第64回 1000字小説バトル

参加作品
1 悔しさの涙 小笠原寿夫1000
2 タクシー日誌(銃社会) DOGMUGGY1000
3 まんじゅうパない サヌキマオ1000
4 恋のかたち 深神椥1000
5 逆撫で課長 ごんぱち1000

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悔しさの涙
小笠原寿夫

「お父さん、ちょっと醤油取って。」
お父さんは、何も言わずに、醤油差しを差し出した。お母さんは、それを小皿に垂らした。
「学校の勉強楽しいか?」
お父さんは、ハマチの刺身を箸で取り、私に尋ねた。
私は、頷いた。
「今日、運動会の話聞いた。」
私は、やっとの思いで、口に出した。そしてマグロの刺身を頬張った。ビール瓶を持ってきた弟が、お父さんのグラスに注いだ。
「あんた気が利くなぁ。」
お母さんが、初めて口に出し、私は、閉口した。白米を口に掻き込んで、私は、テレビの方を向いた。
バラエティ番組を演っている。
私の家族は、四人家族。昭和の時期に各家族化が進み、三世帯同居の家庭もあったが、私の家庭はそうではなかった。
弟は、バラエティ番組を見て笑っていない。ハマチを食べ、私の後頭部を見ている。
「あんたは、コリコリしたもんが好きで、お兄ちゃんは、マグロが好きやな。」
お母さんは、刺身を用意した時に必ず、言う科白だ。
「うん。」
私は、お父さんの前では、あまり言葉を発しない。弟が、気を使って、私の代弁者へと変わる。
「僕は、ハマチが好きで、お兄ちゃんがマグロが好きやから、僕、ハマチだけ食べるわ!」
この子、本当は、マグロが好きなのかもしれない。
そう思いながら、私は、マグロに醤油をつけて、口に放り込む。そしてテレビのバラエティ番組を見て、クスクス笑う。
お父さんの機嫌が悪くなり始めた。
弟とお母さんは、それに気付いているが、私は、気付こうが、気付くまいが、どうすることも出来なかった。
「おい、トシ。こっち来い。」
私は、言われた通りに、四角いテーブルを周り、お父さんの前に立った。
その時である。
お父さんの大きな手が、私の頬に当たった。私は、泣かなかった。
「泣くな!」
お父さんの怒号が飛んだ。
「お父さんが、一番嫌いなもん知ってるか?」
「な、泣くの。」
もう一度、手が飛んできた。
私は、口元がへの字になり、頬骨の部分が上がり、目の周りを皺だらけにして、泣いた。
何故、叩かれたのか、わからなかった。今でもわからない。
兎に角、痛みと悔しさで私は、泣きじゃくった。
「酒飲んでる時は、本当のお父さんじゃないからね。」
お母さんは、いつも道理そう言い、私を慰めた。その慰めすら、冷たかった。
「俺なんか牛小屋に繋がれとってんぞ。」
大人に反論できる話術を持ち併せていなかった。
十数年後、私は父の口元を殴り、母の頭をしばき、弟の髪の毛を引っ張り回していた。

タクシー日誌(銃社会)
DOGMUGGY

次郎は青山通りで渋滞にハマっていた、片瀬からロングのお客を麻布で降ろした帰りに帰宅のラッシュアワーが重なった。
ノロノロ進む次郎のタクシーの後席窓をコンコンと叩く音がした、ルームミラーを見ると髭男が話しかけていた。
「すいません、鵠沼まで乗せてもらえませんか?藤沢って車体に描いてあったので」
次郎は後席ドアを開けた。
「いやー助かった、電車で帰るつもりだったのですがカフェで転寝して体が冷えたようでね、満員電車で帰るのシンドくなりましてね」次郎は愛想笑いで応じてドアを閉めた。
「鵠沼石上から高瀬通り抜けて熊倉通り迄行って欲しいんですが、こんなこと言っても東京のタクシーじゃ通じないもんね」苦笑しながら次郎は返した「かしこまりました」
帰宅の足を確保して落ち着いたのか、寝起きで頭が冴えたのか、髭男は饒舌に話し出した。
「さっきは妙な夢見てね、地震と津波に火山噴火で日本は3つに分かれたんだよ、それで本州と四国は米国に統治されてるんだが、銃の所持が解禁されて銃社会になっちゃうの」
ルームミラーをチラッと見て「そりゃ物騒な話ですね」次郎は相槌を打った。
「ほいでさ、夢の中で45口径のコルトガバメントでスイカを撃つと木っ端微塵に吹き飛んだよ、そのあと22口径のスタームルガーで3連射したら小さい穴が3つ空いて数秒後にメリメリとスイカが割れたよ」髭男は興奮して上機嫌で話し続けた、どうやらさっきの白昼夢を誰でも良いから忘れない内に吐き出したい欲求にかられている様子だ。
「でもさ、気になってアイフォーンでググって調べたらさ、ニューヨークは東京に比べて、犯罪件数は、殺人4倍、強盗40倍って統計が出てきてビックリしたよ」
これには職業柄、次郎も本能的に反応した。
「こんな統計聞くと、ニューヨーク並になったらタクシーやるのも命懸けだな、こうなると自分も保身目的で銃を所持しなくちゃならなくなる、正にイタチごっこになるな(汗)」
「ところでお客さん、銃とか詳しいんですね撃ったことあるんですか、なんかハワイとかグアムには射撃ツアーがあるのを聞いたことありますけどね」
髭男から返事はなかった、その代わりに「グー」話し疲れたのか今度は車内で転寝だ。
やれやれ、このお客さんの夢が現実になったらカフェで転寝など危険で出来なくなるな。
物騒になって来たとはいえ、他国に比べればまだまだ安全な都心を抜け次郎のタクシーは横浜新道へと入るのだった。

