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1000字小説バトル

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1000字小説バトル stage4
第3回バトル 作品

参加作品一覧

文字数
1
Bigcat
1000
2
サヌキマオ
1000
3
ごんぱち
1000
4
夕都
1000
5
日向きむ
1329

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コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

拾った美女
Bigcat

 タクシー運転手の仕事を始めて間もない青年が、ある夏の晩遅く京都市内を流していた。賀茂川沿いの人気ない場所に差し掛かった時、曲がり角の所で、手を上げている着物姿の若い女性が目に入った。
 彼が車を止めると、その女性は乗り込んできて、
「xx寺へ行っとくれやす」と行く先を告げた。女の家は寺のすぐ近所ということだった。xx寺は京都の古刹で、運転手はすでに何度も行ったことがあり、土地勘は十分だった。ゆったりした気分で運転していた。美人を後ろに乗せて、鼻歌でも出そうだった。
 ところが、彼がミラー越しにたまたま後部座席に目をやった時、背筋に何か冷たいものが走った。花柄の着物をまとった、きちんとした身なりの若い、美しい女性だったが、押し黙って視線を足元に落としたままの無表情な姿が、なんとなく博物館の蝋人形を連想させた。
 寺に近づくと木々の間から赤い焔がちらつくのが見えた。車が接近すると、どんどん焔が大きくなってきた。運転手が、
「あれ!どこか燃えてますよ。火事違います?」と言いながら、女性の表情を伺ったが、女性は何の反応も示さず、押し黙ったままだった。
彼は寺の石垣を右に曲がった。一軒のしもた屋風の家が完全に焔に包まれていて、今にも崩れ落ちそうだった。彼は車を止め、
「やっぱり火事ですよ。どうします?」
と言いつつ再び後部座席を振り返ったが、女性は煙のように姿を消していた。彼は仰天した。火事に気を取られていたとは言え、降りる物音も気配も全く気付かなかった。車のメーターは2千円をさしている。まさか乗り逃げ?会社へ帰ったらどう言い訳しよう。
 彼は燃えている家の付近まで近づいて、タクシーを降りた。消防車と救急車が止まっている。消防士が火炎にホースを向けて、必死に消火活動をしている。だんだん人垣が増えてくる。その最中一人の人間が消防士の手で燃えている家の中から運びだされてきた。彼は凍りついた。その体は消火活動のホースの水でぐしょぐしょに濡れていたが、顔立ちの美しさは焔の明かりの中で際立っていた。まさしくタクシーの後部座席にいた和装の女性だった。
 女性の体を運び込んだ救急車が現場を去るのを見届けた後、青年はタクシーに飛び乗って、本部の配車センターへ急いだ。喘ぎながら、彼は目撃したことを同僚に告げた。中年の運転手仲間が、青年のタクシーを覗き込んで、大声で叫んだ。
「おい!バックシートがぐしょ濡れやで!」
拾った美女    Bigcat

国境なき石段
サヌキマオ

 石段は県道でいったん途切れて上下に続いている。ものの順序からすると、石段と石段の間にある平地に県道を走らせた、というのが正しいところだろう。石段を降りると崖の下に出られて、海の底からお湯が湧いている。石段を上がると神社に着く。その昔から神社と温泉は一本の石段で繋がれていたのだ。今現在も「赳湯」という観光用の看板だけは出ているが、人が浸かるようには作られていない。近所の温泉旅館がここから湯を引いているのだろう、湯気の立つあたりに太いパイプが一本、無機質に差し込まれているのが見える。
 問題は石段であった。石段は海の下へと続いている。海の底のほうから銛を持った潜水服の男がのしのしとあがってくる。甲冑ばりの金属製で、ずいぶん古めかしいものに見える。頭頂部から生えた管から酸素が供給されているのだろう。管は男がやってきた海の底に続いている。供給されているのは酸素ではないのかもしれなかった。ついでに、潜水服の中身が男だと誰が決めた。顔部分の円窓からは表情をうかがい知ることはできない。かと言って覗き込むのも失礼に当たる。
 潜水服は(潜水服自体が本体という可能性もある)こちらに気づいているのかいないのか、石段を登り始めた。ごつ、ごつ、と硬くて重いもの同士がぶつかる音がする。背丈は二メートルくらいだろうか。管の金属はずいぶん強いものらしく、重力に負けず、余裕をもった撓りを見せて後に続く。この管はどこから続いているんだろうか。
 じっと見ていてもなかなか埒が明かないのでいったん県道まで戻り、道沿いにあるコンビニでコーヒーとおにぎりを二つ買う。このまま立ち去ってもよかったが、やはり潜水服の行く末が気にならないわけがない。うららかな日差しであった。昼食には早いが、海風を浴びて飯を食うにはいい日だ。
 また石段に戻る道すがら、遠目に管が県道を横切っているのがわかる。ああ、案外早く越えたんだなぁ、と妙に感心していると背後から一台のライトバンが走り抜けていく。車は一直線に走っていき、まもなく地面の管にひっかかり、それでも減速せずに踏み越えて走り去った。まもなくバケツの跳ね転がるような音がしたかと思うと、石段の上から崖下に向けて潜水服が転がり落ちていく。慌てて走って崖下を覗くと、まさに潜水服が海面に落下するところだった。盛大に飛沫があがる。
 ふと、足元に真新しい交通安全のお守りが落ちているのに気づく。
国境なき石段    サヌキマオ

