第60回 1000字小説バトル

参加作品
1 タクシー日誌(SUVって) DOGMUGGY1072
2 (本作品は掲載を停止しています)
3 handling honey YamaRyoh486
4 イルカはいるかい? 野乃1139
5 マナー ごんぱち1000
6 あの頃、僕らは 深神椥1000
7 俳句を軸にしたエッセイ風小説 石川順一1057

掲載時に起きた問題を除き、作品内容の訂正・修正はバトル開始から終了まで基本的に受け付けません。掲載時の不備などがございましたら、ご連絡ください。

QBOOKSではどのバトルにおきましても、原則的には作品に校正を加えません。明らかな誤字脱字がございましても、そのまま掲載しておりますことをご了承ください。

バトル結果発表
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タクシー日誌(SUVって)
DOGMUGGY

タクシー日誌(SUVって)

タクシードライバーの次郎は毎朝、藤沢駅のタクシー乗場で客待ちをしている。
「まだ5月だっていうのに朝から夏日とはねえ」
照りつける日差しで朝からエアコン全開だ、黒塗りLPGタクシーの車内は暑いのだ。
駅前の大手パチンコチェーンの店先には、開店前から長蛇の列で人が並んでいる。
新台入れ替えの沢山の上り旗が朝の浜風にパタパタと鳴っている。
「そういえばここだけでなく、他のホールにも新台入れ替えの看板出ていたな」
もはや典型的な装置産業となったパチンコ業界ではメーカー主導で一斉に新台の入れ替えが行われているようだ。
その開店待ちの行列の隣を数台の自転車が音もなくすり抜けて行った。
このあたりは、江ノ島や鎌倉にサイクリングに行く自転車の通り道でやたらと自転車族が多い、大抵はレーサーパンツにジャージ、エアロ仕様のヘルメットの若い自転車男だ。
ルイガノ、ビアンキ、ジオス、トレックといった海外ブランドのロードスポーツばかりだ。
ただ普及品クラスだと、実際には台湾で製造されている車体が殆どなのだが。
そういった中にも、ピンクやパステル調のウエアに少し小ぶりな車体に楽しげに乗っている女性サイクリストも随分増えた、自転車ブームといわれて久しい。
街角ウオッチングをしていた次郎のタクシーに客待ちの順番がまわって来た。
「鎌倉学園そばの〇〇医院まで行って下さいな」
いかにも鵠沼マダムといった感じの品の良い初老のご婦人だ、腰痛の持病で何件か医者を変えたが〇〇医院に落ち着いたのだそうな。
江ノ電の線路を跨ぎながら、次郎のタクシーは腰越を抜けて海沿いの国道134号線を走って行く、パワーウインドウを少し下げると朝の濃い潮の香りが車内に入って来た。
信号待ちで海沿いの駐車場を見ると、大きなBMW X5のハッチゲートから大男が派手な真紅のロードスポーツ自転車をヒョイと下ろしていた。
「あれ、あの男が、赤ねえ」
と思っていたら助手席から若いジャージ姿の茶髪の小柄な女性が降りて来た。
なるほどスポーツユーティリティビークルとは良く言ったもので、自転車の様な大きなスポーツグッズが簡単に運べるクルマと言う事だ。
「タクシーのトランクには入りそうもないな、セダンはSUVの様には行かないな…」
既に信号は青に変わっていた、次郎は少しばかり慌ててアクセルを踏んだ。
ルームミラーを見ると、ご婦人客はうたた寝をしていた。
「やれやれ、同じ一日でも自転車乗る人、病院通いの人、俺は運転する人、人生色々十人十色ってことか」
フロントガラス越しには遠く葉山の海辺の街並みが、白波の先に朝日に光って見えた。

※作者付記:
フィクションとノンフィクションが混在した作品です。

(本作品は現在公開を停止しています)

handling honey
YamaRyoh

 手のひらの上に、何を貰う?

