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第14回中高生1000字小説バトル Entry11

狐の嫁入り

 降り積もった雪はスベテを白く染め上げ、何もかもを呑み込んだ。
白い世界には何の音も無く、静かに雪だけが降り積もっていくだけだった。
吐く吐息も、冷ややかな水蒸気となり天へとのぼってゆく。


 静寂に呑み込まれそうになりながら、
一人の紳士が雪に足跡を残すように雪道をゆく。
肩にも帽子にも真っ白な雪が積もり、身を切るような寒さに震えながら、
紳士は家への帰路を急いでいるのだ。

 忙しなく足を運ぶ紳士の目に、ふと壱つの灯が飛び込んできた。
外套の中に隠した顔を擡げ、男は灯をはっきりと確認した。
少し離れた所に弐つの小さな灯が燈されている。
『何処かの家の灯であろうか』と暫く灯を見つめていると、
男が二人、共に灯の点いた行燈をもって此方へと向かってくるのが見えた。

『行燈とは珍しい』
しげしげと行燈を眺めていると、向かって右側の男が紳士に向かって声をかけた。
「花嫁が通ります。路を開けて下さい。」
『花嫁?こんな日にか?』
紳士は不思議に思った。
「こんな雪の日の夜更けに婚礼など聞いた事もない。いったい何方なのですか。」
紳士の言葉には耳も貸さず、今度は左側の男が口を開く。
「花嫁が通ります。路を開けて下さい。」
隣の男と一言一句同じ台詞をはいた男の顔は、右の男と同じ顔をしていた。

 刹那、『双子なのだろうか』とも考えた。
しかし、それにしてもあまりに男達は似すぎている。
ぞくりと、気味の悪さを感じた。
「わかった。退こう。其れでいいんだろう。」
紳士はは男達に従い、路の横へと逸れた。
それを確認した男達は、また行燈を提げて雪道を歩いていった。

 半強制的に移動させられたことから、紳士の疑問は深まるばかりであった。
『駄目だ。気になって仕方が無い』
紳士は耐えきれず、来た路を戻る為駆け出した。


 もと居た路に戻りついた紳士は、はっきりとその花嫁行列を確認した。
白い世界に響き渡る鈴の音と、白無垢に身を包んだ花嫁は、
この世のものとは思えぬほど美しかった。
雪に見劣りせぬほどに白く滑らかな肌には真っ赤な紅が映え、
また其の眼は何もかもを見据えたような黒く深いものであった。
ふと、花嫁と目が合った。
花嫁は、静かに笑みを浮かべ、柔らかに会釈した。
紳士はただ呆然と、花嫁行列を見送る事しか出来なかった。

 ぼんやりと路を行く紳士の眼にまた灯がとまった。
しかしそれは、婚礼の灯ではなく、通夜の灯であった。
その家では今夜、若い娘が一人、亡くなったそうなのだ。

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