第28回 1000字小説バトル

参加作品
1 星空 小笠原寿夫1000
2 ひと目千両の亭主 ごんぱち1000
3
4 イヒコ 石川順一982

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バトル結果発表
※投票受付は終了しました。
星空
小笠原寿夫

「お父さん、眠れないよ。」
私は、夜中に父を叩き起こして、そう呟いた。
「もう、寝なさい。」
父は、子供だった私に、優しくそう言った。
「お父さん、あの星を見てよ。すごく綺麗な星空だよ。」
「いいか?星っていうのは、常に内部で爆発を繰り返しているんだよ。こうやって寝転がっている間にも、光を灯し続けるには、すごいエネルギーが必要なんだ。」
眠れない私を諭すように、父は、続けた。
「だから、人が眠ることにもちゃんと訳があって、眠りっていうものにもエネルギーが必要なんだよ。だから、夢が見られるんだ。」
私には、よく理解できなかった。夢というものの存在は、人間の内部で、莫大なエネルギーを必要とするものなんだ。そう認識した。
その夜、私は、夢を見た。

形のないものは、形にはならない。

そう思いながら、私は、夢を見る。夢というものが、夢でありながら、現実とどこかで結びついている。そう思った瞬間、目が覚めた。
寝息を立てながら、横たわる父を見ながら、この人は、私をどこまで理解してくれているのだろう、と思い、ベランダに向かった。まだ、夜明けには、程遠い空の闇に、星が瞬いていた。
「あの星ひとつひとつの周りに、惑星があって、そこに、宇宙人がいたら、会いたいな。」
夢現に、そう思った瞬間、父が起きてきた。
「宇宙にはね、生命は存在しないんだ。何故なら、宇宙空間そのものが、我々の幻想に他ならないからなんだよ。」
「じゃあ、どうして星は目に見えるの?」
素朴な疑問が降って湧いてきた。
「核融合を繰り返して、人間の目に、そのエネルギーが届くからだという説も一理あるけど、お父さんの考えは、少し違う。」
「お父さんは、どう思うの?」
私は、尋ねずにはいられなかった。
父は、即座に答えた。
「人は、生きるだろう?その上で色んなものを犠牲にしている。魚であったり、牛であったり、米であったり。そのひとつひとつが、夜空を映し出す星々なんだ。」
「じゃあ、なんで人は死んじゃうの?」
「グラビトンさ。」
私は、不意を突かれた。聞き馴染みのない言葉に興味が湧いた。
「地球には重力があるだろう?それは、素晴らしいことなんだ。人が重力子に逆らえば、天に舞う、ただの星屑になってしまうんだ。だから、人が地面に足を付けていることが、どれほど素晴らしいことなのかを人は、忘れがちなんだよ。明日も学校だろう。早く寝なさい。」

翌朝、父は、「おはよう。」と普段通りの笑顔を見せた。

ひと目千両の亭主
ごんぱち

 ひと目で千両を取っていた大変な美人を、二目見た事で気に入られ妻にした男がいました。
 男は、金を貯める事にすっかり疲れ果て、更に美人の妻を貰ったせいで尚疲れ、仕事をする気力も起きませんでした。
「……なあ、お前」
 針仕事をしている妻に、男は寝転がりながら妻に声をかけます。
「なんです、旦那様?」
「お前が今まで見に来た奴らから取って来た千両は残ってないんか?」
「見世物屋の手切れに全部置いて行ったのではありませんか」
「……せめて五百両、貰って来れば良かった」
 男は溜息をつきます。
「安心なさって下さい。私が働いて食い扶持は稼ぎます」
 女は微笑んで針を動かしました。
「流石にそれはなぁ……そうじゃ!」

 男は妻の手を引いて町へ出した。行き交う人は皆、妻の美しさに目を見張ります。
 そこですっと足を停め、男は喋り始めました。
「さあさお立ち会い、ワシの女房はそんじょそこらの女じゃない、ひと目千両で金を稼いでいた女だ! お前たち、見たな!?」
「えっ!?」
「そりゃあ見たが」
「ここは大負けに負けて十両づつにしてやろう! さあ払った払った」
「十両?」
「そりゃべっぴんだけど……」
「四の五の抜かさず払え、さあ払え、払わねば番所に訴えるぞ!」
 皆は驚き呆れましたが、本当に訴えられては困ると思う者も中にはいて、男は懐を重くして帰りました。

