第27回 1000字小説バトル

参加作品
1 花火師太郎兵衛 小笠原寿夫1000
2 派閥争い ごんぱち1000
3
4 お互いに 石川順一968
5 怪獣刑事 蛮人S1000

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バトル結果発表
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花火師太郎兵衛
小笠原寿夫

昔、あるところに、花火師太郎兵衛という男が、住んでおりました。太郎兵衛は、お祭りごとが大好きで、それはそれは、腕の立つ花火師でした。
太郎兵衛が、一軒の小屋で、火薬を詰めておりますと、戸を叩く音が聞こえます。戸を開けてやると、吹雪の中、一人の女が立っております。
「お寒い中、申し訳ございません。私は、昨年の夏の花火祭りに命を失ったものでございます。花火祭りの際に、息子を残してこの世を去りました。息子は、花火をみると、あの時のことを思い出し、辛い思いをするのではないかと、不信しております。何卒、この度の花火祭りは、延期させて頂きたくお願いに上がりました。」
太郎兵衛は、悩みました。花火師は、一年を通して、花火を、こしらえます。夏の乾いた空気でないと、花火はうまく上がりません。どうしたものかと、悩んだ挙句、女に聞きました。
「息子さんは、大層辛い思いをされたのでしょう。この世に未練があるというのなら、どうでしょう? 私の渾身の花火で、息子さんを楽しませて見せます。それでいかがでしょうか。」
女は、息子にそれでも、花火は見せたくない、と懇願しました。
太郎兵衛は、考えました。どうすれば、子供が喜び、女が成仏できる花火が作れるのだろうか。
工夫を凝らし、試行錯誤を繰り返しながら、それでも花火の原型は、見当たりません。
どうしたものか。そのとき、パッと頭をある考えがかすめました。花火の音を、雷のようにしよう。お父さんのような花火を上げてやれば、きっと息子も喜び、強くなるに違いない。
甘い考えかも知れませんが、それが、実を結ぶかどうかは、やってみるしかありません。
花火師太郎兵衛は、試行錯誤の末に、雷花火を作り上げました。
腹に響くような、轟音の花火に、大衆は響きました。それはそれは、迫力のある花火だったそうです。
念の息子に、それが通じたかどうかは、知る由もありません。
少し延期され、中秋の名月に打ち上げられた花火は、見事でした。
「玉屋ー! 鍵屋ー!」
念の息子は、その花火をきっかけに、農作業に取り組み始めたと聞きます。
「おっ父、これまでにない米をおいら作って、天国のおっ母を喜ばせてみせるよ。」
鼻を指でちょいと触った息子を見て、母は、無事に成仏する事が出来ました。
「あのときの倅、一体どうしてるのかなぁ。」
太郎兵衛は、星空を見上げました。
こうして、花火師太郎兵衛の長い長い苦悩と葛藤の夏は、幕を閉じました。

派閥争い
ごんぱち

 昼休み、四谷京作は会社のトイレに入る。
「やあ、四谷君じゃないか」
 専務が隣りで用を足し始める。
「君には聞いていなかったが」
「はい?」
「君は、きのこの山とたけのこの里、どちらが好みかね」
「え?」
 四谷はしまいながら口ごもる。
「その……性的な?」
「何を言っているのだね。明治製菓の商品の話に決まっているじゃないか」
 幾分ムッとした顔で、専務もしまう。
「あ、ああ、なんだ。良かった」
「さあ、どっち!」
「いやどっちって言うか、オレ、そういうお菓子類、ほとんど喰わないですよ」
 四谷は手を洗う。
「いやいやいや、どちらか、という話だ。きのこが好きだったりしないかね? いや、そうに違いない、そうだよね?」
 手を洗いつつ、専務は四谷ににじり寄る。
「いや、大体、どっちも食べた事ないし。三〇超えてから甘いのそんなに好きじゃなくなって来ましたし……」
「……好きじゃない!? 好きじゃないって? まさか、君は、きのこの山が嫌いなのか! あああ、忌々しい、なんてヤツだ、汚らわしい! このたけのこ派め、このっ、このっ!」
「ちょっ、冷たっ! やめっ! 水かけないで下さい!」

「ふー、酷い目に遭った」
 四谷は、溜息混じりに休憩スペースの自動販売機でペットボトル入りの緑茶を買う。
「おっ? 誰かと思えば、四谷君じゃな!」
 満面の笑みを浮かべた常務がやって来て、ホットコーヒーを買い、差し出す。
「ま、取っときや」
「いえ、十五秒前にお茶買ったんで」
「ほほう、謙虚じゃな。それでこそじゃ。聞きよったぞ、君、たけのこ派なんじゃってな」
「は?」
「専務の誘いをきっぱりと断ったそうじゃな。ふふっ、君みたいなヤツがいれば、我がたけのこの里派も安泰じゃ」
 満面の笑みで、常務はコーヒーを飲む。
「あの……別にたけのこの里が好きだなんて一言も言ってないんですが」
「……なん、じゃと?」
「いや、だから、好きも嫌いもないんです、全然食べないから」
「たけのこの里を喰わんじゃと! うおおああああああ! 人を騙しよって! このきのこの山派が! 許さん、許さんぞこの、ぺぺぺぺっ!」
「うわっ、汚い、ちょっ、唾かけんな、このっ!」
「ぺっ、ぺぺっ、ぺっ!」

