第8回乱取りバトル
ほらぁ〜 1000字バトル

【お題】
・1000字以内でホラー、恐怖を題材とした作品を書いてください。
・作品発表時には作者名は仮装ネームで掲載します。


01ショーウィンドウ不視澤眼汲1000
02カウントダウンヒサルキ924
03葬列高野聖1000
04実話「生霊と書いてお義母さまととく場合」白骨義母女1000
05そこつな兄貴皿屋敷かさね1000
06リンク(連鎖)すすぎ光子1000
07迷宮Qデュッセルドルフの怪物1000
08鏡よ鏡芥子832
09僕のご主人様黄泉魂恵1000
10肋骨が震えるような音でピアノが鳴っている磐田団栗1000
 
 ■バトル結果発表
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掲載時に起きた問題を除いて、訂正・修正はバトル終了まで基本的に受け付けません。
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QBOOKSは、どのバトルにおきましてもお送りいただきました作品に
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校正することなくそのまま掲載しておりますのでご了承ください。




エントリ01  ショーウィンドウ     不視澤眼汲


 高山桜花は、コンクリートの冷たさを頬に感じながら、目を開く。明かりはついておらず、真っ暗だった。
(マラカニアン宮殿見た後に、お父さん、お母さんとはぐれて……それから、そう、ホテルへ戻ろうとしながら、ショーウィンドウとか見てたら、車へ押し込まれて)
 手を動かそうとしたが、動かない。手足は何かで固定されていた。
「ゆうかい……?」
 桜花は両手両足を固定されたままの態勢で、ごろりと転がって起き上がる。
 と。
 ドアの格子のはまった窓から、現地人と思しき男がじっと覗いていた。返り血の付着した、手術着姿で。
「こんなに早く手に入るとは」
 手術着の男の横から、スーツ姿の男が顔を出す。
「このシンゾウなら、ムスコさんにピッタリです」
 喋っているのは、日本語だった。
「し……心臓?」
 桜花はスーツの男に怒鳴る。
「ねえ! ちょっと、それって!」
「ありがとう、王さん。これで翔太も助かる」
 もう一人の声。
「私、臓器コーティネートしてお金貰う、先生手術してお金貰う、瀬ノ尾さんの子とも助かる。みんなハッピーね」
 桜花の声だけが、全く届いていない。
 脳裏に鮮明な未来の自分が浮かぶ。
 麻酔もないままに、鉈で胸の皮膚と胸骨を砕かれ、ビクビクと動き続ける心臓の血管がメスで無造作に切り取られる。心臓は血を撒き散らしながら、引きずり出される。
 次に、心臓の抉られた穴から、肺、胃、肝臓、腎臓、膵臓、次々と抜き取られていく。皮膚は剥がれ、眼球を抉り抜かれ、筋肉も、骨も切り取られ、手術台の上の桜花がなくなっていく。
 最後に残った脳と、虫歯の治療跡のある歯だけが、床に投げ捨てられる。柔らかな脳は、床の上でべちゃりと崩れ、虫が次々ともぐり込んで行く。
「いやだああああ!」
 ――叫んだ時。
 冗談のように軽い銃声と共に、手術着の男の左の眼球が飛び出し、桜花のすぐそばの壁にくっついた。

「桜花!」
「よく無事で……」
 両親に抱きしめられながら、桜花はぐずぐずに泣き崩れる。
「怖かった、本当に、本当に……」
 桜花の側を、脇腹を撃たれたスーツの男が運ばれて行く。
『ミゲルの病院、心臓買ってくれたっけ?』
『腐る心配がなけりゃ、とりあえず買ってくれるぜ』
 担架を持つ隊員二人は、英語で談笑していた。
「たす……け……せめて……私の心臓……翔太に」
 桜花はスーツの男に一瞬だけ見た。空っぽのショーウィンドウに向けるのと、同じぐらい興味のなさそうな目で。









