Entry1
言葉のない世界
もしも言葉のない世界なら
僕達は惑わされたり疑ったりすることもなく
もっと上手に分かりあえるだろうか
見つめるだけで
触れるだけで
全てが通じて
余計な約束や苦悩から解放されるのだろうか
僕が望む言葉を君が口にしたとしても
僕が伝えたい心をこの口から吐き出そうとしても
それが言葉にしか過ぎないことを僕は知っているから
僕はまた苦しみの迷宮の中に沈み込む
だから僕は君が望む全てになろうとする
たとえ絶望にうちひしがれようとも
僕はその言葉を愛し
その言葉を否定し
さまよいながら少しずつ前に進んで行く
この言葉の支配する世界の中で
有機機械
http://www.d2.dion.ne.jp/~syuki
サイト名■ORGANIC MACHINE
文字数17
↑TOP
Entry2
ダイノジ
もう聞こえなかった
自分の鼓動と呼吸以外、何も
もう見えなかった
眼前のチャンピオン以外、何も
リングの中央
右の拳に
真直ぐな信念を
陳腐な誇りを
あの日の約束を
彼女の祈りを
僕達の願いを
終わる生命を
全てを込めて、放った
血液と唾液に濡れたマウスピース
虚空を舞う
眩しいほどのライトに反射して
きらきらと
倒れる身体と、あっという間のテンカウント
ゴングが鳴り響く
歓声で、会場が震えた
うるさいなあと思いながら
負け犬は負け犬らしく
転がってることにした
大の字に
誇らしげに
Entry3
孤独の中で
止まってしまった。足を止めてしまった。
今までの反動か、呼吸は荒く乱れて喉で詰まる。
ずっと光を求めて走り続けてきたせいか、振り向いたら足元の闇は深くどす黒く成長していた。
太陽に軽い眩暈を感じ、崩れるようにその場にしゃがみ込む。
無関心に流れて行く人ごみに流れる談笑の声が嘲りに聞こえた。
耳を塞ぎ、頭を抱える。
けれどそれは走り続けてきた私の声。
止むことなく直接心に反響する。
雑音を払うため私は奇声を発した。
響き渡る叫びは誰にも届かない。
Entry4
みのむし。
寒いからさ。
そう、さむいから。
すべてが、寒いからさ。
手も
足も
顔も
空気も、
世間も
なにもかも。
着て、隠す。
恥ずかしいとか、何でも。
隠す。
見てくれとか本当の気持ちとか
隠す。
仮面じゃ覆えない。
全体じゃないと、
自分が消せない。
だってこの世界は
ずっと秋で
季節が回っても
ずっと秋で。
ただ秋で。
なにもかも中途半端で
めだたないように。
めだたないように。
みのむしになるんだ。
いつかは何になる。
知らない。
こんなありきたりな
禅問答いつまでも。
素顔隠し命隠し
まだ隠す なぜかなぜか
すぅと吸ってんぅと吐いて
みのむしはみなてんをあおぎ
いつか 隠さなくなる日がくるように
祈って いのって いのる
歌羽深空
http://www2.cyberworld.ne.jp/cubeic/index.html
サイト名■アンカァ*スプリンガァ
文字数281
↑TOP
Entry5
解剖と罪
解剖始め。
魚じゃない。蛙じゃない。
兎やネズミなんかじゃなく、
人間を解剖する。
そういう授業だから。
死体って呼ばない。
ご遺体って呼ぶ。
お婆さんだ。
隣の班はお爺さんだ。
皮を剥ぐ。薄く剥ぐ。
下の血管神経筋肉を傷めないように。
観察する。しっかり観察する。
どこに何があるか、覚えなくても観察はする。
目が痛い。鼻も痛い。
蒸発した防腐液は、ちょっとだけ有毒。
有毒ガスの充満した教室に、
二十五体のご遺体と、
百人の学生と五人の教官。
軽口なんか叩けない。
緊張しすぎて、疲れなんか感じない。
失敗したら大変だ。
慎重に、神経質に、
解剖は進む。
見づらい部分を見やすくする。
そのために、
頭部離断
左腕離断 右腕離断
腰部離断
左足離断 右足離断
じくじくと、感覚が麻痺する。
人間の感覚が麻痺していく。
軽口を叩く。
