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1000字小説バトル

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1000字小説バトル stage3
第77回バトル 作品

参加作品一覧

文字数
1
エルツェナ
998
2
緋川コナツ
1000
3
小笠原寿夫
1000
4
深神椥
1000
5
叶冬姫
1000
6
アレシア・モード
1000
7
ごんぱち
1000
8
サヌキマオ
1000
9
相馬御風
946

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コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

ぼくと家業と習慣しきたり
エルツェナ

 またやっちゃった…自宅の道場に連れ込んでの病院送り、これで何度目だろう。
「随分積極的になってきたじゃない、どんな子が生まれるのか楽しみだわあ」
 その度にこんな事を笑顔で言いながら、お母さんは右手に水入りバケツ、左手にモップを持ってぼくに押しつけてくる…そう、道場破り撃退時の“道場破りには気絶を狙え、汚れたら撃退した者が掃除せよ”という習慣のせいで、こうして掃除を頼まれたワケなんだけど…

 蹴り上げて天井に叩き付けた際、つばが天井に飛んだらしいのでそれを掃除しないといけないのだけど、脚立の長さも作業に全く足りなければ、脚立に乗ってさえモップも届かないし、届かせようと脚立からジャンプして落ちたらケガしそうなほど高い位置にある天井に、その汚れはある…らしい。

「お母さん、どうしても届かないって…」
 あらまあそれは弱ったわねえ、と笑顔のまま頬に片手を宛てるお母さんは、困るどころかぼくの反応を楽しんでるみたい。 そんな状態からの助けを探して周りを見回すと、一角だけ天井から何かが下がっているように見えた。

「あれ? あの角って…」
 近寄って解ったけど、3mと書かれた線の所から上に、なにやらフリークライミング用の取っ手――ホールド、っていうんだって――が、ちょこちょこと天井まで付けられていて、その付近には格子になって天井の板を支えている梁の下半分が来ていた。
 これはまさか、ここから上って掃除しろ…って、事?

「…お母さん…お手本くらいは、見せてくれるよね?」
 問うた声は、知らぬ間に震えてた。

「自分で試しなさいな」
 笑顔で悪魔(おかあさん)はそう言った。

 7分後、汚れたとされる場所まであと角2つの場所――天井の梁、その下半分しか使えないので指で強く掴みながら――に差し掛かっていた。
 指の感覚が死にそうな中、最後の角を曲がり、汚れがあるとされた場所に最も近い地点に着けて。
「何とか着いたよ、モップ……お母さん?」
 下に居るはずのお母さんにモップを寄越すよう言うも姿が見えず、どこに行ったんだろうと思って辺りを見回すと、突如指付近で風が起こり、天井がめくれ上がった。

