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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第37回バトル 作品

参加作品一覧

(2012年 8月)
文字数
1
(本作品は掲載を終了しました)
ウーティスさん
2
小笠原寿夫
1000
3
早透ひかる
1011
4
ごんぱち
1000
5
深神椥
472
6
石川順一
1000

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(本作品は掲載を終了しました)

ダイイングメッセージ
小笠原寿夫

私は、警察署捜査一課の刑事である。捜査線上に浮かび上がった容疑者を洗い出すのが、私の使命である。
第六感が働き、遂に突き止めた犯人像は、全く、ここまでというところまでくると、するりするりと、朧げになっていく。
倉庫の扉を開けた瞬間、背中に熱いものを感じた。
「アンタか、俺を追っ駆け回していた奴ってのは。」
犯人と思しき人物の影が、徐々に薄らいでいく。胸の鼓動を抑えようと、躍起になったが、振り返ることすら、ままならなかった。
「お前だったのか。」
私は、声になるかならないかの状態で、そう呟いた。
後ろから背中を刺されたので、血は、内臓からドクドクと流れ落ちる。滴り落ちる赤い血は、それが、まるで私の身体から排泄されているものでは、ないような錯覚に陥る。
犯人は、言う。
「俺には、妻子がいないんでな。恨むんじゃねぇよ、刑事さん。」
憎たらしい声が、やたら耳に媚びりついた。もう、どこを振り絞っても声は出ない。ぼんやりとした意識の中で、視力を失いつつ、鉄くさい血液の匂いと、犯人の顔を感覚に焼き付けた。

「全く、しつこい捜査だったな。もう少しで、輪っぱになるかとヒヤヒヤしたぜ。」

その声が、わんわんと脳内を谺する。まさか、ここで殉職するとは、思わなかった。滴り落ちる赤い血は、コンクリートの倉庫の床にに染み付いていくようだった。

「助けを呼んでも無駄だよ。これから、俺は、アンタにいいことを教えてあげよう。」
犯人は、続ける。
「殺人鬼ってのは、頭が必要なんだ。アンタらみたいに、チンタラ働く公務員とは、訳が違う。わかるか?」

もう、そんな事は、耳には、入って来なかった。それよりも同僚に、如何にして、突き止めた犯人を伝えようかと、頭を駆け巡らせた。携帯電話を手に取ろうとしたが、しかし、通話ボタンを押すことは、単純に、今の体力から言って、土台、無理な話だった。

遠のいていく意識の中で、私は、心の中で、叫び続けた。
(あいつが、犯人だ。)
しかし、誰も私を援護するものは、いない。
「俺は、今から、中突堤に、……。」
犯人は、それらしいことを告げたが、もう聴覚さえも麻痺している。
「あいつが、犯人だ。」
そう小さく、呟きながら、私の五感は、なくなっていく。
犯人が、何かを喋っている様だったが、私の耳に、その声は、届かない。走馬燈のように、私の人生が、頭を素通りする。

最期に嗅覚だけが残り、コンクリートに染み渡った血液の匂いが、鼻を突いた。
ダイイングメッセージ 小笠原寿夫

八月の雨
早透ひかる

 八月の雨は容赦もなく地面を叩きつける。まるで爺さんの話した雨だと親は思った。
 赤い雨、少年の頬には雨に打たれた様な傷がいくつもの赤い線になって流れていた。

 八月六日。少年の十六回目の誕生日は雨だった。少年は自ら選んでこの親の元に生まれてきた。何をこの子に残せるのか、してやれる事は何か。親達はまだ何もしてあげられていないと感じていた。だが少年の命は確実にリミットへと近付いていた。

「省吾、今朝は雨みたいだし車で送って行こうか?」
「いいよ。小降りだし自転車で行ける」
 少年の声が玄関に残る。雨に遮られ、言葉がそこで切り取られた気がした。親は不吉な予感に外へ飛び出し右を向く。濡れるのを避ける様に猫背になった彼の後ろ姿が、鮮やかな向日葵のカーブへ消えて行った。残された足元には雨音だけが残った。赤い雨の予感。小さな頃に感じた不吉が近付く。

