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第6回チャンピオンofチャンピオンバトル小説部門 Entry3
海岸は、波の音の他には何も聞こえなかった。「たまには来てみるもんだなぁ」 流木に腰掛けた四谷京作は、ネクタイを弛めながら水平線を眺める。 夏間近の太陽は薄い雲に隠れ、日差しはやわらかい。 四谷は大きく伸びをしてから、あくびをする。「でも……」 空を見上げる。「ちょっと静か過ぎるなぁ」 空には、普段ならいるであろうウミネコの姿がまるでない。 ただ波音が聞こえるだけ。 四谷はふいに、ぶるりと震えた。 いつの間にか、空の雲が厚くなっていた。 それを意識する間もなく、空はみるみる暗く、重たい鉛色の雲に埋め尽くされていく。 ぽつり。 雨が一滴。 それが二滴、三滴……。「わわっ!」「おおい、そこのあんた!」 少し離れた場所に建つ小屋から、漁師と思しき老人が顔を出して叫んだ。「早く入りなされ! ヤツが出る前に!} 雨が激しく小屋の屋根を叩く。「いやぁ、助かりました」 四谷京作は椅子に腰掛け、タオルで頭を拭く。「傘も何も持ってなかったもので」 タオルは擦り切れ、所々穴が空いている。「いや、礼には及ばん」 漁師の老人は、網を直し始める。「でも、『出る』って、一体なんの事ですか?」 四谷は濡れた身体を吹き終わったタオルを、元通り壁の針金に引っ掛ける。「熊でも出るんですか――って、海でそれはないか」「……出るんじゃよ」 漁師は、網を直す手を止め、呟くように言った。「出る……って、まさか妖怪?」 四谷の声も、釣られて小さくなる。「はれおとこじゃ」「はぁ?」 四谷はつんのめる。「晴れ男って……なんですかそりゃ?」「こんな雨の後に決まって現れる。悪い事は言わん、泊まって行きなさい」 いつの間にか、雨音は止んでいた。「ははは、アホらしい」 笑いながら四谷は立ち上がる。「ありがとうございました、あはは」「待て、今は危ない」 漁師が四谷のシャツを掴もうとするが、四谷はするりと避ける。「雨宿りさせてくれた事には感謝しますが、世迷事に長々付き合うほど大きな恩って訳じゃありませんよ」「危険じゃ、危険なんじゃ、外にいるんじゃ、間違いなく! 一目見るだけでも恐ろしい、正しく妖怪――ああっ、待たんか!」「わーった、わーった、御世話様」 漁師の言葉を遮り、四谷は小屋の戸を開け外に出た。「ほら何もいやしない。妖怪なんて気のせ――うわああああ、おげええ、何じゃありゃあ!」「……だからパレオ男が出ると言っておるのに」