「!?」
 何とか風を堪えると、天井が開いてそこからお母さんの顔が。
「こうしたら早いじゃない。 なんでそんなことを?」

 めくれるなら早く言ってよ、と言った後に指が滑って、スローな感じで落ちていく。
 …ってかここ、床から何mだっけ!?
ぼくと家業と習慣しきたりと    エルツェナ

春色のマニキュア
緋川コナツ

「お母さん、体の具合はどう?」
 小高い丘の上に建つ介護老人保健施設。ここの認知症専門棟に母が入所して、三ヶ月が過ぎた。
「んん……あんた誰?」
 母がおかしい、と気づいてからはあっという間だった。母の認知症は日に日に悪化し、今では一人娘の私の顔さえわからなくなっている。
「娘です、あなたの娘の綾子です」
「はて、わたしに娘なんぞいたかいな……」
 そう言って頭を掻いた母の指先を見て私はぎょっとした。母の爪に真っ赤なマニキュアが塗られている。
 若い頃の母は躾にうるさく、とても厳格な人だった。私は服装から言葉遣いまで厳しく管理され、いつも監視されていた。「あなたがだらしないと私が嗤われるのよ」が口癖だった母の派手なマニキュアに、私は強い違和感をおぼえた。
「あらヨシノさん、今日は娘さんが来てくれたのね。良かったわね~」
 そこへ、いつも母の世話をしてくれている若いスタッフが通りかかった。
「この人は娘じゃなくて、わたしのお母さんだよォ」
 今日の配役は、お母さんか……。前回は幼馴染のユウコちゃんで、その前は妹のミソノ叔母さんだった。
「いつも母がお世話になってます」
 私はその場に立ち上がり、一礼した。
「ヨシノさんは桜の花がお好きなんですねえ。最近は、いつも窓際の席で桜を眺めてますよ」
 この施設は建物全体をソメイヨシノで囲まれていて、遠目からは淡いピンク色に包まれているように見える。自分と同じ名前の花を眺めながら、老いた母は何を考えているのだろう。
「それで、あの、母のマニキュアは」
 私の質問に、スタッフは声を上げて笑った。
「昨日、シニアメイクセラピーの講師の方に塗ってもらったんですよ。ヨシノさん、自分から塗って欲しいって。もう大喜びでしたよ」
「母が……ですか」
 意外だった。
 母のマニキュアを見たのは初めてだったし、もちろん私にも塗ることを強く禁じていた。それなのに自分から塗ってもらったなんて、にわかには信じがたい。
「そうだ、お母さんにもマニキュア塗ってあげるネ。ちょっと待ってて」
「えっ?」
 母は目を輝かせてどこかへ行ったかと思うと、大切そうに両手に何かを包んで戻って来た。そしてゆっくり手を開くと、中には桜の花びらが入っていた。
「お母さんはピンクのマニキュアだよォ」
 皺だらけの指先が、花びらを一枚ずつつまんでは私の爪の上に乗せてゆく。春色の花びらはしっとりとして冷たく、指先で小さく震えていた。
春色のマニキュア    緋川コナツ

メリークリスマス
小笠原寿夫

 どちらが言い出したことかは、定かではない。小さかった時分、私は、弟と二人で、布団に入りながら、
「サンタが来るまで、起きとこうぜ。」
と、サンタが来るのをずっと待っていた。
「でも、お前、先に寝てしまうからな。」
「お兄ちゃんこそ、ちゃんと起きとけよ。」
しっかり者の弟を持つと、兄のだらしなさが、露呈する。
「一時間ごとに、寝て起こし合おうか。」
見事な提案だった。まさか、小学生にも入っていない弟が、宿直制を導入するとは、思わなかった。
「起きてる?」
「うん。」
何度目かに話しかけたとき、弟はすやすやと眠りに就いていた。
「寝てるの?」
隣の布団に、寝ている弟を余所目に、私は、時計を見た。正確な時間までは、覚えていない。父と母が平生より、
「早く寝なさい。」
と言っている時間帯からは、遠く時間が過ぎていた。

 永遠に眠れなかったら、どうしよう。

 そんな不安に苛まされながら、赤と黒の紋様が、夢の中で見えた。

 私が起きたとき、時計の針は、四時を差していた。赤と緑の包装紙に包まれた、クリスマスプレゼントと共に、長靴のパッケージの中に、お菓子が普段よりも入っていた。
 
「お父さんにありがとうを言っておきなさい。」

 母は、あっさりと子供の無邪気な夢を、なし崩しにした。そこに愛はなかった。母は、小学校五年生のときに、両親を亡くしている。
 そう教わった。

 私が苦労してきたのに、あんたらが、憎たらしい。

 それを、たまに母は口にした。それを聞かされて、私は、子供心に、
「嫌なこと言うなよ。」
と思っていた。父は、そのことを知ってか知らずか、子供みたいなもん、どついといたら勝手に成長する、ぐらいに思っていたのかもしれない。
 ところが、父と母に守られて、成長してきた我々にとって、鬱陶しいのだが、いてくれないと、困る存在であることだけは、確かだった。

 十数年後、私が、幼子から成長した時に、初めて事実を知らされた。
「実はな、あんたのお婆ちゃん生きてるねん。」
 人間、驚くと何故か笑いが込み上げてくるらしい。
「えっ!?そんな大事なこと、なんで黙ってたの?」
「あんたのお爺ちゃんが、亡くなって施設に入れられてるねん。」
 よく聞くと、母方の祖父が亡くなってから、祖母は施設に入れられているということを聞かされた。
 そのことを黙っていたのは、子供だった私にそれを理解する事ができないと判断したからだ。よもや私は、私の祖父なのかもしれない。
メリークリスマス    小笠原寿夫

