第26回 1000字小説バトル

参加作品
1 無口の理由 小笠原寿夫1000
2 二階堂 石川順一945
3 高価買取 ごんぱち1000
4
5 緑魔の時間 蛮人S1000

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バトル結果発表
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無口の理由
小笠原寿夫

「いつまでたらすこいとんねん!」
その産声と共に、出産した。出生児の体重は500グラム。ペットボトルのジュース一本分の重さである。
「そこ! 人が入れるスペースにして置いて!」
産声の次に、立ち会った父に指示を飛ばした。寝台用のベッドに運ばれる際に、看護師にしたり顔で、
「ええもん見張りましたなぁ。」
と言っては、彼の困り顔を楽しんだ。
「ようは水でっせ。」
哺乳瓶を口に毒づいてはみたものの、看護師は、素知らぬ顔をしているので、もう一度、念を押しておいた。
「194785。これが俺の番号や。」
後に、私の自転車の防犯番号になる数字である。
「ええか。よう覚えや。人間、楽しようと思ってしまった時点から人生下り坂や。苦労して苦労して、行き着いた先に苦労が待っとる。これが人生や。わかるか!?」
空っぽになった哺乳瓶を片手に、ざるうどんを注文したが、無駄骨だった。
「じゃ、手ごねで……。」
ハンバーグを注文したつもりが、アイスコーヒーが出てきたので、激怒した。
0歳の時の記憶である。
「まぁ、お代がお代だけに無茶もよう言わん。」
「す、すみません。すぐに用意させますので。」
看護師は、ようやく口を開いた。こわごわといった感じで、すぐにハンバーグステーキが用意された。
「普通は、ミディアムレアを出してくるもんやけどな。まぁ、許したるわ。おのれが百になるまでこき使ぅたる。」
そう言って、ナイフとナイフを両手に持った。
「フォークわい! そんな遊び心いらんねん。」
「た、大変な失礼をお許しください。」
「も!」
「えっ!? 何でしょうか?」
「も、や! わからんのか。下げろゆうとんねん。相手の意思を汲み取らんかい!」
「お口に合いませんでしたか?」
「下げろ言うとんじゃ! わしが立ち歩きする頃には、この店ぶち壊したんぞ、こらいてまうどボケぇ。」
看護師は、渋々、残ったハンバーグの乗っかった皿を運んで下げて、去って行った。

「わぁ、小っちゃい手。」
「この指が、人差し指。こっちが薬指。で、中指。」
母に向かって、中指を立てると、母は驚く様子も見せずに、手を叩いた。
「わっ、この子喋った! 天才児に育つかもわからんわ。お父さん、喜んで!」
父は、言った。
「黙れガキ。肛門ボコボコにしたろか。調子乗っとったら首の骨へし折ったんど。ファンタグレープがサンシャイン出たくらいで、ええ気になんな。」
そうして、一歳になる誕生日の前々日から、私は、口を聞けなくなった。

二階堂
石川順一

 8月19日、二階堂はほとんど寝て居なかった。今日は彼の中では俳句の日だ。
 「代理権の消滅自由(民法111条)、第1項 代理権は左の事由に因りて消滅す。第1号 本人の死亡 第2号 代理人の死亡若しくは破産又は代理人が後見開始の審判を受けたること。第2項 此他委任に因る代理権は委任の終了に因りて消滅す」
 二階堂は民法の条文を復唱すると、 生徒たちにも復唱させた。
 「条文を重視して下さい。代理権の消滅自由です。先ずは本人の死亡ですね。それから代理人の死亡、破産、後見開始。以上が代理権共通の消滅原因です。任意代理特有の消滅原因としては事務処理契約(対内関係)の消滅(民法第111条第2項)と授権行為の消滅です。授権行為の消滅としては本人の破産(民法653条)、本人・代理人からの解約告知(民法651条、無名契約説)があります。法定代理特有の消滅原因としては法律関係ごとに規定されて居ますので読んで置いて下さい(民法第25条第2項、同26条、同834条、同835条等)」
 二階堂は家へ帰って来ると、少し俺の法律知識も危うくなって居るかなと思った。風が吹き葉裏を露わにして行った。濃厚なグリーンの葉表とは違って葉裏はライトな感じのグリーンで好もしく感じられた。
 「心裡留保とは。表意者が真意でないことを知りながら意志表示をすること。身分上の行為については本人の意思を尊重すべきであるから適用すべきではない。心裡留保の場合、意思と表示との不一致を表意者が認識して居るから、表示通りの効果を与えても、表意者が害される事は無い。そこで表示主義を採用した。ただ相手方が表意者の真意に付き悪意・有過失の場合には保護の必要がないので、意思主義により無効としたものである」
 二階堂は独りごちつつ、俺の法律知識の何処が弱って居るのだろう、むしろ完璧だと一人合点した。
 「民法第733条
女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない」
 二階堂は寝て居ても条文を呟く癖を利用して、夢の中で、口語化された民法の中で、俺は文語にこだわって居るのがいけないのかも知れない、これからは言文一致体で行こうと思うのだった。

