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第4回高校生1000字小説バトル
Entry7

セロリ

作者 : Ruima
Website :
文字数 : 999
 瀬川奈純、早馬裕行。出席番号が1つ違いで席は隣同士。
 自分で言うのもなんだけどマジメで頭の硬い私に対して、お調子
者でふざけてばかりの彼。私は彼が嫌いだった。というか、苦手だ
った。

 彼は私が苦労してやった宿題、5分で写しちゃうから。
 彼はすぐに私のこと「眉間に皺寄ってるぞ」ってからかうから。
 彼は私が怒るようなことばかりするから。
 彼は私が怒っても笑ってるから。
 彼は何を考えてるのか全然わからないから。

 気が付くと、頭の中は彼への怒りと不満でいっぱいだった。
 他の事を考えたくても彼は目立つから目に入ってしまう。いつも
いつも、彼を中心に起こる笑い声。

 私と彼が日直だった放課後。日誌書くの絶対サボるだろうなって
思ってた彼はちゃんと来た。そのくせ手伝うわけでもなく、ただ私
の顔を見ているだけ。2人きりの教室。

「なんかさー」
「何?」
「瀬川って、セロリ」

 ……。

「セロリって、あの野菜のセロリよね」
 確かめた私に、彼は珍しく神妙な顔で頷いた。

 セロリ。
 私がこの世で唯一嫌いな食べ物。
 友達の中でも嫌いな人が圧倒的な野菜。

 私がその、セロリ?

 不満だったけど、とりあえず私は少し考えて言った。
「じゃあ、あんたはピーマン」

「何それ、どういう意味?」
「頭の中、空っぽってことよ」
「ひっでえなー」

 彼は笑った。その顔が赤いのは、窓から差し込む夕日のせい。
 ……よね?

 次の日の休み時間、新聞部の子が席に回ってきた。アンケート。
好きな野菜と嫌いな野菜。……一体どんな記事なんだか。
 とりあえず、嫌いな野菜は迷わずセロリ。好きな野菜も少し考え
て口にする。

 彼女は次に彼の方を向いた。多分アンケートに気づいていたんだ
ろう。彼女が声を掛ける前から彼は友達とこっちを見ていた。

 好きな野菜は、何ですか?

「早馬はあれだろ? ほんと好きだよなー」
「あれが大好きっていう人も珍しいって。俺、大っ嫌い」
「そうそう、あれ」

「セロリ!」

 チャイムが鳴り友達が散ると、彼はゆっくりと、どこかぎこちな
く私の方を向いた。少し不機嫌そうに。ちょっと気まずそうに。

「偶然じゃ、ないからな」

 それから私は、多分彼よりもっと不機嫌そうに言った。
「私は偶然だからね」

 不覚だった。

『好きな野菜は、何ですか?』

 ピーマン。

 彼がおかしそうに笑う。
「期待していい?」
「偶然だって言ってるでしょ!」

 そう。これは本当に偶然。
 絶対、……多分、本当に。






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