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1000字小説バトル 2nd Stage
チャンプ作品
『勝負は相撲で』ごんぱち
 足柄山の麓の家で、元気な男の赤ん坊が生まれました。
 色んな意味で金のようであって欲しいとの願いから、両親は金太郎と名付けました。金太郎は素直で優しく、そして腕白に育ちました。
 ある日の事。
「ふぅ、重い、重いなぁ……」
 金太郎のお父さんが、薪にするための木を背負って帰ります。ついつい沢山伐ってしまい、その重さに難儀をしていました。
「あれ? お父さん」
 山で遊んでいた金太郎がやって来ました。頭にはリスを載せています。
「金太郎だったのか――ああそうだ」
 お父さんは、背中の薪を指さします。
「持って帰るのを手伝ってくれないか?」
「お安いご用だよ」
 金太郎はリスを木に帰してから、お父さんの薪に手をかけると――。
「あらよっと!」
「おっ、おおっ!?」
 右の肩に薪の束を、左の肩にお父さんを載せ、走って帰って行きました。
 それを木の上からリスが仲間のリスと眺めます。
「金太郎ってのは大した力持ちだね」
「熊よりも強いんじゃないか?」
「そうかも知れないね」
 リスたちの噂話は、小鳥に伝わり、小鳥の噂話はヤマネコに伝わり、ヤマネコの噂話はキツネに伝わり、キツネはそれを熊に話しました。
「なんだと? 金太郎という人間が、『この世に私より強い者はいない、熊なんてぶっちゃけお腹の突っ張りがプーですよ』と言っていただと!」
「噂を総合するとそのようです」
「けしからん!」

 森の土俵に呼び出された金太郎は、熊と対峙します。
「勝負は一回かぎり、いいね」
 金太郎が言います。
「吠え面かかせてやる!」
 熊が金太郎を睨み付けます。
「では、はっきょーーい!」
 猿の行司が葉っぱの軍配を振ります。
「のこった!」
 金太郎と熊は真正面からがっぷり四つ。
 ごまかし無しの力比べです。
「ふぬううう!」
 熊は全力で金太郎を押します。
 けれど。
「ぬおおおぐおおお!」
 金太郎が力を入れると、熊はゆっくりと後ろに下がり始めました。踏ん張る熊の足の爪で、土俵に筋が出来て行きます。
「なんのおおお!」
 熊は大きく踏み込んで金太郎の態勢を崩そうとしますが。
「そこ!」
 金太郎は仕掛ける為に生じた熊の態勢の乱れを見逃しませんでした。
 一気にしゃがみ込んでからの一本背負い。
 熊は宙を舞いました。

「フフッ、熊君」
 金太郎は微笑みます。
「僕の勝ちだ」
「い、いや……待て、金太郎、そうだ」
「なんだ?」
「腹掛け一枚のお前は、よく考えると不浄負け」
「……ほざけ、全裸」


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