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第15回中高生1000字小説バトル Entry1

交差点の少女

 冬が少しずつ近付いて来た、とある寒い日の夕暮れ。
 この大通りの交差点には、コンピューターのシミュレーションのように車が無造作に走り過ぎて行き、人がロボットのように故意に歩調をずらしながら歩いていく。
 いつからこの街はこんなに色褪せたんだろうと思いながら、横断歩道を早足で渡る。

 もう冬が近いな。
 そんな当たり前のことを感じながら、とにかく早くこの作為的な喧騒から離れようと思った。

 その時、偶然か必然か、錆びた店舗の壁に寄りかかって、コンクリの地面に座っている女の子を見つけた。
周囲を歩く人間は彼女を視界の隅にも置かず、さっささっさと通り過ぎて行く。
 もうすぐ太陽が沈むこんな時限に、こんな場所で一体何をしてるんだ。
「何してるんだい?」
 近付いてそう尋ねると、少女は俯いていた顔を僅かに上げた。見ず知らずの人を警戒するその怪訝そうな瞳は、どこか寂しげに思える。
「…人待ち」
 か細い声で答えた彼女の唇は、少し紫がかっていた。
 長い黒々した長髪も、その一本一本が繊細に氷のように冷たい光を放っている。
「何時間待った?」
「関係ないよ。もうすぐ、来るから」
 確かに関係はないんだが、放っておくわけにもいかない。
「じゃ、俺も一緒に待ってやるかな」
 彼女の隣のコンクリに腰を据えると、さすがに、少女はひどく邪魔そうな顔をつくる。
「余計なお世話」
「当ててやろうか。彼氏待ちだろ」
「うるさいなー。私の勝手だよ」
 ふーん、彼氏ね。
 ともかくこの女の子に間違いないなさそうだな。本人に自覚がないのが厄介だけど、それは気付かせれば済む話だ。こういうことはあまり言いたくないけど、仕方ないか。
「彼氏は来ないぞ。いくら待っててもね」
「?」
「三日前、君と君の彼氏はここで会う約束をした。早く来ようと思った君は、前をよく見ずに走ってた」
 少女の表情が蒼白になってゆく。
「待って、何の話?」
「君は…三日前に死んだんだ。すぐそこで、車に撥ねられてね」
「…!」
 少女は驚いた顔をした。
 が、否定せずに、ゆっくり眼を伏せた後、またゆっくりと開いた。
「そっか…道理で街の人、私に気付かないわけだよね…。そうかも知れないって、感じてた…」
「…1人で逝けそうかい?」
「うん…ありがと…」


 自縛霊の駆除も楽じゃないな。
 まあ、いいか。

「次の人生は自殺なんかしないで、死ぬんだったら今の作り話みたく、誰かのために、な」

 天国(かどうかはわからない)に逝った少女に別れの言葉を告げると、帰路を急いだ。

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