 あまねくモノが選択肢にある。
 その選択肢は無限大である。
 但し、選択出来る機会は一度きり。
 変えることも、返すことも出来ない。
 また、他の者は先に出た選択肢を選ぶことは出来ない。

 さあ、おねだりの始まりだ。


 先鋒の者は、金と言った。
 刹那、最初の者の手には溢れんばかりの金貨が現れた。

 次鋒の者は、宝石と言った。
 刹那、次鋒の者の手には絢爛豪華な宝石が現れた。

 その様子を見ていた男は、剣を求めた。
 刹那、男の手には切っ先輝く大剣が現れた。

 男は剣を振りかざした。

 先鋒・次鋒の者は消え去った。
 そして男の足元には、金貨と宝石があった。

 その様子を見ていた女は、愛を求めた。
 刹那、女の手には純粋に輝く愛が現れた。

 女は掌の愛を使い、男に愛され、果たし、剣を手に入れ、突き刺し…
 金貨と宝石と血生臭い剣を手に入れた。

 女は幸せで、裕福な生活をしようとした。

 そして、気付いた。
 金貨と宝石と血生臭い剣だけの世界で、
 自分以外に誰もいない世界で、
 これらが何の役にも立たないと。

 ………
 ……
 …
 さあ、貴方は何を求める?

※作者付記:
小説なのか詩なのか判別難い作品ですが、小説の方で投稿します。

イルカはいるかい?
野乃

「イルカはいるかい?」


急に投げかけられた突拍子もない問いに、ミズコは「はぁ?」と素っ頓狂な声を挙げた。


ちゃぽん。
近くの水面で、小魚の跳ねる音が響いた。

「何を言ってるの?オジサン。それはイルカがこの池に居るか、ということを聞いてるの?それとも、イルカが欲しいかどうかってことを聞いてるの?どちちらにしても、質問のなりたたない質問だわ。第一に、ここはどこにも繋がりのない淡水の池でイルカが居るわけがないし、もしも居たら欲しいとは思うけど、飼うことは現実的じゃないわ。お金ももってないし――」

じゃぽん。
近くの水面に、大きな頭が顔を出した。
キュイイイイイ。

「うそ……」
「言うより、見る方がはやかったね」

ミズコは驚いて言葉を無くした。
オッサンが、ニヤリと笑った。
キュイイイイイ。
イルカが、ミズコを目指すように岸に寄ってきた。
キュイイイイイ。
ミズコが恐る恐る手を伸ばす。
つるつるとした心地よい手触り。不思議な温もり。
黒い瞳が、きらきらとした眼差しでこちらを見ている。

「ねぇ…オジサン。一緒に泳いでもいいかな?」
「ああ、いいとも。ただし、このことは誰にも言ってはいけないよ。」
「わかった」

ミズコは服を脱ぎ捨て、池に飛び込んだ。
イルカは寄り添うように、隣を泳いでくれた。
イルカと泳ぐことがこんなに楽しいなんて。
ミズコは時間を忘れてイルカと泳ぎ続けた。

その日から、ミズコは毎日イルカの元を訪れるようになった。
誰と何をするよりも、至福の時だった。
もともと友達づきあいが苦手だったミズコに、秘密を守ることは容易いことだった。
日に日に、水の中にいる時間が長くなり、帰る時間が遅くなっていった。
親に怒られもしたが、毎日笑顔で返ってくる姿に、やっと友達の輪に入ることができたのだろうと、
あまり強く言われることはなかった。

そうして一年が過ぎたある日。
ミズコの前で、イルカが死んだ。
あまりの悲しさに、ミズコは泣き叫んだ。

「もう一度、いっしょに泳ぎたいかい?」

オジサンの問いに、ミズコは深く頷いた。
キュイイイイ。
不思議な事に、死んだはずのイルカが池の真ん中でミズコを呼んでいた。
ミズコは迷いなくそこに向かって泳ぎだした。
キュイイイイ。キュイイイイ。キュイイイイ。キュイイイイ。
すると、驚いたことに。最初の声に応えるように、
どこからともなく、一頭、また一頭とイルカが現れた。
やがてイルカの大群に囲まれたミズコは――

* * * * *

ある日の夕方。
少女が池のほとりを歩いていると、

キュイイイイ。
(ねぇ、一緒に遊ぼうよ!)

