第16回 1000字小説バトル

参加作品
1
2 ハンサム丼 小笠原寿夫1000
3 ラナ玉井 石川順一1016
4 グループホーム『ポプラ』始末記 ごんぱち1000
5 もしもドリーム 綾田 周1000

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ハンサム丼
小笠原寿夫

 え? まだなんか? もうやってるんでしょ? ジョナサン! ジョナサン! お前、あいつのことまだ引きづってんのか? 偉い永いことここで待たせやがって。エエか? 今から大事な話するからよう聞けよ。
『世の中には二種類の人間がおる。作り屋と壊し屋や』
 邪魔すんなよ。テーブルをよう磨け。ピッカピカになるまでよう磨くんやぞ。でな、うどん食え、そば食え。で、テーブルを見ながらよう啜るんや。自分の顔が写るやろ。それを見ながらズルズル啜れ。エエか? その顔よう覚えとけ。それがお前の顔役や。で、山車を混ぜろ。山車を混ぜたら、絵ぇ描ける。よう覚えんかい! 糞味噌やろが! で、大事なもんは絶対に落とすな。これだけでも覚えて帰れ。風呂場いってよう考えよ。下の方からよう回せよ。救うように混ぜるんやぞ。冷たいもんは下、暖かいもんは上や。な? 温もるやろが。大事なもんが身体中を駆け巡るようにして頭から出すんや。これこそがハンサム丼や。今の感じ忘れんな。一杯でたか? で、布団や。解るな? よう干したぁるやつ、背中に乗せ。あべこべにすなよ。冷たいもんが下、暖かいもんが上や。そうや仰向けや。その仰向けの姿勢から、うつ伏せに入れ換われ。寝返りぐらい覚えとけ。じゃあ大将、よう食うてよう考えてよう寝えよ。だからあの子に好きって言っちゃいなよ。お前が好きって言っちゃいなよ。涙が止まらねえって言っちゃいなよ。な? 温もるんじゃねえぞ。ハンサムなんだからさ。男前って意味じゃねえぜ。俺が一番初めに言ったこと忘れてねえだろうな。そうだ。そうそう。それそれ。
『世の中には二種類の人間がいる。作り手と壊し手だ』
 いいな、帰えるぜ。全くもってけしからんやつだぜお前の経だけはよ。恃むぜ、恃んだぜ。お経ってのはこうして唱えるんだ。よく覚えときな! 糞味噌やらせやがって全く。え? まだなんかあんのかい。顔の次に名前覚えろって? 普通逆じゃねえのかい。名前の次に顔だろ。あとは動き方ぐらいだろうが。これが道ってえんだよ。道、導き出すように。じゃあな、帰るぜ! あぁ、喰った喰った。早めに薬飲んで早めに風邪治すんだぜ! ズビバゼン叔父さんになってやれぇ。ドブもズビバゼンでじたでぇ。ご迷惑をお掛けしましたを心の中で唱えよ。自然と出てくる言葉があるだろう。そうだ、その言葉を一生忘れるんじゃねえぞ。いいな! さぁ、煙草吸うて屁ぇこいて寝よ寝よ。

ラナ玉井
石川順一

 ストロボ城の城主ラナ玉井はカリカリして居た。
 二人の息子がスーパーに侵入してスーパーコンピューターを分解して仕舞ったのだ。分解して組み立てて以前より性能のいいコンピューターにしたのだからいいでは無いかと言うのが二人の言い分なのだが、そんな言い分通る訳が無い。経済的損失は無いどころか得して居るじゃないかと言い張ったが、勿論ムショにぶち込まれた。
 二人にして見れば、スーパーにスーパーコンピューターなんか必要ないだろうと生意気に思ったのかも知れないが、ムショにぶち込まれて、ムショノコウジと言う綽名まで流布して仕舞った。
 確かに玉井家は室町時代まで祖先が遡れる名門であるが、そんな綽名つけるなってとラナ玉井は思った。
 せめてムシャノコウジとか実在の名字にしろよとラナは思った。苦しい綽名にしおってからに、強引に組み合わせるからだ。
 しかし、親の心子知らずと言うか、獄中からくだんのスーパーを告発する文を雑誌に投降したものだから、余計に家名に泥を塗る事になった。
 全てボツになったのだが、心苦しかったのか、編集長にばらされて仕舞い、泣きっ面に蜂と言う形になって仕舞った。
 ボツになったのに、名声だけ落として、どうしてくれるんだとラナも息子たちも地団駄踏んだがどうしようも無かった
 ラナはすっかり塞ぎ込んで仕舞い、敵が攻めて来た時の為にセッティングされて居た8か所の堀の跳ね橋をみんな揚げて収納して誰も渡れない様にして城から一歩も出ない様になって仕舞った。

 あれから3年がたった。ラナはカメラマンになって居た
 いくつかのコンテストで入賞してから、専門誌と専属契約を結んで独立した。
 息子たちも出獄し今ではすっかり娑婆の空気に馴染んだ様だ。
 ラナは主に戦場カメラマンとして活躍した。イラクやアフガニスタンにも渡ったが、タイで内乱が起きると渡航したりと比較的不規則な仕事であった。
 或る日ラナの元に黒いトレイが宅急便で届いた。黒いトレイには二つの骸骨がのせられており、おまえの息子たちのだと説明書きが添えられていた。
 まさか、嘘や、また私の精神を乱そうとしてからに。
 ラナは早速外務省に問い合わせたら、その宅急便はアフガニスタンの反政府組織サリバンからのだと言う事が判明した。
 ラナは嘗て、この組織のひどさを告発する写真を掲載した事があり、サリンバンに恨まれて居た。
 なんだ、ひどい、模型の偽物や無いか、ラナは悪と戦って行く決意をした。

