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第9回高校生1000字小説バトル
Entry3

自転車

作者 : Ruima
Website :
文字数 : 989
 私の愛車は少し古い赤の自転車。間違えてもマウンテンバイクな
んかじゃない、いわゆるママチャリ。
 そのペダルに左足をかけ、サドルをぎゅっと握る。それから右足
で思いっきり地面を蹴る。それが、スタート。
 風を切って私は走る、走る、走る。視界を流れる家と緑の中、ぐ
んぐんと。速く、速く、誰よりも速く!

 電車のない辺鄙な田舎町。滅多に車の通らない広くまっすぐな一
本道を、自転車で走っていると、妙に心強く爽快な気分。
 前方に、青い自転車に乗った同い年くらいの男の後ろ姿。我なが
ら趣味悪いとは思うけど、人を抜かすのは嫌いじゃない。ペダルを
こぐ速度を少しだけ上げる。男の姿が近づき、それから後ろへ。さ
さやかな優越感、快感。私はますます高揚した気分で塾までの道を
走る。

 ……と、いつもはこうなるはずだった。ところが私が抜いてすぐ、
抜いたばかりの男がスピードを上げ、横に並んできた。ちょっとむ
っとしてそっちを見ると、勝気な笑顔。いいわよ、勝負してやろう
じゃない。
 私は強くペダルを踏み込んだ。私が加速すると彼も加速する。彼
が加速すれば、私も加速する。燃え上がる対抗心。私達は夕暮れの
田舎道を、猛烈な勢いで走った。

 お互い真剣に、前を見据えて。絶対に速度は落とせなかった。
 けれどそれでも微妙に遅れそうになり、私は自分の籠に入ってい
たリュックを彼の籠の中に投げ入れた。驚く彼。お互い少しだけス
ピードが落ちる。初めて聞く声。初めての会話。
「何するんだよ、ずるいぞ!」
「いいじゃないの。男女の差があるんだもの。ハンデよ」
 私が実はかなり疲れてきたのに対し、彼はまだまだ余裕って顔だ
ったから。ちょっとずるかったかな、と思いつつも、私は軽くなっ
た自転車で再び彼の横に並んだ。
 そういえば、曲がるべき道はいつの間にかとっくに過ぎている。
しまった、と思うがここで止まるのも癪だ。ちらりと横を見ると、
彼のクリアケースの中に私と同じ予備校のテキスト。なんだか嬉し
くておかしくて。
「ねえ、あなた、18になったら車の免許、取る気ある?」
「あるけど、友達が取るなって」
「私も!」
 風の中、私達は笑った。口をぽかんと開けたおばさん達が、視界
に入ったかと思うと一瞬で後ろへ。止まる気なんかさらさらない。
このまま全速力で、力尽きるまで走ってやる。

 もう誰にも止められない。自分にだって止められない。
 だって私はスピード狂だから。






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