エントリ1
実存航 石川順一
膝に卵を擦りつけた男が死んだ
殻が四散し
膝で透明な白身と黄色い黄身が縞をなした
男の遺言による海葬が行われた
葬儀には怪僧ラスプーチンも招かれて
場を和ませた
小型飛行機を使ったエア散骨式は
男の遺言により地中海で行われた
「1+1=ニート」
と言いながら会葬者らによる
記念写真が撮られた直後に
散骨に合わせて破り捨てられて
地中海上空より紙片と化してばら撒かれた
四散した殻は正確に凝集して
男の骸骨を形作ろうとするのだが
いとも簡単に発散した
外光塗料による
放逐を受けて実存航した
エントリ2
無機質(ジギタリス単位) 金河南
28時間
水で薄められた折
ゆるう羽の 静脈を暴かれ
たおれ
シリシ.
(薄笑いは心臓に落ちる)
あの花は 毒を含み入れ
めぐりながら
隠し過ぎる
むせかえる匂いがひとつもふらさずに __ カチッ
(四.六七七 短針に落ちる)
死にました 注射から
書きねめる
あの花もなにも室内は
あまいいろみ
恐怖に澄んだひとみ 手にかける鳥
(ええ ハトです それも 灰色をした)
明日も
ひとひらたおれ
君を
遮光器にいれて保存するゆび __ シリシ.
エントリ3
水色について Tsu-Yo
*
澄んでいく記憶の端から
水色の汽車が走り出します
ため息や欠伸といった
水によく似たものたちを
揺れる貨車に詰め込んで
透きとおる空の下
滑らかなレールの上
どこまでも
どこまでも
水色の汽車は走っていきます
悲しくないときでも
涙は流れるようです
*
小さな女の子が
水色の目覚まし時計を
右の耳にあてています
長い針と短い針が
ゆっくり
ゆっくりと
廻る場所で
秒針だけが人間みたいです
水色の目覚まし時計からは
小さい生き物の
心臓の音がしました
*
今年も水色の巣箱に
ツバメが帰って来ます
あるいはもう
帰ってきている
かもしれません
ぽかん
と口を開けて
男の子が空を見上げています
その空にも
ぽかん
と大きな穴が開いています
お父さんが
鳥の骨はとても軽いのだ
と教えてくれました
よかった
還るところがあって
*
心とはなにか
そんなありふれた問いに
あなたは
なんと答えるでしょうか
わたしは
水色のなにかだと答えます
大切ななにかを思い出した
と言うときの
なにか
としか呼ぶことができないもの
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