鏑木洋介は不思議な男だった。新しい研究室に配属になって数ヶ月になるが、誰とも打ち解けようとはしないのである。意識的に人と距離を保ち、会話にも最小限の言葉を選んでいるのがわかる。もちろんそこは周りも敏感に感じているから、なおさら彼には近づき憎くなっているのだろう。そのうち研究室の中で仲間はずれのようになってしまったのは仕方のないことだ。が、鏑木はそういう職場を苦痛にも思っていないようだった。 もちろんチームとしての研究活動に支障がない以上、他のスタッフも他人の事情にことさら突っ込んでかかわりあうことはない。ところが、スタッフのひとりが突然他部門に異動することになり、研究室でちょっとした慰労会を行うことになった夜、会の幹事が嫌がる鏑木を、ほとんど強引に酒の席に誘い出したのである。 もっとも、そんな場でも鏑木は相変わらずだった。 すると、それを日ごろから快く思っていない同期の芝浦が、鏑木の横に座って執拗に絡み始めた。彼の言い分は単純明快である。もっとみんなと腹を割って話をしたらどうか、ということだ。お前は無口すぎる、と芝浦は恨み言のように言った。 「君には関係ないことだよ」 たまらずに、ぼそりと呟いた鏑木の言い訳が、酒の回った芝浦の理性を粉々にした。熱血漢のあまり、気分の激昂を抑えることができなくなった。 芝浦は鏑木に飛びつくと、胸倉を掴んで締め上げるようにした。周りはただあたふたとするばかりで、二人の諍いを止めに入ろうとする者もいない。 「お前のそのすました顔が気に入らん」 「何度も言うが、君には関係ない」 言いながら鏑木は芝浦の手を鬱陶しそうに払った。それが酒で熱を帯びた芝浦の感情をさらに熱くした。 「とにかく俺の話を聞け」と、芝浦はしつこい。 我慢できずに、この場を離れようと鏑木は立ち上がった。そこに芝浦が取りすがり、二人は絡まるようにしながら部屋を出た。周りのスタッフは彼らの勢いに圧倒されてしまい、ただ青ざめた顔で見送るほかはなかった。 が、夜風の冷たい感触が、鏑木と芝浦の興奮を醒ますのに少しだけ役立ったようだ。宴会場の入り口を後ろに振り返りながら、鏑木がすでに落ち着きを取り戻した声で言った。 「それほどまでに言うのなら僕の体験を聞け。歩きながらでいいか?」 「ああ、それはかまわんが……。そのことが何か?」 芝浦のほうも先ほどの勢いはなくなっている。 ―と、鏑木が驚くべきことを口にした。 「僕は人殺しだ。何年か前に人を殺したことがある」 芝浦はたちまちのうちに自分の体から酔いが抜けていくのを感じた。触れてはならないものに触れてしまったのか。言い知れぬ不安感が芝浦を締め付けた。 だが、鏑木の口調は平坦で感情の起伏の乏しいものである。 「どういうことだ」 「昔、海の上で溺れている男を見捨てた。僕はそのトラウマをずっと背負って生きている。だが、信じてほしい、それは恐らく誰にも責められない判断だったと」 そうして鏑木は想像を超える話を、淡々と語り始めたのである。 「それは、ある夏の海水浴場での出来事だった。僕は泳ぎが得意だったせいもあって、その時も連れと離れて、海岸が見えなくなるほど沖のほうまで泳ぎ出ていたたんだ。夏の日の激しい光線に照らされて、海面はどこまでもきらきらと輝いていた。海と太陽と一体になる気持ち。僕は海面に身を任せていつまでも泳いでいたような気がする。すると、目の前にひとりの男が泳いでいるのが見えてきた。僕はふらふらと、そっちへ近づいていったんだ」 言いながら、鏑木の顔がみるみる青ざめた。その時の恐怖を思い出して、懸命に絶えているように見えた。 「声を掛けようとその男の顔を見て僕は仰天した。男の顔が見るも恐ろしい骸骨、何と言うか、骨だけの顔みたいに見えたんだ…」 芝浦は暗闇で突然背中を押されたような気分になった。こんなところで怪談を聞くなんて思いもしなかったからである。 「骸骨だって」 「…いや、今となっては本当にそうだったのかどうか。ただそのときは、その骸骨が気配に気づいて、どこまでも暗い穴にしか見えない両目で僕をじっと見たように思った。僕は悲鳴を上げたと思う。それから一目散にその場を逃げた。死に物狂いに泳いだ」 鏑木は息もつかない。 「かなり離れたと思って立ち泳ぎになり、恐る恐る今来た方角を振り返ると、あの骸骨男は已然その場所に浮かんでいた。と突然、水しぶきが上がったんだ。助けてくれ、という声が遠くで聞こえる。どう見ても、骸骨男が溺れているとしか思えなかった」 しばらく二人を重い沈黙が包んだ。 