※作者付記:
家電社会、クルマ社会、ネット社会、ドラッグ社会?戦後延々としてアメリカナイズされて来た日本社会ですが銃社会は遠慮したいですね。建国来の銃社会の米国と、戦国時代の刀狩り以来市民が武装解除された日本では、本質的に異質ですからね。日本が銃社会になったら戦国時代に逆戻りしそうで怖い(汗)

まんじゅうパない
サヌキマオ

 ケツがかいい。ずいぶんなクソビッチだったらしいからソッコー病気だったりするとマジやべえんだけど。前ぞのっちのアニキはリンビョーでちんこヤバいとか言ってたけど、オレは金玉かいいくらいなんで。ちんこイタいとかヌきスぎででくらいしかない。
 でもこう、一発やってみっとほんとこの女ブッサイクな。「けんじゃモード」っての? ルーソで手首縛って目隠ししてもなおかつブスってどういうことよ。まぁいいけど、これから先アうこともないだろーけど。ブスだしバカだしゴムつき本アリ30000円でいいよって言ってたけど本当に金ないなこいつ。財布キティちゃんだし。ワキくせェし。5963円しか入ってないし。ガバガバだし。ボーボーだし。人がクスリ入れたお茶フツーに飲むし。すっげえイビキだし。
 あ、で、オレ今日ちょっといますごい発見した。ホテルのさ、テーブルんとこに菓子置いてあるじゃん。今日急に気づいたんだけど。あのまんじゅう超ウマい。なんかまんじゅう、こんなにうまかったんだ。ひとし事終わってちょおツカれたのもあったのかもしれないけど。あまいものが体にしみるー、みたいな。なんかいつの間にか目の前からまんじゅう消えてた。一しゅんでまんじゅう三つ食ってた。まんじゅうパない。ちょうヤバい。
 食ったら元気になった。いいね元気、元気はいいよー、キティちゃんの財布から5950円だけ抜いて、ケータイからオレの番号消して、めんどくさいからアドレスもみんな消して、パカパカなんで机に叩きつけて折って、もしかして入るかなこれガバガバだし、と思ってやってみたけどムリだったんでパンツのまたんとこにはさんで、荷物をまとめて外に出ました! ニンム完了! 今日もいい天気! ちょっとさむいけど!
 それからけっこうコンビニとか行ってまんじゅう買って食ってんだけど、なかなかあの時のまんじゅうと同じ味に出合わない。しょうがないからまたあのホテル使おうってなって、またテキトーに女ゲットしてホテル行ったんだけど、やっぱりこのまんじゅうパないわ。ほんとマジやばい。これだよこれ。で、女がまんじゅうに「あたしもー」って手を伸ばしてきたんでグーでなぐった。でもなぐったとたんにケーサツが入ってきたんで超ヤベェ。ホントわけわかんなかったんだけど、ホテルの人がケーサツ呼んだっぽい。なんか11月8日のキブツハソンヨーギのうたがいとかなんかほざいてる。マジワケワカンナイんだけど。

