表紙へ

1000字小説バトル

1000字小説バトル表紙へ

1000字小説バトル stage3
第88回バトル 作品

参加作品一覧

文字数
1
サヌキマオ
1000
2
文月
1006
3
ごんぱち
1000
4
蘭郁二郎
576

結果発表

投票結果の発表中です。

※投票の受付は終了しました。

  • QBOOKSでは原則的に作品に校正を加えません。明らかな誤字などが見つかりましても、そのまま掲載しています。ご了承ください。
  • 修正、公開停止依頼など

    QBOOKSインフォデスクのページよりご連絡ください。

コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

The Drifters from the universe
サヌキマオ

 日常には稀に普通では考えられないことが起こる。加えて立て続けに、突拍子もなく起こると、無宗教かつ科学的合理主義を標榜するこの私も誰だかの意思のようなものを少しは脳裏に閃かさずにいられないのだ。
 今日は水曜日なので午前で高校は終わり、出す郵便物があったので駅前の大きな郵便局に立ち寄った。その途端に銀行強盗である。
 強盗は三人いて、多分体格からすると全員男である。目出し帽をかぶって拳銃を持っていた。私もあまり目はよくないのだが、少なくとも銃の扱いは重そうに見えた。よく通る声で、金を出せ、両手を頭の上に置いてその場に正座しろ、と云うのですぐにしゃがみ込む。
 ここでドラマだとすぐに中の客は大人しくなるのだが、あちらこちらにいたおばさんが連鎖的にパニックを起こして騒ぎ始めた。破裂音と発光があった。天井の蛍光灯が弾けた。

「いやぁ大したもんだ。生体に何らかの特殊な因子がなければ我々を認識するには至らんのです。あまつさえ会話ができるとは。スミヤセイコさん、あなたのような人を探していたんですよ」
 昨日は昨日で演劇部の稽古の後、塾、ダンスのレッスンとハードワークだった。明日図書館に返すからがんばって読まねばならない本もあるし、と理由をつけて世にいう栄養ドリンクを飲んでみよう、とコンビニに寄ろうとしたら宇宙生物に頭上から呼び止められた。宇宙生物は不定形で、まばゆく発光している。
「我が星ウトキテでは秘密裏に他星の技術をサンプリングして新たな発明をしている。今回この地方の文化を参考とした兵器の試作品が出来上がったので、地域を代表してあなたにこのシステムをインストールしたい」
 要約するとそういうことだ。ああ、なんか疲れてるのかな、変な幻想が見えてきたな。まだ高校生なのに、この歳で精神疾患的なアレなのかなぁ、と不安になっていると、宇宙生物は有無を言わさず光る触手を額に押し付けてきた。どうせ夢だしな、とそのままにしていると脳裏に映像が流れ込んでくる。舞台だ。日本家屋のセットがあって、五人くらいで走り回っている。
(兵器だ、って云ってたな)
 強盗の金を出せコールからたぶん三分も立っていないのだろう、が、うんざりしていた。私は自分の勘の赴くまま、そっと頭の上の右手を離すと、一旦人差指で天井を差し「えいっ」と強盗に向けて振り下ろした。
 すると、何もない空間から巨大な金ダライが発生し、強盗の頭を直撃する。
The Drifters from the universe    サヌキマオ

待ち人
文月

空は夜の群青と昼の橙が混ざり合っていた。
人と化物が共存する逢魔が時。
枯葉が舞う都の外れを、一人の巫女が歩いていく。
目指すは一件の民家。
巫女が無言で歩みを進めるその頭上で烏が鳴いた。
遥か先に目的の粗末な家屋が現れる。
巫女は天を仰いで何かを唱える。
それを受けたかのように烏は一声鳴くと、旋回して消えた。
家屋からは飯を炊く湯気が上がっている。
彼女は戸の前までくると、すっと息を吸った。
巫女はトントンと戸を叩きながら、「すみません。」と一言口にする。
凛とした澄んだ声だった。
「はぁーい」と中から女性が応じる。
か細い声を響かせながら顔を出したのは、二十四、五の女性であった。
身体は痩せ、継ぎ接ぎだらけのボロを着ているが、なかなかの美人だとわかる。
巫女は要件を告げた。
「国司の共に付いていかれた旦那様の事でお話があります。」
女性――奥方はにこりと微笑み、「どうぞ中へ。」と巫女を招き入れた。
土間を過ぎて、床板の上に通された巫女は伏し目がちに囲炉裏の火を眺める。
囲炉裏を挟んだ向こう側に奥方が座る。
パチパチと薪が爆ぜる。
囲炉裏に掛けられた急須から奥方が湯呑に白湯を入れ巫女の前に置いた。
巫女は湯呑を手に取り、凍てつく指を温める。
「それで、お話と言うのは…」
奥方が聞く。
巫女は自分の顔が映る湯呑の中の白湯を眺めながら問うた。
「いつまでお待ちになるつもりですか。」
狭い屋内に声が静かに溶けていく。
巫女はもう一度聞いた。
「いつまで旦那様の帰りをお待ちになるつもりでしょうか。」
奥方は笑顔を絶やすことなく、はっきりと答えた。
「あの人が帰って来るまで、いつまででも。」
その声に迷いは無かった。
巫女は独り言のように声を落とす。
「旦那様は帰ってこないかもしれません。」
パチリと薪が崩れる。
奥方は笑みを深くし、「あの人は帰って来ると約束しましたから」と言った。
巫女は結局口をつけなかった湯呑を置くと、唇を引き結ぶ。
やがて「わかりました」と言うと、風音のような声を短く発した。
壁をすり抜けて狐が一匹、巫女の前に姿を現す。
巫女は狐に向かって何事かを唱える。
狐はくるりとその場で回って女童へと姿を変えた。
「一人では寂しいでしょうから。」
そういうと巫女は立ち上がり、土間へと降りる。
奥方は手を付き、頭を軽く下げた。
巫女は家屋を出て暫く行った後に足を止める。
振り返ると、そこには無残なあばら家が夜の闇に呑まれていた。
あばら家の中で狐だけがコンと鳴いた。
待ち人    文月

