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1000字小説バトル

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1000字小説バトル stage3
第100回バトル 作品

参加作品一覧

文字数
1
サヌキマオ
1000
2
Bigcat
1153
3
灯火
1000
4
ごんぱち
1000
5
藤森秀夫
1200

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コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

裸のアレ(附・非常に安全な熊の捕り方)
サヌキマオ

 王様は、すると私は莫迦なのだろうか、とお答えになった。

 昼食には控室でライ麦のパンとスープが出た。おそらくは長いこと保存してあった干し肉を削ったものと、なんらかの葉っぱのスープだ。見知らぬ仕立て屋への対応としてはまあまあと言える。昼休みが終わると兵士に案内される。サンタ・バルボラ城、謁見の間である。

 王様のけわしい眼差しに少しも冗談の色が見えないのを確認して、私は「お見えになりませんか」と相槌を打った。
「大臣」
 王の呼びかけの後ずいぶんと間があって、はぁ、と魂の抜けたような声があった。大臣である。よくあるようなカイゼル髭の細面よりも、やけに長い首と、首に刻まれた皺のほうが印象に残る。大臣、お前には見えるか、その、この仕立て屋が拵えてきたという服が。
「おそれながら――」
 やはり先程から大臣は小刻みに震えていたのだ。気のせいか輪郭がぼやけているような気がしたが、やはり返事に困って震えていたのだった。

――ところで非常に安全な熊の捕り方を知っているだろうか。ドアほどの大きな木の板を一枚用意し、熊の手が入るくらいの穴を開けておく。これを森や丘にある、ちょうど木の板にぴったりな大きさの洞穴を見つけておいて人が中に入り、入り口は木の板でドア代わりにピッタリ閉めてしまう。
 やがて熊がやってくる。熊は忽然と現れた木の板と開いた大きさの穴に興味を示し、利き腕を突っ込んでくる――そうすればしめたものだ。あとは突っ込まれた腕を必死で抱えて家路を急げばいい。もっとも、場合によっては熊の家に到着することもあったりするとか……

――いかん、意識が飛んでいた。
「おそれながら」私はやおら口を開いた。「国王陛下に置かれましても百聞は一見に、いや百見は一触に如かずでございます。触っていただけさえすれば『存在する』というのがお分かりいただけるかと」
 王ははっとした顔をした。玉座からすっくと立ち上がると、ややよろめきながらも「服」の掛けてある台に向かい、そっと手を差し伸ばす。ふっと息が漏れた。
「確かに、あるな。不思議なものである」
 確かに服はある。当たり前だ。ちゃんと作ったんだもの。
「これは認めねばならんようだ」
 王様は口角を上げて私に向き直った。
「つまり、わしは莫迦だったのだな」

 よくよく考えてみれば、裸に見える服なんぞ売れるわけないものなぁ。
 城壁の上から逆さに吊るされながら、私は大きくため息を付いた。
裸のアレ(附・非常に安全な熊の捕り方)    サヌキマオ

Bigcat

 私の家は四人家族。両親と私と弟のごくありふれた家庭だ。父は私鉄の駅員。母は以前、出版社に勤めていたが、今は学習塾のパート職員だ。
 両親は恋愛結婚だったと、親戚の叔母から聞いたことがあったが、どんなきっかけで、駅員の父と出版社勤めの母が知り合って、恋愛関係に陥ったのか、年頃の私も興味津々になってきたので、ある晩父が留守の時、母に、
「お父さんとお母さんのなれそめを教えて」
 と直球で質問してみた。
「いきなり何を言い出すの」
 母はちょっとびっくりしたような表情を見せたが、すぐに照れ笑いしながら、
「それはね」とおもむろに面白いエピソードを語ってくれた。

                *

 母は大学卒業後、都心の出版社に就職した。山本富士子に似た美人で、男性社員の注目の的だったが、気が強い反面、せっかちで、ややそそっかしい所もご愛敬だったらしい。
 出版社の仕事は締め切り間近になると殺人的に忙しく、帰宅が深夜におよぶことがしばしば。同僚の女性と顔を合わせるたびに口をついて出るのは、
「今日も残業よ。早く帰りたいわねぇ」
 あわただしい日々が数日続き、やっと仕事が落ち着いてきた七月中旬のある日、母は朝から、
「ああ、今日は早く家へ帰って、ケーキ食べながら金曜ドラマ見たいな」
とかなんとか考えていた。
 夕方、久しぶりに定時退社させてもらい、帰りの電車の中で目を閉じると、アパートに駆け込み、ソファーでくつろぐ幸せいっぱいの自分の姿が浮かんできた。桃源郷にいるような思いだった。
 もう少しで乗り越しそうになるピンチを脱して、降車駅の改札を足早に通り過ぎようとした時、(当時はまだ自動改札ではなかった)、背の高いイケメンの駅員が、「うっ」と、言葉を詰まらせ、じっと母の手元を見ている。
(何か私の手に異常でも……)
 と、怪訝な表情で母が見返すと、
「お客さん、冗談はよしてください」
 駅員の顔が真っ赤になっていた。定期券が切れていたので、切符を買って乗車したのだが、母は切符のかわりに自宅のアパートの鍵を駅員に渡そうとしていたのだった。

