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1000字小説バトル

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1000字小説バトル stage3
第24回バトル 作品

参加作品一覧

文字数
1
本作品は掲載を終了しました
2
石川順一
1010
3
ごんぱち
1020
4
相馬
1000

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(本作品は掲載を終了しました)

6月26日
石川順一

 ボールドは6月26日(日)、母と喫茶店Sへ行った。(前回「続く」と記しました「神の鳥」は、カルパッチョさんのカルパッチョがイタリア語で食い物を意味して居る事に後で気付くなどネーミングなどに若干不備があると思いましたので、しばらくはお休みしたいと思います。再開はちょっと遅れるかもしれません。)
 「Cはどう?」
 「もう10時55分だからね。Sじゃないとモーニングが間に合わないよ」
 「喫茶店のモーニングサービスはほとんどは11時までだからね」
 喫茶店Sに着くと待ち時間が少しあり、母が名簿に名前を記す。ボールドは週刊誌を手に取り待つ。週刊SPAには板橋区資産家事件の犯人を知っている男の手記がある。日中混成強盗団の噂。2009年5月と言う日付。過去と現在が同居し始める。ボールドは周囲の人の動きに気をとられながらも週刊誌を貪る様に読んだ。
 「Iさん・・・」
 二人分の席が空き、ボールドと母は調理場がある北西の位置からするとそこから奥まった所にある南西方の4人掛けのテーブルに案内された。壁を隔ててすぐの所に雑誌置き場があるテーブルで人が雑誌を置く音がボールドは気になった。北海道小豆を載せたトーストのモーニングサービスが切れて居たのでボールドは仕方なくフレンチトーストバージョンにする。
 ボールドはアイスティーを飲みながら再び週刊誌SPAの資産家宅放火殺人事件の記事を貪る様に読んだ。瀬田英一さんと瀬田千枝子産夫妻が焼き殺された。2年前の出来事ながらまるで昨日の事の様にボールドの記憶に蘇って来た。日中混成強盗団か、ふふ、ボールドは微苦笑した。
 喫茶店の後、ボールドと母はスーパーKへ行った。何時もなら車で待っているボールドも今日は暑いので母と共に店内へと行く。尾道産のたこ焼きなどがあったが、ボールドはやり過ごしてカゴへ入れない。お菓子を最後に買おうとしたらレジ精算が意外と早く済んで仕舞ったのとレジ近くに陳列されて居た週刊誌に目を奪われボールドはお菓子をカゴに入れ逃し少し悔しがった。
 家へ帰って来ると車置き場に風呂のマットが落ちて居た。
 「風で飛んだのね、ボールド、ちょっとどかしてよ」
 「何であんな所に風呂のマットが・・・」
 「勝手口の靴脱ぎ台に干して置いたのよ、かびちゃわないように」
 ボールドは車を出ると薄紫色のマットを勝手口を開けて風呂場の出入り口の前に置いた。駐車したボールドの母も程無くして入って来た。
6月26日    石川順一

