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QBOOKS第4回学生作者限定テーマ付き1000字小説バトル

エントリ 作品 作者 文字数
1カエル暇 唯人697
2白が怖い香月1019
3スパークしてもこうなるのは僕(ら)だけ歌羽深空1000
4白の誘惑隠葉くぬぎ1000
5煙師スナ2号1000
6潅涙関口葉月1000
7(作者の希望により掲載を終了いたしました)
 
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エントリ1  カエル     暇 唯人


生きとし生ける者は全て白に還る それが自然の定理。
自らの脚でサバンナを駆け巡るライオンも、木の上でほぼ一生を過ごすナマケモノも白に還る。
その身の骨を曝け出し、生きていた証と屈強さを残す。

白に還る前に、全ての者は紅い血を遺す。
その鮮血は他の者の生きる糧となるだろう。

ワシも長い間生きた。 あとは他の者に譲ることにする。
長い間他の者を狩り、それらの肉で腹を満たし、また次のを狩ろうとする。
それの繰り返しだった。

その生きた中で一度だけ、死を覚悟したことがある。
狩りができる体力が無くなり、動けない状態だった。
そして、3頭のハイエナが此方の方へ向かってくるのがわかった。
その時、ワシは本当に死を覚悟したのだ。

いくらワシが強靭な牙を持ち、洗練された爪を持っていたとしても、
それを動かす体が動かないのでは、兔と同じだ。いや、兔より下だ。
3頭の蒼い眼のハイエナが近づいてくる、ワシを見つけた様子で案の定、ワシを囲んだ。
「 おい、なんだこいつ もうくたばりかけだぞ 」
「 喰っちまうのもいいが、こんな肋骨が丸見えなの喰っても美味しくなさそうだ 」
「 確かに、こんなんじゃ腹の足しにもならねぇな 」
「 おい、じゃあ行くぞ 」
その直後だった、一瞬だけ力が甦り、1頭のハイエナに飛びついた。
死力を振り絞り、ハイエナの体に噛み付く。鮮血が滲み出、大地に滴る。
その時のワシは理性を完全に失っていた。 
その後見たものは大地に付いたまだ乾ききっていない血と肉片の一片も付いていない骨だけだった。

そして、ワシは今度こそ死そうとしている。自然の則に従い、還るために。
この後ワシは、ゆっくり還る。 時間をかけて白に還る。

今度こそ。






エントリ2  白が怖い     香月


きっと、ずっとこのままなのかもしれない。

「先生、体調がすぐれないので早退します。」

「先生、俺もです。」

先生は、ちらりとこっちを見て、「どうぞ」と言った。
もう、目すら見てくれない。ま、あたりまえのことかもしれないけれど。
私達はいわゆる『問題児』というもので、別に授業を妨害したりとか、頭が悪くてしかたない、とかではないのだが、協調性というものが極端に欠けている。
たとえばクラスで何人かのグループを作れといわれても、私とあいつは余ってしまう。たとえ、面倒見のいい学級委員タイプが誘ってきたとしても、決してそこに入ることはできない。
簡単に心を開くことのできる、また、開いているフリができる皆さんを尊敬します。

自転車で、あいつの後ろに乗ることが日課なり。背中の温度と、あたしの温度が交じり合う。
このまま、どこかにいってしまいそうになる。

「今日、家行ってもいい?」

「らじゃ〜」

あいつの部屋は、私の逃げ場。この世界から一人、解放されてしまうことを、唯一防いでくれる場所。ここの匂いも、音も、全部が好き。
学校で噂になっていると聞いたことがあるけれど、私とあいつは恋人ではない。
ただいつも、一緒にいるだけ。お互いの、生を確認するために。

「キスしていい?」

無言で頷いた。キスとは、世間の人々にとっては愛の確認なのかもしれないけれど、私達にとっては、命の確認。
いつも怖くなるんだ、もしかしたらもう死んでるんじゃないかって。
唇を重ねて、他人の温度を感じて、生きてることに安堵する。
決して、生に執着しているわけではないのだが、死ぬことは怖くてたまらない。身体の痛みとか、そんなものじゃなく、「私」が消えることが。
私にとっての死は、心臓や、呼吸が止まることではない。
ここから、真っ白になって消えてしまうことだ。