「そのとき見捨てたんだな。男が溺れているのを……」 「わからないんだ」 鏑木は喚くように声を荒げた。 「あれが本当に化け物だったのかどうか…考えれば考えるほど。骸骨に見えたあの一瞬はただの見間違いだったのかも知れないと言う不安が、常に僕の心を揺さぶる。いつまでも、いつまでもね…」 ……突然鏑木が神妙な顔つきになり、声をひそめるようして芝浦に尋ねた。 「君ならどうする、すぐに助けに行くかい?」 もちろん、芝浦にも即答はできない。 化け物の罠かも知れないという恐怖。人が死ぬのを見殺しにしてしまうかも知れないと言う恐怖。 鏑木がトラウマに取り付かれ、自己の罪悪感から人を避けるようになった理由は、かつてそういう究極の選択を迫られたせいだったのだ。彼は自分の良心と常に戦っていた。あるいは自分が実は人殺しではないかという不安と戦っていたのである。 「俺なら助けに行くだろう」 芝浦はそう思った。海上にそんな異形がいること自体が信じられないからだ。だが、それを口にすれば、この哀れな鏑木をさらにひどい地獄に落としてしまうに違いない。 と、そのとき二人の目の前に数人の男たちの集団が飛び込んできた。 柄の悪い少年たちのグループが、一人のうらぶれた中年男性を取り囲んでいたのだ。芝浦には彼らが何をしているのか、すぐに理解できた。中年男が二人に気づき、助けてくださいと哀願するように叫んだからである。 と同時に、少年たちの凶暴そうな顔がいっせいにこちらを振り向いた。 「助けよう」 と、芝浦は隣の鏑木を見た。「彼を助けて君のトラウマを打ち破るんだ」 「…しかし」 「いつまでも悩んでいても仕方ないだろう。運命と戦って未来を見るんだ」 鏑木は青ざめた顔で頷いた。 今度こそは助けるんだ。そうじゃないと、悔いが残るだけだ。 「やめろ!」 次の瞬間、鏑木は弾けるように集団の中に飛び込んでいった。 少年たちがわっと散らばった。彼らは異様な悲鳴をあげたが、それは歯の根も震わす恐怖からだ。 芝浦は腕を掴まれている鏑木の姿を見た。 そこにいるのは、さきほどの可哀相な中年男ではなかった。とてつもない異形だ。 男は骸骨の顔をしていた。 「今度は見捨てないのか?」 その声は闇の中から頭蓋の中に直接響いてくるような不気味なうめきだった。 すでに少年たちは四散している。異形に捕まえられた鏑木と、ただ立ち尽くす芝浦だけが残った。 「助けて!」 鏑木の叫びがくぐもった。骸骨の唇のない剥き出しの口が彼の顔面に齧り付いた。 ―その肉隗を喰らっているのだ。 鏑木の悲鳴はすでに声ではない。鮮血に染まった彼の肉体はあっという間に動かなくなった。 芝浦はどうしたか。 彼はただ鏑木を見捨てて一目散に逃げた。
あやの弁護士事務所のドアを蹴られたけれど、その日の塩野文乃さんは怒らなかった。 驚いて水皿代わりの湯呑みをひっくり返し、後ろ足を濡らした村山エルザは怒っているが。 「ええと……」 文乃さんはドアを蹴った主を見つめる。 黒の革靴に濃紺のスラックスを穿いた男。 の、下半身だった。 「ノックをしたかったんだが、蹴るしか手がなくてね。すみません」 『ゴメンで済むなら民事訴訟はいらないわ』 「まあまあ、エルザさん」 文乃さんはエルザの頭をぽんと叩く。 「寛容が大事ですよ」 『文乃、そうは言うけど、過失であるからといって許される訳じゃないでしょう。ましてノックの代わりにキックをしたら相手が驚くなんて、簡単に想像出来るわ。未必の故意よ』 「まあまあ、今度マタタビ酒を奢りますから」 『……あんまりごねるのも、大人げないわね』 エルザは表情を弛めて香箱を組んだ。 「まあ、どうぞ」 文乃さんは椅子を差し出す。 「相談料は、先払いになりますけど……」 「あ、はい」 椅子に座った下半身はまた立ち上がり、尻を向ける。 「すみませんが、取って頂けますか」 「はあ、それじゃあ」 文乃さんは下半身の尻ポケットからサイフを取り、中から、千円札を二枚を取った。 「一体、どんなご相談ですか?」 「はい」 下半身は両足を揃えて座り、少し身を乗り出した。 「上半身と、別れたいんです」 メガネをかけた文乃さんのデスクの上には、法律書が山積みになっていた。 「下半身に人格はない、なんて言いますけど、あるんですねぇ」 文乃さんは、最後の一冊を閉じる。 「やっぱり、人間の法律には、そんなのないですね。そもそも、私の下半身が権利を認めろって言って来られても困りますから」 エルザは後ろ足でアゴを掻いている。 