つゆ
ごんぱち

 雨が庭に降り注ぐ。
 アジサイの葉の上では、カタツムリがゆっくりとツノを動かしながら動いていた。
「梅雨だな」
 ガラス一枚隔てたファミリーレストランの店内で、学校帰りの四谷京作は呟いてコーヒーを飲む。少し濡れた夏服の下から、Tシャツの黒を基調とした絵がうっすら透けて見える。
「うん」
 同級生の蒲田雅弘は小さく頷いて、店員が注ぎ足したコーヒーをスプーンで一つ混ぜ、クリープを垂らす。
 白い筋が沈みながら渦を巻き、浮き上がって来る。
 蒲田はコーヒーを一口飲む。
 それから、時計を見る。
 午後五時。
「蒲田」
「あ?」
 四谷が外を指さす。
「見えるか? アジサイのとこにほら、でっかい」
「カタツムリの事か?」
 ファミリーレストランの窓沿いに、ちょっとした目隠しを兼ねた植え込みに、アジサイはあった。赤に近い紫の花が咲いているが、盛りを過ぎているのか、所々小さい花が抜け落ちている。
「そう」
 四谷はコーヒーを飲み干してから、カップを置く。
「ちょっとテンション上がらね? ああいうの見ると」
「確かに」
 蒲田は、同意とも苦笑とも取れない笑いを浮かべる。
「コーヒーのおかわりいかがですか?」
 店員がポットを持ってやって来る。
「はい、よろしく」
 しばらくの間、二人は何も言わず、ただ、コーヒーカップを傾けていた。
「小さい頃さ」
 四谷が四口目を飲んだ後に言う。
「ん?」
「エスカルゴの話を聞いてさ、カタツムリ喰うなんてあり得ないってドン引きした覚えがあるけどさ」
「ああ」
「でも所詮陸貝じゃないか。そりゃ二枚貝を食べる事の方が多いけど、それにしたって、サザエやアワビを知らない歳でもなかったよな」
「そうだなぁ」
「今思えば、ガキってそもそも、食べ物に対する許容度自体が狭いよな」
「言えるかもな。大抵、子供の頃の方が好き嫌いは多いだろうし」
 フロアの反対側のテーブルで食事をしている親子連れに、向けるともなく視線を向けながら、蒲田はうなずいた。
「だろ、その頃の自分なら、多分、何にも付けてない食パンとかでも同じリアクションだったと思うわ」
「……かも知れんなぁ」
「つまり」
「なんだ?」
「初めてナマコを喰ったのは、もの凄いジジイだったんじゃないかな!!」
「……ナマコ酢は固いから、程ほどの大人じゃね?」
 雨足は、また少し強まった。
「……止まねえなぁ」
「梅雨だしな」
 窓の外のカタツムリは、葉の端まで辿り着き、ゆっくりと葉を食べ始めていた。
つゆ    ごんぱち

記憶の結び目
相馬

 また、私は猫が好きらしい。これも今となっては曖昧な感覚で、猫と言うちんまりとした温もりは思い出せても、それのどこがどうよかったのかなど具体的なことは結局思い出せなかった。「兄」が病室に持ってきた黒猫の縫いぐるみに怪訝な目を向けた私の様子など「母」は構っていられないようだった。彼女は、自分や家族の存在を認められない息子に怒りを抱くのに忙しい。それでも泊りこんで病室を出て行こうとしないのが彼女の可愛らしいところだと思う。そんな風に怒っている姿を見るだけで、「母」が私を他人以外の特別な存在としてみていることなど分かるのに、そこまで怒らなくても。いやしかし、怒って拗ねてくれないと私も彼女を特別な存在として見れないのだから、悩ましいものである。
「父」はただ口を文字通り「への字」にして私の手をぎゅっと握っていた。一番悔しいのは私だ。こんなにも想ってくれる人たちがいるのに返せない。悔しいのに悔しいという感情すら控えめで、それに苛立つ。
健忘症については時のみが解決すると医師に言われ、私は事故から一週間で退院した。歩いているところを自転車に突っ込まれて吹っ飛んだらしい。なんと情けない、と笑いすら起こせない理由で色々とすっ飛んでしまいここにいる。幸い、外傷は打撲と擦り傷程度のもので、退院する頃には殆ど治っていた。
一人で出歩くのは、退院した翌日の一度で懲りた。心配げに眉を八の字にする「母」に散々言い返しての一人散歩だったが、近所の人に話しかけられると飛び上がる有りよう。私にとっては初対面なのだから仕方があるまい。今度からは全ての事情を把握しているうちの人間に同伴してもらわねば、どうにもならないと感じた。
それでも、あの日足の向くままに赴いたあの場所は、何があろうとたった一人で行きたいと思った。――大小様々な猫が自由気ままに寛ぐ空き地。砂利の多い地面からは、生命力の強そうな雑草が天に伸びていて、それに隠れるでもなく、じろじろと眺め渡す私に警戒心を抱きもせず暇そうな半目の猫に、胸を鷲掴まれた。先にも言ったように、私は依然から猫が好きだったらしいが、未だにその感覚が分かっていない。それでも恋の開始を告げるかのように強引に揺さぶられたあの日のことを、あれ以来ご無沙汰であるにも関わらず鮮烈に覚えている。
不可解な気持ちを抱いたままに、猫から全てが解けるような気がしているのは、きっと思い違いではない。