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第13回中高生1000字小説バトル Entry1

夜叉まつり

おはやしがきこえます。おまつりでしょうか。
音のほうへ、吸い寄せられるように歩いてゆきますと、朱塗りの大きな太鼓橋のまえへ出ました。橋のまえに、鳥居が建っております。それをくぐってゆきます。
おはやしの音が、だんだんと耳に近くなってきております。もう少しで追いつきそうです。
橋をわたりおえますと、ゆるやかに曲がりくねった坂道がつづきます。道の両側は、桜の木がたくさん植わっております。そこを、早足になって、歩いてゆきます。
桜の葉のむこうに、田楽灯篭がちらちらとゆれているのがみえます。

ごせんぞさまは もうかえり

雪舞う季節にゃ まだはやい

うたえおどれや 今日だけは

夜叉も笑顔じゃ ほれポンポン

つづみのはずんだ音がきこえます。やっと、おはやしの行列がみえてきました。
いちばんうしろから、そっとついていくことにしました。みんなまえをむいていて、顔がよくみえません。

おてんとさまは もう沈み

おつきさまには まだはやい

うれしたのしや 今日だけは

夜叉も笑顔じゃ ほれポンポン

あかい幟のはためいているのが、みえてきました。
おやしろをかこんでいる林は、カエデでしょうか。小さいのや大きいのや、とんがったかわいい葉っぱが、どれもきれいに色づいております。
おはやしは、おやしろのまえまできました。

哀しみしょった おにの顔

ほおをににっと あげまして

まつりだまつりだ 今日だけは

夜叉も笑顔じゃ ほれポンポン

わぁっと歓声があがりました。みんな、手をとりあって、よろこんでおります。
やっと顔をみることができました。きばをむきだした、夜叉の顔です。
夜叉たちの、哀しみにみちた目が、笑顔にかわりました。なみだをながしてよろこんでおります。夜叉たちの哀しみにみちた心も、まだ笑顔を忘れてはいなかったようです。笑顔を忘れてしまうのは、夜叉たちにとっても哀しいことなのでしょう。笑顔を忘れないために、夜叉たちはおまつりへやってくるようです。
笑顔になった夜叉たちは、ふえやたいこを、にぎやかにかき鳴らします。みんな、手に手をとって、おどっております。
そっと、おやしろからはなれました。
夜叉たちはこれから、月がのぼるまで、宴会をするのでしょう。
今日は、夜叉まつりの日です。

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