「そうだ、エルザさん」 『なに?』 「山猫法廷に頼んでみてくれませんか?」 『お勧めしないわね。山猫法廷の判事は無能よ。第一あの有名などんぐり裁判だって、無資格の客員判事が裁いたっていうじゃない』 「エース法廷は?」 『あそこは犬と、ジョン・ドー&リチャード・ロー訴訟で手いっぱいよ』 「そっか、困りましたね」 『まあ、家猫法廷なら、知ってるけど』 「ありゃ、そんなのもあるんですか」 『この前のブラック・ジャックの負けをチャラにしてくれれば、案内してあげるわよ』 土管の空き地に原告の下半身、被告の上半身、それに文乃さんと裁判官のニャニャンガ、傍聴席にはエルザが集まる。 『これより家猫法廷を開廷する』 ニャニャンガは高らかに宣言した。 『答弁をしたまえ。和解しなければ判決を出す。尚、判決は猫法に従った公正絶対なものであるから、判決内容に逆らったりすると猫法廷法第四条に従い、人間には毎日家の前にネズミを、猫には毎日家の前にミカンを、規定年数届ける事になるので、注意する事』 後はあくびを一つして、猫八法全書を枕に目を閉じてしまった。 「一体、何だってこんな所に呼び出されているか分からないんですがね?」 車椅子に乗った上半身は、不機嫌そうに煙草に火をつける。 「下半身は、黙って上半身に従う。それが当たり前の伝統ってもんだろう? それがあって初めて、人間は成り立つものじゃないのか?」 上半身は下半身を睨む。 「毎日毎日歩かされて、気に入らない時には蹴りたくもない物を蹴らされて、靴だって四年も同じ物を履かせる。これが当たり前と思うなら、私はもうあなたと暮らせないです」 「脳味噌もない下半身風情が、上半身に口答えとは!」 「キックはパンチの三倍の威力があるんですよ、やりますか!」 「武器を使えるのは手の特権なんだぜ!」 「はい、ストップ」 文乃さんが割って入る。 「上半身さんが、突然に下半身さんに権利を主張されて戸惑うお気持ちも分かります。でも、私が集めた証拠によると、上半身さんの下半身さんに対する扱いは、あまりに不当と言えます」 資料のファイルを開く。 「まず、顔と髪を毎日洗っているにも関わらず、足は二日に一度しか洗いません」 「それがどうした、下半身なんてそんなに頻繁に洗ってやるもんじゃないだろう」 「それから、髪の毛一本抜かれるのも嫌がる割には、暇つぶしに臑毛を引き抜く事があります」 証拠映像には、確かにぶちぶちと下半身の臑毛を引き抜く上半身の姿があった。 「さらに、お仕事は営業マンですが『営業は足で稼ぐ』の例え通り、下半身のみが動いている場面は業務時間中の実に七割に達します。更に、業務時間外でも、接待のための宴会芸として、下半身露出の『出しモノ』や、陰毛燃やし等の下半身労働が行われています」 「それは……その」 「更に、先ほどの発言から、上半身さんが下半身さんの人格や意思を認めていない事は明かです」 文乃さんは、資料をまとめる。 「私見ながら、関係修復は困難であり、即刻、お二方は別れるべきであると言えます。慰謝料の額については――」 「待て、待て、待ってくれ! そんなに一方的に進めるんじゃない! 下半身がいなくなったら!」 上半身は慌てて文乃さんをさえぎろうとする。 「そ、そうです、そんなに急がなくても」 下半身も、遠慮がちに口を挟む。 「不服ですか?」 「当たり前だ! この先車椅子で暮らすかどうかの瀬戸際なんだぞ」 「そうです、もう少し、ゆっくり話し合いをすれば分かってくれるかも知れませんし……」 「――では、私見を離れましょうか」 文乃さんは表情を弛める。 「現在の扱いは明らかに不公平ではありますが、下半身さんも、全く利益を得ていない、という訳ではありません」 「そう、そうなんです」 下半身はホッとした声を出す。 「業務による利益云々については、個々の判断基準があるでしょうから、根元的なもので判断するのが公正と言えます。論点は三つ」 三本の指を、文乃さんは立てた。 「動物の三大欲求、すなわち食欲、性欲、睡眠欲です」 上半身と下半身は、顔を見合わせる。 「食欲は上半身さんが一方的に享受しています。でも性欲は、特に珍しい趣味でないようですし、下半身さん独占的に得ています」 「それは……」 「確かに」 「そして、睡眠欲。眠っている時、上半身さん、下半身さん、リラックスしますね?」 上半身と下半身は無言で頷く。 「となれば、生物としての利益は同様に得ているのです。