エントリ02  カウントダウン     ヒサルキ


『おまえを呪った。60分後、おまえは死ぬ』

 帰り道で着信した携帯を見ると、そんな文面のメールが入っていた。送信元のアドレスは一般的なフリー取得できるアドレスだ。
「くだらないメール」
 わたしは笑ってメールを削除した。出会い系サイトの迷惑メールよりは楽しかったが、三分後にはもう忘れていた。
 また着信がきた。ほとんど条件反射で携帯を確認すると、またさっきのアドレスから届いたメールだった。
『50』
 なんのことだ、と思って着信のタイムスタンプを見ると、一通目のメールからちょうど十分後のスタンプになっていた。
「つまり、カウントダウンのメールってことね」
 手の込んだことだ、と面白く思った。送受信の管理ツールを使えば、指定の時間に指定の文面を送信することは簡単だ。一度セットしておけば、あとは全自動。
 ちょっとの手間でそこそこ楽しめる。これを考えたやつはきっと今ごろ、こちらの反応をあれやこれやと想像して楽しんでいることだろう。
 電車に乗ったところで、また着た。
『40』
 だんだん楽しくなってきた。ちらちら時計を確認して、早く十分すぎないかと待ちわびてしまう。
『30』
 もう半分が過ぎた。もし何か起きるとしたら、どんなことが起きるんだろう。
『20』
 駅をでた。あとは家まで夜道を歩く。街灯は立っているけれど人気はない。でもそれは、いつものこと。
『10』
 ……緊張してきた。あからさまな冗談でも、舞台が整うと恐怖を誘うものだ。いまのが最後のメールだったのだろうか。
 と思ったら、また届いた。
『5』
 今度こそ最後だろう。道はいつになく暗く、ヒールを履いた自分の足音がコツコツといやに響く。
「――!」
 わたしのものではないスニーカーの足音が、後ろから近づいてきている。
 気がついたら走りだしていた。すると足音もわたしを追いかけてきた。怖い、怖い!
「あ!」
 暗がりに足をとられて転んだ。足音がすぐ背中まで迫る。嫌だ、怖い。身体が動かない。喉に砂が詰まる。声がでない。地面がまわる。嫌だ、立ち上がれない。嫌だ嫌だ。這って逃げる。逃げないと殺される殺される殺され!!
「大丈夫」
 足音の主は優しい声で微笑むと、震えるわたしの肩をぽんと叩いて耳元でささやいた。
「まだ、あと一分あるから」









エントリ03  葬列     高野聖


 S市の南にある工場に三年半ばかり勤めていたことがある。
 家から職場に向かうには、二つのルートがあった。
 一つは国道に出て、そのままずっと南下する道である。もう一つは、幹線道路を迂回する山越えの道だ。距離は長くなるが、信号が少ないのと他に車がいないのでかえって早い。田園風景の中を走るのもなかなか魅力的だった。
 問題は夜遅くなると、どっぷりという田舎の闇に包まれることである。
 時折、何かの小動物がヘッドライトに目を光らせながら、いきなり走り去る。あとはガードレール脇のススキの穂が揺れているだけで、闇が永遠に続くかのような錯覚に陥る。
 しかし、その日は、目の前に他の車が一台走っていたため、私は山越えの道を帰りのルートに選んでいた。
 陽はだいぶ傾いていたが、まだ西の空にあった。
 視界が開けたところに出ると、田んぼと畦道が向こうの丘まで続いていた。
 ところが、遥か前方の道に、葬式の列が続いているのが見えた。
 まだ遠いので、人の影が蜃気楼のように黒く滲んで見えるだけだったが、私の車は、やがてその葬列の脇をすり抜けて通ることになるはずだった。
 近づくにつれ、私は奇妙なことに気がついた。かなり走っても、なかなか距離が縮まらないのである。本来なら人の姿がもっと大きくなって見えていいはずなのに、その部分だけが大きさが変わらない。たしかに、少しずつ近づいてはいるのだが、私のスピードに対して像の大きさの変わる速度が合わないのだ。
 人の姿はかなり鮮明に見えるようになった。それでも、辺りの景色に合わせると、人の大きさが普通の半分になってしまう。
 おかしなことに、葬列にいる人々はみな三角の笠をかぶり、蓑をつけていた。今でもまだこんな衣装を着るのだろうか。そう思っていると、蓑に使われる茅の茎の一本一本が見えるところにまで来ていた。
 ただ、人の姿は精巧に縮尺されたように半分の大きさにしかならず、夕刻の陽がつくる逆光の中で暗くおぼろだった。
 私はついに、その人々の足が地面についていないことに気がついた。
 葬列は歩いているのだが、ちょうど景色の中に白黒の映画をその部分だけ合成したように浮いていた。
 四人の蓑と笠を付けた人間が棒に吊り下げられた棺を担いでいた。それに続く小さな人間の行列。
 そこからはもう何秒もなかった。
 私の車は葬列の脇を通り過ぎた。しかし、私にはもう後ろを振り返るだけの勇気はなかった。










