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第13回中高生1000字小説バトル Entry4

晴れすぎた空


 湖に浮かぶボートを見てた。
 白い柵に歩み寄る。
 そして後ろを振り返る。
 彼に、私の大好きな彼に、私の思いを伝える為に。

「綺麗だね」
 私の言葉に彼が頷く。
「ねえ、ボートが気持ちよさそうだね」
 涙があふれそうになる。

 私は知ってた。
 彼が栄花を好きなこと。

「ねえ、あのさ、雄生」
 言い淀んでしまった私を彼が見つめる。

 私は知ってた。
 栄花が雄生を好きなこと。

 彼は、とても優しい人だから。
 私の気持ちがわかってて、ひたすらに栄花への気持ちを隠してた。
 栄花も栄花で、彼への気持ち、隠してた。
 でもね、あんまり、意識しすぎてて、逆に気にしてることわかってしまった。

 もう一度、湖の方を向いて、
「ボート乗らない?」
 私は最後の言葉を口にして空を仰ぐ。

 記憶の向こうの空がよみがえる。
 あの時も空は綺麗な羽を広げてた。

「なぁ、ここのボートってさ、妙に家族連ればかりだよな」
 彼が不思議そうに言う。
「あのね、ここのボートって恋人同士で乗ると別れちゃうってジンクスがあるんだって」
 いつか、栄花から聞いた話を彼に伝える。
「へぇ、知らなかったなぁ」
 納得したようにうんうんと頷く彼に、私はふと浮かんできた考えを彼に告げる。
「ね、もし、どっちかが別れたいと思ったら、ここに来て、『ボートに乗ろう』って言うことにしようよ。なんか格好良くない?」
 水面に映った空に彼の影が揺れる。
「そうだな。でも、もし、お前がそういったら、俺は絶対、嫌だって言うからな」
 彼が、そういってくれたのが嬉しくて、
「私も、もし、雄生がそういったら、絶対嫌だって言うわ」
 そう、言って頬笑みあった。
 私たちの視界には、晴れた空の柔らかな光が射していた。 

 彼に背を向けて、水面の硬質な輝きを見ながら私は彼の言葉を待っていた。
「ゴメン……」
 そう呟いて、彼が立ち去るのがわかった。

 振り向くことが出来なくて、
「『嫌だ』って言ってくれるって言ったじゃない」
 あの時とは違う空に、救いを求める。
「『絶対嫌だって言う』って、『絶対嫌だっていうからな』って……」
 霞んだ声で繰り返す。

 私の歪んだ視界には片翼を奪われた空があった。
 櫂が花作る水面が、痛々しく晴れすぎた空の切れ端を映していた。

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