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1000字小説バトル

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1000字小説バトル stage3
第63回バトル 作品

参加作品一覧

文字数
1
DOGMUGGY
1000
2
ごんぱち
1000
3
サヌキマオ
1000

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3つの日本
DOGMUGGY

「東南海地震」「首都直下巨大地震」「富士山大噴火」「東海地震」
日本列島の太平洋ベルト地帯を襲った未曾有の「巨大津波」により産業基盤と産業人口の大多数を失った大惨禍の末、いまや日本は3つに別れて存在している。北海道はロシア沿海州の一部、本州と四国は米国の委任統治領、九州と沖縄は中華人民共和国の日本自治区、その中でも本州と四国は同盟国の保護下で元の日本に近い体制が保障されている。
オレは多重立体交差の新六本木交差点で信号待ちをしている、道路は米本土と同じ右側通行に変わって久しい。自動車産業などの工業地帯が被災した今ではクルマは殆どがアメリカ車になっているが、たまに往年の日本車も見かけるものの部品の入手が年々困難になるので減る一方だ。
崩壊した鉄道網や地下鉄の復興は断念され鉄道立国の面影は皆無になった。
自衛隊が存続しているのは本州四国だけで、北海道には極東ロシア軍が、九州沖縄には南京軍管区の中国人民解放軍が駐留してお互いを牽制しあっているのだった。
自衛隊が存在しているとはいえ米国の委任統治の下では、米太平洋軍の配下で国内の治安維持にあたる組織になっていた。
ここ元の首都圏でもクルマ社会、クルマ通勤でクルマが無いと移動の自由が無くなっていた。
人口密度は元々少子高齢化で減っていたところに大惨禍の影響で右肩下がりだ。通貨も、北海道の日本ルーブル、本州四国の日本ドル、九州沖縄の日本元の3つ存在していて本家の親通貨に交換レートが連動している。北海道にはシベリアから天然ガスパイプラインが引かれロシア本土への漁業資源供給、九州沖縄には中国本土からの工場進出が相次ぎ、そして本州四国はアジアからの移民ラッシュが始まろうとしていた。
3つの日本は植民地経済に近いながらも大惨禍から復興しつつあり、かつての経済大国に戻るかの様相を呈してはいたが、その為には3つが1つに戻るのが不可欠なのだが…「おっと、うたた寝か」髭男は表参道のカフェテーブルから頭を起こした。
「夢か、やたら現実的だったな」青山通りは帰宅ラッシュでクルマが込み出していた、輸入車も場所柄多いが、殆どは国産のミニバンやハイブリッド車だ。
行き交う国産車や坂の下にある渋谷の高架線を走る電車を見てやたらと安堵した表情の髭男だった。
「電車で帰ろ」カフェラテを飲み干し席を立った。六本木ヒルズの後ろから満月が出て来た、今はまだ平和な都心の中秋の夕べだった。
3つの日本    DOGMUGGY

盛久街道の殺人
ごんぱち

「まだ日は高いようだが」
 男は眉を寄せる。中年に差し掛かろうという侍だった。顔立ちにも背格好にもさほどの特徴はないが、肩幅と胸の厚みはあり、泰平の世の中でも剣の修練を怠ってはいないようだった。
「この辺りの山は木の丈が高く、僅かに日が傾いても真っ暗になってしまい、足を取られます」
 茶屋の主人が言う。
「ならば……宿を借りられるか」
「今は生憎客間を使って干し柿を仕込んでいるところでございまして」
 主人は傍らの植木に目を向ける。木守にたった一つ残された実だけが、この葉の落ちた木立が柿であることを知らしめている。
「近くの古寺をお使いになると良いでしょう」