再会
深神椥

 いつの間にか、窓から見える山の木々が色づき始めていた。
一年経つのが早いと思ったことは殆んどないが、気付けば季節が進んでいた。
視線を窓の外から机上の紙に移し、再びペンを走らせる。
 もしかしたら、「そう」思うのは、「あの」せいかもしれない。

 ――二週間前。
いつも行くショッピングセンターの食品コーナーで偶然出会った。
「たーちゃん!」
後ろから肩を叩かれ、振り向いた。
一瞬、誰かわからなかったが、すぐに気付いた。
「小村、さん?」
「久しぶりー」
やたらテンションが高くて戸惑ってしまった。
あの頃の印象とは全く違う。
「ずっとこっちに居たの?私そこのファストフードで働いてるんだ」
「そう、なんだ」
私は顔を引きつらせた。
内心、心臓が飛び出しそうだった。この場から逃げ出したかった。
 だって、だって、小村さんは――。

 十年前、中学の卒業式の後、私達は最後の思い出作りと称して、街はずれにある巷では有名な廃墟へと探検に行った。
小村さんは嫌がったが、私が無理に誘った。
 昔、殺人事件があったとか色々と噂のある家で、心霊スポットとなっているが、老朽化が激しく、今にも崩れ落ちそうだった。
私達は一階を一通り見た後、二階へと上った。
「特に何もないね」
私がそう言った時、叫び声と共に何かが崩れる大きな音がした。
 気付いた時には遅かった。
私は、大きく開いたベランダから下をそろりと覗いた。
壊れた手すりと共に小村さんが横たわっていた。
 小村さんは動かなかった。
私は怖くなり、思わず廃墟を飛び出した。
助けることも人を呼ぶこともせず、そのまま一目散に――。
「私は悪くない」ずっと自分に言い聞かせてきた。
元々小村さんとはそんなに仲が良かったわけではない。
むしろあまり好きではなかった。やたらと私の後をくっついてきて……。
あの時だって、少し怖がらせようと思っだけで、まさかあんなことになるなんて。
 でも、でも、二週間前、彼女は私の前に現れた。
「生きていた」のだ。
あの後どうしたのか、ケガはなかったのか、考える頭はなかった。
 ただ、彼女は「あのこと」を誰にも言わなかった。
「秘密」にしていたのだ。
 もし誰かに話していたなら、私は糾弾されていてもおかしくない。
私を庇っているのか、恨んでいるのか。
 ただ、あの時、「じゃあ、またね」とニッコリ笑った彼女の顔を思い出すと、背筋がゾクッとする。
 次また彼女に会うことがあるのか、そればかりが気がかりだ。
再会    深神椥

ブッシュ・ド・ノエル
叶冬姫

 女の子は三回綺麗になった。一番目は好きな人ができた時。二番目は好きな人と両想いになった時。そして、三回目は…。

 必死で自転車を漕いで、逃げるように坂道を登った。山を切り開いて作られた住宅街は、下り坂と登り坂しかない。冬の冷気に心臓が破れてしまいそうだった。 何故こんな時間にコンビニエンスストアに行ってしまったのだろう。少女の家の門限から逆算すれば、鉢合わせすることは容易に想像できたはずなのに。少女を綺麗にした相手に家に送り届けてもらう前、寸暇を惜しんで二人が話をする場所なのだと知っていたのに。
 『デート楽しかったか?』とからかって、そして肉まんが冷めるからという理由をつけて自転車を走らせた。二階に駆け上がり、自分の部屋に飛び込んでベッドに突っ伏した。とにかく誰にも顔を見られたくなかった。