従って、互いの人権をどれだけ認め、尊重するかというお二方の考え方一つで、関係回復は可能かも知れません」 ニャニャンガは、裁判長席でいびきをかいている。 エルザもいつの間にか丸くなっていた。 「考え方」 「ですか」 上半身と、下半身は、向かい合った。 「かんぱーい」 『乾杯っ』 事務所で、文乃さんはビールを、エルザさんはマタタビ酒を差し上げる。 「家猫法廷のお陰で助かりましたよ、エルザさん」 『良い裁判所でしょ』 「ええ、邪魔にはなりませんね。ああいう社会に暮らすのも悪くないかも知れませんねー」 『無理無理、猫生を目指すには、猫にならなきゃいけないし』 「うーむ、確かに午前五時に裏通りで冷めたネズミなんか食べたくないですねぇ」 『そんなの食べないわよ、きちんと息のある温かいのを』 「はいはい」 トントン。 「すみません、ちょっとややこしい問題をお願いしたいのですが」 ドアが開き、ややこしい顔をした依頼者ぽい人が入って来る。 「はいはいはーい」 『ようこそ』 文乃さんとエルザは、とびきりの営業スマイルを浮かべ、後ろに酒のコップを隠した。
「さおだけ〜、さおだけは、いりませんかぁ」 大音量が朝6時前の町にこれでもかと響きわたる。原田が飛び起きてガタガタ音を立てて窓を開くと、竿竹を1本も積んでいない軽トラがスピーカーをこちらに向けて停車していた。 まただ。 しばらくすると自転車に乗ったおまわりさんが現れ、軽トラに何か注意をしていた。先週はカラスやらハトが餌付けされたのかアパートの玄関先に多数誘導されていたし、先々週は呼んでもいない消防車と救急車が1時間の間に6回も到着する騒ぎがあった。 部屋の扉が乱暴にドンドン叩かれた。開ける前からブルさんの声が響いていた。 「おまわり呼んでやったからなぁ!大丈夫だ!!」 コーポ山岡はこのところ激しい攻撃を受けている。大規模マンションを建設したい悪徳不動産業者が、土地の買い占めを巡って嫌がらせをしているらしいのだ。家賃の安さが唯一の価値であるこの廃屋アパートの住人は、度重なる嫌がらせに屈して結局のところブルさんと原田の2人だけになってしまった。 最大の攻撃は近所に1軒だけだった銭湯が店を畳んだことだった。不動産屋の差し金以外にも少し離れたところにスーパー銭湯ができていたのでその影響も大きいのだろうが、とにかく「さつきの湯」はレンタルビデオ店に衣替えして、風呂のないコーポ山岡の住人は転居してしまったのだった。 「彼らも頑張りますねぇ。こんな崩壊寸前のアパート、放っておけばあと10年くらいで自然に潰れるでしょうに、たったそれだけが待てないんでしょうかねぇ。」 原田は嘆息しながら言う。限りなくジジ臭いが、彼はまだ28歳の若者だった。 「お前、昨日も何も食ってないんだろう? ミイラになっちまうぞ!」 ブルさんが野太い腕を突きつける。その先には、揚げ油が完全に酸化した状態のコロッケが7個も入ったスーパーのパックがあった。 「全部、食えよ。最後までここで戦う同志なんだ。今倒れられちゃあ、たまんないからな。」 金歯をきらめかせながらブルさんはイヒヒと笑う。コロッケの差し入れに対する照れ隠しである。 「昨日も、コロッケでしたよね……」 原田はいくぶん青ざめながら気弱に笑った。昨日もひどく腹をこわした。元来胃腸が弱いからこそ、こんなに細いのだ。傷んだ揚げ物は高い確率でヒットするが、原田の細さを気に病むブルさんは完食するまで張り付いて離れない。ブルさんは近所のスーパーの総菜部門のチーフリーダーなので、ほぼ毎日、原田に差し入れをしているのだった。小錦にそっくりなオバチャンは、母性本能をくすぐる原田のことが可愛くて仕方ないのだ。 「原田君さぁ、私と一緒に住まない?」 大学の学食でたまたま隣に座っていた事務の葛木さんが、突如話しかけてきた。 「?!」 驚きの余り親子丼を咀嚼せずに丸飲みして、原田は窒息しそうになる。 「大丈夫? だからこういう時でも私と一緒にいたら助けてあげられるじゃない?」 「そっ、そっ、それって、けっ、けっ……」 「バカねぇ。結婚なんてしなくていいわよぉ。ただ一緒に住んでみたいだけ。どうかな?」 「どうもこうも……」 女難の相でも出てるのだろうか、原田は呆然と考える。28年間、一度たりとも女性にモテたことはなく、付き合ったことすらない。葛木さんは奨学金の係なので学部生の頃から顔見知りだったが、きちんと話をした記憶もないのでどんな人だか分からない。割とキレイな人だが化粧が厚いので素顔だって分からない。原田は単純に恐怖を感じた。 