━━爺さんは語る。
 黒い雨が何日も降り続き、兄妹や叔母が焼けた炭の様に川を流れていた話し。沢山の黒い人形。語り継がれる悲しみは、爺さんにとっては赤い雨へと変わった。爺さんの母の背は赤く醜かった。まるで赤い雨が背中に描かれている様だったと。耐えられない痛みが母を川へと誘い二度と爺さんの元へは戻ってこなかった。その悪夢は爺さんの全てに赤い雨として刻まれた。
「赤い雨が降るんだよ、黒い雨が止んでもな」━━
 親は直感する、大事なものが奪われる予感。そして無力でただ受入れなければならないと。

 少年は何の不安も抱かずに自転車を漕ぐ。小雨に少し上目遣いに顔をそむける。ほんの先のアスファルトの切れ目、マンホールの無機質な蓋、それは余にも短い彼の未来が見えていた。普段の光景が鮮明に彼の脳に映る。緩やかな上り坂を駅へと漕ぐ。息はまだ上っていない。家から離れる、どんどん離れる。親から離れる。消える、そして雨に消える。赤い雨に少年は消えた。

 親は振り返る。暗い淵に佇みながらも振り返る。
 彼が残せたもの。十六年間、親として生かしてくれた事。小さな命で平凡な生きがいを感じさせてくれた。真に腹から笑わせてくれ、嬉しさで涙を流させてくれ、自分でもびっくりするほど怒鳴らせてくれた。何気ない小さな幸せな日々ばかりが映画のように流れ続ける。
 私達を選んで生まれてくれてありがとう。十六年間、私達はあなたの存在が幸せだった。

 八月六日の雨は容赦もなく地面を叩きつける。悲愴など小さな欠片だと赤い雨は降り続ける。
八月の雨 早透ひかる

終わっていいとも
ごんぱち

「……笑っていいともが終わるらしいな、蒲田」
「ああ……そうらしいな、四谷」
「いいともは……オレの青春時代にやっていた」
「ああ、やっていたな」
「でも、青春時代だったので、観る機会はあんまりなかった」
「ああ、観なかったな。学校のテレビは、教育テレビしか映らないと思ってたからな」
「大人になってからは、不況で昼休みに定食屋でテレビを観るみたいなライフスタイルは無理だった」
「外食高いし、うちの会社の給料、生活保護より安いしな」
「タンメンも喰えねえよ、な! な? タンメン、タンメンだよ!」
「……お前のドヤ顔は本当にウザイなぁ、四谷」
「けれど、日曜になれば、増刊号を観る事が出来た」
「ああ、観ようと思えば観る事ができたな」
「でも、日曜は用事があれば朝早くから出かけるし、なければ昼まで寝てたので、観た訳ではなかった。録画をする程でもなかった」
「あれを録画するヤツは何かしら変質的な素養を持っていそうだな」
「……してみると蒲田、オレたちはいいともに対して、大して思い入れがない気がするな?」
「確かに我らにいいともに関する思い入れは乏しい。しかしだな、去りゆくものを懐かしむ事に、理由が必要か?」
「おお! 何かそれっぽいな、蒲田! じゃあ、まともに観た事が三回も無かった『ちい散歩』も?」
「ああ、さも大ファンだったような顔をして、新宿の片隅の疲れたサラリーマン達が集うバーで、チョビヒゲ蝶ネクタイにシルクハットのマスターと存分に語らえば良い」
「AKBのさしことかいうひとが左遷された事も?」
「勿論だ。趣味の集まりの飲み会で微妙に趣味レベルが違ってしまこれ以上深い方向に行っても微笑む事しか出来ないな、なんて時に引っ張り出して、まああれも人生だしみたいな事を言っても良いんだ!」
「なんてこった! とすれば『ドラゴンボールZ改』を観ながら本放送とのテンポが云々って言っても良いのか!」
「……いや、それはダメだろ。お前、本放送ほとんど観てないだろ。本放送の冗長な引き延ばしが一体どれ程酷かったか分かってるのか? あまつさえ、連載中の週刊少年ジャンプだってまともに読んでねえじゃねーか。OPとEDについては俺が景山が好きじゃないからどーでも良いが、本編について語るなどおこがましいわ!」
「なんて潔いダブルスタンダード、流石は蒲田……」
「フッ、俺としたことが、少し熱くなったな」
「構わんよ、そんなお前の事、嫌いじゃないぜ」
終わっていいとも ごんぱち

