インディーズバトルマガジン QBOOKS

第5回高校生1000字小説バトル
Entry7

Do I believe you?

作者 : 隠葉くぬぎ
Website : http://www.geicities.co.jp/PlayTown-Denei/1955
文字数 : 999
 どうしよう。笑いが止まらない。
 わかってる。わかってるんだ。さっきの、あのことが原因だって
事。
 
 「一緒に帰ろう」
 この言葉を言う時だけ、馬鹿やれる友達で良かった、と思う。あ
いつの取り巻きがいつもの様にざわりとしたけれど、気にもとめな
いで、良いよ、と笑う。眩しい。
 「えぇぇ。翼くん帰っちゃうのぉ」
 甘ったるい声でいう取り巻きの一人が、翼の手を取りつつ言う。
ああ、じゃあな、とその手をかわして私の方へ歩いてくる。その時
にいつも思う。神様ありがとう。私にはあんな風に手を取ることは
許されていないけれど、馬鹿な冗談を言って笑う権利がある。
 翼とこうして帰れるのは電車が一緒だからなのだ。学年でも私と
翼しか使っていないマイナーな路線。
 がたんと揺れた電車の中でも翼は浮いている。私のひいき目で何
でも無く、翼は格好良い。光を放っている。翼、なんて凄い名前も
あいつだから名前負けしない。取り巻きなんてのがいるのもこいつ
ならわかる。男に使う言葉じゃないかも知れないけど、美人なんだ。
 何ボーっとしてんだよ。笑って言う。いつもと同じ馬鹿にした調
子で。取り巻きの娘にはこんな事言わない。もっとずっと優しい言
葉を掛けてやるんだ。何でもないっつーの。私も笑って言う。ずき
んと心が痛む。
 またな、と笑って手を振って翼が遠ざかる。毎日の当たり前のこ
とだ。翼はここで乗り換えて、私はバスに乗って帰る。小さくなっ
ていく翼の背中が耐えられなくて私は走った。追いかける。信じら
れない。私は大丈夫ですか、神様。翼の手を……私は大丈夫?この
居心地の良い空間を壊してしまうかもしれないのよ。でも、翼は私
を違う扱いをしているじゃないの。でも、こうして帰ることは二度
と出来なくなるかも知れない……。
 私は翼の無防備な手を追いかけて、触れた。何気なく翼が振り返
る。少し驚いたような顔をして、どうしたんだよ、とすぐにいつも
の顔で訊いた。
 「翼が好き」
 目を見られない。翼はどんな顔をしてる?返事は? 少女マンガ
みたいな答えはしなくて、良い。私とわざわざ目を合わせて俺もだ
よ、とか。期待していないわけじゃないけど、しなくて良い。ただ、
頷く気配があるだけで良いのに。
 ああ、神様。私にはやはり、手に触れる権利はないんでしょうか。 

 どうしよう。笑いが止まらない。
 布団に突っ伏して肩を震わせるくらい。
 どうしよう。止まらないのは、笑いなんだろうか、涙なんだろう
か。






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