「住むところは満足してるので、せっかくのお誘いですが結構です……」 ブルさんとコロッケの山が脳裏をよぎった。腹が痛い。 「食事中にすみません、隣人に頂いたコロッケで当たってるみたいなので、失礼します。」 「だから、そんな隣人いないところで、一緒に住むこと、考えておいてねー!」 背を丸めて足早に退散する原田の背中に、葛木さんの明るい声が降ってきた。 原田は4月に大学院生から助手になっていた。学生からサラリーマンに変わった訳だが、研究室内での立場は何も変わっていないのと同様に、暮らしぶりも赤貧の学生そのままだった。そのままで成り立っているものを敢えて変えるのは面倒くさい。 他の住民が音を上げた銭湯の廃業も、原田には実験室の洗い場という心強い味方があったので、特に気にならなかった。むしろ銭湯の営業時間ために一旦実験をうち切って帰宅する必要がなくなり、ある意味有り難かった。 研究室での徹夜明けに原田が帰宅すると、ブルさんはアパートの前でスコップを使って何かを埋めていた。 「おはようございます」 「ちっ、朝帰りか」 ブルさんは明らかに不機嫌だった。 「人がせっかく天ぷらを持って帰ってやったってのに……お前、下らないオンナにひっかかってないか? あいつは連中とグルだぞ。金をもらってお前をここから引っ越しさせようとしてるんだ。」 朝日と呼ぶには少し遅い陽光に浸った頭を軽く振って、原田はようやくそれが葛木さんのことだと気付く。 「本当ですか?」 「恐竜並の反射の遅さだな。」 「恐縮です……何、埋めてるんですか?」 「金魚の金ちゃんが死んじゃったんだよ」 「それはご愁傷様でしたね。でもそんなに深く埋めたら、あと1億年くらいしたら立派な化石になるかもしれませんね」 ブルさんはうるさそうに顔を上げた。 「お前、ときどき訳の分からないことを言うな」 「僕は地質学の研究室の助手ですから」 原田は貧弱な胸を張った。ブルさんは興味なさそうに首を振る。 「地上げ屋の若い兄ちゃん達が大挙してやってきやがって、あんまりしつこいから金魚鉢投げつけちまってさ、それで金ちゃんが死んじゃったんだよ。なに、大家のバアさんは私の叔母でね、ボケてんだよ。他に身寄りがないから私が保証人なんだけどさ、金ちゃんが死んじゃったから私だってひとりぼっちさ。 バアさんはボケてるけど絶対にここを売りゃしない。私だって絶対に売るもんかい。バアさんは昔、私ら親子と一緒にこのアパートに暮らしていたんだよ。ここにはさ、私らの大切なものがいっぱい埋まってる。それを掘り返されたりコンクリート流されたりって、我慢できると思うかい? ええ?」 夕方、徹夜の疲れから回復した原田が、ブルさんが強引に置いていった天ぷらを食べていると、葛木さんがやって来た。 「原田君、この前お腹こわしてたのに、また揚げ物食べてるの?」 「しかもきわどい味の天ぷらです。ところでよくここが分かりましたね」 「そりゃ事務だもの」 職権乱用じゃあ、という原田の言葉を完全に無視して葛木さんは部屋に上がり込む。原田は部屋がひどく汚いので進入を拒もうと試みたが、無駄に終わって悄然とする。 「誰かに、僕をどこかへ引っ越させろと言われたんですか?」 「ええ、そうよ。最初はね。でも、もうそんなのはどうでもいいのよ。どうせ兄だってまともな商売だけってワケじゃないもの。原田君に興味があるから、こうして来てみたのよ」 「ずいぶん大胆ですね」 「ねえ、ホントに一緒に暮らしてみない?」 「あっ、あの、このアパート空き室いっぱいありますけど越してきたらどうです?」 「あら、それ、いい案ね」 冗談だったのに……。 葛木さんはにっこり笑い、原田は天を仰ぐ。窓からそれをこっそりのぞき見しているブルさんの背後に、またもや偽物竿竹屋らしき軽トラが現れる。 コーポ山岡に安寧秩序は程遠い。
仕事が終わりバイクで家路を急ぐ途中で街道沿いの大きなショッピングセンターがある角のほんの少し手前を左に曲がる。細く薄暗い道が少し続き、そして突き当たる。左は人が歩けるだけの砂利道で右に曲がるとやはり舗装はされているが細い道が続き、その先に明るい街灯が見える。つまり街道が交差する大きな交差点を少し手前で左に入り右に曲がることでショッピングセンターの裏を通りショートカットするのだ。 僕がその道を見つけたのは春先のことだった。あの頃もやはり仕事が忙しく帰りが毎日遅かった。オフィスにいるときはその忙しさそのものにか場の雰囲気にか疲れを忘れて無理をしても一度オフィスから出て会社のビルの駐車場に置いたバイクにまたがる頃には仕事一辺倒な毎日に虚しさを覚えずにはいられなかった。