エントリ04  実話「生霊と書いてお義母さまととく場合」     白骨義母女


 郵便物を開くたびに黒い呪いの様な物が這い出しては部屋の隅にまるまる気配がする。肝心の郵便物より、黒い物の方が気にかかる。送られてきた呪いは定型の郵便料で送れる物とそれ以上との計量をどこで済ませてくるのだろう。
 結婚してこの家に住んで以来、隣家の嫁さんのことを嫌いぬいて来た私である。嫁さんは、悪い人ではないのだろうに、説明なしに苦しいほどに憎らしい。同時期に結婚し、ただ隣家に住むだけの他人である。通常なら親しくご近所付き合いをはじめるところ、交流といえるほどの何もしない間に猛烈に嫌いで憎くてどうしようもなくなった。交流もないのだから知るはずもない食べ物の好み、買い物の仕方、洗濯物の干し方からたたみ方、お茶の淹れ方まで気に入らない、猛然と腹が立ち風邪ひきで臥せる部屋を水浸しにしてやりたくなったりする。唐突に一方的に私の内から湧き出てくる激しい感情はどう考えても変なのだが、それを正当化しない限り私自身がこわれそうで、隣の嫁さんのいけない点を必死であげつらうのだが、ゴミ当番のやり方が真面目すぎる、町内会の役員を嫌な顔もせずに引き受けた、いつもこぎれいに暮らしている、やさしくおしとやかなものごし等いけない所などどこにもない、でも煮えくり返るほど憎らしい。
 郵便物から這い出す黒い物は部屋の隅でまるまりながら一瞬きらきらと輝く、呪いの癖に輝くなんて笑止だが、送られ慣れると呪いにも親しみを感じるものだ。長年抱き続ける嫁さんへの理不尽な憎しみとしばしば送られてくる黒い呪い。隣家のご主人とは挨拶もしたことないのに、可哀想な息子、息子を奪い、病弱を盾に婚家へ寄り付かず、出勤する息子の為に朝起きることすらしない、だらだら甘やかされ、ふにゃふにゃの糞女、跡取りをどしどし産みもせずにたった独り産んで疲れたなんぞと抜かして、あの青瓢箪な孫にも毛嫌いされ、それもこれもあの女、ああ息子が不憫、馬鹿女に家をすっかりつぶされる。とまで隣人の私が思う、となるとやはり送られてきているのは隣家のお義母さまからの念なのではあるまいか?と、最近になってやっと気がついた。隣の嫁さんがあからさまに私を避けるようになって久しいので、お義母さまの消息をお尋ねすることも出来ないが、これ程長期に渡り(14年間)生霊をとばし続けたお義母はつつがなくお暮らしなのだろうか、郵便物を開くたびお義母さまの面影が今日もよぎる私である。









エントリ05  そこつな兄貴     皿屋敷かさね


 表の戸を叩く音がする。

『おい和也。開けろ。俺だ。達也でぃ』
(来た、バカ兄貴だッ。本当に来た)
『開けろ。今日は呑んでねぇ。うぃっ』
(酔ってるッ。頼む、帰れ)
『話がある。開けやがれ』

