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第3回高校生1000字小説バトル
Entry5

Love is too young to know what conscience is.

作者 : KAZU
Website :
文字数 : 904
 「香織はもう出ましたが……」
 その言葉が、僕を走らせた。

 夕焼けが、雨に濡れた坂道を黄色に照らす。
 胸が苦しい。砂利を跳ねとばしながら、僕は坂のてっぺんにある
停留所へ走った。香織がバスを待っている停留所へ……。
 「……わたし、東京の大学いくんだ。でね、医者になるの……」
香織の言葉が頭をよぎる。
 東京……会いに行くにはあまりにも遠すぎる場所だ。なんで東京
なんかに行っちゃうんだよ。ずっと香織のそばにいたいのに。
 でも分かっていた。夢を追う彼女を、僕一人のわがままで止める
ことはできないんだ。分かっているさ。
 だけど、僕は香織に伝えたかった。胸を焼く、この想いを。
 今を逃したら、香織に二度と会えないような気がするから……。

 ……陽は沈み、時は刻一刻と消えていく。気持ちばかりが先走っ
て、足がもつれる。
 僕は額の汗をこぶしではらって、最後の急斜面を駆け登った。
 ……香織はまだ、そこにいた。スーツケース1つを持って。
 次の瞬間、バスのヘッドライトが走る僕のすぐ横を轟音と共に駆
けぬけた。

 「待ってくれ」大声で叫んだつもりだったが、声は情けないほど
小さくかった。
 バスが停車場に止まる。乗客は一人もいなかった。
 香織がバスのステップに足をかける。
 「香織!」香織が振り向く。僕はドアに倒れこんだ。
 あわてて香織が僕に手を貸してくれた。
 「雄輝……どうしたの?」とまどいの視線が、荒く息をつく僕を
見つめる。思わず目をふせる僕。
 ……くそ。どう切り出したらいいんだ。何か言わなければ……。
 「……医者になったら、また帰ってこいよな」

 どうしてこうブッきらぼうな口調になるっちゃうんだ? 香織の
顔がふっと曇る。そうだよ、香織だって好きで出ていくわけじゃな
いんだ。

 「うん。雄輝とは少しだけお別れだね」
 何してんだ、早く言えよ!
 「また……ここで、会えるよな……?」

 香織の目が、優しくほほえんだ。言葉は風となって、心のすき間
を満たした。
 「会えるよ……」
 僕の目の前でドアがゆっくりと閉まり、バスは走り出した。  
 手を振る香織の姿が、坂の下に少しずつ消えていく。
 バスが行ってしまった後も、僕は動けなかった。   
  ……これで良かったのだろうか?
 想いは伝わったはずなのに、気分はさっぱりするどころか、いよ
いよ激しく僕を動かそうとする。分かっているはずだろ。夢を追う
彼女を、僕一人のわがままで止めることはできないんだ。分かって
いるさ。ワカッテ……。

 「じゃあ、なんで泣いてるんだよ」






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