第33回 1000字小説バトル

参加作品
1 喰麺 小笠原寿夫1000
2 石川順一910

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バトル結果発表
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喰麺
小笠原寿夫

お酒というものは、誠に結構なもんです。けったいなお酒を呑み出したら、これまた本末な事になってしまうわけなんでございます。

「本日は、誠におめでとうさんでございます。」
「おまはん、こんなところで、おめでとうなんて言ったら、角が立つ。この世界に入って来たからには、親父が、黒と言ったら、白いもんでも黒になると、こう覚えんかい。なぁ、本日は、ご愁傷様です。なぁ、定!情けないやないかいな、我々が、一生懸命育て上げた、身寄り頼りのない子供が、晴れて、入学式や。げに、情けない。」
「誠にご愁傷様でございまして、この度の、子息のご卒業、誠に情けない。」
この二人、酒を喰らいて、寝てしまいます。
「おい、定よ。ええ心持ちがするやないかいな。エェ、定。この世界に入ったら、白いもんも黒や。なぁ、世界の人口が、一人増えても、一人減ったとこう言わないかん。なぁ、こう覚えんかい。」
「つきましては、兄貴。此度は、幾重にも連なった亡者の折、何かと思えば、黄泉の国に入ったようでございます。」
「何を抜かすか、定義。おまはん、黄泉の国に入ったと、こう仰せに塚祀るのでございましょうか?」
「何もし、お腹が減ってよる。経でも唱えんかい。」
「畏まりまして、ございまして、念仏の極みをお聞き頂きたい。」
黄泉の国に入れば、白い物が黒になるどころか、上と下まで、あべこべになるという訳で、兄貴分が敬語を使い、弟分が、癪に障る事を言います。
「定義。本日は、相変わらず、良い心持ち。何分にも変え難き、幸せにございまして、おめでとうございます。」
「おまはん、ここがどこやっちうのを心得てもの云うてんのかえ。ここは、黄泉の国。祝いは禁物や。お前の名前を言え。」
「いえます。」
「言わんかえ。」
「いえます言いまんねん。」
「何や、おまはん、いえます言いまんのかえ。面白い名前やのぅ、え?注がんかえ。」
「はい?」
「注がんかえ、言うたら、自分の頭で考えんかい。お前も身寄りのない、亡者の一人やろがな。せやったら、自分の頭で考えっちうてんねん。」
「退屈で欠伸がでるとは、正にこの事。ほいたら、際なら、というわけで、左様ならば、お出で塚祀ります。」
「ほぅ、面白い。もっと言わんかえ。」
「え?」
「言わんかえ、云うたら、手を上げんねん。癪だせっちゅうとんねん。」
弟分が、お酌をした瞬間、現の世界に舞い戻ります。
「兄貴、本日は、おめでとうございます。」
と、またしくじった。

※作者付記:
喰麺と書いて、ちゃんぽんと読むそうです。
中学生くらいの時に、ちゃんぽんを食べながら、教えてもらいました。

石川順一

 高橋源一郎の「オーヴァーザレインヴォー」と「ジョンレノン対火星人」を読んでいる女の子がいた。結構器用に両手を使って交互に素早く持ち替えて読んで居る。既に暦の上では立冬を過ぎたが、陽光に晩秋のぬくみが感じられる12月初めの工業大学の構内で校舎の外付け階段の一段目に腰を下して一身に本を読む女の子に私は声をかけた。
 「ちょっと耳をひっぱらないでくれる?」
 私ははっとした。私が声をかけるのと女の子が「ちょっと耳をひっぱらなでくれる?」と言うのが同時だったからだ。どうも女の子は本の中のセリフをそのまま声に出して言っているようだった。
 ちょっと風が吹けば足元を結構大きめの落葉が通り過ぎて行く。
 「あらごめんなさい、あなた居たの?。気付かなくって」
 外に居る我々からは一番近い所にある教室では試験が終ったようだった。はいやめーと言う試験管の素っ頓狂な声が間近に感じられる。
 「それは高橋源一郎だね。読んだことあるよ」
 私は図書館で借りて2回ほど読んだ事があった。セールス的には悪そうな印象を受けたが、彼が生きている限り大きな比重を占め続ける作品だろうと思った。
 「あらあら勝手な評価を」
 私が普段感じているこの作品に対する評価を遠慮会釈なくこの女の子に開陳すると、彼女も遠慮会釈なく私を責め立てる。
 「私はね、こんな小説よりも俳句を愛して居るの、あんたもさー自分が真に邁進できる事に心を傾けた方がいいと思うの。そんな適当な評価をしている暇があったらサー」
 本当にこの女の子の喋り方を聞いて居るとこの子のセリフは一番最後の文字だけカタカナになって居る様な気がした。
 「どんな俳句がお好みで・・・」
 私は恐る恐る彼女の心の襞に迫らんとそして一線を越えんとして躍起となった。
 「大根の流れ行く葉の早さかな  高浜虚子
  滝の上に水現れて落ちにけり  後藤夜半
  青あらし神童のその後を知らず 大串章。などの句に親炙しています」
 「うーむ、高浜虚子に後藤夜半に大串章か・・・。私としては加藤郁乎さんなどに私淑して居ます」
 「ふ~~ん」
 女の子は不信の念を抱いたとも感心したとも分からない不思議な顔をして私の両の目を覗き込んだ。(了)