500字挿し話バトル
  挿し絵を彩る挿し話 500字のメッセージ。

第2回 500字挿し話バトル

  • 小説・詩・随筆など形式は自由です。
  • 投票締め切り: 2011年 2月28日(締め切りました)

    結果発表ページ

課題絵(クリックで拡大します) 課題絵
(Illustration: 塔南光器)

小笠原寿夫
地球が産んだ子

「う、産まれる!」
地質学者が、化石を掘り起こしていると、いきなり悲鳴が聞こえます。地球が、悲鳴を上げています。
「この子をどうか宜しく。」
地鳴りのような音と共に、子供が産まれそうです。地質学者は、一瞬、目と耳を疑いました。眠たい目を擦り、ヘルメットを外しました。
「この子が粗悪を働くことがあれば、私は消えてなくなります。どうか、この子を宜しく。」
兎に角、この子は地球の化身です。地質学者は、この子を守ろうと思いました。助手に鎧を買ってこさせ、地球上でもっとも安全な格好をさせました。ところが頭を守るものがないのです。頭に何か被せるものはないだろうか。ヘルメットは小さすぎる。もっと大きな帽子はないものか。レッドカーペット。丁度いい。それにしよう。
 フサッと頭に掛けてやると、この子はギラッと目を睨みます。泣くことなんてまずありません。
「強い子に育ちますように。」
レッドカーペットの採寸に身合う頭の大きさに、地質学者は、手こずりました。この子を誰が育てようか。地球全体で育てればいいじゃないか。国際連合で決まった、その条約は赤土保護条約とされました。この子が赤ちゃんと名付けられた由来です。
 難産でした。


嶢幸

 昔、在るところに爺哉と婆哉おりけり。爺哉は山へ芝狩りに、婆哉は川に洗濯に行きけり。婆哉、川に洗濯したる哉、川上から大きなる桃、どんぶらこどんぶらこどんぶらこと流れしは、婆哉、是、掬い上げ、家路に持ち帰りし候。爺哉、驚き賜り、ぎゃあと申す。婆哉、ここぞと大きなる鉈を用意周到とばかりに鳥居出したる。すぱり大きなる桃を切り落とす哉、中から男の子が出たとか出ないとか。男の子に桃太郎と平凡な名前を授け、仮に己が孫と為す。桃太郎、成長し樽は、八ヶ岳に行つたとか行かないとか。犬、猿、雉を引き連れて、鬼退治をしようかという素振りが、立派な侍に似たりし候。ひとつ、ふたつ、みっつと吉備団子を是また用意周到なる婆哉、是を持たせ、鎧兜を備え、桃太郎を送り出す。赤鬼、青鬼、黄鬼と薙ぎ倒し、家路に着きし、桃太郎。持ち帰りし、千両箱から大判小判がざつくざく。爺哉、婆哉、共に是を折半し、己の腹を満たししが、邪魔になり足る桃太郎。爺哉、婆哉、是を追い出しし候。桃太郎、ようやつとの思いで八ヶ岳に帰りしが、鬼の形相、善き哉、善き哉。成人したるが桃太郎、八ヶ岳にて、一生を平和に暮らすとあらば、是にて一件落着。めでたくなし。


千早丸
嵐の終わり

 腐った魚。
 荒れる砂嵐を眺める友を、それ以上の言葉で表現できない。
 村に居る頃は違った。砂漠を越えた、海辺のオアシス。水があり、緑が彩り、海に珊瑚がり、魚が群れていた。
 でも村はない。感情も希望も、すべてが海辺で燃え落ちた。
 だから俺達はこんな砂塵の中を這いつくばって乾いている。
 剣を持ち、殺して、生き延びるために眠れない。守りたかったのに、淀み、腐り、気付けば狂気と踊っていた。
 それも、もう終わる。
 すべてを奪われ犠牲を払い、正気すら失って、負け戦だ。
 いや、よかったのかもしれない。もしオアシスが平穏になっても、腐ってしまった魚は海に戻れない。
 どんなに切望しても、ただ水を濁らせるだけ。

 友がやっと動いた。唐突に笑いだした俺に顔を向ける。虚ろな瞳に感情の欠片が浮かぶが、あまり良い色ではない。
 砂漠で魚が腐るなんて、馬鹿げてる。ただ首を振って、見上げる。砂嵐が薄らいできた。この忌々しい、一時の猶予も終わりそうだ。
 そう、敵を一人も殺せないから、こんな埒もないコトを考える。
 考えるから正気を失くす。考えないから正気が失せる。
 同じことだ。やがて青空の下、砂を無駄に赤く染める身であれば。


花粉の鎧

 美世のアパートは、玄関の取っ手に小さなブラシが掛かっている。
 洒落っ気のないソレは、飾りや呪い目的ではない。
「ちゃんと払った?」
 玄関前で全身にブラシをかける図は異様だが、義務を果たさねば部屋に入れない。例え美世に頼まれたレポートと買い物を持ってきても同じ。
「えっちゃん大好き」
 同性に愛想撒かれても迷惑。
 部屋に入ると、ざすが同性、憚ることなく洗濯物が干してある。外は快晴だが、美世は時間季節関係ナシで部屋干しが標準。
 以前に太陽で干したシャツは気持ちイイと一言こぼしたら「分かってない!」激怒られた。
「花粉症を舐めるんじゃない」
 難儀な体質だ。外出時は戦争。ゴーグルのような眼鏡をかけ、マスク、帽子、スカーフと手袋。デニムは花粉がつきにくいとジーパンを愛用。他にも「花粉症に効く」モノは大抵試しているらしい。正規の治療は「金額の割に効果が薄い」愚痴る。今年は鼻の粘膜を焼くと意気込むも冬限定の治療は「今期分は予約終わりだって」嘆いてた。
「えっちゃんも気をつけて」
 注意されるが、実家は田舎で裏に杉山があって、なんて、言わない。
 絶交されそう。
 微粒子へ武装を固める友人に振り回される毎日である。