 そりゃあ、クリスマス・イブだからキスぐらいするよな。

 そんな事が判る自分が嫌だった。幼なじみという理由だけで。ぐるぐると少女の笑顔が回る。少女に頼まれるがまま、相手に橋渡しをしていた自分と共に。色々とくだらない相談にも乗った。一番最近の質問は『どんなクリスマスケーキを手作りしたら、彼は喜んでくれるかな…』というものだった。女の子の手作り、ましてや彼女からなんて何でも嬉しいだろうと思った。
 
 母親が『クリスマスケーキを切るわよ』と階下から声をかけてくるのが聞こえる。
 少女が初めて作ったクリスマスケーキは失敗作だった。泣く少女を宥めながら、無い知恵とクリームを絞り、二人で何とかブッシュ・ド・ノエルに仕立てあげた。

 少女はあれから練習して、僕の教えたブッシュ・ド・ノエルも、他の色々なケーキも上手に作れるようになっていた。そして、律儀にこの家に毎年ブッシュ・ド・ノエルを届けてくれた。あの味をこの日に味わえる特権を、知らずのうちに自分で手放していたのだ。あの頃のまま、今後もずっと僕のことを頼ってくれるのだと勝手に思って。

 僕は何て間が抜けているのだろう。これは失恋ですらない。
 いつの間にか綺麗に変わっていた少女が、彼にはどんなケーキを振る舞ったのだろう。
 せめてブッシュ・ド・ノエルでなければ良い。
 あまりの身勝手さに自分でも嫌気がさす。

 母親の呼ぶ声を無視して、冷えた肉まんにかぶりつく。
 何も失っていないはずなのに、何かを失ったと感じている自分の冷えきった心に相応しい味はこっちだと思った。
ブッシュ・ド・ノエル    叶冬姫

侵攻
アレシア・モード

 私――アレシアは薄暗闇の中で目覚めた。
 不本意な目覚めだと言えた。宇宙暦の赤く光る表示器は、人工冬眠がコンピュータの指示で中断された事を示している。船内の異常、第9項……生命維持に関わる危機。
 不穏な夢の名残が粘りつくのを感じつつ、私は室内を確認する。E1、赤、E2、緑、黒い影、E3……
(誰かが、居る?)
 身構える私に向かって、黒い人影は声を発した。
『カ……キィ……』
 枕元に銃が無いのを悔やむ。私一人の宇宙船内で銃など不条理とも思えよう、だが宇宙というものは!

 柿食へば 鐘が鳴るなり 法隆寺

「……何者だ」
『我こそは偉い俳句の先生じゃ』
 これが、宇宙なのだ。
『有名なこの句であるが実際は……』
 下着一枚の私に先生は講義を始めた。まずは様子を見よう。
『法隆寺……必然性が高くない。実のとこ、下句が何でも成立する。東大寺、興福寺でも何でもいい』
 本当ですか?
『試みに他の何かを入れてみよ』

 柿食へば 鐘が鳴るなり――

「大五郎」
 きょとんとする先生。効いたか。
「二階堂……ワンカップ!」
『なぜ酒を! 何でもいいと思うなよ。印象の接線もまた必要じゃ』
 お前、さっき何でもいいって言ったぞ。
『さりとても、ワンカップはまあ良いかもな。旅の酒、旅情の線が繋がるか』
「本当?」
『さりとても、柿食いながら酒を呑む……そんな奴、見たことないわ、愚か者!』
 私の中で何かのゲージが上昇した。
『分かったら寺の名前でやってみよ』
「はいはい!」

 柿食へば 鐘が鳴るなり 本能寺

 信長の最期を偲んで柿を食う、庭に響く鐘の音、ああ何というドラマな情景。
『大たわけ!』
 はあ?
『――ドラマの舞台、本能寺。従って上句中句が何であれ、何となくドラマっぽい句が出来るのじゃ、本能寺、正に俳句の禁じ手よ!
 古池や 蛙とびこむ 本能寺
 桐一葉 日当たりながら 本能寺
 菜の花や 月は東に 本能寺
 名月を とってくれろと 本能ジャア――ア』
 チタンの頭蓋にバールの一撃を食らい、自称俳句の先生は白煙と白色ノイズを吐きながらドンガラガンと停止した。
「やはりロボットか、本能寺は下剋上の伏線さ」
 スナップオンのバールセット、かかる事態に備えての宇宙無頼の標準工具が、ついに俳句先生を打倒した。しかし私はいつの間にロボットなんか作っていたのか! 油断ならぬぞ大宇宙! イドの底なる魔に抱かれ、私は再び眠るしかない!