 開けたくない。特に今日は。

「兄貴。そ、そこで話せば」
『馬鹿、表で話せる内容か。だが字数も無いし話すぞ。落ち着いて聞け。
 実はお前は、幽霊だ――本当は死んでる身なんでぃ』

「……」

『信じられねぇだろうが本当だ。諦めろ』

「……」

『静かだな。あぁ俺の説得で成仏できたか』
「生きてるよ。なあ兄貴。えーと、何かあった様だけど俺は無事だよ。心配かけてごめん、大丈夫、気の迷いだ、帰って休みなよ。じゃ」
『確かにお前は死んでた』
(……聞いてない)
『俺も信じられなかった。だが見た。酔っ払って道端で死んでたお前を』
「なあ兄貴」
『まさかお前がな。俺と違って酒も賭博もやらねえ堅物と思ってたお前が』
「聞けよ兄貴」
『分かるよ。真面目な生活の陰にゃ辛いアツレキもあったろ。そんな時は酒に逃げるも仕方ねぇ。俺と同じだ』
「兄貴」
『だがお前は呑み過ぎた。悪いが傍目には悲惨な最期だった』
「もういいよ。全部話すよ」
『脇のドブ板踏み抜いてよ、頭打って鼻血出してゲロ吐いて、何か色んなもんにまみれた死顔、お化け屋敷の粗大ゴミみたいでよ。そんな有様でも確かに俺の弟、その面影は俺そっくり』

「それ兄貴だろ」

『へ?』

「死んだのは兄貴の方だ」

『ほ?』

「酔ってドブ板踏み抜いて頭打って鼻血出してゲロ吐いて死んだのは、兄貴だよ。兄貴が見たのは死んだ自分の姿だ。それも先週の話だ。初七日もとうに済んでるんだ。それが何で今ごろウロウロして。叔父さんから電話あったんだ。馬鹿がウチに来たから気をつけろって。酔っ払ったままで、死んだ事も解ってねえって。で死んだのは弟だって言い張って聞かないから、じゃ弟の家行って確かめろってつい言っちゃったんで兄貴がそっち行くよって。叔父さん泣いてたぞ。
 なあ兄貴、最後くらいスカッと爽やかに成仏しなよ」

『……お前、話つくるの上手だな』

「ネタじゃない! もう限界だ。兄貴には今までも散々迷惑してた。死んでまで面倒かけるな。いま帰れすぐ帰れ。塩撒いてやる。優しくすればつけ上がって、開けたら俺にとり憑く魂胆だろ。俺だって忙しいんだ。ヒマなお化けと遊んでられるか」

『そうか、忙しいかい……』

 強く戸を殴る音。
『まったく、とり憑く暇(シマ)もねぇな』






※作者付記: いわゆる『死んだのはお前らの方』&「そこつ長屋」それから忘れたけど何か






エントリ06  リンク(連鎖)     すすぎ光子


 突然後ろから悲鳴が聞こえた。振り返ると人並みが分かれ、改札口から女性がゆっくりやってくる。
 女性は髪を振り乱し、吊り上った充血した目をして、右に左に包丁を振り回している。
 振り回す包丁の先から、逃げ遅れた人達の悲鳴が上がり血が飛び散る。
 私は大きく目を見開き、大きな口を開けたが悲鳴は声にならなかった。

…本日朝8時30分頃、JR新宿駅西口改札前で、女性が刃物を振り回し無差別に駅利用者を襲い、死者3名。重軽傷者81名という大事件が発生しました。犯人の女性はその場で警官に逮捕されました。現在この女性の身元や動機を調査中ですが…

 包帯も取れ、少しピンクになった腕の傷の痛みはもう無くなったけど、やっぱり少し後が残るらしい。化粧で隠せる程だけど、少し面倒だし悔しい。
 会社ではみんな心配してくれたけど、何だか嫌になって辞めた。
 あの日から毎日同じ夢を見る。駅で人を襲う彼女の夢だ。でもその顔は私だった。

 毎日欠かさなかった鉢植えの水を忘れて、枯れているのに気づいた。整理されていた部屋は乱雑になってきている。
 自分が家で何をしているのか記憶がない。
 喉が渇き、傷口が暖かい。頭が痛い。