そんなだったからバイクにまたがった僕はいつも出来る限りスロットルを開き、出来る限り近い道を頭の中で何度もトレースしながら家路を急いだ。そんなある日のことだった。渋滞手前でスピードを落としていた僕の右手に一台のバイクの影が現れて、そのショッピングセンター手前の細い道に吸い込まれていった。僕は思わずそれに引き寄せられるように付いていった。前を走るバイクは突き当たりで右折した。僕が後をついて右折したときにはもうその姿は前には見えなかった。ただ目の前に大通りの街頭が見えていた。僕はそのまま大通りに出て左折しいつもの道に戻った。すごいスピードで先へ行ってしまったのか、すぐその辺で曲がってしまったのか、とうとう先を走るバイクを見ることはなかった。しかし先を急ぐものにとってはそのL字の細道は確かに魅力だと 梅雨の合間の暑い日のことだった。いつものL字の細道で高校球児を見かけた。真夜中に近い時間だというのにいったいどんな練習をしているのだろう。そのときはそんなことを思っただけだった。たまたま金曜の夜で次の日が休みだったから家に帰りいつもは飲まないビールを飲みながらニュースを見ていた。平和な日だった。いつもあるような政治家の汚職や変死体が見つかったというニュースはいくつかあったけどさほど大きなニュースはなかった。そんなときにブラウン管の中にさっき見たのと同じユニフォームを見付けた。二日前に中央分離帯を追い越して試合へ向かう高校野球部員を乗せたバスに突っ込んだトラックの運転手が酒気帯びであったことが分かった、というニュースだった。ひどいことにバスは炎上。乗っていた選手の多くが命を落としていた。そのニュースを見る限り僕がすれ違った高校球児がその被害者の中に含まれているかどうかは分からなかった。しかし僕は直感していた。事故の後にわざわざユニフォームを着て歩き回る高校生がいると考える方が不自然だった。 僕はその次の日から前にも増してその道を通るようになった。ただ変わったのは早く帰るためにそこを通るのではなく、そこを通ることで得られる出会いを求めてだった。僕はそこを通るときに誰かを見かけると話しかけるようになった。しかし話しかけても答えが返ってくることはなかった。とはいえ話しかけられたことに驚いて逃げ出すなどという訳ではない。ただ、焦点の定まらない目で僕を見つめて、すれ違って、そして消えていった。振り返ったときはそこには誰もいなくなっていた。ある日見かけた女の人は銀行員の服を着ていて名札をつけていた。名札には支店名と名前が入っていた。次の日の昼休みに僕はその支店に電話して名前を告げた。退職したと伝えられた。個人的な知り合いだとしつこく食い下がると、どういう関係だと聞くので、大学時代の親友で自分は海外暮らしをしていたのだが久しぶりに帰国したので会いたいが、いろいろあって実家には連絡しづらいのだと言ってみた。すると彼女は事故で亡くなったと教えてくれた。 僕には会いたい人がいる。いまの生活になるずっと前に一緒に暮らしていた女性だった。いまの生活に不満がある訳ではない。妻のことは心から愛している。未練がある訳ではない。ただ、知りたい。あの頃も僕はいまとは違う意味で生活に不満はなかった。ある日突然仕事から帰ると一緒に暮らしていた彼女はいなくなっていた。大切な荷物だけを持って、大きな荷物は全て置いて、書き置きすらなしに。でも彼女は帰ってこなかった。二ヶ月後に警察から電話があって彼女との関係を聞かれた。僕はなんの言葉もなしにいなくなった彼女のことに少し腹を立てていた。警察には彼女に聞いてくれと言った。すると警察が応えて言った。彼女は死んだのだと。 新宿のビルから飛び降りたのだという。理由が分からない。僕が関係するのかどうかも分からない。正直言って僕は恐い。自分で知らないうちに自分が彼女を死に追い込んでいたのだとしたら、いまも少しずつ妻を死に追い込んでいるのだとしたら。そう考えると恐くてたまらない。 僕はそのL字の細道を通り続けた。無理に長時間をその細道で過ごした訳ではない。いつもどおりに会社に行き、いつものように遅くなり帰る。その帰り道にL字の細道を通る。それだけだ。でも僕には予感があった。その細道はなにかが普通と違う。もはやいくら願っても二度と会うことが敵わないと思っていた人に会えるかもしれない。そして僕がそこに引き寄せられた事実が、なにか運命めいたものを感じさせていた。 