晴れ間
ごんぱち

 町境の川は、濁った水を満たし流れる。土手の狗尾草は流れに揺らぎ、常の水位を超えている事を伺わせる。
 橋向こうの背丈ほどもある青々とした薄の生い茂る土手にも、雨は降り注ぐ。

 平能源兵衛は、その薄の藪の中にいた。

 降り続ける雨に鬢の油は流れかけ、髷は広がり伸びかけた月代に貼り付いている。渋染の袴は、折り目も消えている。
 大刀一振りのみ帯び、脇差はない。
 粗末な拵えの鞘に右手を添えたまま、指を曲げ伸ばしして、凍えゆく感覚を和らげる。
 源兵衛は橋から続く一本道を、もう二刻も見つめ続けている。額を伝い落ちる雨滴に、半目閉じかけて。

 見開いた。

 橋の向こうから人影がひとつ。
 傘を差し歩く侍が一人。年の頃三十そこそこ、決して大柄ではないが引き締まった体躯と、足取りの確かさから、ひとかどの剣客の風格が伺える。
 源兵衛は正にその侍を待ち構えていた。二年流浪し、半月待ち構えた。
 仇討ちではない。怨恨でもない。
 ただ、その侍が乞食一人斬り捨てるのを見た。
 理由は分からぬ。遠目の事だった。

 物心ついて四十余年武芸に励み、一度の戦もないまま、最盛期を過ぎ日毎に衰える剣の腕。
 斬られる人を見て、茫漠とした意識が、ふと形となった。
 刀を帯びていた事に、源兵衛は気付いた。

 雨は降り続く。
 侍が橋を渡り来る。
 源兵衛に迷いはない。
 明確な理由はない。ただ、斬る相手に彼を選ぶ事は自然に思えた。
 腰を落とし、刀を音もなく抜き、正眼に構える。
 侍は歩みを弛めず橋を渡り来る。ただ雨音と川の流れる音ばかりが響き渡っている。
 源兵衛の刀の柄元から雨水が流れ落ちていく。
 ついに侍は橋を渡り切った。長雨に弛んだ泥道を、こともなげに歩いていく。歩いて、源兵衛の潜む薄の藪に、近づき。

 源兵衛は一気に踏み込んで突きを繰り出した。
 渾身の切っ先が喉笛に触れる瞬間、侍の姿が消えた。
 否。
 それ自体が、源兵衛の目に映る残像に等しい。
 切っ先とそれを支える腕は、源兵衛の上半身もろとも、道向こうの藪に落ちた。
 切り払われた薄が散らばった上に、源兵衛の下半分は崩れ落ちた。
 血は流れる端から雨に薄まり色を失っていく。
「……前の変装は乞食であったが。道場など、破るものではないな」
 傘を拾い上げた侍は、首に傘を挟んで半分濡れながらぎこちなく刀の血脂を拭い、鞘に戻し歩み去った。

 空は重たい雲に覆われたまま、晴れ間はしばらく見えそうにない。
晴れ間    ごんぱち

オレンジ色
夕都

「本当に好きな人を前にすると話せなくなっちゃうんですよね」
カシスオレンジのプラコップの水滴が、そのままアスファルトに落ちていく。
俺は小規模のライブハウスを経営しつつ、経費削減でドリンクも担当している。20半ばなのに妙に落ち着いて見えるらしく、今日も客の女の子にこう相談されている。

「今日はその、ファン仲間でラブの相手の彼は?」
「開演してからになるって、LINEが。だから今緊張を解こうと思いまして、お話ししてます」
ふん、と両の拳を握って、デニムのショートパンツからすらり伸びる脚も仁王立ちを決めている。あどけないので成人に見えなくもない。
「俺だって暇じゃないんだけどなぁ」
彼女の相手も程ほどにしつつ、チケットと客の注文のビールを並々注いで渡す。
ふと、装飾品として飾った沢山の看板の中に混じる鏡を見やると、茶髪がプリンどころか白髪発見…ショックだな。
「鏡を見ていられる時点で暇じゃないですか」
まだライヴは始まらないので彼女が突っ掛かってくる。
「暇…じゃないけど、老いを感じたかな」
「老い!?」
彼女はまたひと口飲むと、俺の方を見つめてきた。
「確かに、オーナー、もっとちゃんとした髪型にして、服もダルダルよりキッチリしたほうが案外似合いそう…あ、髭もやめて」
「えー、髭は憧れて伸ばしたんだからヤダ」
「ヤダ、って…かわいいですねオーナー」
ぷくく、とこらえて笑う彼女。
「話しやすくて、実は可愛くて、磨けばかっこいいのに彼女なし」「うるさい」
その時、彼女は連れのライヴ友達に呼ばれ、俺は機材確認に呼ばれそのまま別れた。

