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1000字小説バトル

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1000字小説バトル stage3
第12回バトル 作品

参加作品一覧

文字数
1
本作品は掲載を終了しました
2
小笠原寿夫
1000
3
石川順一
1013
4
ごんぱち
1000

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(本作品は掲載を終了しました)

喫茶店
小笠原寿夫

 眼鏡に映るのは喫茶店の風景と煙草だけ。

 賑やかな店内には、会話をする客たちと、ちらついたオレンジランプが垣間見える。眼鏡の隙間から、その風景を覗き込みながら、煙草を燻らせる。鏡に反射した喫煙フロアには、多くの客が、ごった返している。私は、アイスコーヒーのブラックを飲みながら、店内を一望する。後ろを振り返ると、No Smokingの文字が飛び込んでくる。
 私は、……私は、一体何の為に、ここに来たのだろう。丁度、眼鏡から見えるのは、宙に浮かんでいるような煙草と賑々しい店内。ひとつ、携帯電話を開けてみる。そこには菅新首相誕生のニュースや芸能ニュースが並んでいる。煙草をもう一本咥え、ライターに火を点ける。脈拍はみるみると上がり、喫茶店の風景を眺められる位置から、その雰囲気を味わう。鼻を突くその匂いは、そこを異次元空間にでもしてしまったような錯覚を起こさせ、麻酔にも似た、その媚薬は、私に至福の時を与えてくれる。
 火について言えば、過去、先人達が、必死になって起こした賜物である。それを繋いで行くことこそが、我々の使命であり、誇りといっても過言ではない。人間が、人間名だたる由縁。意識を戒める、という意味に於いても、それは、先人達の知恵による副産物。火を巧みに操ることこそが、人間に与えられた、唯一の特権である。
 喫茶店の店内を見渡すと、ざわめきがフッと消え、ジャズミュージックが、漂っている。

「お疲れ様です!」
背後から声が聞こえる。昔の友人だった。一瞬、笑顔が溢れ、安堵した様子の私を、友人は一礼する。こいつに会う為に、私は、地下鉄に乗り、ここまで来たのだった。遠く離れ離れになった友人の笑顔を見るだけで、ホッとする。会釈する友人はさっぱりした様子で、話しかけてくれる。こいつに一瞬、ヒヤッとしたが、それも束の間。すぐに昔の雰囲気に戻る。
 昔、一度、こういった場面に遭遇したことがある。いつの事だかは覚えていない。私と友人は商店街をぶらつき、ミックスジュースを飲む。帰り際、友人は、さよならも言わずに、私を見送ってくれた。
 友人の手厚い接待に、やや、緊張するも満足な一日を送れたことに感謝したい。
 帰りのバスで不思議な体験をした。バスの運転手に行き先を告げた後、車内アナウンスから微かながら、友人の声が聞こえる。友人の力は絶大なものである。そう確信し、私は、バスを降りた。