恋のかたち
深神椥

 私は朝早くから電車に揺られていた。
私の十五年来のファンであるアイドルグループのライブがあるのだ。
数年に一度しかライブが開催されないので、今年開催されると知った時の喜びはひとしおだ。
 旅のお供はいつも、大学からの友人だ。
大人になっても一緒に居てくれるのはありがたいことだと思う。
 この十五年間で、彼らはいい感じに年を重ねた。
私も友人も、一緒に成長してきたようで、それもまた嬉しい。
 ライブ自体はとても楽しみなのだが、会場入りするまでがとても長い道のりだ。毎回、ライブ当日になって、あぁそういえばそうだったと思い出してしまう。
 五万人も入るドームで行われるとなると、とにかく待って並んで移動の繰り返しだ。
 会場までの地下鉄も、人でごった返していて、中々前に進めない。
都会の通勤ラッシュってこんな感じなのかなと思い、ほとほと嫌になる。
グッズを買う時も、ただひたすらグッズ売り場まで移動し、やっと購入できて、会場に入ろうとしても、並んで待って待って……。
 やっと会場入りできても、これまた待たされるのが女子トイレだ。
一時間待つこともしばしばで、やっと自分の席に着いた時にはすでに疲れ果てていることもある。
 でもそれもライブが始まれば忘れてしまう。
彼らの姿を見れば、日常の嫌なこともどこかに飛んでいく。
 ライブの楽しみ方は人それぞれで、一緒に歌って踊る人、ただ黙って聴いている人、腰かけたまま動かない人など……。
ライブは三時間程だが、あっという間に感じてしまう。
数年待っても、たったの数時間で終わってしまうのだ。
とても寂しいが、その後の楽しみは、ただただ余韻に浸ること。
宿泊先のホテルで友人とライブのことをあれこれ言って笑い合う。
 他のファンも同じだろう。日常の嫌なことを忘れ、このひとときを楽しむためにここに集まってくる。
 こんなにも私達を楽しませてくれるなんて、彼らは「魔法使い」か?なんて。

 翌日、友人との再会を願い、家に帰ると、早速テレビをつけた。
昨日の今日で、彼らは生放送の番組に出演するのだ。
彼らは何事もなかったかのように、司会者からの質問に受け答えしている。
 毎回思うことだが、昨日見た彼らと同一人物と思えない。
とても距離を感じる。
 やはり、「皆の……」なんだな、と。
 これが「現実」だ。
 そして、私もまた明日から「現実」に戻るのだ。

 私は彼らの姿に笑顔になりながらも、フーッとため息をついた。

逆撫で課長
ごんぱち

「課長、オレ、会社辞めます」
「いきなりだな、四谷君。理由を聞かせてくれないか?」
「一身上の都合というヤツでして……」
「二身だとどうだね」
「は?」
「ぷぷっ、二身だよ、ニシン。一身じゃなくてニシン、三振バッタ-アウトってヤツだな。ニシン、いいね、ぷぷっ! おいしいよね、ニシン。刺身うまいね! 知ってる? みがきニシンって、別に磨いているって意味じゃあないんだけど、本気で磨くと黒光りしてナイフみたいになるんだよ。凶器として利用するミステリーがあって、食べて証拠隠滅しようとしたんだけど、バレたんだ。理由分かる?」
「え、分かんないですけど」
「ははは、最近の若い者はみがきニシンなんて食べないから仕方ないな。ニシン蕎麦さ。ニシン蕎麦にして食べたから、蕎麦粉が残ってたんだ。床にこぼれた蕎麦粉を探偵がしゃがんで舐めるシーンは圧巻だね。映像化される暁には、是非、AKBの熊井ちゃんに探偵役をやって欲しいね」
「熊井ちゃんはAKBじゃありませんが」
「じゃあNBCだっけ」
「NMBと言いたいなら、大分違いますね」
「CCBかBCGで良いか」
「一気に昭和になりましたね、じゃなくて、真面目に聞いて下さい! 辞めるって言ってるんです!」
「怒鳴らなくても聞こえてるよ。短気だなぁ、長期契約なのに」
「正社員ですよ! 契約社員じゃありませんよ!」
「一生という意味で長期さ。それとも君、一生は短期だとでも言うのかい?」
「はぐらかさないで下さい、辞めますよ、もう辞めますからね」
「まあ落ち着きなさい。君に今辞められると困るよ。理由は何だい? 仕事が合わないっていうなら、転属の希望も出せるんだよ」
「合わないっていうか、もっとオレの能力は評価されるべきだと思うんです」
「まあ、オンリーワンではあるんだけど」
「けどなんです?」
「君のお湯を鯖にする能力って、確かに印刷会社のウチではあんまり役に立たせられてないけど、前の水産会社でも活用はされなかったんだよね。鯖がお湯の温度だから腐りまくるって」
「まだ二社だけじゃないですか! どこか、評価されるところがあると思うんです!」
「分かるけど、仕事辞めてから探すのは厳しいよ。それよりは、仕事をしながら探してみたらどうだい?」

「そんな感じで引き留めていたら、四谷君の能力のレベルが上がったのです、社長」
「ほう?」
「お湯から、お湯の温度の鰹が出せるようになりました!」
「……せめて水からならなぁ」