緊張もしないし、すごく疲れる。
早く終わらせたい。早く帰りたい。
今日は焼肉だ。
雑になる。
失敗しても気にせずに、
解剖は進む。
内臓を取り出す。
取り出さないと、中が観察できない。
心臓も切り取る。
ハート型ではない。
肝臓は大きい。
胃はぺちゃんこだ。
腸は長い。
心臓も、肝臓も、腸も、胃も、膵臓も、腎臓も、
とにかく全てを切り開いて、
中までじっくり観察だ。
どこに何があるか、覚える気が無くても観察はする。
献体は貴重な善意だ。
すみからすみまで観察だ。
すみからすみまで覚えられたら一番いいが、
体力がもたない。
解剖が終わる。
週に三回、昼から晩まで。
二ヶ月かかった。
やっと終わる。
バラバラになった体を、
なるべく元の位置に戻して、
棺に入れる。
ご遺族から預かっていた遺品を入れる。
黙祷する。
隣の班の女子が泣いている。
僕は泣かない。
お婆さん、さようなら。
でも、もし。
もし僕のお祖母さんだったら。
もし僕のお祖父さんだったら。
もし僕の大切な誰かだったら。
軽口を叩いている奴を許さない。
雑な奴も許さない。
疲れたなんて言わせない。
さーさーと、感覚が戻る。
人間の感覚が戻ってくる。
後悔する。
僕もきっと許されない。
許してあげる。
そう言ってくれる人がいない。
許されることのない罪が、
ここにある。
Entry6
君だけは譲れない
アタシのモノじゃなくても
アタシのモノじゃなくても
君が欲しい
アタシの勝手な欲望だけど
もうそんなこともどうでもいい
我慢できなくなる
君が欲しい
素直に頷いてよ
アタシにその身を捧げると
誓ってよ
今スグ
アタシのモノになってよ
Entry7
かくて月は廃寺に落つ
月の光はさらさらと
朽ちたる寺にそぞろ降る
天に傾く月の色
薄雲静かに寄りかかる
夜の憂いは三重の塔
荒庭見下ろし影落とす
闇に明るき月皎々
たださめざめと光を降らす
相川拓也
http://hp.vector.co.jp/authors/VA018368/
サイト名■iKawa's Telescope
文字数76
↑TOP
Entry8
ひぐらし
ああ、今目の前で一つの命が
息絶えようとしている
かすかに宙をかくその手は
いったい何を掴もうというのか
かすかになくその声は
いったい何を語ろうというのか
長く暗い闇で生きたその命は
いっときの光に何を見たのか
そして永劫続く差し迫る常闇に
何を思うのか
すべては私の想像の遠く及ばぬところなれど
今目の前で息絶えようとしている
一つの命を看取っている私に
その遠く及ばぬ何かが
私の内で生まれようとしている
気もするのだ
日も柔らかくなる午後6時
遠くに響く蝉時雨
さながら鎮魂歌のように
Entry9
カーテンの隙間
眠れない夜は
無理に眠らなくてもいい
起きなくてもいい
夜には夜の宝物
満月の時は夜でも雲は白いのです
優しい明るさを受け取って
その穏かな空間の中で
ひとときの贅沢を味わえばよいのです
Entry10
言霊
街に景色がない
歌に景色がない
心の中に
言葉の魔力で
浮かび上がる
景色が無い
言葉は命を失わない
言葉が映すに見合う
一瞬だけの
二つとない
景色が消えただけ
街に映るのは
人の心の
色とりどりに
飾り立てられた
哀しい心
言葉が映すのは
刹那的な
心の声
単純な
中身の無い
まやかしの
メッセージ
私が
私の言葉の力で
伝えたいのは
共有したいのは
人間の心の
深い深い奥底に眠る
重層な音色と景色
街のざわめきの表面を
すべっているだけじゃだめ
見えないものを
固く地を踏みしめて
張り詰めた心に映すの
そうすれば
きっと
言葉の魔力は
蘇えるはず
私の探しものも
見つかるはず
Entry11
日本零年背徳都市
