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第16回中高生1000字小説バトル Entry8

彼のような人生

 生存を自覚した時から、あたしは大勢の中の一人だった。
 周りには、あたしと同じような子達がうようよしている。
 毎日規則正しい時間に食事を与えられ、食べて排出する以外にすることはない。
 適度な温度と湿度の中で、ただただ育つ。
 分け隔てがないけど、特別もない。

 ある日、あたしは急に不安定になった。
 誰とも関わり合いたくなくて、ぎゅっと丸まる。
 1回ちらりと周りを見てみたら、あたしの他にもそういう子達がいてちょっと安心した。
 だけど、そっとしておいてほしいのにちょっかいをだしてくる子もいる。
 そういう時あたしは決まって、噛みつかんばかりの勢いで彼等を追い払った。

 そんな情緒不安定の日々を送っていると突然、環境ががらりと変わった。
 それは丸まったままのあたしに激しい衝撃を与え、思わず顔を上げる。
 そこには、自由な者達がいた。羽の生えた、自由なのだ。
 彼等は好きな時間に食事をとり、忙しそうに飛び回っている。
 “男”と“女”という区別もはっきりしている、成熟した彼等にあたしは憧れた。

 そしてついに、あたしは羽を手に入れた。これであたしも憧れの仲間入りをしたのだ。
 飛び回って飛び回って、とても忙しくて疲れるけれど充実していた。
 ところが、あたしは気づいてしまう。これが本当の自由ではないことに。
 どんなに高く、どんなに遠くへ行っても、超えられない壁がある。
 この壁の向こう側で、あたしは真の自由を手にするのだ。

 機会はすぐに訪れた。外側から誰かが壁を壊したのだ。囲いの中は大騒ぎになる。
 あたしと、他にも外の世界を求めた者達は、すかさずその穴から抜け出す。
 これで本当に自由なのだ。ここであたしは素敵なものに出会うのだ。
 そしてあたしは、求めて焦がれてしょうがなかったものに辿り着き、下り立った。
 ……風が吹いて、あたしの目の前は真っ暗になった。


「捕まえた。どうやらこれが最後の1匹だな」
「え〜と…教授、これはメスですよね?」
「その通り。この口の形で分かるな。血を吸うのに適してる」
「…本当にすばしっこいですね、エサ交換のために数秒ふたを開けただけなのに」
「まぁ、潰してしまえば問題ない」
「それにしても。こんなに繁殖させてしまってどうするんですか?」
「もちろん、研究に使うのさ。スーダンから新情報が来たしね」
「なるほど。はやく完璧なキュアが見つかると良いですね」
「あぁ、マラリアは未だ人類の脅威だ」

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