白が怖い、白が怖い。
それを消す為だったら、たとえ血であっても流すだろう。
それで私の生が色づくのであれば。

どうか先生、見放さないで。殴ってください。
私達に触れて欲しい。死んでないか、確かめてほしい。
何も無いくらいなら、全身の痛みで心臓が止まるほうがいい。

なによりも「無」が怖い

なによりも「白」が怖い

ただ、もしこのまま真っ白な人生が続くとわかってしまったならば、私は大量殺戮を起こしてしまうかもしれない。
たとえ、それで死が訪れようとも。
他人の赤だろうとも、私は色を欲するだろう。

今はただ、あいつの温度で確認するしか方法はなく、

「死んでいないか」確かめ合うだけ






エントリ3  スパークしてもこうなるのは僕(ら)だけ     歌羽深空


今年の夏は散々台風一家(一過だったか)に家族の仲睦まじさを見せ付けられ、僕らは戦後最大の猛暑というのを体のみならず脳みそまできっちり体感させられた。ケーキを暑い所で放置しておくとイタんでしまうように、暑さでやられた僕らの脳みそは、スパークしてはじけ飛んだ。頭の中に何も無いような状態になり、分別のつかない僕らはついにとんでもない事をやらかした。僕ら子どもが愛飲する素敵な飲み物に、カルピスというものがある。あれに、そのぉ、ねえ、……ゴニョゴニョ、を入れたのだ。その抽出方法は今でも恥ずかしい。しかしその羞恥心空しく、特“精”カルピスは、よりにもよってうちの婆ちゃんに飲み干される事となった。それを見てしまった僕らは、ショックと同時にカルピスを原液で飲んだ婆ちゃんへの尊敬の念と、なんだか僕らが結果的にとても傷ついた感を押し込めて、心の鍵を閉めた。

さて、話を今に戻す。今年の冬は散々寒くなるとどこかの学者先生が言っていたにも拘らず、稀に見る暖冬。雪はまだかーまだかーとまるで子どもを追い掛け回すナマハゲの如く待ってみた所で、降る筈も無い。するとやはり僕らとその脳は……またもスパークした。どうやらこの前の酷暑の所為で、スパークしやすくなっているらしい。

しかし、神様という存在は実にうまく出来ているもので、願ってもいないのに(スパークしてしまったら、今更どうでもいい)、次の日、綺麗な雪を降られてくれた。これで僕らの頭も固まるかな、そう思っていたのだが神様はそこまで気が利かない。雪が降っても幾ら寒くても、僕らの頭はスパークしたままだ。どうしよう。

僕らはまるで操られているように台所へ向かい、牛乳パックを掴んで部屋に戻ってきた。冬場、ココアやホットミルクを作ったりするのに必要不可欠な存在、牛乳に僕らはさも当たり前のようにゴニョゴニョを入れた。なぜだか、もう羞恥心は余り無い。ゴニョゴニョの正式名称まで叫べそうだった。

しかし牛乳を戻しに行った矢先、事件は起こった。妹のやたら体が艶かしい某人形に、躓いてしまったのだ。僕の腕を掴もうとする友人、だが、その努力空しく僕は床に倒れた。妹の人形にかかる牛乳。泣き喚く妹。ああ、全てがスローモーションだ。頭を打って朦朧とする(スパークしきった)脳みその中で僕は、牛乳の雫やシミがつくその人形を見ていつもよりもかなり心地よい快感が、頭の中を貫いて……真っ白になった。