国家の転覆計画を着々と進行させていた移民のテロ集団「メンタルテスト」の地下アジトが対立するグループ「伝脳」の手によるものと思われる新型爆弾PPバブルボムにより破壊されたのだが実はそれを企てたのは水面下で「伝脳」を指示していた他でもない我が国の国家元首絵ノ気主席でありしかしその絵ノ気主席も最近全世界を震撼させている新種のウイルス「ヒートン」に感染し高笑いのその口からミドリ色の液体を流しそれでもなお「ヤツらの仕業だヤツらを殺せ」と繰り返しながら死亡しテロ集団「メンタルテスト」の計画の第1弾である病原菌テロかと思われたのだが実は犯人は極右団体「想革連」とも繋がりがあるとも言われている抵抗勢力筆頭逆胃氏率いる「無尽会」の仕業であったのだがその「無尽会」も会合の際謎の食中毒でほとんどのメンバーが死亡し無政府状態になる事を危惧した国際機関「NNH=ネオナショナルヘルス」が国家再建に乗り出したのだが代表使者を乗せた飛行機が「メンタルテスト」最後の刺客コードネーム「d=daughter」により長年に渡り研究開発された体内発生型新世紀ガス開発者20人の夢の結晶「ニジュウムガス」を武器にハイジャックされたがこの飛行機もNNHから秘密裏に依頼を受けた民間組織「コールドブラッド」の特別極刑遂行隊により撃墜されこれと時をほぼ同じくして臨海副都心の巨大娯楽施設「KZ・パーク」に巨大キノコ雲が発生し暫定政府による国家非常事態宣言が発令されるのと同時刻に各新聞社に「憂名帝国」と名乗る組織から犯行声明が送られ国営テレビ「テレビジオンX」で声明文がついに公開された。
「ここに日本零年背徳都市の制定を宣言する」
ヨケ:マキル
http://www5.ocn.ne.jp/~yoke/
サイト名■hAsAmi
文字数687
↑TOP
Entry12
砂丘百年
古い坂はいつでも
少しずつ上へ向かっていた
どんな坂でもいつも
その先に境があって
しずかに上へ向かっていた
睫毛にかかる砂を払って
歩き続ければそれは丘の上
ひろげた腕は宙を裂き
抱えきれない風を掻く
三百六十度の世界は足元に
少しずつ下へ向かっていく
しずかに下へ向かっていく
大丈夫
誰が云わないとしても
誰も行ってしまうから
ただ歳をとって
ただ緩やかに小高い丘へ
さようなら
ただ緩やかに傾き
大きなカーブを描いていく
曲がり角はいつでも
その先に境があって
しずかに後ろへ消えていく
睫毛にかかる砂を払って
三百六十度の世界を足元に
もう
消えていくしかないのだ
狭宮良
http://www.fiberbit.net/~glazier
サイト名■漂砂鉱床
文字数261
↑TOP
Entry14
フリユクモノハ
君が帰ってくる夢を見て
涙ながらに目を覚ますと
そこはもう
黄昏の砂浜などではなく
畳のささくれ具合も深刻な
築十五年のアパートの一室
喉がカラカラに渇いているのは
君を求めて叫んだからではなく
コタツの温度設定が「強」になっていた為
残り油のこびりついたカップ麺の容器と
二つ折りの座布団に広がる涙のシミでは
自分自身からの同情さえ誘えなくて
――ひとしきり笑って
点けっぱなしだったデンキを消すと
汚いゴミ共が闇に沈んでくれたので
(――今からでも遅くはない、
“哀しみを堪えて窓辺に座る”くらいは
しておいた方がいいんじゃないか)と
夢の名残にそそのかされたが
その前にトイレに行きたくなってしまったので
とりあえずまたデンキを点けた ら
やっぱり部屋中ゴミ、ゴミ、ゴミで
涙なんて引っ込んでしまって
ひとしきり笑って
ひとしきり咳き込んで
「あとを追わないなんて約束、
しなけりゃよかったなぁ……」
思わせぶりに吐いたそんな言葉も
ギャラリーのいない今
室温二度の部屋に空しく漂うだけで
そうやって
回復の一途を辿る俺を
黄昏の砂浜に眠る君は
果たして許してくれるだろうか
――許さずにいてくれるだろうか
空回りする問いかけばかりが
埃のように心に積もり
俺は 君を忘れていく
Entry15
For You
空が光を覚えて 君の頬を照らす
好きといった夜を 思い出に変えて
