第41回 1000字小説バトル

参加作品
1 シマウマ 小笠原寿夫1000
2 和尚様と小僧さんと墨 ごんぱち1000
3 おっぱいは世界を救う党・公約 金河南1000
4 占星術師の憂鬱 蛮人S1000
5 Xmas tragedy 深神椥633

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バトル結果発表
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シマウマ
小笠原寿夫

ヒタヒタと歩く音と、コツコツと戸を叩く音が、聞こえたと思うと、ヒシヒシと啜り泣く声。ホテルの扉を開けると、スルスルと伸びてくる腕。

「あんた、あたしの何のさ。」
ツルツルとした腕を見ると、白と黒の曼荼羅模様が、こちらを誘っている。ザルザルと掻き鳴らす蹄から、ヌルヌルと伸びてくる首。眼はキラキラと輝いて、耳はピクピクと動いている。

毎晩のようにやってくる、その動物は、ヌメヌメとした鼻を、グズグズと鳴らす。
「豆腐をやるから、帰ってくれ。」
ヒュルヒュルと冷たい風が、差し込んだかと思うと、私は、手を後ろにやり、何も聞こえない振りをする。ボソボソと、耳打ちする口からは、ダラダラと涎が垂れている。ボトボトと滴り落ちる液体からの臭いが、私の鼻を突く。
「できる事なら、引き返して頂きたいが、今夜という今夜は、連れ戻されなくもないので、まぁ、お上がり下さい。」
チェーンロックを開けたかと思うと、バタバタと、入り込んでくる足と足。
「今日だけですからね。」
その動物は、ゼブラ。グルグルと啜り泣くその声は、興奮極まりない様子を見せ、感極まり、
「ゼブラー。」
と泣いた。
ゼブラは、意外と大きかった。馬乗りになった、私を手綱で弾くように、ゼブラを呼んだ。
「ゼブラー。」
私はゼブラを、ゼブラは私を、惹きつけた。いや、寧ろ、私がゼブラに惹きつけられた。
四足歩行で歩くゼブラは、冷蔵庫を、パカッと鼻腔で開けた。冷たい飲みものを、探しているようだったが、何もないと見え、諦めてくれたようだった。
「お茶の一つも用意しておりますので。」
そうは言ってみたものの、ゼブラは、お茶を飲まないと、首を横に降り、冷蔵庫を、やはり鼻腔で閉じた。上下に舌を動かし、前後に舌を動かしたかと思うと、左右に舌を動かし始めた。
進化の過程で、そうなってしまった肢体を持て余しているようにもみえる。ゼブラは、さっき用意しておいた、豆腐を、私が差し出すと、それをがむしゃらに食べた。余程、腹が減っていると見え、ブルブルと鼻を鳴らしながら、ムシャムシャとそれを飲み込んだ。
熱りが、冷めた頃、私は、ゼブラに、嘆願した。
「もうお帰りくださいませ。」
ゼブラは、「ゼブラー。」と雄叫びを上げ、ポコポコと私の方に歩み寄ったかと思うと、硬い蹄と、長い顔で、ホテルのベッドに私を、押さえつけたかと思うと、何食わぬ顔で、私をボコボコにした。

私は、最後に、大声で、「ゼブラー!」と叫んだ。

和尚様と小僧さんと墨
ごんぱち

 昔、とあるお寺に和尚様と小僧さんが住んでいました。
 黒砂糖を手に入れた和尚様は、小僧さんに分けるのが惜しいので、これを毒だと教えました。
 小僧さんは、和尚様の留守に黒砂糖を平らげた上、和尚様の大事な硯を割ってしまいました。「申し訳ない事をしたので、死のうと思った」と答えたので、和尚様は小僧さんを叱ることが出来ませんでした。

 これを聞いた、隣り村の少しぼんやりした小僧さん。
 ある日、和尚様の部屋を覗くと、和尚様が硯で墨をすり、時折筆を舐めて筆先を整えているのを見かけました。
「それはなんですか!」
 小僧さんは、喜び勇んで部屋に入って尋ねました。
「墨と硯だが?」
 和尚様は墨の塊と硯を見せます。
「たべたらどうなりますか? しにますか!?」
「まあそうかも知れん」