                  *

「じゃあ、まさか」と私は話の展開に驚いて叫んだ。「その駅員さんが今のお父さんだって言うんじゃないでしょうね」
「そうなのよ。その時のイケメンの駅員さんのウブな表情がなぜか忘れられなくてね。駅の事務室にいるかしらなんて、ちらちら覗いていたら偶然目が合ったりして、何となく通じ合うものがあったのかしら。思いがけなく駅前のロータリーで声をかけられたので誰かと思ったら、その駅員さんで、それから付き合い初めたのが、あなたのお父さんって訳」

                  *
 定年間近のしょぼくれた今の父の顔を思い浮かべて、私は人の出会いの面白さを感じた。
鍵    Bigcat

水滴
灯火

 結露した水が、グラスの頭から足へと零れ落ちていく。
 ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ
 ひとつひとつがツルリと滑り落ちて、グラスの底をなぞるようにぴったりと貼り付く。カラリと乾いた音を鳴らして崩れる氷も、それと同様に潜りたがっているように見える。
 日光を浴びた机上の水滴達は、まるで主役は自分だと言わんばかりにキラキラと輝いていた。

 真正面。
 自分の世界に耽っている僕を気にせんとばかりに、継ぎ目のない話を繰り広げるこの男。
 「なあ、芳樹って就職どうすんの?」
 出た。耳にタコができる位繰り返したこの話題。
 実を言うとそれ、もう飽きてるんだよなあ。僕。
 「ん? 今のところは学校からのツテを頼ろうと思ってるけど、そっちはどうすんの?」
 特にやりたいことがあるわけでもないから、再三使い古したお馴染みの台詞。これさえテンプレートにしておけば、深く突っ込まれることがないから楽だ。
 「ふうん? 俺もそろそろ本気になろうと思ったんだけど、どうもそう出来ない時ってあるじゃん?」
 お前もそうだろ? と言わんばかりの表情でグラスを手に取る男。
 テーブルとグラスの底面、持ち上げた境目から貼り付いていた雫がぽろぽろと滴り落ちる。社会に振り落とされる僕だ、なんて自嘲的なことを思いつつ考える。
 「そういうとき、あるよね。本気になろうと思ってもなれない時。わかるな、俺」
 ねえよそんなもん。欲しいものを欲しいとも言えない、子供以下の言い訳だろうが。
 「やっぱり? 芳樹とは話し合うよなあ。俺、卒業してもお前とはちょくちょく連絡取っていきたいんだよ」
 途端目を輝かせて僕の手を取るこの男。
 正直下の名前すら覚えていないし、僕にとっては欠片程も興味のない話だけど。

 困ったように笑うしかなくて、引きつった顔を無理やり愛想笑いに変える。そして徐に口を開く。
「ありがとう。俺も、楽しみにしてる」
 保身の為なら厭わない、優しい嘘のつもりだった。そんな僕を見透かしたとでも言うように、男の手の温もりがするりと離れる。
 --暑苦しかったんだよなあ。
 
 いつのまにか机上に流れ落ちた結露の輝きは失われていて、それを確認したのは男が去った後だった。
 あいつが零れるそれを見ていたのか、見ていなかったのか。見当もつかないけど、多分僕のようだと思うことにした。

 だから、その日を境に彼からの連絡は途絶えた。

 --これが 大学時代の思い出--
水滴    灯火

三人寄れば合身ましい
ごんぱち

「よう、アニキ、何を読んでるんだい?」
「おう、八戒」
「やだなぁ、今は浄壇使者だよ」
「分かりにくいから八戒で良いんだよ。お前だって、俺の事を闘戦勝仏とか呼んだ事もねえだろ」
「いやぁ、ちゃんと呼んでるさ。とう、せん? しょ、しょう? とうきょうしょうけんとりひきじょ」
「ほれみろ覚えちゃいねえ」
「千年以上も生きてりゃ、少しは忘れるさ」
「十秒前に言った名前だよ」
「で、何読んでるのさ、けちけちしないで教えてくれよ、ねえ、ねえねえ」
「つつくなこの野郎。花果山……今は何とか言う国の出来てるところの絵物語『ゲッターロボ』だ。変化の術のネタになるかも、ってな」
「へえ……空を飛んで斧で敵を倒す、このゲッター1というのは、おれっぽいな」
「馬鹿言うな。ゲッター1は俺だろ。第一、お前の飛ぶ速さは遅い。今なら俺の掌からだって出られねえぞ」
「え? 覚えたの? あの芸」
「お釈迦様からコツを教わってな。蟠桃会でバカウケよ」
「あ、試してみたい!」
「嫌だよ。お前だと、指の根元にする証拠がおしっこで済まない気がするし」
「何故分かった!?」
「……そういうところが、全然ゲッター1っぽくねえんだよ」
「ぐぬぬ……じ、じゃあ、このゲッター2かな」
「いや、どう考えてもお前はゲッター3だ。元々天蓬元帥、要するに水軍の大将じゃねえか」
「いやいや、水と言ったら沙和尚、これは今や常識だぜ」
「体型もでっぷりしててそっくりだろう」
「いやいやいや、これはその気になればすぐ痩せられるから、特徴とは違うから」
「何千年同じ体型だよ」
「本気出せば大丈夫だって。そしたらほら、鼻先がとんがってて土を掘って芋を食べる姿も、ドリルにそっくり」
「天から役職貰っても相変わらず煩悩の抜けねえ野郎だ。お前はゲッター3がお似合いだって言うのに」
「そんな事ない、ないって!」