いつも傍にいたはず 誰よりも近く
なのに観たことのない 君に出逢えた
抱きしめてもいい? 君が目を覚ますまで…
ゆっくりと時間が 淡い恋の色を染めて
やっと今 目に見える 姿になって表れた
何から始めれば いいのかわからないけど
とりあえず この想い 今日も君に伝えよう
遠く 儚く 冷たい 君を意識しては
戸惑ってた日々を 懐かしめるほどに
いつも君を感じて 今以上 深く
たとえ見えない未来 怖くなっても
キスをしてもいい? 君の閉じたまぶたに…
どうしても会えない 弱い自分が見えてしまうとき
きっとまた うつむいて 昨日を向いてしまうね
何度もつまづいて 立ち止まってしまっても
今日からは この僕の 右手を杖にすればいい
もう二度と 切ない 思いはさせないなんて
きっと口にすれば 嘘になってしまうから
何か誓うとすれば 失くした微笑みの欠片
少しずつ 見つけ出そう 今日も明日からも
ゆっくりと時間が 淡い恋の色を染めて
やっと今 目に見える 姿になって表れた
何から始めれば いいのかわからないけど
とりあえず この想い 今日も君に伝えよう
Entry16
ほんとう
「楽しいことだけをしよう」
そういって あなたは笑ったね
わたしも わらって 少しだけ泣いた
ふたりで過ごしたときは
ほんとうに楽しくて
楽しい事だけ 考えていられた
あなたは 優しかったし
わたしも 優しくできた
ふたりでいると 優しさだけが満ちあふれた
でも わかってる
楽しいだけの恋なんて
優しいだけの恋なんて
恋じゃない
恋じゃない
でも
ほんとうにしたかったんだ
Entry17
愛し人所
明日の夢に
今を見て
現の果ては
笑みの先
覆い隠して
頑なに
希望の陰は
苦行に同じ
希有な心を
この場に残し
流離い行けど
死に行くものと
すぐには抜けぬ
急く思い
そういうことと
ただ考えて
散り行くものは
月の輝き
諦観しては
遠くを見やる
涙流せど
憎めぬこの世
温もり求めて
眠りを厭い
登る先には
遙かな高み
人の頭を
ふわりと越えて
返事を忘れて
炎を掲げる
まだ先続き
見えぬ行く先
無為な言葉を
目から零して
黙して進む
やむことのない
雪のよな
夜のとばりも
雷鳴も
凛と足踏み
流浪は続く
連々恋々
露を結ぶ
我が行く先は
をし人所
Entry18
ラブ・ジェネレイション
無音
(九月、全ては、過ぎ去った)
花吹雪 と、見まごうが 指先 散るは 骨の粉
(風よ、どうか、吹くな)
乱れ髪 のような 宵 いつまでも 明けず
(静か)
わたしの、魂
あいつ、に売り渡したから、もう、
ない
「時には死んだフリして見せるのだ」
なんて云ってる間に、
暑い最中、本当に死んだ、
あいつに、
売り渡した
から、
ない
(昨日)
ひとりで眠るの、
怖い、
逃げ出したくって、気持ち
つぶったら
見えた、
モノに背中押されて、
屋上に上って、燃やした
一等好きだったブーツ以外、
全部
それから、
それ履いて、
家を出た
(気のせいかも知れない、でも)
かまわない
ゆけば
近づくはず
わずか、でもいい
どんなにか、
いい
(サボテン敷き詰めた乾いた黄色い道に出る)
いつしか
裸足
でも
今以上痛いことなんて
いっこもない、
平気、
デイジーのピンクのブーツ、見せられないの
が、少しだけ、
かなしい
毒々しいほど真っ朱に燃えて、
揺れてる、この花、なんだったっけ
ああ、
忘れちゃった
手折って髪に挿す、
乾いたくちびる、噛んで
風の中
(心で話しかけたって聞こえない、て知ってて)
わたし、相変わらず
誰もがオリジナルだと思っているけど、カバー、原型はおぼろ、
レコード跳ぶよに売れた曲、
ラジオで一回聴いただけで、鼻歌で穴埋めて起こした譜面
が店頭に並ぶ国
に、住んでるよ
ねえ、おかしいでしょう、
なんて
(こりずに何度も、何度でも、)
あなた、あの屋上で夕べわたし、が焚いた火見えたから