 昨日。餌を求めてきた飼い猫のチェシャを抱きかかえ「はいはい」と言いながら頭を撫でた。気がつくと突然彼女の頭を掴んで首を捻っていた。簡単に死んだ。
 茶箪笥のガラスに映った顔が私を見てニタリと笑った。
 喉が渇く。
 チェシャの首を引きちぎり、出てくる血を飲んだ。
 暖かい血をたっぷり飲むと、吐き気がしてもどした。
 それでも血の出なくなったチェシャをゴミ箱に捨てると、気分が良くなった。
 シャワーで血を洗い流すと着替えて、私はスーパーで包丁を2つ買った。
 私はそれを鞄に入れる。
 明日はきっと最高な気分になれる。

 あの人がどうしてあんな事をしたのか私には判っていた。きっと頭が痛かったんだ。喉が渇いたんだ。傷口が暖かかったんだ。


…昨日、新宿駅大量殺傷事件の犯人を逮捕した警官が駅前で拳銃を乱射し、通勤客ら4名が死亡するという事件が発生しました。また大宮駅と渋谷駅でも包丁で人を切りつけるという事件が連続して発生しています。犯人は現行犯で全員捕まっていますが、新宿駅大量殺傷事件の被害者だという共通点があり、警察は事件の関連を調査中です。…只今入りましたニュースです。昨日に引続き渋谷駅と池袋駅で同様に事件が発生した模様です…









エントリ07  迷宮Q     デュッセルドルフの怪物


 僕と浮気相手のNさんは、Nさんの夫を殺害し、山中に死体を埋めました。

 数日後、マンションのゴミ捨て場のバケツを開けたところ、血がにじんだ新聞紙の包みが入っていました。
 
 2日後また同じ様な物がバケツに入っていました。中身は魚の内臓の様な物で、人間の物だと言われればそうかも知れません。

 翌日、眠っていると電話が鳴りました。
「新聞紙開けた?」
 Nさんの声。
「ふざけるな!」
 怒鳴って電話を切りました。それから何度か電話が鳴りましたが出ませんでした。(なんであんな事を。やけに真面目な声だったな)

 再び眠りにつき、夢を見ました。
 壁に囲まれた部屋。
 どこからか声が流れ出しました。
「キュ・キュ・・メイ迷・宮Q・
 問題です。Nさんの御主人の耳のほくろは、右耳か左耳か答えなさい。チャンスは1度。正解しないとあなたはここから出られません」

 次の日もその次の日もそのまた次の日も同じ夢を見たのです。
 夢は本当だったのです。
 問題に答えない限りあそこから出られないのです。
 
 ほくろの事はNに聞くしかありません。
 昨日はドアポストに新聞紙に包まれた何かが入っていました。
 Nがなぜそんな事をするのかわかりませんでした。
 電話をしようと立ち上がると玄関で音がしました。
 行ってみるとドアポストに夕刊が入っていて、その間に人間の指の様な物が挟まっているのが見えました。人間の指に違いありませんでした。

「はい」
「なんなんだよあれは」
「ごめん。説明しようと思ったんだけど」
「まさかアレあの人のじゃないよねえ」
「変な夢を見て」
「夢?」
「そう。狭い部屋に閉じ込められててね」
「え・・・」
「あの人の死体を24個に切断して毎日指定された場所に置かないとそこから出られないの」
「そんなばかな」
「夢と現実の境界線が腐ってきて、少し前から目がさめても部屋が薄暗いの」
「死体は?」
「掘り返したの。切断するの大変だったけど1人でやるのが条件だったから。
でもこれで解放される。部屋が明るくなって来た」
「え?」
「今日のポストの指で全部終わり。
 昨日車に右手あったでしょ。ごめんね」
「いや。外出てないから。耳は?」
「耳はずいぶん前にあなたのマンションのゴミ捨て場に」
「あの人のほくろはどっちの耳?」
「わかんないけど。なんで?」
「適当に言うしかないな。なんだか部屋が暗くなって来た」
「なに、あなたまで」
「出らんないかもな」
「どこから?」
「迷宮Qだよ」