「で、ここは一つ、お師匠に決めて頂こうと」
「お願いします、お師匠!」
「……お前達は勘違いしておる」
「え?」
「何でしょう?」
「ゲッターロボの1、2、3は同一機体のヴァリエーションであって、独立して考えるならば、むしろ合体前のゲットマシンによって例えられるべきだ」
「ゲットマシン……」
「おれとアニキと、沙和尚の三つの……が、一つになったりオープンゲットしたり……うわぁ」
「うわぁ……」
「これに懲りたら、下らぬ事で喧嘩はしない事だ」
「はい」
「肝に銘じます、いいよな、沙和尚も?」
「……オレ、いたの?」
三人寄れば合身ましい    ごんぱち

今月のゲスト:藤森秀夫

冷たい萩の花がほろりとこぼれました。
力のない風が、黄色い一枚の木の葉に引掛って嘆いています。
蟋蟀こおろぎは穴の中から頻りに溜息を洩らしています。
萩の散る音も、風の嘆きも、蟋蟀の溜息も、みな一様にふと杜絶とだえた隙間に、
よく耳を澄ますと、廊下をようどもの行列が通ります。
奥の一間には、ご病気のお姫様が、乳母と寝ていました。
お姫様は神経で、あんまりこわいので、乳母をお起こしになって
『乳母、あのポクポクとあんのように、杖を突いて、廊下を歩いているのは誰でしょう』とお尋ねになりました。
『お姫様、お姫様、美しいお姫様、あれはおようで御座いますよ』
そこで美しいお姫様は大変ご安心なさいました。
お姫様は、楊子を大変お好きでした。
お姫様は、一本の楊子をちょっとお使いになると、もう、直ぐとお捨てになりました。
ご病気のお姫様は、ただ、お暇で、ご退屈で、仕様ないものですから、それでお楊子をお使いになると、捨てられるのでございましたが、
捨てられた楊子達は、それを大変悲しく思いました。
それはいい香りの楊子で、どれもこれも、柄のところに細い金糸を巻きつけていました。
次の晩も、葉の散る音、風の嘆き、蟋蟀の溜息が、一様に、ふと杜絶えた隙間に、
よく耳を澄ますと、廊下を楊子共の行列が通りました。
ご病気のお姫様は、怖いので、また、乳母をお起こしになって、
『乳母、あのちゃらちゃらと夜番のように、かぎを振って、廊下を歩いているのは誰でしょう』と、お尋ねになりました。
『お姫様、お姫様、美しいお姫様、あれもお楊子で御座いますよ。お楊子の金の糸と、他のお楊子の金の糸とが鉢合わせをするので御座いますよ』
そこで美しいお姫様は、余りの可笑おかしさに、微笑まれました。
その次の晩も、物音のふと杜絶えた隙間隙間に、
よく耳を澄ますと、廊下を、楊子共の行列が続きました。
奥の一間では、お姫様のご病気がおもって行くのでございました。
乳母が、お姫様の枕元に看病していました。すると、
美しいお姫様は、死の輝きに燃えて、おずおずとした目附きで、こうお尋ねになりました。
『乳母や、あのツンツルツンノテンと、楽器を弾いて、廊下を歩いているのは誰でしょう』
乳母も恐ろしさに身を震わしました。
『お姫様、美しいお姫様、お姫様はお熱をお病み遊ばしていらっしゃる。あれは矢張り、お楊子が、お廊下の上を踊りをして歩いているので御座いますよ』
美しいお姫様は、それを聞くとこわいと仰せられてお臥せりになりました。
その夜が明けると、廊下には、松の枯葉が散っていました。
昨夜の楊子共は何処へ行ったのでしょう、奥の一間からは、お母さんやお父さんの啜り泣きが聞こえて来ました。
美しい美しいお姫様は、お死去なくなりなされたのでした。
今でも、萩の散る音、風の嘆き、こおろぎの溜息が、一様に、ふと杜絶えた隙間隙間に、
よく耳を澄ますと、廊下を楊子共の行列が続きます。
『ポクポク、ちゃらちゃら、ツンツルツンノテン……』