QBOOKS
1000字小説バトル 3rd Stage
チャンプ作品
『それのあるもの』ごんぱち
「いつまで寝てるんだい、この唐変木!」
 怒鳴り声と激しく揺さぶられる感触に、四谷京作は目をさます。
「おはよう、メイコさん」
「挨拶してるヒマがあったら、さっさと会社に行け!」
 やや歪んだ熟年女性の顔立ちと体型をした家事ロボットは、言い捨てて部屋から出て行った。

 午前の業務を終えた四谷は、昼休みに弁当を広げる。
 漬け物と煮たモヤシと生のピーマン。
「メイコさん作か?」
 同僚の蒲田雅弘がパンの袋を開ける。
「災難だったな」
「まあな。自分で作るって言ったら、メイコさん怒るし」
 四谷はピーマンをかじる。
「味も工業製品みたいだもんな。食い物以外の」
「まったく、酷い商品だよ」
「ああ、酷い商品だ」

「ただいま」
 四谷はドアを開ける。
「こんな時間まで、どこほっつき歩いてやがった!」
 家事ロボットは怒鳴り声と同時に、コップで水をかける。
「さっさと寝ろ!」
「お風呂……なんかは?」
「入りたきゃ自分で湧かせ。ただし、五デシベルより上の音を立てたら即刻ガス栓を閉める!」
「……入らないで寝る」
 四谷は水で濡れた顔を手で拭い、靴を脱いだ。

 ――厚生労働省庁舎内の会議室に、職員が集まっていた。
「本年度四半期の結婚数の急激な減少についてだが」
 白髪頭の課長が口を開く。
「やはり、あれでしょうな、家事ロボット」
「売れに売れていますから」
「統計上も、明らかな相関が見られています」
 職員達は話しながら、ちらちらと若い職員に視線を向ける。
「これは……何かの間違いです!」
 若い職員はこらえれなくなったかのように怒鳴る。
「事前対策は万全だった筈だ! 圧力で不細工でガサツに仕様変更させ、マスコミにネガキャンや事故の捏造もさせた! あれに魅力なんか感じる奴は異常者だ!」
「落ち着きなさい」
 課長が諫める。
「君達のチームは良くやった」
 会議室は静まり返る。
「ただアレに、我々の想定していなかった、人間のパートナーに勝る魅力が、どこかにあった、ということだ」

 しわくちゃのパジャマに四谷は袖を通し、微笑む。
「バカにしてんのか!」
 家事ロボットが怒鳴る。
「嬉しいんだよ」
「は?」
「ただいま、おやすみを言える相手がいる、それが嬉しいんだ」
 家事ロボットは眉を寄せる。
「なら結婚でもすれば良いだろ。バカじゃねえの? ったくお前はキモイしバカだし不細工だし甲斐性ねえし……」
「それじゃ」
 四谷はリモコンを手に取り、
「おやすみ」
 電源ボタンを押した。





TOP PAGE
ライブラリ
作品の著作権は作者にあります。無断の使用、転載を禁止します

QBOOKS
http://www.qbooks.jp/
info@qshobou.org