戻って来たんでしょう
うんと、きれいだったから
来たんでしょう
(影長く伸びる塔のような建物の裏で待っているよ、な気がしてならない)
早く
ゆかなくちゃ
思い出せなくなる
前に
声
聞かなくちゃ
かかと裂けて、砂、混じっても、
平気
ゆくから
走ってゆくから、
首へし折れて
ブッ壊れるまで、
ぎゅ、ぎゅ、て
して
身体の内、全部あなたに、
して
そしたら
うんと、
ううんと小さく小さくなるから、
ポッケに入れて、どうか
どうか、
連れてって
(全部)
(気のせい)
(だって、)
ねえ、
時には死んだフリして見せる、
時には死んだフリして見せるのだ、
なんて
そこで、歌ってるんでしょう
(かまわない)
ねえ、
そこで、
歌ってるんでしょう
Entry19
雨宿り
部屋の窓から ほおづえをついて
くすんだ町並みを見ている
明るい昼下がり
雨が ラジオのノイズみたいに
あなたといっしょにいて もう
ずいぶん経つけど
いままで
どんなに いっしょうけんめい
伝えてみても
どんなに 涙を流して
叫んでみても
わかってくれないことが
ひとつだけ あるの
それはわたしの我が侭 かもしれないけど
いつか気付いてほしいって
ずっと思ってる こんなこと言ったら
あなたはきっと 困った顔を
すると思うけど
冷えた空気が 腕の表面を
ゆるゆら と這っていく
窓枠に テントウムシ
背中に 情熱と不安をのせて雨宿り
でもね でも
あなたにわかってほしいけど
わかってもらいたいけど ほんとうは
わかってくれなくてもいい って
頭のどこかで 思ってるのかもしれない
そんなこと言ったら
あなたはますます 困るでしょうね
部屋の窓から ためいきをついて
ぼやけたミライを見ている
明るい昼下がり
わたしはこうして 今日も
あなたの帰りを待っている
空人
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Shikibu/6650/top.html
サイト名■白夜のカフェ。
文字数420
↑TOP
Entry20
キョウキ
凶器を持って歩く
街中を堂々と
対象は無差別
時にそれを幼い子供に押しつけてみたり
地雷のように道に置いたり
偶然となり合わせた女の服を狙ってもいい
誰もそれを咎めたりしない
ただ時々嫌そうな顔と遭遇するだけ
涼しい顔して持つ
街中を堂々と
相手は誰でもいい
時にそれを走る車から放り投げてみたり
その後ろから来るバイクにぶつけてみたり
流れる煙をとなり合わせた男に吹き付けてもいい
誰もそれを罪だとは言わない
ただ咳払いと冷たい視線が投げつけられるだけ
凶器を持ってる
指と指の間にあるその小さい物体は
火の付いた罪悪感のない凶器
持ってる本人だけが
その狂気に気が付かない
Entry21
立待ち寝待ち
一日がまた
昔のものに成り果てました
ぼんやりとした白熱灯の灯りが
庭の
隅の
蜘蛛の
網で
待ち呆ける
蝶の
姿を
映し出します
わたくしは小さな声で
蝶にこう云いました
其の身体をお引き留めになった御方は
まだお戻りぢゃありませんか
わたくしを此処に留めさせる御方も
まだお戻りにならないのです
待ち草臥れたのでしょう
蝶は柔らかな網に抱かれ
静かな眠りに就きました
友人を亡くしてわたくしは
また独り待ちぼうけです
それにしても本当に
貴方は何処にいらっしゃるのでしょう
部屋の
隅で
干乾びて
動かない
小さな
灰色の
蜘蛛の
様に
捕らえたものを
焦らしておいでなのでしょうか
Entry22
36℃の彷徨
この時が刹那だったら
と思うほど眩し過ぎる午後
赤煉瓦倉庫はその身に蓄えた陽炎を吐き出し
海は相変わらずぼんやりと宇宙を見上げその身に映し重ねている
そんな日に二人はジャグリングを見に山下公園へ
蜃気楼さえ浮かびそうな海を背景に炎を吹く男が叫び続ける
巻き上がる潮風が痛い