エントリ08  鏡よ鏡     芥子


「なにやってるんだろ」
 
 屋上へと続く階段で、一人ため息。
 それでも、足は動き続ける。
 
――わざわざ、仮病を使ってまでやることじゃないな。
 
 そうは思っても、なぜか止めようとは思わなかった。
 
 
 
 
 
 
「ねえ知ってる? 踊り場の鏡の話」
「ああ、あれね」
「なにそれ?」
「確か、自分の一番嫌いなもんが映るって話でしょ?」
「そーそー」
「へー」
 
 
 昼休みの教室。
 何とはなしに聞こえてきた会話。
 
――なんであの人たちは、あんなバカみたいな話ができるんだろう?
 
 密かにバカにして、目を合わす勇気もないのに。
 
 
「で、どうすんだっけ?」
「4時44分44秒に、3階東の鏡の前に立つんだよ」
「授業中じゃん」
「確か、はじめは保健室に行った子がって話だったよね」
「えー、早退した子でしょ?」
「だっけ?」
「そうだよ」
「確か、幽霊を見たって?」
「え、私が聞いたのだと、でっかいゴキブリだったって……」
「それはないって、ギャグじゃん」
「もう、笑わないでよ!」
「いや、今のは笑うトコでしょ」
 
 
 くだらない。
 そう思う片隅で、自分の嫌いなものってなんだろうと。
 
――やっぱ、父さんかな
 
 肩に手を当てて、自嘲してみる。
 
 
 このときの話は、ちょっとこびりついてた。
 
 
 
 
 
――あと少し。
 
 もうすぐ、踊り場へ出る。
 足どりが重くなるのを感じる。
 
「鏡だ……」
 
 時計を確認する。
 
 4:41
 
――あと少しだ。
 
 別に意味なんてないし。
 必要だってないけど。
 むしろ、信じてなんて居ないけど。
 
――確かめてみたい。
 
 そう思うのは、いいんだ。
 
 4:42
 
――きっと映るのは父さんだろう。
 
 半ば確信を持って。
 映るとしたらだけど、それは絶対に。
 
 4:43
 
――確かめに来たんだ。
 
 時計を見て、薄くわらって。
 
 4:44
 
 秒針を追う。

 5
 
 
 15
 
 
 30
 
 35
 
 40
 41
 42
 43

 鏡面が揺れたような気がした。

 ――いまだ

 映っていたのはいつもと変わらない私の顔だった。









エントリ09  僕のご主人様     黄泉魂恵


 細い指が僕の顎の皺を優しく愛撫する。
「小さいブルドッグみたい。これパグですか?」
「お嬢さんよくご存知ですね」
 背後からの猫なで声に僕ははっ、と我に返った。
 うう、と唸って、飛び掛る。
「きゃあっ」
 噛みつく……ように見せかけて、白魚のような手には触らないように寸止めした。
「こいつ!」
 紐が力任せに引っ張られ首が絞まる。が、僕は威嚇し続けた。
 少女の笑顔が消え、後ずさる。
 ご主人様の呼びかけも空しく、赤い靴を履いた華奢な足は遠ざかって行った。
 嫌われただろうな、でも、これで良かったんだ。
 振り向くと、ご主人様が真っ青な顔で震えている。
 その後ろにふらふらと揺れる彼女達が、心配そうに僕を見つめていた。

 ぎゃん。
 口から出た茶色の液が飛び散って、それがまたご主人様の怒りを倍増させたようだ。再び蹴りが入る。
 痙攣しだした僕を見て、ご主人様は満足したようだった。
「この馬鹿犬め」
 ばたん、とドアが閉まり。僕は戸外に取り残された。
 見上げる星空を横切るように、首輪につながれた紐が走る。
 一生懸命何か言いながら僕を撫ぜてくれる、彼女達。
 残念ながら、僕には何も聞こえないし感じもしない。
 でも、心は通じている。
 彼女達は僕を可愛いと言って寄ってきた女の子。ご主人様は僕を出汁にして取り入ると、暴行して殺したのだ。狡猾な彼は警察の目をすり抜け、今ものうのうと次の獲物を探している。
 ご主人様の手から立ち上る血の匂いと、僕を可愛がってくれた少女達の匂いが同じことに気がついた日から、僕の抵抗が始まった。その頃から、ご主人様の後ろで白い風船のようになった彼女達が僕の目に映るようになったのだ。