 煙草は、必需品である。
喫茶店    小笠原寿夫

ホワイトジャック
石川順一

 スーパーの出入り口で急患が発生した。
 出入り口に置いてあるカートで遊んで居たら、背中から落下して、背骨を複雑骨折した上に、持病の白血病を悪化させて仕舞った様だ。
 カートで遊んで居たと言う事で、ちっちゃい男の子か女の子の事だと当初は思われたが、何と初老の男であった。
 救急車を呼ぼうとしたら、こんな重体であるにもかかわらず、明確に本人によって拒絶された。
 「わしには自分の寿命が分かる。呼んでも無駄じゃ。自分の事は自分が一番よく分かっとる」
 すっかり困り果てて仕舞った、野次馬やスーパーの従業員たちであったが、野次馬の一人が、私は医者だと言う。
 「私は無免許ですが、実は医者の実務経験があります。大きな声では言えませんが1000人以上の臨床経験があるのです。これ程の急患は初めてですが、こんな急患見過ごす訳には参りませんでしょう。私は警察にしょっぴかれるのを覚悟で名乗り出たのです」
 そうだ、やつこそ伝説の名医、ホワイトジャックだ、やつに任せれば大丈夫だ、と言う声が野次馬の中から聞こえて来た。
 「うんだうんだ、そうにちがいねえ。うちの所のかかあなんか、末期癌だったのに、やつのゴッドハンドで治ったべや」
 「わしんところのかあちゃんもだ。原因不明の病気で50の病院から診療拒否に会っておきながら、やつ、ホワイトジャックのマジックセラピーで全快よ」
 どうもホワイトジャックの名医伝説は嘘では無い様だ。成功例は2,3にとどまらず、野次馬の中だけでは無く、スーパーの従業員からも、難病治療の成功例が報告された。
 「私には、治療の為の治療専用バスを既に近くに待機させてあります。そちらにこの人を移動させましょう」
 なんと、ホワイトジャックは、急患が発生する前から、急患の発生を予知して治療バスまで用意して居た様だ。
 この恐ろしい程の治療能力と、恐ろしいまでの予知能力を兼ね備えた、まさしく超人的なグレイトスーパードクターはどんな治療をしてくれるんだろうかと野次馬たちが固唾をのんで、バスの周囲に集まり始めると、彼の治療が始まった様だ。
 「みなさん、決して治療が終わるまで、バスのカーテンを開けてはいけません。窓は厳重に施錠されて居ます。出入り口などをこじ開けようとしてはいけません。よござんすか」
 「よござんす」
 野次馬たちはこの名医の事を知り尽くして居た。
 そしてこの話が次回へ続くかどうかはホワイトジャックにも分からないのだった。
ホワイトジャック    石川順一

宵闇の誘い
ごんぱち

「寄るな」
 ベッドルームの壁を背にし、寝間着姿の女は、スーツの男に拳銃の銃口を向ける。
「怖がる事はない」
「喋らないで。口が臭いわ」
「元気なお嬢さんだ」
 微笑む男の唇からは、尖った牙が見える。
「人類の六割は、既に我らの仲間だ」
「人の生き血を啜る、化け物に成り下がる、気はないわ」
「獣で構わんよ。要は、生き血の持つ生命の力を摂取して生きているのだから」
 月明かりが割れた窓から射し込む。
 静かな夜だった。
 パトカーのサイレン音も、近所の住人が気付いた気配もない。
「もう黙って! 今、有利なのはこっちよ」
 女の銃口は僅かに震えていたが、狙いを外す程遠い距離ではなく、引き金を引くのが間に合わなくなる程近い距離でもない。
「迷信の銀弾なんかじゃない。教会の技術開発部が配給してる、聖別された岩塩弾。本物の退魔弾よ」
「知っている。その引き金を引けば、私を倒せるだろう」
 男の口調は穏やかだった。
「だが明日はどうだ? 明後日は、明明後日は? 眠っている間は? カートリッジに何発入っている? 次に教会の配給はいつだ?」
「何匹だって、倒す! 弾が切れたら、杭を打ち込んでやるわ」
「君の恐怖は少々子供じみた固定観念から来ている。吸血鬼イコール恐ろしい化け物、という条件付け。ママが子供を寝かしつけるための方便」
 男は目を見開く。金色の瞳孔が月明かりを受けて光る。
「自分の目を信じたまえ。我らと人間と、どう違う? 働き、遊び、笑い、眠る」
 女の目に僅かに迷いが浮かぶ。
「老いの悲劇は、生き飽きた頃には自らの首に縄をかける力を失っている事。だが吸血鬼に老いはない。死の安らぎが欲しければ、その健やかな両足で自ら外に出て、朝陽を身体に浴びれば良い。生老病死のうちの老病死が解消された、穏やかで楽しき日々」
「そんな……だって、でも……」
「決断が出来ぬなら、待とう。だが、人間の時の年齢と姿が、吸血鬼になった後も続く。若く美しい時を逃さぬ事だ」
 男は足音も立てずに窓縁に跳び乗り、背を向ける。
「ま……待って」
 女の銃口は下がっていた。
 男は女に近づき、拳銃の銃身を握り、そっと取り上げる。
「そうそう、些細な事だが」
 それから、女を両手で抱き、首筋に唇を近づける。
「吸血鬼になると、血という動物性蛋白質しか吸わない関係で、慢性的に便通が悪くなり、更に便の匂いや体臭が強烈になるので宜敷」
「ちょっ、ま!」
 ぢゅぅぅぅぅぅぅぅぅ……。