 数日の後。
 和尚様は用事があって、二つ向こうの村まで出かける事になりました。
 小僧さん、和尚様が出て行くなり、早速和尚様の硯箱の墨の塊にかじりつきました。
「いたいっ!」
 カチカチの墨を噛んだ小僧さんは、びっくりして硯箱を落とし、硯を真っ二つに割ってしまいました。
 小僧さんは慌てて何度もくっつけてみますが、割れた硯がくっつく事はありません。
 小僧さんの目に、ふと、床に転がったままの墨が映りました。
「食べなきゃ」
 小僧さんは墨を噛みます。
「むぐ……もご」
 けれど固い墨は噛み切れず、大きいので呑み込むこともできません。
「食べなきゃ、んごむぐ……いけないのに、ぐずっ……うわぁぁああん!」
 とうとう、小僧さんは声を上げて、泣き出してしまいました。
「どうしたというのだ?」
 小僧さんが振り向くと、そこにいたのは和尚様でした。

「まったく、愚かな奴だ」
 和尚様に言われて、小僧さんはうなだれます。
「だが、愚かさに助けられたな」
 和尚様は小僧さんの頭を撫でます。
「え?」
「隣村の小僧さんは叱られはしなかった。しかし、和尚様のものを盗み喰いし、言い訳に嘘を言った」
 小僧さんは涙を拭きます。
「対してお前は、ただ硯を割っただけだ」
「和尚様……」
「もちろん、硯の分の罰は受けて貰うぞ。寺中の雑巾掛けをしするのだ、念入りにな」

 その後、何年もの月日が流れ、隣の村の小僧さんは、道を外れる事はなく、大層偉いお坊様になりました。
 小僧さんは、というと、やっぱりうっかりぼんやりは直りませんでしたが、いつもにこにこして村の人に慕われる和尚さんになったそうです。

おっぱいは世界を救う党・公約
金河南

「まず、おっぱいは世界を救う党の基本理念から話さなければなりません」
「コーヒーどうぞ」
「どうも」
 フローリングが肌寒い。
 素敵なアトリさんの部屋は割に簡素で、白の座布団に座りながらぼくは、いつも、ここに誰かが来て何かを落としていけばいいのにと考えている。
 だから毎回、チョロQやミニ四駆やNゲージを落としていくのに、アトリさんときたら、それらを丁寧に紙袋へ入れて片付けてしまう。
 惜しがったらおしまいだ。
 あのトミカの消防車どうしてる? なんて聞いた日には、アトリさんは紙袋を取り出してきて「大事なもの、いちいち忘れないで」なんて、ぼくの胸におしつけるのがオチだ。
「えー、おっぱいというのは至福なんですよ。うずもると、世の中のギスギスした不条理なんか忘れちゃうくらいです。なので、おっぱいがたくさんあって皆がうずもれば、戦争はなくなると思うんですよね」
「チョコもどうぞ」
「どうも。と、いうわけで、今回の選挙に立候補しようかと。アトリさんも党員になりませんか?」
 彼女は目線をおとし、両手でコーヒーカップを持ちながら「公約は?」と聞いた。
「もちろんありますよ!」
「どうぞ」
「まず、ニート税を作ります。ニート1人につき年間60万円を国に支払ってもらいます」
「それってどういう……」
「月5万って計算です。自宅住まいのニート1人にかかるお金はこれくらいかな、って」
 なるほど、とアトリさんはつぶやいた。
「次に年金選択制度を作ります。国民年金の支払いが始まる前に、支払うか支払わないかを選んでもらいます。支払わない場合は65歳からの年金もナシで。それから、TPPは断固反対。ぼくの実家が農家だからっていうのもあるし、次の公約・国内自給率を更に10%アップ、にも繋がっています。それと」
「ちょっと待って」
 怪訝な顔をしたアトリさんと目が合った。
 スッキリのびた鼻、唇にあてられた細い指、黒く長い前髪の奥から、知性の塊のような目が、ぼくをじっくりと観察している。素敵だ。
「ここまでおっぱいに関する事、なにひとつ出てないわね」
「あ、」
「わたしの胸がまな板だからかしら?」
「えーっと……」
「巨乳好きを公言する君が、まさか、わたしに遠慮してる?」
「めっそうもございません!」
「顔がニヤけてるわよ!」
 鞄をあさられ、アトリさんの部屋に落とす予定だった巨乳変装グッズにコーヒーをぶっかけられた。
 怒ってるアトリさんも素敵だ。