いきなり顔を出してきた正体に、少女は声を上げて驚いた。
しかしその人懐こい様子に、少女は恐る恐る手を触れた。撫でてみた。
少女の顔は、すぐ笑顔に変わった。



オジサンが少女に問いかける。


「イルカはいるかい?」

マナー
ごんぱち

「おい、歩きながらスマホはやめろよ、ぶつかるとこだったじゃないか」
「心外ですね。これ、カマボコ板ですよ」
「なんだ、そうだったのか、それはすまなかった」
「いいんですよ、誰にでも間違いはあります」
「ありがとう。流石に仙台産のカマボコ板、スマホに似てスタイリッシュだ」
「え? ああ、ええ」
「引っかかったな! 仙台のカマボコは笹かまぼこ! 笹かまぼこは仙台! 板の付いた笹かまぼこがあるかァ!? なあァアアアイ! 貴様のそれは、カマボコ板などではない、スマホである事は明白!」
「くっ! し、しまった!」
「さあ、どうする、もう言い逃れは出来んぞ!」
「こ、これは、ええと、これは……」
「さあさあさあさあ!」
「これは、厚切りの牛タンです!」
「な、なにぃいいいいいいい!?」
「フフ、フハハハハ! かかったな! 見ろ、柔らかく曲がるこの脂にまみれた蛋白質! こんなに曲がるスマホがあるかぁああ? 牛タンだ、牛タン以外の何であろうか! 仙台経済の百二十パーセントを占める主要作物! 牛タン漁師が一本釣りしてきた天然の牛タンのうち、AAランクに相当する大きく肉厚なものを、熟練の職人が一つ一つ丁寧にカットし、一二〇〇年前から継ぎ足しながら使い続けているツケダレを掛け流ししながら完全熟成を行った、今やピークの牛タン! これをこう!」
「うおおっ、七輪をどこから!」
「ほれほれほれほれ!」
「なんという素早い着火! まさか、こいつは、ボーイスカウト出身者!」
「ジャニーズ入らない!?」
「焼き網までもが出て来た! た、タダの焼き網じゃあないッ! 適度にサラダオイルが塗られたこいつは、決して牛タンのこびり付く事のない奇跡の網! かの許由をして清廉なりと耳を擦り付けまくったと言われる、決して穢される事のない究極にして孤高の網!」
「ジュウジュウと音を立てッ! 牛タンが焼けているぞォオオオ! この煙を止められるかあああっ!」
「うおあああああ、一切れ、せめて一切れ!」
「ほしいかぁああ?」
「くれぇええ、くれああえええあああ!」
「うーん、どうしよぅかなぁあああッ!」
「くださあああああい!」
「あーーーーげないっ!」
「どぼぐあぁごぼぇがあああああおおあああ!」

「ふっ、戦いはいつも空しい」
「チミチミ、こんなところで火を焚いてはいかん。ちょっと来て貰おうかね? はい、パトカー乗って乗って」
「牛タン喰う?」
「贈収賄で情状ポイントマイナスね」

あの頃、僕らは
深神椥

 僕は、ただひたすら全速力で自転車を走らせていた。
授業が終わって、学校から駅に着くまでの二十分間、僕は考える。
ただ君に伝えたい一心で、一言言いたい一心で、自転車を走らせる。
 君に追いつくように。君に間に合うように。
 ただ、その一心で。
駅が見えてきて、僕は更に加速した。
君が電車に乗って、家路に着く前に、一言伝えたい。
 この三年間、ずっと君を見てきた。
クラスは違うけど、初めて見た時から気になっていた。
 笑顔が素敵で、友達に見せるその笑顔を、僕にも見せてほしいとずっと思っていた。
ストーカーと思われるかもしれないけど、それでもいい。
僕はただ、君に伝えたいだけだ。この想いを。
僕も君も、もうすぐ卒業してしまう。
 その前に伝えたいんだ。後悔しないように。
 君に何を言われようと、どんな顔をされようと。
僕は、その姿が駅に入って行く直前で、声をかけた。
「斎木さん!」
息が上がっていたので、自分が思っていたよりも声が出なかったが、斎木さんは僕の声に気付き、振り向いてくれた。
「永井……くん?」
僕は、斎木さんの前まで行き、何とか呼吸を整えた。
「どうしたの?」
斎木さんは不思議そうな顔をしている。
無理もないだろう。ロクに話したこともない奴が急に来て、ハァハァ言ってるなんて。
僕は気持ちを落ち着かせ、口を開いた。
「斎木さん……あの、ずっと、ずっと、好きでした!」
こんな公衆の面前で、もしかしたら同じクラスの奴がいるかもしれないのに、斎木さん嫌な思いするかな、なんてことも僕の頭にはなかった。
 それよりも先に、体が、口が、動いていた。
僕は斎木さんの反応を見るのが怖くて、下を向いて目を瞑っていた。
「永井くん」
斎木さんの声に、僕は顔を上げた。
僕は瞬きもせず、目も逸らさず、斎木さんの顔を見つめていた。
 斎木さんは、笑顔だった。
いつも友達に見せる、あの笑顔。
僕にも見せてほしいと思っていた、あの笑顔だ。
 僕は、胸の奥が熱くなった。


