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第18回3000字小説バトル Entry7

ポッチ

ポッチ
ポッチ 2002.2.10

私は昨日PC学校に行って、自分のHPに日記を作った。
結構らくちんに出来た。

じゃあ、記念すべき日記の1ページ目を書くとしようか。
「今日は日だまりの中、デザイン工房に出かけました。先生のご指導よろしく、日記の書き込むところができました。ちょううれしい!るんるん!」
軽めにこんな感じで良いかな。

えええーと保存をして、転送して、これでバッチシ!
画面を見ていると、おかしい。

アレー、こんな簡単な操作間違えるはずないのにな。
マウスを動かしてみる。
カチカチしてみる。ぶんぶんしてみる。
半角押してみる、シフト押してみる。
えええーーい、電源落としてみようかな。

とそのとき、モニターの端からヒヨコヒヨコ出てきた。
なんか貧相なアヒルみたいなやつが。
画面の真ん中でとまり、正面を向く。
そいつのくちばしの先から、吹き出しが出て、そこに文字が出てきた。
「くーだらない日記を書くな。もっとエッジの利いたまっとうな日記をかけ!」

画面にクギ付けになった。
ピーチクラブサイトよりクギ付けになった。
それを見越したのごとく、モニターは突然真っ黒になった。
「わーーなんだこりゃ」

私はバオイカスタマサービスセンターに電話をした。
「はい、こちら24時間営業のバオイカスタマサービスセンターです。」

「すいません。私ね、最近バオイを買って、HPを作ったものなんですが、」
「ハイハイ、それがどうしました?」

「今日、日記を書こうとしたら、あーぜんぜん私はおかしなことしてないんです。
今日、PCの学校、デザイン工房で教えてもらったとうりに、やったのに・・・もー」
「アーはいはい、それでどうしました。」

「日記を書いてHPに乗っけようと、先生が言った指図道理にやったら、画面に」
「画面に?」
「変な鳥が出てきて、変なことをいうんです」

「はいはい、鳥がでてきて・・・ええええーーーー!!!鳥がでました??」

「やせた貧相なアヒルみたいなのが、もっとちゃんとした日記を書けとか、何とか言って、その後、バアーーンとモニターが真っ暗になってしまたんです。こわれたんでしょうか」

「電話を担当にお回ししますので、しばらくお待ちください。」

「もしもし!!鳥が出たって本当ですか!そうですかぁ〜鳥ね〜うう〜ん。あっ!はい、私はバオイカスタマサービス主任大森です。」

「こわれちゃたんでしょうか?」
「いや、そうじゃないんです。なんて説明したらいいカー」

「鳥が出たら、右クリックして削除したらいいんでしょうか?」

「あああ・・だめだめ!なんて恐ろしいことを言うんです。だから素人はおそろしい。絶対削除なんかしちゃいけません。セキュリーはあるんですが、万が一って事があるからね。絶対、削除はだめですよ。あんたら素人は、気軽に削除したがるけれど、ゴミ箱に入れるのが、楽しいからでしょ。まったく、ああ・・。
とにかく鳥は、そうあの鳥はですね、PCのご本尊さまなんです。」

「でえええええーーー!!!」ご本尊!!!」

「そう言うだろうと思った。だから言いたくなかった。」

「デジタルでっせ!パソコンでがす。あんな鳥が私の最新PCの・・・・ご本尊!!!アハハハハハ!!」

「アーそうゆう態度をとるんですね。分かりましたあの鳥の扱いしだいでは、あなたのキー操作一つで、世界恐慌が起きたり、同時多発テロが起きたり、長野県がまたダムを作り出したりするようになってしまうかもしれないんです。」

「まさか〜アハハハ」

「そうですよね。私だってこの話を聞いたときは、あなたと同じ反応をしましたよ。笑い倒しましたよ。
おかげで役員になりそびれて、こんな閑職に甘んじてるんです。」

「だって、信じろて言う方がむりでしょ。アアアーーおかしい!」

「良いですよ。どうせ、人間の世の中なんか邪悪の極みにきてるんです。いっそあなたみたいななーんにも考えていない人が、ボタンを押して、こんな世の中消してしまえばいいんです。削除あるのみです。」

「ちょっと待ってください。いやですよ、結構まじ?」

「このただれきった地球、我先にエゴむき出しの人間、破壊し尽くされた自然。全部一瞬のうちに消えるんです。
私の家のローンも消え、頭ごなしに怒つくかみさんも消え、男に逃げられて妊娠三ヶ月が分かった娘、髪の毛赤く染めた息子、全部削除出来るんです。良いじゃないですか、あの***を削除してみなさいよ。
案外素人が何かのきっかけでセキュリテーを突破できたりしてね。」

「***ってなに?」

「ご本尊様のお名前みたいなものです」

「何で*でかくすの?」

「あんたら下々も者に、呼び捨てされないセクリテーがかかっています。
もっとも私どもは、ポッチとこっそり呼ばせていただいています。」

「ポッチ!アハハハハハ!!」

「あああ!!もう十二時になってしまう、ポッチの指示を守らなかったら、大変なことになる〜〜あなたみたいなど素人が、なまじ日記なんかつけようとするから!!」

「どうすればいいんですか?私まだ削除されたくないです!」

「私もです。とにかくエッジの利いた嘘の無い日記を書けばいいんです。良いですかあなたの冷蔵庫の中に卵がありますか?
それを今すぐ流しに力一杯投げつけてください。
出来れば近所迷惑になるくらいの大声でバカヤローとか、くそったれ!ケツ軽女!とか色ぼけ男!とか言いながらです。

良いですね。電話越しに聞こえました。そしてパンでもご飯でもうどんでも炭水化物ありますか?

ご飯はありったけ床に蒔いて、その上で狂ったように足踏みしてください。
ああ、良いですね。受話器を通して、奮闘ぶりが聞こえてきます。

そしてそれを日記に書いてアップロードしてください。
地球の存続が、あなたの腕にかかっているんです。
がんば!

つまり、かっかしたり、興奮したり、極限状態になったり、アドレナリンを噴射しないと、ポッチが満足する日記が書けないんです。

サー早く出来るだけ、テンションをあげまくって日記を書いてください。十二時まであと十五分しかありません。早く、早く!」

私は罵詈雑言の日記を書いた。
キーを打つ手がふるえた。
送信した。

素足に張り付いたよくこねられたご飯が、乾いてはがれ落ちた。
ステンレスに投げつけられた卵が、黄色くストライプ柄を作っている。

手と手を合わせて、思わずポッチの顔を浮かべて、「五本尊様」とつぶやいていた。

完了した。

あれ以来私はポッチを見ていない。

どなたかポッチに関する情報をお持ちでしたら、どんな小さな事でも良いですので、おしえてください。

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