高価買取
ごんぱち

 昼休み、食事を終えた蒲田雅弘は、デスクのパソコンに向かう。
「よお、エロ動画か、蒲田?」
 同僚の四谷京作が、缶コーヒーを飲みながら隣の自分の席に座る。
「会社のPCでんなもん観るか」
 蒲田はマウスを操作する。画面には、自動車買取会社のページが表示されていた。
「車の買取調べてんだよ」
「売るのか? お前のシティ」
「ああ、うむ。ぼちぼち新しい車を買わないと限界って気がして来てなぁ」
 少し寂しげな顔で、蒲田は笑う。
 四谷は深く頷く。
「確かにあれ、古いってレベルじゃないよな。エアコンやカーナビは付いてないし、雨漏りするし、エンジンに金属音が混じるし、塗装剥げてるし、バンパー外れてるし、床に穴空いてるし。宗教の戒律か何かで乗ってるのかと思った事もある」
「目一杯世話になっといて言いたい放題言ってんじゃねーよ。大体、穴ってなんだよ、ちょっと隙間があるだけじゃねーか、野球のボールが落ちるぐらいだろ」
「充分過ぎる程に穴だろう」
「うーむ、値段付かんかなぁ」
 蒲田は買取価格の数字を見て溜息をつく。
 次のサイトに移り、フォームに内容を入力して実行する。
「んー、ここも簡易査定ゼロ円か……」
「オークションで売った方が良いんじゃねえか?」
「信頼性がなぁ……」
 四谷も自分の席でパソコンに向かう。
「蒲田、どの辺まで調べた?」
 検索サイトを開きながら尋ねる。
「自動車、買取、でぐぐって出て来た結果の、上から四箇所までは見た」
「だとしたらこの辺は手つかずか、な」
 四谷がマウスをクリックすると、画面が切り替わった。
「……んぉ!?」
 ページの内容を読んでいた四谷が声を上げる。
「どしたー、なんかあったかー?」
「おい、この会社、車種年式状態問わず、販売定価の二割で購入するって」
「……ちょっと、日本語で言ってくれんか」
「ええと、車種年式を……って、一〇〇パー日本語じゃねえか、見ろ、ちょっと見ろ!」
「どれだ、おいこら!」
 蒲田は身を乗り出して、四谷のパソコンのディスプレイを覗き込む。
「あ、マジだ! うわ凄ぇ! シティの定価ったらあれぐらいだから、おお、おおおっ、これは良いぞ、良いじゃないか!」
「探せばあるもんだな……ん? 但し書きあったぞ」
「え……あ」
「あちゃー、これは、なぁ」
「畜生、ちくぢょおおおお!」
「勿体なかったなぁ」
「ちくしょお、フレッツ光に加入が条件とは! PS3に目が眩んだ半年前の俺、恨む、恨むぞおおおお!」

(本作品の掲載は終了しました)

緑魔の時間
蛮人S

「最近はかなり涼しくなりましたね、博士」
「うむ、それが我々の研究の目的じゃからな」
 ドクター湯沢谷は満足げに頷いた。助手の渋谷は嘆息した。
「いや、思うに……」
 二人のいる実験所はいまは闇の中にあったが、室内は照明に満ちていた。現状、電力は問題無い。時計は午後12時半を指し、テレビではタモリが何か言っている。渋谷はカップ麺をすする。最後の一個だった。
「思うにもう九月だし」
「その要素もある」
(この実験所が閉ざされてから)渋谷は思う。(一カ月、いや四~五十日か。甘く見てたな。『草』と、そして)
「が、実験は成功じゃろ」
(この人の事……)
 渋谷は再び嘆息した。(八月上旬なら可能だった。『草』を切り開き、真夏の太陽を取り戻す事が。博士さえ協力的なら先週でもいけたか。でもこの人は……)
「ミント」
「はい。それが最初の素材でしたねえ」
「宿根朝顔、ドクダミ、アイビー、リッピア……」
「どれも世紀末的繁殖力ですね。片っ端に遺伝子融合しましたね。各々特性を遺せるよう苦労しましたね。私もどうかしてましたよ。耐薬品性が凄くてどんな除草剤も通用しませんね。刈っても刈ってもそこから十六倍の芽が出ましたね。光合成速度は通常の三倍なんてレベルじゃないですね。でもって、あれ何ですか。ほら土が出るやつ」
「空中元素固定細胞。こっそり組み込んでおいたが画期的じゃろ! 保水力を持つ土を空中から自ら生成するんじゃ。これで屋根の上でも爆発的に緑のカーテンを成す事ができる。家屋を覆う緑は日射を抑制し蒸散で温度を下げ、省電力に貢献し」
「知ってます。植物で日本のエネルギー危機を救おうという博士の研究は立派です。しかし」
 渋谷は泣いていた。
「今は我々こそ危機です。実験所は土と緑に埋もれて脱出も叶いません。秘密実験だから誰も私達の存在を知らず、きっと近所じゃタダの雑草の山と思ってますよ。今はまだ電気は生きてますが通信は駄目、私たちは完全に遭難者っす」
「渋谷君。何が問題なのかね」
 ドクターは窓を開いた。ばらばらと土が落ちた。外は土の壁で太い根っこが広がっている、その所々に白い塊があった。ドクターはその一つをむしって言った。
「ほ~ら、このポテトがある限り我々には飢えなどない。葉はお茶にもなるぞ。空気は浄化され燃料にも事欠かぬ。脱出の必要など無いのだ。渋谷君、自然のサイクルと一体化した我々は勝ち組じゃと、いくら言ったら分かるのかの」