熱狂的なライヴから半月、また彼女が好きなバンド公演。彼女の好きな彼と耳打ちで話したり、いい感じだった。進展あるんじゃないか?
と、顎を撫で回す…あ、けどもう髭は無いんだった。
彼女のアドバイスの影響もあるが、接客するなら清潔感も必要か、と、他の場で清潔そうなお姉さん達がエプロンつけて提供してるのを見て、自分改革した。
シャツにベスト、髪のカラーは明るくなって、バンドの人よりも若く…なった?と鏡と相談する。
そうだ、彼女はもういるのにドリンクを引き換えに来ていない。珍しい。と、思ったら仲間の子が「彼女の分も一緒に」と、カシスオレンジふたつ頼んで持っていく。
彼女はちら、こちらを向いて目を逸らす。仲間の子が渡したカシスオレンジをちびちび飲みながら、また此方を見たので手を振った。ら、視線は逃げた。何かした?
オレンジ色    夕都

狂女の独白
今月のゲスト:日向きむ

 あなた偽という事本当に知っていますか。
 真実という事本当に知っていますか。
 真実の中に偽の忍び込む姿を見た事がありますか。
 偽の中に交っている真実を追いかけて捕えてよく見た事がありますか……私と一緒にもぐらもちの御殿へおいで!

 唐突ぼうとなくふくろうは、昔きのこが化けたものだって野寺の和尚さんがいいました。恋が化けると何になるでしょう?

 私は昨夜いいものを見た、面白いものの出来る処を見た。一つの型から出たものを二つにわけて、一つを動物の組に入れたらばはねて行った、人間はそれを蛙と呼んだ、他の一つを植物として畑に生らしたら長細くなって下った、人間はそれをきゅうりと呼んだ。もひとつの型から出たものを又二つにわけてひとつを海の生物とした、人間はこれに章魚たこという名をつけた、残った半分を山に置いたら人間はこれにまつたけという名をつけた。

 泣くもんじゃないわお梅さん、泣くんじゃありませんよ、泣いた後でワハハと笑ったら本当に悲しいじゃありませんか。

 赤坊は怖いものですよ、私たちの心の表面にまだ浮いて来ない思想まであの眼の力でひき出して来る、永劫のお爺さんお婆さんなのですよ、真夜中に、誰も知らない時に、私たちの寝がおを覗いて声を出さないで笑っているのでしょう、赤坊は怖いものですよ。

 この室の灯を消して、隣の室のを明くして、私の寝つくのなど少しも気にかけないで、乳母や、お仕事をいつまでもしていて頂戴。

 そよ風に吹かれるとこんな小さい心では考えきれない程の事を思い始める。
 未だ見ない山の事だの、海の事だの、大河の事だの、野の事だの、運河の事だの、森や林の事だの、小川の事だの、牧場の長い囲の事だの、緑の草の事だの、羊や、馬や、牛や、または水禽の群の事だの、青い空の事だの、白い雲の事だの、船の事、旗の事、大きい都会の事、水車面白い田舎の事、人の事、神の事、はてもなく思がうつる。

 是は風が行きちがいながら人に話す不思議な一言ばなしなのだろう、自分の過ぎて来た長い旅程をしらせようと思って。

 思った事の出来ないという筈がない、もしも出来ないとすれば、それはまだ本当に思わないからだ、本当という字を公案にして一寸三年ばかり、さあ一緒に考えて見ましょう。
 私が馳ければお月様もかける、原の千本松いそぎ足。

 風が吹く、風が吹く、雑木林の高い梢を薙ぎ倒す様にして、白い裏葉に海の歌うたわせて、風が吹く、風が吹く、大浪が起って来て海底のぬるぬる草に黒髪の舞をまわせる様に、林の梢たわませて、軒の葛の絲なびかせて、風が吹く、大風が吹く、もっと吹け吹け青嵐! 木も折れよ、棚も飛ばせよ、私の袖ははたはたと音がして白い焔のようだ、私は今破壊の女神! 風にいいつける、心のままに憤れ! 汝の疲れきってしまうまで、今敵の城のとりでが炎に包まれているのを私は無言に微笑して高楼にたたずんでながめている、もっと吹け、もっと吹け、もっと吹け!

 自覚なんて野暮な言葉ね、水へ一度もいれない紺ガスリのきものの様な言葉ね、それでも着なけりゃなりますまいか、着てきない顔が出来るなら、誰か教えて下さいな、浅黄すきやに肌の透くあづま女の洗い髪、それと妥協は出来ますまいか、ヘマムショ入道殿に問申す。