「まあ、可愛い」
 近寄ってきた女性は、屈むと僕の頭を撫で始めた。
「犬がお好きですか?」
 嫣然と微笑む女性。
 僕はいくつもの指輪がきらめく彼女の手に顔を預ける。
「パグって高いんでしょう」
 この手はご主人様以上に禍々しい血の匂いがする。
 そして、彼女の背後には憤怒の形相の男達が浮いていた。
 ご主人様の後ろに気がついた男達がウィンクする。
 微笑む少女達。
 ふと、僕の眼前に夢のような光景が広がった。
 ナイフを振り上げ男をめった刺しにする女、朦朧としながら女の首を絞める男。血飛沫の中で僕は紐を食いちぎり自由の天地に駆け出す。

 二人は楽しげに語らいながら並んで歩き始めた。
 バルーンのように沢山の霊魂を引き連れながら……。










エントリ10  肋骨が震えるような音でピアノが鳴っている     磐田団栗


 素敵な店だろう? ピアノは少し響きすぎるけどね。肋骨が震えるような音だ。何もこんな音で弾くことはないじゃないか。ねえ君、僕が冷たくなったなんてひどい嘘だよ。わかってくれた?
 仕事は楽だね。小さな運送会社で、大した意味もない誰かの荷物を運んで、街をぐるぐる廻るだけ。君の言う通り、働くなんてそんなもんだ。大手と違ってうるさいマニュアルはないし、仕事によっては特別手当が出る。おかげで君のバースディにこうしてご馳走することもできる。
 その家は入り組んだ路地の奥にあった。何度か一方通行を逆に走ったりして、ようやく着いた時はもう日が暮れかけていた。錆びた扉をノックしたら、古い椅子の影みたいに痩せた爺さんが出てきて、ほどいて二階の奥の部屋へ入れてくれ、って頼まれた。
「電灯を点けておいてくれ。スイッチは入口の脇だ」
 面倒くさいけど、特別手当の仕事だったからね。僕は荷物を抱えて階段を上った。軽かったよ。中身はただの黒い箱だったんだ。
 細長い部屋だった。奇妙に遠い窓の、カーテンの隙間から西日が差し込んで、両脇の壁を占領した大きな棚にうすく朱色を曳いていた。棚には黒々としたガラス瓶がびっしり並んでいた。
 嫌な場所だった。何て言うか、RPGのダンジョンで、分岐をひとつ見落としているせいで、幾らやっても辿り着いてしまうような、そんな場所。自分の世界がそこでループしていることを何度も突きつけられる感じだ。わかる?
 そのうち目が慣れてきて、ガラス瓶の中身が見えた。
「電灯を点けておいてくれ、って言わなかったか」
 すぐ後ろの壁に爺さんが立ってた。まるでシミみたいに黒かった。爺さんの肩口で、スイッチが奇妙に赤く光っていた。何か小さく尖った物があって、そこで薬とか血とかが渇いた、そんな色だ。
 もちろん僕は逃げようとした。でも駄目だった。僕が逃げるのを、僕の運んだ箱が邪魔していた。折り畳めば僕の一人くらいは軽く入る箱だ。
 それからどうしたって? 僕はこうして君と会っている。それが答えだ。来月には正社員になれる。君の願い通りね。
 つまり、世界には僕らの知らない法則で動いている部分があって、実は僕らが必要だと信じている大概のものは、無くても生きていけるんだ。例えば心臓とか、多分もっと大事なものでもね。
 知ってた?
 ピアノがうるさくて聞こえないって?
 ねえ。お願いがあるんだ。
 君の胸に、触ってみてもいいかい?