追想
深神椥

「ほんとーに何もなくなっちゃったんだ」

ここへ来るのは二度目だ。

 私の高校時代に通っていた校舎が取り壊された。
校舎も自転車小屋も、何もかも全てなくなってしまった光景が目の前に広がっている。

 三年ほど前、市内に二つしかない高校が統合され、一方の校舎が使われなくなった。
私の通っていた高校は町はずれにあり、家から往復七キロもかかった。
交通の便の悪さもあってか、そちらが選ばれたのだ。
高校を卒業したのは、もう十年以上も前のことなので、この広い敷地のどこに校舎が建っていたのか、プールや体育館があったのかも思い出せなかった。

 この広い場所に立ち、太陽の日差しと風、木々の葉のゆれる音を感じていると、いつまでもここにいられる気がした。

 今思えば、高校時代、友人などいないに等しく、いい思い出もあまりなかったが、この何もかもなくなってしまった更地を見た時、心にぽっかりと穴があいたような、そんな気がした。
やはり、いい思い出はなくとも、三年間慣れ親しんだ校舎がなくなるというのは、寂しいものなのか。

 そんなことを思いながら、一つため息をつき、この地を後にした。
追想 深神椥

山水青十
石川順一

夏帽子とってくれろと泣く子かな
 「この句からは小林一茶の人口に膾炙した俳句「名月を取ってくれろと泣く子かな」が思い出されます。しかしこの俳句の作者に実際に問い合わせたところ「夏帽子撮ってくれろと泣く子かな」だった様です。これはどうも作者の子供が、お父さんこの夏帽子をカメラで撮影して是非「静物撮影コンテスト」で優勝して下さいと子供が願っていると言う言外の意味がある事が判明致しました。いやーちゃんと問い合わせて良かった。僕はてっきりだだっこが高い木の上に引っかかって仕舞った夏帽子を親御さんにとって欲しいと泣いて居る場面だと勘違いして居たのです」
 講評を終えて俳人の山水青十先生はふーっと軽く安堵の息をつきました。
 「クリエイティヴオムリス俳句コンテストにやまみずせいじゅう先生は応募なさるんですか」
 「いえしませんよ。私は審査員ですからね」
 「そうですか」
 私(山水青十)は君の沈んだ心持を持ち直したくて俳句の講評をして居るんじゃよ。
 レモン水構造的なシュワシュワ感
 「うーむ、これはレモン水にサイダー(炭酸)を入れて飲んで居ますね。ずばり家の中で飲んで居ると私は断定します。母親が子供にレモンサイダーを作ってあげた。勿論既成品でレモンサイダーなんて掃いて捨てるほどありますよ。でもそれでは何か物足りない。舌は満足するかもしれないが、心が満足しない。これは親にとっても。子供にとってもです。親は既製品を買って与えるだけでは親としてのプライドが許さない。子供でさえ失礼ながら自分の意思で作り出したようなものですから、それより劣る(これまた失礼な比較かもしれないが)物(あくまで便宜上の言い方じゃ)に対しても我が心を込めて作りだした上で子供に贈与したい。それどころか魂さえ込めて我が炎の念を込めた贈与物を受け取ってたもれ我が子供よと言った感じです。子供は子供でやはり既製品では無くて、むしろ既製品を道具的に活用して自分の精神をフル発揮したものを作り出したいと思っているが自分にはまだ早いのでそう言った自分の願望を親に投影して親にそれをやって貰いたい、と思って居る筈です。そう言った両者の思惑が一致してずばりこの俳句は親が子供に手作りの、お手製のレモンジュースを振る舞ったと、推定、断定したいと思います。どうでしょう。私の解釈講評は。間違って居ますか?」
 会場はシーンと水を打った様に大変静まり返った。