暑い夜だった。湿った空気が体にまとわりつく感じがしていたが、L字の細道に入ったとたんに空気の密度が変わった。僕はバイクを降りてエンジンを切った。突き当たりに人影があった。暗くて良く見えなかったが僕にはそれが誰だか分かった。 「元気かい、って言っていいのかな?」 なんと言っていいか分からずに相手の言葉を探るようにそう言った。彼女は何も言わない。でも頷いているのが微かな空気の流れで分かる。鳥が頭上を通り過ぎた。ふいに時間が流れていることを認識する。僕には時間がない。 「聞きたいことがあるんだ」 彼女はまた何も言わない。僕は聞かざるを得ない。 「どうしていなくなった? それは君が死んだのと同じ理由?」 久しぶりにあった彼女にかける言葉ではないのかもしれない。でも僕は自分で気が付いている。これまで僕はこの細道でバイクを降りたことはない。誰かに話しかけるときもバイクにまたがったままだった。いま彼女と向かい合っているこの短い間に右を向けば、いつもの街灯がやけに遠くなっている。僕は闇の中の彼女を見つめる。 あなたは分かっていない。それは意味のないこと。人は誰もが近くの誰かの命を奪いながら生きているの。私もそうだったし、あなたもやはり奪っていた。でもそれはあなたに限ったことではない。 空気の流れや音にはならない言葉だけが僕に聞こえた。その意味は分からない。ただ言葉をとりあえず体内にとどめて僕はバイクのエンジンをかけ全速力でL字の細道を抜け出した。 その日は何も考えずに眠りについた。意味は何も分からない。ただ言葉そのものは確かに自分の中に存在していた。次の日、帰りに同じ道を通ろうとしたが昨晩ショッピングセンターで火災があったらしく、L字の細道は通行止めになっていた。
十余年にもおよんだ戦争の傷痕が、新しいコンクリートとアスファルトに隠されはじめて間もない頃――人々はただひたすらに生きていた。 「ホア、そろそろ起きなさい」 南の都市バクホーの外れの一軒家に、今朝もまたメイの声がする。 「はあい、いま起きる。起きますってば……」 母メイに叩き起こされて、ホアは寝ぼけ眼で食卓につき、メイが用意していてくれたお茶をすする。朝一番のハーブティでぱっちり目を覚ますと、ようやく皿を運んだりと手伝いをはじめる。 蒸し暑い初夏の陽気も、朝はまだ幾分か涼しい。ホアは朝食をゆっくりと噛みしめる。 「そうだ、ホア。学校に行くとき、これ持っていって先生に渡してちょうだい」 メイは食卓の隅においてあった風呂敷包みを指さす。ホアが風呂敷の中身を尋ねる前に、メイはお茶をすすりながら言を継ぐ。 「うちで作ったハーブです、って言って渡してちょうだい――こう暑いと先生もお疲れでしょうしねえ」 「はあい」 メイが小さな裏庭でつくるハーブはどれも美味しい。母自慢のハーブをたっぷり使ったタマリンドのスープは、ホアの大好物だ。 ホアたちの学校は、正しくは「私塾」である。 今年で五十歳になるマーが自宅を開放して、近所の子供たちに読み書きや算数を教えているのだ。 マーは解放軍の箒乗りとして帝国軍と戦いつづけ、英雄として第一等救国勲章を受勲した人物だ。戦後は南都バクホーの郊外に居を構えて、子供たちを相手に学問を教えて過ごしている。 現在のマーには、神出鬼没の箒乗りとして帝国軍兵士に恐れられた影もない。ホアたち子どもには「ときどき厳しいけど、いつも優しいマーおじさん」だ。 「マー先生、これ、母さんが食べてくださいって」 「おお、ありがとう。ホアのお母さんがつくる香草は、どれも美味しくて助かってるよ」 マーは、ホアから風呂敷包みを受け取って、顔いっぱいで笑う。 「じゃあこれは、さっそくお昼ご飯にさせてもらおうか――さあ、ホア。もうみんな待っているよ」 「はあい」 ホアも他の子どもたちも勉強は好きじゃないけれど、本が読めるようになるのは嬉しいから、みんな読み書きはちゃんと勉強する。それにマーは教え方がとても上手だった。マーが声を出して絵本を読みはじめたり、手袋人形を両手にはめて寸劇をはじめると、子どもたちはいつのまにか新しい言葉や言い回しを覚えているのだ。 勉強の時間が終わると、つぎは昼食の時間だ。 今日の昼食は、ホアが持ってきた香草をたっぷり使ったタマリンドのスープだ。タマリンドとは酸味のある豆で、この豆を裏漉しして魚醤ニョクマムで味を調えたスープに香草をたっぷり入れた料理は、南部の人間にとって馴染み深い皿のひとつだ。 昼食が終わると、午後は色々だ。 