 ――今でも、あの時のことは鮮明に憶えている。
あんなにときめいたことは、あれが初めてだろう。
 僕は、あの時の自分をクスッと笑った。
「何、どうしたの?」
君が食事の後片付けをしながら言った。
「いや、別に」
「変なの」
そう言って、君は笑顔をつくった。
 僕にも見せてほしいと思っていた、あの笑顔だ。
 その笑顔は、今も変わらない。
 僕は、あの時と同じ「ときめき」を感じた。
 そして、僕はまたクスッと笑った。

俳句を軸にしたエッセイ風小説
石川順一

背を下に風呂場で蜘蛛の囲は見えず

季語は「蜘蛛の囲」。蜘蛛の囲は蜘蛛の巣、蜘蛛の糸、蜘蛛の網の事である。蜘蛛に「背」があるかどうか知らないが、要は、足側を上に向けて居た状態であった。こんな所に入って来て、生きられないだろうと言う事にたいしては他人事?見たいな考えに陥る。ふと綱を渡る訓練中のイスラエル軍の女性兵士の写真を思い出した。写真週刊誌だったろうか。かの地では国を守るために女性にも兵役義務があるそうだ。しっかりと綱にしがみ付く。背を下にしても落ちないように進んでいかなくてはならない。蜘蛛は風呂場の出入り口付近で綱渡りの態の小さな生き物であった。

若葉では食物連鎖の口を振り

季語は「若葉」。植物の葉に居るテントウムシの幼虫は、オレンジ色の幼虫が強い。ピンクのはかみ殺されそうな勢いであった。恐らく背のオレンジは後に七星天道虫として成虫となる前兆であろう。ではピンクのは?これは分からない。ダンダラ天道虫?これは黒い地にオレンジ(赤)の星の天道虫だが幼虫時代が分からない。しかしこのダンダラ天道虫が一番交尾して居たような気がする。下手すると七星とも交尾しようとする。信じられないことだが美味く言ったは思えない。昆虫の交尾時間は短いのだろうか。ナナホシテントウムシは一番典型的な天道虫でオレンジ(赤?)の地に黒星の天道虫だ。大抵天道虫と言えばこのテントウムシの事を指すようだ。七星の幼虫はわがもの顔にシークァーサーの木の枝や葉を縦横無尽に駆け巡って居た。アブラムシ(ゴキブリでは無い)を食べ尽くした。今年からじっくり観察するようになったので、よくわからないが、家の庭の自然では、たかが知れている。もうアブラムシは供給されないのだ。蟻は土に結構いるのに、アブラムシは全然居なくなってしまった。蟻はアブラムシが出す甘い液が大好物なので、蟻が居るのとアブラムシが居るのは相関関係があるような事がどこかに書いてあった様な気がする。なのに蟻は居るのにアブラムシは居ない。もっと別の自然条件やアブラムシの生活史に関係のある理由で居なくなって仕舞ったのかもしれないが、私としては庭の自然が乏しい、だから居ないのだと考えざるを得ないのだ。草はこまめに抜かれ、落葉は直ぐに掃除され、いやな虫はあっと言う間に駆除される。そんな環境でアブラムシが生育できるだろうか。そのせいでテントウムシの餌が無くなり、あんなに活発に活動して居た天道虫も、その幼虫も死滅して仕舞ったとかしか思えない。私はそれらが観察できた5月が懐かしくて仕方ないのだ。