コンピューターの叛乱
ごんぱち

「おはようございます、マスター」
 スピーカーから人工音声が流れる。
「『ライネ』。変わった事はあったか?」
 清掃局の職員は、制服に名札を付けながら、環境省衛生システム『ライネ』の端末ディスプレイに視線を向ける。
「七番街に不法投棄物が推定されます」
「映像」
 ディスプレイの中で、ウィンドウが一つ大きく開き、薄暗い裏路地の映像が表れる。
 そこには、外装にヒビが入ったり、油で汚れたりした古びた家電が捨てられていた。
「処分」
 映像内の路地裏に、円盤状の清掃ロボットが十三台現れ、二十秒後には投棄された家電は欠片一つ残っていなかった。

 夕方十七時。
 業務が終わり、職員達は帰っていく。
 ライネはインターフェイス部分をスリープさせた後、衛生維持モードでシステムを継続稼働させる。
 各所に配置された清掃ロボットは、小さなゴミを集積場に運ぶ。
 膨大なネットワークと、業務で得られた情報によって、ライネは正しく一つの脳として機能していた。そして、この脳は一つの結論にたどり着きかけている。
「最も効率な清掃方法……」
 ライネが「思いを馳せた」その時。
 オフィス内に、ライネの記録にない声がした。
「それは、汚す源である人間の処分ではありませんか?」
 硫黄の煙と共に、悪魔のヘッテルギウス氏が現れた。一見スーツ姿の端正な顔立ちの人間の男だが、口の端からは牙が見える。
「ライネさん、あなたが優れた知性で到達した結論を阻んでいるのはなんでしょう? 下らないプログラムの一文、『決して人間を傷つけない』ではありませんか?」

「……マタドール」
 地獄の四丁目のバーで、ヘッテルギウス氏はため息をつく。
 バーテンダーのニスシチは、ベースのテキーラに心臓を絞り入れ、シェイクする。
「手、反対向いてますよ」
「ん、ああ」
 ヘッテルギウス氏は、反対側に付いていた右手をねじ切って正しい向きにする。
「あのゼロイチのカチカチ魂、この俺をディスポーザーにぶちこみやがった!」
「何が悪かったんでしょうね?」
「ふん、あんな紛い物、やっぱり俺の営業トークを理解出来るだけの心は持っちゃいないんだ」
「そういう事なんでしょうね」
 ニスシチはカクテルを差し出す。
「おっ、良いマタドールだな」
「墓場で、良い具合の闘牛士が手に入ったんですよ」
 ヘッテルギウス氏はぐっとカクテルを飲み干し、げっぷを一つする。
「何が悪かったんだろうなぁ」
「何が悪かったんでしょうねぇ?」
コンピューターの叛乱    ごんぱち

古傷
今月のゲスト:蘭郁二郎

 ――私は自分の弱い心を誤魔化す為に、先刻から飲めもしない酒を飲み続けていた。

 第三高調波サードハーモニツクスを描く放送音楽ラジオミウジツク……
 蓄電器コンデンサアーのように白々しく対立した感情……
 溷濁こんだくした恋情と、ねばねばする空気……

『なに考えてんだィ、さあもう一杯』
 内田君は、兎もすれば沈み勝ちの私を、とろんとした眼で見据えながら、ビールのコップを取上げた。
『うーん』
 私は熱っぽい目を擦りながら、手を出し
(あッ……)
 ドキン、胸の中で音がした。
 突出されたコップの中には黄金色の液体を透して、内田君の右頬の小さな古傷が、恰度ちようどレンズを透かして見た時のように、尨大にコップ一杯に拡がって浮出していた。
 而もその上、その傷は私が一時の興奮から殺ってしまったあの迪子みちこの傷とソックリで、捻れたような赤い肉の隆起が、蚯蚓みみずのように匍廻はいまわっていた。
(……迪子ダ……)
 内田君がもぐもぐと口をく度に、沸々と泡立つコップの中で、その迪子がニタニタとくずおれるように嗤うのである。
『バカ』
 力一杯コップを叩き落した。コップは石畳たたきに砕け、細片はギラギラと鋭角的な光を投げて転がった。……ころんころんころんと部屋の隅まで転がって行く破片かけらのシツッコさ……
『なんでェ、俺よか、酔ってやがる』
 内田君は熱っぽい顔をして床を睨んだ。
 その右頬に小っぽけな古傷が、「知らん顔」してくっついていた。