 師を斬りて転がる夜よ 寒すばる
侵攻    アレシア・モード

忘年会
ごんぱち

 十六時五十五分。オフィス内で、村野はPCのキーを叩く。書類の残り半分の文が行きつ戻りつしながら埋まっていく。
 他の七人の社員達は、手こそ動いているが、時計にちらちらと目を向けている。いつになくその回数は多い。
 釣られて村野が時計に目を向けかけた時、オフィスのドアが開いた。
「――暑っ、暖房効き過ぎじゃないか?」
 入って来たのは、課長の南野だった。
「コート脱いでから言って下さいよ」
 ファイルをキャビネットにしまいながら、同僚が笑う。
「それにしたって暑い――おい村野」
 再び書類作成に戻り、キーを叩き始めた村野に、課長は声をかける。
「今日は忘年会だぞ、残業にならないように仕事切り上げろよ」
「ええ?」
 村野はため息交じりに応える。
「家に帰ってテレビ観たいんですけど」
「職場の円滑な人間関係の構築には飲みニケーションは必要だ。つべこべ言わずに来い」
 課長は村野の頭越しにディスプレイを覗き込む。
「その書類、提出期限明後日だろ」
「飲み会行ったら、残業扱いになるんですか?」
「なるかっ」
「業務じゃないんだから、従う必要ないですよね?」
 手を止めて村野は課長に顔を向ける。
「業務外って事は、課長が命令をする権限も契約も何もない訳ですよ。つまり、道ばたを歩いている誰かをつかまえて、勝手に飲み会に連れて行くのとこれはもう同じです。金を出したとしても、相手が拒否したらこれはもう誘拐とかの犯罪ですよ」
「道を歩いている人よりは交流が深いだろう。お前は、勤務時間外は挨拶もしないのか? お前だって、他の社員が休日の時に電話かけてあれこれ訊いたりもしているだろう。勤務時間内だの外だのってのは、厳密に分けたって窮屈なだけだ」
「曖昧にも分かれてないじゃないですか。拘束時間は労働契約の最低限のところですよ」
「……もう少しはっきり言おうか?」
 課長はぐっと顔を近づける。
「なんです」
 村野はにらみ返す。
「忘年会という名目でお前のサプライズ誕生パーティーを企画しているんだから、つべこべ言わずに来やがれこのクソ野郎!」
「バラしたらサプライズじゃないじゃねえか、このクソ上司!」

「――てなやりとりからの殴り合いがあって、結局その飲み会には全員が参加したんだけど、これってうちの職場仲良いのかな? 悪いのかな? 近藤さんの会社はどんな?」
「……最初のテンプレゆとりまたは新人類的社員の返答の時点で、プロレスの匂いしかしないわよ」
忘年会    ごんぱち

