って仕舞ったね。言った瞬間仕舞ったと思ったのだがもう遅かった。確かに彼女はばりばりの商社に勤めるキャリアウーマンで、商品管理課長で部下も30人いて、年収も高額だったから思わず言って仕舞ったんだ。でもやっぱりKYだよね。
 「もっとひどいじゃないの!!」
 花子はこんな男が居るぐらいならこの地球には居たくないと言わんばかりの勢いで、猛ダッシュで俺の元を去って行ったね。
  
 花子と俺は清い付き合いだったんだ。そりゃ恋人同士だもの、性交渉は何度か行った事はあるが、1度だってふしだらな事は無かったよ。今となってはせっせと避妊器具を使ったおかげで、別れる時も後腐れ無く別れられたってもんだ、と言う慰めにならない慰めしか無いんだけど。
 俺、サッカーやってるんだけど、花子はそんな俺にメロメロだったんだぜ。アマチュアの草サッカーだけどさ、俺キャプテンやってるし、ハットトリック決めた時なんか、もう花子の奴、失神せんばかりに喜んじゃって、あいつのおごりではしご酒よ。
 もう何を言っても後の祭りって言うか、愚痴にしかならないんだけど、ほんと百年は続くと思って居たのに、早かったなあ。なんてあっさりしているんだろう。女は魔物、俺にはさっぱり分かんねえなあ。

※作者付記:
苦手な恋愛物ですが精一杯書きました。

その奥より出でしもの
ごんぱち

 あるところに、子供のないおじいさんとおばあさんがいました。
 ある日、おじいさんは山へ徘徊に、おばあさんは川へ徘徊に行きました。
 二人は、認知症のせいかどうかは判然とはしませんが、普段から同じ事を繰り返したり、失火で家を全焼させたり、腐った食べ物を何ヶ月も冷蔵庫に放置したり、尿臭のする衣服をヘルパーの人が着替えるように促しても「今朝取り替えたばかりだ」と言い張ったり、紙オムツを乾かしてまた穿いたり、弄便した手を壁で拭いたりしていたので、徘徊などお手の物でした。
 おばあさんが川沿いを意を決したような表情でずんずんずんずん歩きつづけていると、上流から異様に大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れて来ました。
 おばあさんはその桃を食べられると判断して、拾って帰りました。
 おばあさんは桃を誰かに見つからないように洋服ダンスの奥に隠して、それを切る包丁を取りに台所に行きましたが、台所に着いた頃には桃の事などすっかり忘れていました。
 しばらくして、おじいさんが民生委員の人の付き添いで帰って来ました。
 おばあさんとおじいさんが、一緒に二度目の晩ごはんを食べようとした時です。
 洋服ダンスの中から、赤ん坊の声がし始めました。
 洋服ダンスを開けると、中には玉のような可愛い男の赤ちゃんがいました。
「まあ、かわいい」
「おどろいた、タンスからこどもがうまれるとは!」
 ふたりは子供をタンス太郎と名付け、可愛がり始めました。

 おじいさんとおばあさんに変化が現れました。
 あんなに物忘れをして、新しい事を覚えなかったおばあさんが、タンス太郎のことは覚えていました。
 人と関わりを持たず、話しかけられても返事もしなかったおじいさんが、タンス太郎の言葉を聞こうと必死になり始めました。
 おじいさんはタンス太郎が這えば大喜びして成長観察ホームページを立ち上げ、立てばブログに写真をアップし、歩めばツイッターで実況しました。
 おばあさんは公園デビューし、知り合ったママ仲間と子育てサークルを作り、「ママ休日」にはおじいさんにタンス太郎を任せてショッピングに出かけるようになりました。
 愛情を一杯に受けてタンス太郎は元気に育ち、おじいさんとおばあさんの心はすっかり若返り、身体まで元気になったようでした。
 子供がいたお陰で、おじいさんとおばあさんの老後は大変実りある、豊かなものになったのです。
 めでたしめでたし。

 えーしー。