エントリ1
ゆびひく雨 金河南
午前三時レコードの針が静かに街へと降り注ぐ
軒先で脱いだコートをほろうと
肘さきから春が蒸れた
道路をはさんだ紫色のスナックネオン
ときおり乗用車が半音低くして過ぎる
タイヤにさらわれた細い反射光が
まるで
ラジオのノイズのように
「 き」だけ耳に
彼女の唇
どうしようもなく恋でした 恋でした
妻子が眠りゆびひく雨を
間違いなど 一つもおかしていないのに
眺めていた道路の向こうがわでは
彼女の傘が鈍色と沈み遠く遠くへいたたまれる
ガードレールの切れ目に街路樹が泣きそぼり
淡いタイトルを吹き消して 針とレコードを割った
エントリ2
煙草 はなもとあお
指でおぼえた
空のかたちに
のぼってゆくけむり
あの日の夢のように
ひとくち
吸えば
過去が未来に変わる気がした
秋
エントリ3
幸福の種 Tsu-Yo
近所のホームセンターで、
“四つ葉のクローバーの種”
という商品を見つけたきみは、
ひどくがっかりしていた。
忙しなく暮れる日々の中で
小さな幸せを与えてくれるものは、
何処にでもありふれている
ごくごくつまらないものだったのだ。
けれど、本当にそうだろうか。
何処にでもありふれている
四つ葉のクローバーが、
しっかりと芽を出すために必要なこと。
それは、しっかりと水遣りをすること。
他の誰でもない、きみ自身が。
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