グループホーム『ポプラ』始末記
ごんぱち

「こんにちは、またお邪魔します」
 グループホーム『ポプラ』のドアを開け、女がやって来る。肉付きの良い、中年の女だった。
「これは坂本さん。ども、いつもありがとうございまーす」
 洗濯物の入ったカゴを持った、エプロンを着けた男の職員が出迎える。身長百八十センチを超える、背の高い二十代後半と思しき男だった。胸に付けている名札には「かなや」と平仮名で書かれている。
「エミちゃん、元気だったー?」
 食堂のテーブルについている車椅子に乗った女の入居者に、坂本は話しかける。
「こんにちは」
 入居者はオウム返しに返事をしながら、テーブルのティッシュを引っぱり出しては、ちぎって床に落としている。
「あらら、散らかしちゃメッでしょ、エミちゃん」
「あー、テーブルの上を、片付けようとされているみたいですねー」
 金谷がティッシュを片付ける。
「それと坂本さーん、前も色々言いましたけど、入居者さんは、名字で呼んで下さいね」
「ああ、そうだったわね。ごめんちゃいねー、谷川さん」
 言いながら、坂本は谷川の頭を撫でる。
 金谷は軽く肩をすくめたが、それ以上何も言わず、電気ポットの湯で茶を淹れ始める。
「よお、あんたか、良く来たね」
 自分の居室から出て来た男の入居者が、挨拶をする。少し腰が曲がっているが、足取りに危なげはない。
「松阪さん、元気ですかぁ? 今日はね、良い物持って来てあげたんだよー?」
 にこにこしながら、坂本は紙袋をテーブルに載せる。
 中から出て来たのは、千羽鶴だった。
「自治会で作ったのよ。みんなが元気になりますようにって願いをかけてるの」

 坂本が帰った後、金谷は夕食の仕度に取りかかる。
「……元気にって。要介護状態は、病気じゃないんですけどねー」
「ははっ、善意を悪く言っちゃいかんよ、金谷君」
 笑いながら、松阪が個々人の名前が書かれた盆を配膳台代わりのカウンターに並べていく。
「例え、使い道がなくて、お守りとしても見当違いで、美観を損なうような物であったとしても気持ちがこもっていれば価値はある。鰯の頭も信心から、だ」
「あはは、松阪さんの方が言っちゃってますよ」
 二人は笑う。
「そうだね」
 谷川は金谷達の声に反応して返事をしてから、テーブルに置かれた千羽鶴に手を伸ばす。
 それから、そのまま引っぱり、テーブルの脇の――ゴミ箱に落とした。
「……善意ですかね?」
「善意だな」
 コンロの上の鍋が、カタカタと音を立て始めた。

もしもドリーム
綾田 周

「ねぇ、ユキ。覚えてる?」

 湯気の立ったコーヒーを持ち上げながら、カズヤが言った。
 私が首を傾げると、カズヤはくしゃっと笑顔になって、「夢の話なんだけど」と言う。

 私は何の話だったか全く思い出せなかった。

「夢の話?」

「『もしもドリーム』だよ」

「あ!」
 
 
 その単語を聞いた途端、ユキの脳裏に1つの映像が浮かんだ。カズヤと見に行った映画のタイトルだった。

 映画の舞台はベトナム戦争だった。ある1人の兵士とその恋人が、戦争により離れ離れの場所での生活を余儀なくされる。それでも「戦争が終わったら結婚しよう」という約束で2人は固く繋がっていた。そんなある日、離れ離れの2人に不思議な奇跡が起こる。
 
 2人で同じ夢を見るようになったのだ。

 ある時は2人の故郷の海辺で、ある時は春の花が揺れる草原で、2人は手をつなぎ、共に夢の時間を過ごした。


「覚えてる。確か、ラストが悲しかった……」

「そうかな?僕はあれはあれでハッピーエンドだと思ったけど」

 映画の終盤で、その兵士は銃弾に倒れる。しかし、その恋人の夢の中で、彼は生き続けているのだった。

「あれがハッピーエンドのわけない。だって、彼は本当は亡くなっているのでしょう?生きていれば、2人の夢の世界は『奇跡』だったかもしれないけど、彼がこの世の人でなければ、それはただの彼女の夢でしかないもの」
 
 少し興奮して話す私を、カズヤは目を細めて見つめていた。

「あの時も、僕たち、こんな風に口論したんだよ。覚えてる?」

「あ……」

 そうだった。あの映画を見た後、喫茶店に移動した私たちは『彼女は幸せなのか』について意見を交えたのだ。私はどうしてもそんな風には思えなかった。例え、愛する人と夢で会えたとしても、目が覚めた後は辛い現実と向き合わなければならない。そんな思いをするくらいなら、どんなに苦しくとも、離別を受け入れ耐えた方がマシだ。

『じゃあ、ユキは、もし愛する人を失うことがあっても、夢でもいいから会いたいって思わないの?』

あの時カズヤは言った。確か『僕なら、会いたいな』って。

私は何て答えたっけ?
そうは思わない、って言ったような気がする。


「カズヤ、私はあの時、何て言った……?」

 そう言った瞬間、目の前からカズヤが消えて、代わりに薄暗い部屋が現れた。私の部屋。机にうつ伏せたまま眠っていたのだ。


カズヤは正しい。

私は泣いた。


壁に下げていた喪服が、夕日に照らされていた。

※作者付記:
読んでいただき、ありがとうございました。
初チャレンジ作品です。