スピーカーから溢れ出す声が暑い
君のうなじを滑る汗が輝いて熱を発する
鮮明な海の色が一瞬たりとも落ち着く事無くグラデーションを描きながら世界を回す僕は
男の炎を体に纏い宇宙だと思いこんでいる暑さに発狂した波間で無重力遊泳を体感し……
……ようとして居たかも知れない
一瞬の彷徨の後
我を忘れそうな自分に気づき
僕の存在を確かめるために
君の手を
探り
強く
握る
暑いよ
冷めた
君の
言葉
あぁ僕は此処にいる
Entry23
しっている
あの角にあるうすいグレーの壁のお家
少し改築の跡が見える
どちらかというと小さめのお家
あの中には新婚さんが住んでいる
しっかり者の奥さんと
働き者の旦那さん
お家の中がどんなだか そこまで知りはしないけど
二人の会話がどんなだか そこまで知りはしないけど
私は知っている
働き者の旦那さんは 案外と手がキレイだということを
働き者の旦那さんが さらさらとすべる肌の持ち主だということを
働き者の旦那さんの とろりと甘えるくちびるとその視線を
私は知っている
消化しきれない熱い想いを
踏み出さなければ伝わらないことを
踏み出せば崩れることを
踏み出さなければ始まらないことを
踏み出せば何もかも終わってしまうことを
私は知っている
あのお家の壁のグレーは
くすぶる私の心から立ち昇る
煤の色だということを
凛
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Shikibu/4054/
サイト名■as-a-crystal
文字数332
↑TOP
Entry24
『戦士と剣』
戦士は剣をとる。
「この剣は俺なのだ」
己に言い聞かせる。
「この剣は俺なのだ」
じっと剣を見つめる――魅入られるたかのように。
剣は刃こぼれ一つなく、ぎらぎらと輝く。粘着くような輝きは、人肉を刻んで骨を断ち割る日を夢見ている。
刃毀れひとつないその剣は、いまだ人を斬ったことがない。ただ、戦士の手のなかで研かれ、血脂に塗れる日を夢見ている。
戦士は剣をとる。
厳つい手が剣の柄を握り、しっかりと構える。ぎらりと、剣は輝く。
鍛え抜かれた刃は殺人の意志となり道具となり、それ以外の何者であることもなく、それ以上の意味を持つこともない。
厳つい手が、構えた剣を振り抜く。空気が迸る。銀光が閃く。
剣は、両断されて左右に剥がれる血肉を夢想し、曇りひとつない刀身を輝かせる。その身が赤く染まる日を夢想し、輝き悶える。
戦士は剣をとる。
「この剣は俺なのだ」
己に言い聞かせる。
「この剣は俺なのだ」
じっと剣を見つめる――輝きをひたすらに。
厳つい手が剣を構える。剣は振り抜かれる寸前の姿勢で、その瞬間を待ちわび、ぎらりと輝く。
厳つい手は、しかし、剣を構えたまま振り抜かず。まるで、剣を抑えつけるかのように、ぴたりと動かない。構えたまま、微動だにしない。
剣はその身を震わせる。その意味をまっとうせんと、厳つい手のなかで殺人の意志を輝かせる。
戦士は剣をとる。
厳つい手で剣をとり、構えたまま動かない。
戦士は待っている。
いつか、剣の輝きに、剣であること以外の光が灯る日を。
Entry25
線香
やつれたとかげの硬い干物
くじらの骨でできたブーメラン
雌しべに蜜が塗ってあるブーゲンビリアの造花
椰子の葉のすすで艶汚れた木の枝
カブトガニの甲羅のとげ
雲の形だけをスケッチしたノート
おばあちゃんの手紙用の切手帳
行った国で拾った葉っぱをいれたガラス瓶
化石と土人形のための引き出し
サソリと蝶が重なった標本
コピー機でとった家族の手形
私の胃の中にはこれらに関するものがずんぐり居座っている
定期的に消化液が噴出し
絶えず消化されつづけている
私は目覚めると水を飲み日常の運動と三度の食事をする
胃の動きに血流を集中させ
常に栄養を与えつづけている
季節の変わり目に吹く風を感じると
それらは細胞の隙間にはいりこみ