 古寺の本堂で、男は荷を枕に、大小を抱えて横になる。
 本堂に本尊はなく、壁は煤けているが、床は存外に埃はない。
 満月を少し過ぎた居待月の明かりが、破れ障子から射し込む。
 ふと。
 虫の音が止んだ。
 男は片目を開ける。
 刹那。
 大きな影が、天井から男に覆い被さって来た。
 転げて避けようとした男の袴の裾を、影は掴む。男は力任せに転がり、袴の裾を破り逃れる。
 立ち上がりつつ抜刀するのと、影が掴みかかるのと同時だった。
 影の両手が男の首にかかる。首を守ろうとしてねじ込んだ男の右手が音を立てて砕けた。常識離れした握力は、そのまま男の首をへし折ろうとする。
 右手を砕かれながら稼いだ四半呼吸の間、男は左手一本で刀を振り引いた。
 密着された状態で背の皮を切り裂かれた影は、驚いて男を突き放し、飛び退く。
 剣の間合い。
 裂帛の気合いと共に、刀が横薙ぎに一閃した。
 ざっくりと腹を裂かれた影は仰向けに倒れ、同時に血が噴き出した。
 月明かりが影を照らす。
 人の背丈ほどもある大猿だった。

 翌朝。
「結んでくれ」
 茶屋を訪れた男は、主人に添え木と右手を差し出す。親指以外の指が二倍ほどに青く腫れ上がっている。
「この手は?」
「猿の腹から、柿が出て来た。この山の木々の丈は高く、柿の木は育たん」
 男は柿の木を見上げる。青空の中、昨日と同じ、たった一つ木守の柿があった。
「あの寺、床だけが磨かれていた。血を拭ったようにな」
 添え木を結ぶ主人の手が震える。
「猿を仕込んで旅人を殺させ、荷を奪う。良い手だが、あまりちょくちょくやり過ぎたな」
「あ、あんたは」
「道中方、須藤横久」
 懐から袋を出し、中に入っている十手を見せる。
「詳しくは番屋で話して貰おう――もう少し弛めに結んでくれ」
盛久街道の殺人    ごんぱち

ンライ
サヌキマオ

 すっこっこに乗って三途の川を下る私である。すっこっことどんぶらこっこはそれぞれ無関係という関係であり、そも、どんぶらこっこは擬態語である。
 人間が悪ぃンですよ人間が。すっこっこが一度ぼやき出すと止まらなかった。この奇妙な存在は川面に頭だけ出している。息継ぎをする鼻の穴の形は綺麗な圓を描いていた。泳ぐにつれ浮かぶ泡沫が「すっこっこ」と鳴った。お兄さんもあれでしょ、三途の川を下っていったらどうなるかって考えたクチでしょ? 知っているのかい? そらぁお兄さんみたいな人は少なくないもの、川を下っていったら海に着くに決まっているじゃないバカね。そうかそうだよな、道理だ悪かった。お兄さん謝るのね、素直な人だから気に入っちゃった。海には何があるんだい。海には水があって底があるのよ、そんなことも知らないんだから困っちゃうわ。そうだ、みんな私が悪い。ンライカナイっていうのよ。

 ンライカナイに向かっているのかい、とすっこっこに聞くが返事がない。水に浮かんでいるものが海の底に行くわけがないじゃないバカね、とでも云われるかと思ったら静かだった。
 波が渦巻いた。
「おいお前」と雷でも落ちたような声に驚かされる。毛皮の船に乗った筋骨隆々たる老人が、櫂をこちらに差し伸べている。
 こちらへ渡れ。喋るのが鬱陶しいふうでもある。いいからこのカロンの元に渉れ。大丈夫です、私、乗っています。乗り物があるから大丈夫です。そんなこと言ってもだ、ここをどこだと思っておる。冥府の河だぞ、この河を儂の船以外で渡ろうなぞと考えるものがあるわけがない、考えたくないことだが、お前も船からあぶれたのではないか。いえ、私は上流から来ました、上流から河口へ流れていきます。河口なぞあるものか、あるのは闇ばかりだ。いいから船に渉ってこい、そうでないと話もできぬ。河は濁流となった。声はかき消されるだろう。
 船に渡れば、船守は私を河の向こう側に渡してしまうだろうという確信があった。渡すことが仕事であり、それ以上は、闇である。
 すっこっこは白い蝋の塊のようになっていたが、逃げよう、と思うと見る見る間に亀へと姿を変えた。亀は濁流の顎門に自らなだれ込むと河底に沈んでいく。河底には闇ばかりでなく水もあるのである。亀がそう言ったのかもしれない。自分でそういう説明を後付けたのかもしれない。とまれこれ以上死ぬことはないので潜るのは名案だったといえる。