エントリ1
要説羅生門 くずゆ
割れた仏のひしゃげた鼻の
上で血を吐くホトトギス
惚れた腫れたも他人事
天辺欠けたか五重の塔
神酒をむさぼる肥えた坊主の
肉に群がるまだらの蛆も
燃えてしまえばすべて形無し
灰となっては皆同じ
埃踏みつけ泣く浪人の
涙混じった灰の雨
浴びていっそう黒々と
鈍く光るは羅生門
作者付記:芥川龍之介「羅生門」より
エントリ2
ひとつ Tsu-Yo
世界にはせっかく
朝と昼と夜があるっていうのに
わたしときたら
そのどれかひとつずつにしか
存在することができないのだ
さらにひどいことには
春と夏と秋と冬もどれかひとつだけ
それじゃあって
ちょっと数をかぞえてみれば
地球には70数億も人間がいて
でもやっぱり
わたしったらわたしひとり
絵具とか粘土とかみたいに
ぜんぶの ぜんぶを ぜんぶ
ぐっちゃ ぐっちゃの
ごっちゃ ごっちゃの
めっちゃ めっちゃにして
もうほんとうにひとつにできれば
死んじゃうことだって
ちっとも怖くなくなるのに
エントリ3
蜥蜴 石川順一
蜥蜴がゆすらの樹の下を
逍遥する
しばらく視野から消えない
庭の南西遇に近い所にある
木の影の下を動いて居るのが
私に見えて居る
縁台の近くの大木の下を
動いて居る時もあった蜥蜴は
吉兆を占う側面も有して居るのか
知らない
蜥蜴はなぜか庭では東西にしか動かない
プランターの白い卵は
もう孵化しただろうか
蜥蜴の卵は孵化すると
蜥蜴の赤ん坊は
卵の殻を食べるのだろうか
それを私は知らない
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