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第9回高校生1000字小説バトル
Entry2

2月14日

作者 : AOI
Website :
文字数 : 1000
 橋立拓巳。二月十四日に僕はこの名で生を授かった。
しかし、生まれてこのかたチョコレートなど貰った事が無い。
それどころか、母には誕生日プレゼントと一緒にされるのである。
いい迷惑だ。

 そして、十八年目の今日がやって来た。
いつもの通学路。学校の校門の所でつまずいた。何か他人の赤い糸
に引っ掛かったみたいで気分が悪い。
少し立て付けの悪い教室の扉を開けると、男どもがやって来た。
元来、何故か男にはもてる。その為、友人には事欠かなかった。
「拓巳、昨日のテレビ見た?」
こいつらには、クリスマスも正月もバレンタインも関係無いんだろ
うと真面目にそう思った。
「拓巳、聞いてる?」
はぁ……。

 ――チャイムが終礼を告げると、一斉に人の波が外へ流れて行く。
がらんとした教室を、今年も零個か…と考えながら出て行った。
「よっ、拓巳」
そこには、悪友の翔太が立っていた。
「なんだよ…」
力無く答えると、翔太は待ってましたとばかりにバレンタインの話
題を持って来た。
「今年も十個貰っちゃた。お前は?」
わざと聞いているのは分かっていたので、一瞥して歩き出した。
何故だか翔太は女にもてる。ただのお調子者なのだが…。
「わりぃわりぃ。許してくれよ」
追い着いて来た翔太は、磊落な笑顔でそう言った。
この笑顔の前では何故か許さざるをおえないのである。女にもてる
のは、この笑顔のお陰かも知れない。
「はいはい」
僕は軽く聞き流すようにそう言うと、靴箱の扉を開けた。
すると、白い封筒が天使の羽根の如く舞い下りた。
小柄な分、素早い翔太がそれを拾い上げると、声を出して読み出し
た。
「えーと、午後六時に体育館裏で待ってます。だと」
「うそつけ」
奪い返した紙には確かにそう書いてあった。
「頑張れよ」
そう言い、肩を叩いた翔太は確かに格好良かった。

 だいぶ日の長くなった空を背に、渡り廊下をゆっくり体育館に向
った。
汗ばむ手を握り締め、体育館の角を曲がる。
居た。ロングヘアーの小柄な女の子。
肩は小刻みに震えている。
声を掛けるか戸惑ったが、勇気を振り絞り喋りかけた。
「あの」
肩が一瞬ビクッとなったが、すぐにこちらを振り向いた。
そこに居たのは、口紅を口裂け女の様に塗った……翔太だった。
そして、僕の肩を叩きながら磊落な笑顔でこう言った。
「ハッピーバースデー!」
頭の中が真っ白な僕に対し、もう一言付け加えた。
「私、奇麗?」
僕は無性にやるせなくて、こう叫ぶしかなかった。
「あほーーー!」






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