森の中

 森の中はうす暗くて、暖かくて、そして雪が降っています。
 赤ずきんは懐中電灯で足元を照らしてゆっくりと進みます。
「おばあさんったら、なぜこんな暗い森の中に住んでいるのかしら」
 
 小さな家の前に着くと身体についた雪を払ってからドアをノックします。
「おばあちゃん、赤ずきんよ」
「お入り、ドアは開いているよ」
 やさしいおばあちゃんの声がしました。
 赤ずきんは玄関に入ると空間を密閉させて全身消毒するスイッチを押します。
 これでやっとこの鎧のような防護服と兜のような防護マスクを外すことができます。

「おばあちゃんは森の外に出ないの?」
 何も知らない赤ずきんは窓の向こうに降り積もる雪を見ながら、冷たいジュースを飲んでいます。
「もうそろそろ出られるよ。今回は若いからか時間がかかったねえ」
 サンドレス姿のおばあちゃんはにっこり笑います。
「若いって?」

 家の裏ではカビの胞子が降り積もる中、赤ずきんのお父さんがもう少しで跡形もなく分解されようとしています。

 胞子の森の中で起きた事はカビの胞子の雪がみんな隠してくれるのです。しかし、跡形もなくなるまで、きちんと見届けないと安心して森を出て行くことはできません。


檸檬

その横顔を忘れることはできない。それなのに、特徴を話そうとすれば、たちまち街中の人達に紛れてしまうような気がして仕方がない。諦めてしまっているのではない。かといって、希望に満ちあふれている訳でもない。
消えかけた記憶を辿って、石の積んである壁の続く街角を歩いた。あのひとはもう、忘れてしまったかもしれない懐かしい通りだ。そこで私たちは佇み、いまはもう見えない、来るかもしれなかった未来について思いを馳せていた。あるいは、それすら私だけが思い描いていた未来だったのかも知れない。
ひとつ、ふたつ。約束踏んで。
ふたつ、みっつ。時計が鳴る。
ひとつ、ふたつ。時計が鳴って。
ふたつ、みっつ。夜が明ける。
朝もや。足音。かさこそなる落ち葉。夢見心地の街はまだもやに沈んでいる。
老夫婦がならんで歩いてゆく。足音と足音と足音。古い歌だけがくるくるくるくると舞っている耳元で、朝はそのメロディのもとに私を、置いていってはくれなかった。
予定より早足で訪れた、それに、私は悲しんだけれど、あのひとはそうではなかった。
それきりの話。
石の積んである壁の続く街角。私はまだ時々あの壁を思っている。あの日の横顔のジャンニを。


石川順一
ヒトラー

 絵中の少女はナチに迫害されたユダヤ人である。雪中を今まさに逃亡せんとして居る。
 私ならおナペットにするがなとホワイトが言うとヒトラーは死ぬほど笑ってくれた。
 せいぜい諸君らは時間を無駄に使いたまえ。私はドイツ国と結婚して居るのだ。政治以外に時間を使うのは、生まれてすぐ死ぬようなものだ、検討するまでもない無駄な行為なのだよ。
 ヒトラーはこう言うと再び高笑いをして、ホワイトを憐れんだ。
 少女はやがてひっとらえられて、医学上の人体実験にきょうされかも知れないし、アンネフランクと友達かも知れない。
 「いずれにしろ、おナペットなど選択肢としてありえないのだよ」
 とヒトラーはホワイトの肩を素早く4,5回叩くと森へと消えて行った。


太郎丸
中世見学

 どうしよう。これからどこに行こうか? そう思ってから既に2時間程は経過している。 「中世の騎士を見に行かねえか? スキンを着てきゃ何も問題はないさ」
 歴史学科のアーダが僕に声をかけて来たのに、ホイホイ乗って付いて来たのが間違いだった。
 そりゃ、スキンは凄いよ。外気が氷点下だってマグマの中だって少し暑いなぁ程度で身体には影響ないし、汚染された空気も平気だ。
 それに少しの傷なら直してくれるし、衝撃も和らげてくれる。
 でも、中世に付いて直ぐに首を切られてしまったアーダには、その効果が現われるとは思えない。
 そして僕はといえば、慌てて逃げ出して隠れた森の中で、現代へ戻る唯一の手段であるタイムクロスを落としてしまっていた。

 僕はどうしようかと、木の上の方で鳴く小鳥を目で追いながら考えていた。静かな森だった。
 たまにウサギやリスが顔を覗かせる。
 今僕は騎士の格好だから、平民の格好にした方が良いだろうか?
 もう少し勉強しておきゃ良かったなぁとも思う。
 僕の後ろの方でがさごそと音がしたが、きっとウサギでもいるんだろう。
 僕の予想が違っていたのを知ったのは、僕の胸の前から黒く光る槍の穂先が出た時だった。