第3回3000字小説バトル結果
作品受け付け/12月15日〜1月28日(終了)
作品発表/2月1日〜
人気投票受け付け/2月1日〜2月20日(終了)
結果発表/2月28日
第3回3000字バトルチャンピオンは
鮭二さん作『乳の罠』に決定です。鮭二さん、おめでとうございます!!
晴れて、グランドチャンピオンの誕生です!!
●乳の罠(鮭二)
- 『棒」/文章が見事に映像化されていて、読むものを飽きさせない。『グミのペンギン』/人物描写の的確さもさる事ながら、結論を畳み掛けるような、終わりへのもっていきかたはすばらしい。
『Wanna be free AS A BIRD?』/強引になりがちな設定もしっかりしているため、話が壊れない。また人物も魅力的なため、読んだ後応援したくなるほど感情移入できる。しかし今回私が選ぶのはこれ。
『乳の罠』/発想の突飛さ、人物の可笑しさ、しかし作者も含めて誰もその状況を笑わない。真面目であるが故の可笑しさというのが、たまらなく良い。
- 常に読者の先手を行く小説世界の力強さに惹かれました。わけのわからなさが、それを充分楽しめるように工夫されていると思います。表面的なストーリーそのものも奇妙で面白いものですが、様々な読み方を楽しめる層の厚さを感じました。個人的には「父の罠」としても楽しませて頂きました。「乳」が「父」を呼び、「父親」と格闘しながらもあっさりと負けて自ら「父親」(としての自覚が芽生えるという話)にもなってしまう話としてもきちんと世界が構築されていると思います。不思議な余韻を伝えるラストの一文も秀逸だと思います。
- とても面白く最後まで読めた。だた、途中まではエロティックな場面がさらりと描かれていたのが、乳房を切り取る場面でエログロな感じになって、そこが残念でした。
●棒(akoh)
- 目を惹かれたのは、『近年、地獄事情』『現実が紙屑になる瞬間』『棒』『乳の罠』。甲乙付け難かったですが、バカな設定と丁寧な心理描写の対比が可笑しい『棒』が僅差で一等賞です。私見ですが、無理に奇をてらった文章も、優れたアイデアの前には無力です。テーマを正確に伝えるためには、簡潔で読みやすい文章を心がけた方がいいと思います。
- 「鳥から棒を取ったら烏」という平凡な発想からとてもユニークな物語がユニークな世界で展開していき、充分楽しませて頂きました。こういう類の話は、変に寓話のようになってしまい勝ちですが、この物語はスッキリとしていて、好感が持てると思いました。
●グミのペンギン(越冬こあら)
- 夢はいいけど、現実をちゃんと見つめなさいという事をいうのに、小道具として出てきただけだと思った「肉じゃが」さえも使うという無駄の無さ。ひょっとしたら、小説に出てくる物にはそれぞれ色んな意味があるけど、貴方は気づいてないんじゃないの? とさえ思わせてくれる。『現実が紙屑になる瞬間』と『幼児回収業者』『乳の罠』『甘い生活』も良かったけど、やっぱり、こあらさんのこの作品が楽しくて良かったです。
- この作品以外にありえないでしょう。楽しく、かわいく、そして不思議な夢の世界を見事に書いていると思います。いいね。ペンギン。次点は『棒』です。粗い部分もありますが、アイデアと料理の仕方が秀逸だと思いました。
●幼児回収業者(紅緋蒼紫)
- 今回の作品群の中でダントツに個性的、悪く言えば偏屈な作品でしょう。ともすれば遺伝子を勝手に操作しようとする、今の日本の学者達を見ていると、近い将来こんなことがあってもおかしくないかも……という、妙なリアルさに負けました。難解でグロテスク。多くの人に理解されるかどうかは別として、個人的に強く印象に残ったので、1票入れます。
●二度目の初恋(カミュ)
- 少し文に無駄な場所があったような気もしますが、ひかれる物がありました。もう少し現在と過去の変化をはっきりさせれば、なお良かったと思います。
●寒い冬にコートを脱いだら風邪ひいた(ニコ)
- 『地下道をぬけて』が良いなと思い『寒い冬に・・・』が好みだなと思った。良いと思った物と、好みの物。どっちを推そうか悩んだあげく、好みの物を選びました。
●トリックスター(うめぼし)
- 全体的にどれもそれなりに楽しめました。その中で一番好みにあった作品『トリックスター』に一票入れます。細かい所不満もありますが、ラストのシーンが気にいりました。哀しくていいです。もっとも惜しいと思ったのは『乳の罠』。前半すごく面白かったけど、後半どんどん冷めていってしまいました。広げっ放しで、閉じなくてもよかったんじゃないかなあと思います。
●甘い生活(一之江)
- ストーリーの起伏はありませんがきちんと物語が伝わってきます。現在時点の「わたし」と19歳の「あたし」が、同じ物語世界の中でつながっています。そんなの同じ人物を描いているのだから当たり前じゃないかと思われる方もいるかもしれませんが、そうではありません。物語はさまざまな存在と時空の間を漂っています。どこかの場所と時間に定住しているわけではないのです。この作品は、そういった厄介な物語というものをひょいっとカジュアルに掬い上げてひとつの物語世界に仕立て上げています。19歳の「甘い生活」をただ単に「そういうものだった」と振り返ってみせるところにこの作品の真骨頂があります。肯定も否定もしないのです。そこに私は引き込まれます。越冬こあらさんの『グミのペンギン』も面白いお話ですが、「肉じゃが」の件がどうも気になります。「本当の幸福」というものを断定し過ぎているのです。「本当の幸福」という言葉自体も野暮に響きます。そこが『甘い生活』との差だと思います。何よりも「乳毛」でしょう。「本当の幸福」とは「乳毛」のことではないか、と想像させるところに小説の醍醐味があるように思えるのです。
●追憶(岡嶋一人)
- 私が一通り読んでみて強く感じたのは、1000文字バトルと比べて遥かに質が高かったということだ。今回出品された18作品の作者に拍手を送りたいと思う。それでも、やはり小説というのは仕掛けばかりに凝るのではなく(やはりグロテスクなのは後味が悪いと思う)、単純に人を感動させるものこそが名作となりうるわけだと思うので、そういう意味で私の目にかなった作品をあげてみようと思う。
『地下道を抜けて』は実に素直な作品で、馬に対する愛着を気持ち良く表現できていたと思う。『追憶』も良かった。この作者は私の作品を激しく批判していたのでコノヤロウと思っていたが、まあそれなりの実力に基づいてそうした批判を行なっていたということで、私自身反省しなければならないだろう。そういえば、この作品はどこか三浦哲郎の手法に通ずるところがあると思った。あと、『Wanna be free AS A BIRD?』(あれっ題名の意味がよくわからないぞ)もいいと思う。これら3点から選ぶのは非常に難しいのだが、ここは『追憶』を推してみたいと思う。
感想票をお寄せくださった皆さんご苦労様でした。感謝。