 それから、男は何度も何度も同じ事を繰り返したので、町の人たちは、男が来るなり家にこもるようになりました。
「おい、出て来い、金を払え!」
 男は通りに面した家の戸を叩きます。
「ちょっ、待て! オラは家の中にいて、あんたの女房の顔は見てねえだ!」
「何を言っている。窓があるじゃろ。窓から覗けるという事は、払わねばならん!」
 別の家に行きます。
「さあ、お前の家も払え!」
「ウチは窓なんかねえ!」
「墨があろうが! 墨があれば、女房の絵を描ける。見たも同じじゃ!」
 この調子で、男は全ての家から金を集めてしまいました。
 番所に訴える者もいましたが、お奉行は男に金を掴まされていて無駄でした。
 町の人たちは、男の事を「絵でまで金をせびるとんでもないヤツだ、あれは人間じゃないヌエのような化け物で血が穢れている」と、言い合いました。
 そのうちに、
「絵で金をヌエで血が穢れている」
「絵でヌエ血穢れてる」
「絵ヌエ血けがれ」
「えヌエちけ」
「えぬえちけー」と呼ばれるようになりましたとさ。
 どっとはらい。

(本作品の掲載は終了しました)

イヒコ
石川順一

 客村イヒ子は気にし過ぎたのと練習し過ぎたのでマイクが集音する音はすべて「月光」のメロディーに聞こえて来る。やがてマイクが全ての音を集音を止めても女の声だけ止まない。再び精神を集中すると強度の神経衰弱の為肌に触れる空気すら「月光」のメロディーラインに感じられる。いかんいかんとイヒ子はかぶりを振って我に帰ろうとする。今日はイヒ子はワンドリンク込み1人500円で集まってくれたクライアントさんたちの為にもすくんでしまうわけにはいかない。イヒコは足で床を踏み鳴らして緊張をほぐそうとする。すると客席からも足を踏み鳴らす音が聞こえて来て連帯感を意識できる。おもむろに立ち上がるとイヒコは椅子を思いっきり引きずって見た。床と摩擦させて不快な音が出ればリラックスできるかもしれない。だが椅子の脚の底が防音に配慮した物質で出来て居る為か、どんだけ強く引きずっても全く音が出ない。リラックスできなかったが、あては外れた事が、却って心をほぐしているかのようにもイヒコには感じられる。だがあてが外れた以上効果は半減だとイヒコは想うが、客席の一人がイヒコに応ずるかのように椅子を引きずると不快な音が発せられた。客席の椅子は安物なのか。イヒコには分からない。却って緊張が高まって仕舞ったかも。その時だ、近くの寺から鐘を突く音が聞こえて来た。何か煩悩が湧いて出て来るような、むしろ煩悩が浄化される様なイヒコにはどちらなのか分からなかったが、何か彼女の心を覆っていた蟠りみたいなものが氷解して行くような感じはするのだった。イヒコはクラシックギターを手にすると表面板を軽く右手で叩いてそれを合図にソルの月光を弾き始めた。聴衆はしんと静まり返って明鏡止水のていに見える。イヒコは思う存分に引いた。聴衆があまりに理想的に見えたのでイヒコの左手はフレットとフレットの間を軽やかにすべって行き右手は1弦から6弦までを隼の様に駆け巡った。次第に客席も乗って来て足を曲に合わせて踏み鳴らしてきた。しめたとイヒコは思った。客が乗って来た。今までの聴衆はどちらかと言うと黙って聞いて居る方が多かったのだが、今日の聴衆はのりのりではないか。自然イヒコの演奏にも熱が入り、演奏しながらイヒコも足をどすどす踏み鳴らしはじめた。
 演奏会は成功に終わり市長から花束贈呈を受けてイヒコは我が人生の時を謳歌したのだった。