控えめに喚きはじめる
声色が道先を照らし
吐息は一斉に這い出す
私は生きた線香をかおる
詠理
http://aea.to/kitai
サイト名■危殆の妙趣
文字数28
↑TOP
Entry26
傍に
たとえば仕事の帰り道で
すとんと降りてくるのは
あなたが傍にいないという事実
近付いてくる車のヘッドライトが
私の全身を包んだかと思うと
あっという間に放り出される
街灯には羽虫が群がり
人々の声はどこかへ吸い込まれていく
いつものように電話が鳴る
あなたを感じられる僅かな時間
一日のストレスは細胞の中から解かれ
あなたの腕の中にいるような
柔らかい気持ちでいっぱいになる
それなのに
電話を切ったとたんに降りてくるのは
やっぱり
あなたが傍にいないという事実
Entry27
砂漠の心
海を見つめていたよ 流れる波に 吸込まれそうさ
誘き寄せられ あんたの罠に嵌ってあげる
あたしの心も身体も みんなあんたにくれてやる
狙っているのは あんただけじゃないからね
どうにかしなよ はやく はやく
空を見つめていたよ 流れる雲に 溶け込みそうさ
こころ躍らされ あんたの願い聞いてあげる
あたしの匂いも影までも みんなあんたにくれてやる
狙っているのは あんただけじゃないからね
どうにかしないと はやく はやく
我 切なき荒野にて あてどもなしに歩き続ける
いさぎよき 汗が髪を 滴るる
乱れて 泣いて 喚いても
砕け落ちる太陽を夢見て 眠るのさ
どうにかしな もう何年 歩くのさ
あたしが 水の中の魚になれるのは いつ
どうにかしなよ はやく はやく
あたしが 枯れて 砂になって なくなる前に
さと
http://members.goo.ne.jp/home/kei5yns
サイト名■光のトンネル
文字数337
↑TOP
Entry28
落日病・改
天使ばかり夢見すぎて
落日病にかかったので
全てがどうでもよくなるくらい
熱に浮かされているのです
恋の終りはあっけなくて
溜息に散る思いでばかり
残ったのは夢の記憶ばかりで
取り出しては齧ってみる
空 鮮烈(あか)すぎて目に辛くて
天使ばかり夢見すぎて
落日病にかかったので
独りでいるのが辛いくらいに
赤く滲んでしまうのです
夕陽の赤が血に溶けて
カーテンを締めてうづくまる
背中に溜まる汗の雫だけ
氷点下で赤に染まらない
空ハ青空、君ハ遥カ
夏ノ日ノ下、砂ニ遊ブ
僕ノ想イハ届クコトモ無ク
地ニ落チテ尚モ燃エ盛ル!
天使ばかり夢見すぎて
落日病にかかったので
全てがどうでもよくなるくらい
熱に浮かされているのです
ながしろばんり
http://www5a.biglobe.ne.jp/~banric/equinox/
サイト名■Equinox.
文字数286
↑TOP
Entry29
私が詩人について知っている些細な事柄
「詩人」と
「愚か者」が
同義である
ということを
知らないのは
詩人だけである
Entry30
飲み干せるだろうか?
家具を取っ払った部屋には
何も無い
チリも
ホコリも
ゴミも
自分がいたキオクも
ミキのカゲも
小さい部屋にあった
彼女の背中は
それでも小さく見えて
いとおしかった
そして
少し悲しくもあった
「もう荷物はないですか?」
引越し屋のオヤジが
事務的にそう言う
「……はい」
それだけを僕は言った
壁にあるキズは
かえってくるはずだった
敷金で直すらしい
壁のキズは直っても
結局
テレビのリモコンと
僕らの関係は直らなかった
「サイテー!……モウ、ドウデモイイヨ。ワカレヨ」
トラックに積まれ
荷物は去ってゆく
見送って
僕はよく冷えた缶コーヒーを買った
――飲み干せればいいのに――
しかたなく捨てた
枯れたポトスに
最後のオモイのような
朝露が光っていた
Entry31
Ippyou〜某昼番組の如く一票だけを獲得する為に作られた哀れな作品
何だ 何だよ? 何か悪いか?