占星術師の憂鬱
蛮人S

 お呼びでしょうか、大統領。
 さあ、ただいま、そちらへ上がりましょう。

 ご無沙汰ですね、大統領。今夜は一体、何をお確かめになりたいと?
 勇ましいあなたが私を呼べば、決まってそれは流血の前夜となりましたね。唇に、硝煙と逡巡の匂いを含んで。
 あなたの御一族……お父様、お祖父様も、勇猛果敢な方だったとか。北アフリカの戦線では、自慢の彼女に跨って、豹を、虎をと撃ち倒し……なんて、嘘とは申しません。さて、今夜あなたのシャーマンに、発射スイッチは見つかりましょうか。そう、よくお探しなさい。よくお探しになって……。
 残った夜は少ないですが。

 あなたにとって私は戦いの女神でしょうか……それとも懺悔の神なのでしょうか。
 いいえ、そもいまや、一体なにが、私に映ると仰るのでしょうか。
 熱く濃密となった夜空では、マルスの炎も揺らいで見えます。いまや私のドームを巡り、十二の宮で囁く影は、古き神の姿にあらず……不死者となった六十六のイリジウム。機械の密告者たち。または雷光の火筒を構えた衛士たち。斥候、伝令、触れ回り……おや、予言者まで。
 これが今の、私の星図(チャート)。そして、あなたの星図。
 あなたの描いた、これが世界の星図なのですよ。
 いまさらに、何の解釈の加わる余地の御座いましょうか?



 いいえ……そうでもないかもしれません。
 あなたはまだ、ご存知ではないでしょう。巡る天体たちの中心の、陰鬱な私のドームの中央の、玉座に脈打ち始めた影を。
 重く、暗く、そして小さな芥子粒の核、膨張し始めたメランコリーの、その託宣を。
 言いますまい。言いますまい。ただ紛れもない、これが私の、あなたの、そして世界の……未来なのですと。
 今ここにある、未来、未来、……未来!
 あなたはまだ、ご存知でない。大統領。

 さあ、じきに夜も明けましょう。闇は消え、新しい日は昇りましょう。
 お望みの答えは、私に見つかりましたでしょうか。
 さて勇ましき大統領。今度はマイクの筒を握り、力強く、天高く、その咆吼をお上げなさい。その持てる力によって存分に、今度は世界を揺さぶるがよろしいでしょう。火をつけ、燃やし、蹂躙なさいませ。いつもの、いつものように……。
 世界はきっと、それを待っておりましょう。
 私たちの、朝は来るのです。大統領。

 今日はこれにて、下がりとう存じます。またお呼びいただければ幸いです。
 あなたに栄光と繁栄のあらん事を。

※作者付記:
過去作品(500字)の焼き直しとなります。
ご了承ください。

Xmas tragedy
深神椥

「栗沢さん、どうぞー」
名前を呼ばれ、立ち上がる。
「あっあの、栗沢じゃなくて粟沢です」
すかさず返す。
「あっすいません。粟沢さん、中へお入り下さい」
いつもこんな調子だ。
読みづらい名前あるあるかもしれない。
「栗沢さん、こんにちはー」
傍らに座る歯科医師が言う。
「あのー粟沢です」
またすかさず返す。
「あっすいません……えーとじゃあ今日は親知らずを抜くということで」
まただ、と思ったが、それよりも先に気持ちが向いていた。

よりによって何でイヴなんかに……。
まぁ、今年中に済ませたい気持ちもわかるけど。
私も早くやっちゃいたいけども。
大好きなケーキとチキンがまともに食べられないなんて……。
サイアクだ。
親知らずを抜くと、かなり腫れたり、気分が悪くなる人もいると聞く。

待合室に飾られているクリスマスツリーがやけに嫌みったらしく見えた。


抜いてすぐはよくわからないが、麻酔が切れるとサイアクだ。
激痛というより鈍痛。口も開けられない。
動かせないし、動きたくない。

あぁ、おせちもお雑煮もまともに食べられそうにないな……。
あっ年越しそば忘れてた。
あぁ……。
食べることばっかだけど、あぁ……。


自分の気持ちが底まで落ちても、時の流れは変わらない。
どんどんどんどん過ぎていく。
イルミネーションを尻目にとぼとぼ歩く。
傷口はズキズキ痛むが、街はにぎやかだ。

ため息をつき、天を仰いだ。
粉雪が舞っている。
クリスマスにはぴったりだが。

ちくしょう。

来年の末はちゃんと食べられますよーに!

初詣の願いごとに決定だな。