エントリ4  白の誘惑     隠葉くぬぎ


 風邪で一週間ほどゴブサタしていたバイト先に、久々に出勤した。
「こんばんわ」
 社員のさおりさんが久しぶり、というように軽く手をあげる。頭を下げながら部屋に入った私の目に、ふと見慣れないものが飛び込んでくる。私がそれを質問しようとした時、背後からサキーと耳慣れた声。振り向くと先輩の浩太さん。と言っても一番の新入りの私には先輩しかいないのだけれど。
「もう大丈夫? てかサキがいなくて寂しかったよう」
「えと、まだ大丈夫じゃないんでそんなにくっつかない方がいいと思うんですけど」
 コタ、早くタイムカード押しちゃいな、とさおりさんが促し、押していなかった私も浩太さんの横に並ぶ。細長の厚紙を機械がのみこんでいく間に、あれ、新品ですか、と浩太さんに少し小声で話しかける。浩太さんは少し首を傾げて「あれ」を見たあと吐き出された出勤簿を元の位置に戻した。
「シーツの事?」
 頷いて視線を巡らせると、やはり大量のまぶしい白が視界に飛び込んでくる。うずたかく積まれる新品特有の白さに、私はイケナイ欲望を抱いてくらくらする。
 常々もうダメだろう買い換えようと裏で表で言っていたのを、ラブホのシーツなんか寝タバコで焦げようがナニで汚れようがそんなこと求めてきてるんじゃないんだから一緒、とさおりさんは言っていたのだ。
「この前、集めたシーツの中にタバコが紛れこんでんのに気付かなくて、まとめて使い物になんなくなっちゃったんだよね、で、あれ」
 さすがのさおり姉さんも客に半分焦げたシーツは提供できないらしい、そう言って小さく笑う浩太さんの話を聞く間にも、白いかたまりが目から離れない。私はそっとその新品のまぶしさに近づいた。ちらと様子を伺うとさおりさんは先程の話を聞いていたらしく浩太さんとじゃれている。今。
 少し勢いをつけてダイヴする。頬に触れる白いそれは思ったより新品の張りがなかったけれどひんやりと心地よい。子供の頃に布団に倒れ込むのと同じ感覚。
「あ、こら佐樹っ」
 さおりさんの叱責の後、仕方ないなあと言うような溜息が聞こえたものだから、調子にのって私はさらに体重を預ける。シーツの山が歪み始め、崩れそうなのを私は抱きかかえる様にして体を埋めた。
「こんにちはー」
 この声は多分私の次に新入りの蛍くんだ。私は顔も上げずに、羨ましがれとばかりその白の感触を楽しむ。
「……あれ来たの一昨日でもう使用済みだって教えてあげてますか?」
「本人満足してるみたいだからいいんじゃない?」
 げ。






エントリ5  煙師     スナ2号


 とても不思議な思い出がある。
 それは、金魚のルネが死んだ日曜日。アンニュイな子供だった僕にとって、ルネは唯一の友であり、僕らは声なき会話で心を通わせていた。と思っていた。
 そのルネが死んだ。僕は泣いたが、本当は、ルネはただの金魚で、心の会話は、僕の独り善がりに過ぎないと、どこかで知っていた為、心の奥はさらさらと無機質だった。つまり世界が崩れる程の悲しみは感じなかった。
 でも、それなりに悲しかった僕は、ルネが天国に行けるように、より天国に近い所にある、丘の上公園に墓を作る事にした。墓前で亡きルネに想いを馳せていると、いつの間にか後ろのベンチに、ちょび髭の紳士が腰掛け、興味深げに僕を眺めていた。
「君はかれこれ二時間そうやって座り込んでシャベルを見つめているが、一体何をしているんだね」
「金魚が死んだので、お別れをしていたのです」
「そうか。悪いな。湿っぽい話は苦手なんだ。その話はやめよう」
 こんな時、優しい言葉をかけるのが、大人の義務であるという観念を持っていた僕は、その言葉に面食らい、腹を立てた。
 僕の顔が引きつったのを見て、ちょび髭は、
「気を悪くしたようだね。お詫びにいい物を見せてあげよう」
 と言って煙草を取り出した。
「新作が出来てね。普段人に見せたりしないんだが、君は運がいい」
 見せたくて仕方ないらしいちょび髭は、恩着せがましく言い、手にした煙草に火をつけた。
 おもむろに思いきり吸い込むと、煙をはいた。絶対に驚かないつもりでいた僕だったが、思わず驚嘆の声を上げた。
 煙は馬の形をしていた。
 一瞬で消えたが、たてがみまでくっきり見えた。拍手すると気を良くしたのか、ちょび髭は色んな形の煙を出して見せた。
 船、星、猫、薔薇の花。最後に、うむむ、ぽっ、と金魚の形の煙をはいた。
「以上だ」
 ちょび髭は時計を見て言った。良かったら訪ねて来てくれ。と、名刺をくれた。そして、また煙草に火をつけ、僕がそれをじっと見ていると、煙は生きている物の様に、線を描き、渦巻いて、気付けば白い竜に変わっていた。
「では」
 ちょび髭は竜にまたがると、あっという間に空に消えた。