ど〜せ おいらは3流さ
どうあがいてもBクラス
カラオケ 6人 歌って騒いで
それでもおいらがマイクを持てば
「ごめんね ちょっとお手洗いに」って
部屋はガラガラ 独りで熱唱
そんな おいらの 最新情報
彼女にふられた こっぴどく
そうだ そうだよ! そんなもんだべ!
ど〜せ 2票は取れないさ
とか言いながら、心じゃ… ムフフ
YamaRyoh
http://presents-yr.hp.infoseek.co.jp
サイト名■YamaRyohPRESENTS official website
文字数168
↑TOP
Entry32
湾の午後
海の上に厚い雲がせり出している。雲の底はゆっくり渦を巻いている。
雲の切れ間から、湾のむかいの町の半分に九月の陽光が注がれている。
残り半分は雲の底から絞り出される雨に洗われている。
町は海にむかって駆け下りる山の中腹にへばりついている。
町の真ん中あたり、雨と晴れの境目で、教会の白壁に虹色の影がこぼれて。
僕は右手で乾いた砂をまさぐり、左手で彼女の髪に触れている。
僕らは流木の上に座って手紙を読んでいる。差出人は古い友人。
読み終えぬうちに、彼女は眠くなったと言って僕の膝に頭をのせた。
町には雨が降り続けている。
髄鞘のような雨の一滴一滴が空と地面を結びつける、その、一瞬の音をとらえようと耳を澄ます。
(雨の中を鳥が横切る)
(雨の中の風が)
(雨の中の鳥と)
(雲の上の雲に)
(湿った吐息を腿に感じながら、僕は)
雲は湾を横断し、僕らの座る浜辺に恩寵を与える。
雨は黄色い砂埃をあげながら地面に激突し、弾かれて、水銀のように丸まって転がる。
彼女は僕の腕をとらえ、部屋に入ろうと言う。
「泳いでくる」
僕は彼女の指を振りほどき、小さな波を踏みこえて海にもどる。
無数の水滴が海面を叩く。
僕は水のあいだを飛び跳ね、潜り、背中を波にあずけて力を抜いた。
雨は僕の顔と胸から塩と苦くてどろどろしたものを洗い流してくれる。
両腕で膝を抱える。
浮力を失った身体はずぶずぶと海中に沈み、温かな水が耳管を満たす。
貝殻に似た耳蓋の内側で、小さな骨が震える。
(静かに、とても静かに)
かすかな雨音が聞こえ始める。
Entry33
バーン
ガーン そしてドーン
なおかつギューン
ギューン?
いやいやいや
いやあ、違うなあ
嘘 ギューンは嘘ね
さてと ひっくり返った椅子をもう一度立てまして
見ててね 見ててよ
ガーン そしてドーン
なおかつギューン
ギューン?
良いねえギューン ギューン良いねえ
ギューンは良いよ うん 納得だ ギューン最高
よし
出来た
ねえ
ちかちかと眩しいガラス窓の向こう側には良く見ると
ゆっくりと静かに風が吹いているんだね
サンドイッチでも食べようか
Entry34
明星
夜空に輝く、一番星になりたくて…
悲しい時も、寂しい時も、一番に見つけてもらえる。
そんな明星になりたくて…
今あなたは僕の事を覚えてくれてますか?
僕の顔も、声も、こころも、
すべて過去になってしまったのではないですか・・・?
愛し合った過去は、あなたの見つけた一番星。
消え去った今は・・・?
沈んでしまった、僕が見失った一番星…
あの明星は、また朝がくれば見つけることができるけど
あなたはまた僕を見つけてくれますか?
僕はまたあなたという星に巡りあえますか?
僕は沈んだ明星、闇に紛れ、暗がりであの時の君を探してる・・・
|