「……どした、四谷? 便所妙に長かったな」
 蒲田雅弘が、自分のデスクでサンドイッチのパックを開く。
「ああ、うん……」
 四谷は蒲田の隣りに座る。
「派閥争いってのは、関わりのないヤツをも不幸にするんだな……」

(本作品の掲載は終了しました)

お互いに
石川順一

ボストンバッグは居酒屋でシートン動物記を読みながら喋った。
「管理者は規約に別段の定めがなければ、集会の決議によって選任解任される」
 さらに続けて
「建替え決議を行う集会の招集通知には議案の要領のほか、必要通知事項は次の4つ。
1 建替えを必要とする理由
2 建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復をするのに要する額及びその内訳
3 建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容
4 建物につき修繕積立金として積み立てられている金額」
 ボストン君動物記なんて読んでないで、むしろ主張すべきは
「建替え決議において定めるべき事項は次の4つ。
1 新たに建築する建物の設計の概要。
2 建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額
3 2の費用の分担に関する事項」
4 再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」
 とボストーク2号はボストンバッグに対抗した。
「うぉー。負けへんよ。改修に当たっては1.監視性の確保、 2.領域性の強化、 3.接近の制限、 4.被害対象の強化・回避の4つの原則を踏まえた上で改修計画を検討する。自転車置場やオートバイ置場は、道路、共用玄関又は居室の居室の窓等からの見通しが確保されたものとすることが望ましい。エレベーターのかご内の照明設備は床面のおいておおむね50ルクス(10m先の人の顔、行動を明確に識別でき、誰であるか明確に分かる程度)以上の平均水面照度を確保することが望ましい。ゴミ置場は、他の部分と塀、施錠可能な扉等で区画されたものとするとともに、照明設備を設置したものとすることが望ましい」
 とボストンバッグ。
「わいも負けられへんのや。普通乗用車1台当たりの駐車スペースは、直角駐車の場合、幅2.3メートルx奥行5.0メートル程度である。自動二輪車1台当たりの駐車スペースは、直角駐車の場合、幅1.0メートルx奥行2.3メートル程度である。車いすを利用している者が利用する駐車スペースは、車いすを回転することができるようにするために、普通乗用車1台当たりの幅を3.5メートル以上とする。車いすを利用している者が利用する駐車スペースから建物の出入口までの通路は、駐車スペースとの間に段を設けず、幅を1.2メートル以上とする」とボストーク2号。
 以上ボストーク2号とボストンバッグはお互いの実力を認めあった。

怪獣刑事
蛮人S

「みんな聞いてくれ。今日から新しい仲間が加わる」
 月曜の朝、七曲警察署の捜査一係。ボスこと藤堂係長は、新しく着任した刑事を紹介しようと傍らを振り返った。
「さあ、本日付けで配属の……」
 そこには誰も居なかった。
「ん?」
 突如、青白い閃光がバゥ、バゥと二三度輝いた。目の眩んだ刑事たちが思わず顔を覆う間に、入口のドアが音をたてて吹き飛び、土煙の中から巨大なる異形の者――恐らくはボスの言うところの新刑事が、尻尾を振り大きな翼を振り金色の鱗を輝かせ、壁をがらがら崩して乱入した。
「ああ、諸君、彼が今日から配属になった……」
 けたたましい電子音の叫びがボスの声を遮った。叫びを発する彼の首は角の生えた龍の頭であり、龍の様に長く、そして三本もあった。三本の首は電子音とともに各々好き勝手な向きへ出鱈目に打ち振られ、翼が巻き起こす風速四十米の嵐は、彼を中心に机の書類やら壁の張り紙やらを轟々と渦巻かせた。
「さてさて、みんな慌てるんじゃないぜ? 彼が新任の……」
 振り回される三つの首の開いた口から、一斉に白い稲妻がほとばしった。破壊光線だった。一本目の稲妻は壁を横切り、コンクリートの破片を弾きつつ窓を枠ごと三つほど打ち砕いて空を焼いた。オゾン臭の立ち込める中、二本目の稲妻は何が気に食わないのかロッカーに集中し、木葉微塵に粉砕して周囲の書類棚ごと吹き飛ばした。三本目は刑事たちの足元を走り、床材をばりばりと打ち砕いた。机が傾き、刑事たちが伏せる中、ボスは真っ直ぐ立ったまま不敵な笑みを浮かべていた。
「ふッ、なかなかの暴れ者じゃないか。よし、今日からお前を怪獣刑事と呼ぶ事に……」
 三本の稲妻がボスの足元に炸裂した。捜査一係の床は崩落し、刑事たち、その他全てが炎と共に階下に落ちた。七曲署の建物はその半ばが倒壊し、降り注ぐ瓦礫の雨と黒い土煙の中から、怪獣刑事は電子音を二度三度放ちながら空へと羽ばたき、やがて消え去った。

 捜査一係の面々が無傷だったのは奇跡であろうか。
「ボス……あいつ、また来るんでしょうかね」
 藤堂係長は夕焼け空を見上げつつ、再び笑みを見せた。
「そうだな、奴はきっと戻ってくる……その時には、今度こそ俺達の仲間にしてみせるさ。俺は、待ってるぜ」




 刑事たちは黙って夕陽の中で頷いた。(奴がせめてゴジラだったら……)と思った者もあったが、それを言葉にはしなかったし、その必要もあるまいと信じていた。