家に帰って家事や畑仕事を手伝う子もいれば、マーに本読みをせがむ子や、勉強熱心な子もいる。そして、箒乗りを教えてとせがむ子も、だ。 昼食の片づけを終えると、ホアはいつものように、マーに箒乗りを教えてもらおうと頼み込んだ。もうお馴染みになった遣り取りだ。 「ねえ、マーおじさん。おじさんって箒乗りだったんでしょ? ねえ、なんで乗り方教えてくれないの?」 マーは困った顔で白髪の混じる髪を掻く。 「ホアはそんなに箒乗りがしたいのかい?」 「うん!」 勢いよく頷いて、ホアはマーの袖を引っ張ってなおも催促する。 「ねえねえ、教えてよ。箒乗り、わたしに教えてよ」 「ああ、分かった分かった。でもその前に――」 「国語ドリルをやれ、っていうんでしょ。分かったよ……でも、今度はちゃんと絶対、教えてもらうんだからね」 「ああ、分かっているよ。ホアが国語ドリルを全部やり終えたら、いくらでも教えてあげる――約束だ」 ホアが鉛筆片手にさっそく睨めっこをはじめた国語ドリルは、まだまだ空欄だらけだ。マーが約束を履行するまでには、もうしらばくの猶予がありそうだった。 マーの家には、身寄りのない子供たちが八人、寝泊りしている。南部一番の都市といえど、戦争の傷痕はまだ様々なかたちで残っている。戦争の傷痕は、たとえば破壊されたまま未だに放置された建物や、四肢を失った人々、我が子を失った人々にかぎらない。 マーは解放軍の兵士として帝国軍や、北部軍の帝国支持派と戦ってきた。帝国軍とそれに対抗する解放軍とのあいだには圧倒的な物量差があったものの、国土の大半を覆う森林を舞台に、解放軍は徹底的な抗戦をつづけた。 密に生い茂った森の中で、帝国軍の大部隊はマーたち解放軍のゲリラ戦術で確固撃破される的でしかなかった。業を煮やした帝国軍部が飛行絨毯からの爆撃で森ごと焼き払おうとすれば、木々の合間を縫って舞い上がった箒乗りたちに翻弄され、撃墜される――打撃を加えては反撃を食らう前にまた身を隠すという徹底したゲリラ戦術は、十余年にもわたって帝国軍を苦しめた挙句、ついに退けるにまで至ったのだった。 マーは箒乗りとして戦争を生きのびた者のひとりだ。戦後を迎えるまで、多くの同胞が死ぬのを見てきたし、それと同じくらいの白人を殺してきた。幸いにも五体無事でいまこうして生きているが、老体に染み付いた硝煙と返り血は拭えるはずもない。 マーが知っている箒乗りの技術は、敵を殺し、仲間を見殺しにするための――戦争のための技術でしかない。 『戦争が終わって生きてた奴は、戦争しないで寝ててもいい時代にすること。いいな』 それが、マーと死んでいった同胞たちとの約束だった。 「先生、どうしたんですか?」 「――ん?」 泣きそうなスンの声で、マーはようやく顔を上げた。スンに手伝ってもらって夕飯の準備をしているうちに、いつの間にか物思いに耽ってしまっていたようだった。 鍋の中でタロイモがぐつぐつに茹だっていた。 「先生、なんだかとても怖い顔してた……ぼく、なにか気に触ること、してしまいましたか?」 怖いことがあると敬語になるのが、スンの癖だ。スンは、市場の片隅でうずくまっていたのをマーが見つけて、この家に連れてきた少年だった。がりがりに痩せて行き倒れていたスンが、それまでどんな生活をしていたのかマーは知らない。けれども、スンが大人に対して恐怖を覚えていることは確かだった。 マーにできることは、笑顔を向けることくらいだ。 「ああ、ごめんよ、スン。わたしは考え事をすると、すぐ怖い顔になっちゃうっていけないね。ああ、タロイモにも火が通りすぎだ――あつ!」 マーは湯に箸をつっこんでタロイモを笊に揚げようとして、手の甲に湯を跳ね上げ、大げさな顔で飛び跳ねた。 「あ――早く水を!」 スンがあわてて蛇口を捻り、マーの手を冷やす。識字率と上水道普及率の高さが、この国の特徴だ。 「ありがとう、スン。お陰でもう大丈夫――火傷にもならずに済んだみたいだ」 マーはそう言って、スンの頭をくしゃりと撫でた。スンは戸惑った顔をしてから、ぎこちなく笑顔を浮かべた。マーも一緒に笑ってから、困ったように頬を掻く。 「タロイモのパンケーキ、ちょっとべしゃべしゃしちゃいそうだね。スン、わたしがぼうっとして火傷しそうになったこと、秘密にしておいてくれよ」 「うん、分かった。約束する、約束」 スンは嬉しそうに――どこか興奮したように、三度つづけて首を縦に振った。 「ああ、約束だ」 約束ばかり増えていくな――マーはふいと苦笑した。