 名刺は、刷りが甘くて名前すら読めず、残った文字もいつの間にか消えてしまい、あれが手品だったのか何なのか、今更確かめる術はないが、ただ一つ確かなのは、ちょび髭の作った煙の金魚は、解けてまっすぐ空に昇って行ったから、ルネは天国に行った。






エントリ6  潅涙     関口葉月





 わたしはいつも遠くから白い建物を見ていた。
 真っ白の壁と、同じように真っ白の扉。
 きっとあそこは天国に通じているのだろうと思う。

 いつか、あそこへ行けるだろうか。

 ふと、誰かと目が合った。
 そのひとは無表情で、じっとこちらを見つめ返す。
 きれいな色をした眼に、わたしは、このたくさんの人間たちの姿は、どう映っているのだろう。
 詰め込まれるようにしながらそう思った。
 狭い。押し込まれる。誰かの身体とくっつく。
 なのになんでだろう、少しも『一緒にいる』気がしない。

 重苦しい鉄が閉ざされた後に、ジュウ、と焼けるような音がした。この部屋は暑い。
 たった今から空気は毒に蝕まれて、それはわたしたちを殺すのだろう。
 恐い。少し息苦しい。叫びたい。
 それなのに、涙は出ない。指先はいやに冷えている。
 ……ああ、きっと涙は沈殿してしまったんだ。
 水に溶けきれなかった粉みたいに。
 わたしの深い、深いところに沈みこんで、わきあがって こない。

 熱くはなるのに、からからに乾いてしまって水滴を落とそうとしない眼球を抑えた。
 ものすごく恐いのに、死にたくはないのに、どこかで納得している自分がいる。
 心臓は無機物になってしまったのだろうか。

 ぐるぐる巡る恐怖と平静を持て余しながら、窓の影からじっと見つめていた白い建物を思い返した。
 外にいる、きれいな色をした人達は、あの建物と似ている。
 美しくて、少し恐い。締め付けられる。

 あの白い壁、白い扉、妙に黒々と感じられた影。
 触れてみたくて、その中に入ってみたくて仕方なかった。
 当然のように、近付くことすら出来なかったわけだけれど。

「……」

 それでも、いつか。
 全部が終わったら、行けるだろうか。
 生まれる前に犯した罪を、それを証明する肌の色を、償いきれたら。
 そうしたら、あそこへ行けるだろうか。
 あのきれいな、白い壁に、触れることができるだろうか。

 空気の色が濁っていく。肺に空気が入りにくくなる。
 わずかな酸素に喉の奥が締め付けられて咳き込む。
 やっと滲んできた涙はひどく苦かった。

 ああ、あの白い建物へ、行けるだろうか。
 あの白い扉に、触れることができるだろうか。

 きっとあの建物の傍には白バラが花をつけるだろう。
 それを育てるのは自分の、ここにいる人間たちの、この苦い涙だろう。
 何故だかひどく唐突に、根拠のない上に理由もなにもわからないことを、確信した。

作者付記:潅涙…
 『潅水(植物への水やりのこと)』を元に作った造語です。

白バラ…
 ヒトラーへ消極的な抵抗運動をした、大学生を中心としたグループです。