サヌキマオ

 野を歩いていると沢山の骸にあった。沢山の骸がいるということはこの世も終わりということである。
「もう埋める場所もないことだし、空で燃やしたりしたらよくね? あ、俺マジ天才マジパない」
 そう云った科学者だか政治家だかがいたんだったかいないんだったか、家庭ゴミや死体を地上三十八万キロで燃やすという第二太陽構想が持ち上がったのがちょうど五十年前のことだ。結果として人類は二つの太陽を持つこととなり、二日に一度、夜がお預けとなった。結果として一日は四十八時間となり、経営者は喜んだが社畜はみな死んだ。
 それだけならば突然変異のワーカホリック種が絶滅するだけで済んだかもしれないが、元来タンパク質や石油製品の寄せ集めだった第二太陽は五年前のこと、ゴミの中にあった「なんかすっごく爆発するやつ」のお陰で二つに分裂してしまった。第三太陽の誕生である。制御を失ったゴミ償却システムはさらに人類から夜を奪い、結果としてシエスタの習慣がない人類がみんな死んだ。シエスタはあっても海辺に住む人々は海面が上がってきてみんな溺れた。
「それでは第三問。食欲の秋ということで皆さんもそれなりに秋の味覚を楽しまれるかと思いますが、中にはひどいものもある、かも、わかりません。そこで皆さんには『こんな秋の味覚は嫌だ』を笑天流にお答えください。ハイ楽さん早かった」
「こんな秋の味覚は嫌だ、野を自由に歩き回るガンガゼ」
「デイリ一ポ一夕ルZでそんな記事があったな。はい規矩ちゃん」
「こんな秋の味覚は、あのねーえ?」
「なんなんだぃ……(会場爆笑)」
「こんな秋の味覚は嫌だ、規矩像ラーヌン」
「正直だ、一枚遣って……はいコーラックさん」
「残暑の食べ物。旨いんだけど飽き(秋)がくる味」
 ピンクの小粒は便秘のみならず蟲の毒にもよく効いた。野にいて人の穴から侵入し脳をいじり自由自在な都合のいい夢だけを見せるという件の虫も、ピンクの手柄顔にゃ勝てなかった。長い間眠っていたらしい。全身が干からびていた。喉が死ぬほど乾いていた。声が出るか知らんと思って、仰向けのまま目の前の青空に向かって声帯を震わせる。声帯に積もった土埃がはらはらと崩れ落ちた。

 東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すればまた朝来ぬ

 地球の上に朝が来る。朝と同時に朝が来る。世界が限りなくどうしようもなくなっても大喜利のコーナーは続くんだなぁ、と思いながら、この物語はここで終わる。
晶    サヌキマオ

幽霊の足
今月のゲスト:相馬御風

 或る小学校に於ける手工の時間に、Fという教師の経験した話。
 その日Fは生徒一同に同じ分量の粘土を与えて、各自勝手な物を作らせて見ようと企てた。生徒は皆大いに喜んで各自思い思いに、馬だの牛だの人形だの茄子だの胡瓜だのを作った。
 ところが、中にただ一人時間が過ぎても、ぼんやり何か考え込んでいて何も作らない生徒があった。彼はもともと其の級第一の劣等児であった。算術や読方はいうまでもなく、学科といふ学科は悉くゼロに近い点数をとっていた。ただ不思議に彼は自然の風物を愛する点に於て他の児童に見ることが出来ない豊かさを持っていた。空だの、草だの、木だのに対する彼の愛着は極めて深かった。時には授業中をもかまわずに窓の外の鳥の音に誘われて、ふらふらと教室を出て行こうとするような事さえあった。教師Fはそうした彼の性情をよく理解していたので、なるべくそれを傷つけないように注意していたが、時々は他の生徒への手前叱らずに居られぬような事もないではなかった。
 その粘土細工の時間にもFはあまりの事に彼のそばに行って、やや語調を荒くしてたずねた。
「おい、お前は何をしてるんだ。一時間たっても何もしないじゃないか。なぜ、そうぼんやりしてるんだ」
 教師のそうした詰問に、彼はまるで夢からさめでもしたように、きょとんとした顔を上げた。そしていかにも困ったという風に訴えた。
「先生、私は幽霊を作りたいんです。作ろうと思う幽霊はハッキリ目に見えているんです。けれども、いつかうちのお母さんは幽霊というものは足のないものだといって聞かせました。でも、足がなくては立てません。私はそれを考えていたんです。先生! どうしたら足がなくても立たせることが出来るでしょうか。それさえわかれば今すぐ私は幽霊をこしらえます」
 それには教師もまいってしまった。むしろ一種の驚異さえも感じさせられた。そしてただこう答えるより外なかった。
「よし、よし。それでは今日はそれでやめにして置くがいい。その代りいつでもいいからお前がその工夫の出来た時に作って持って来るがいい」
 しかし、その生徒は卒業するまでついにそれを作り得ずにしまった。或いは一生涯彼はそれを考え続けるのかも知れない。教師は時々その教え子をおもい出しては涙ぐまされるのであった。