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第16回中高生1000字小説バトル Entry9

ドット

 私が今日こんな田舎にある終点の駅に来たのは別に理由があったからじゃない。強いて言えば今日は雨で、いつもより支度をダラダラとして電車に乗り遅れたからかもしれないし、学校へ向かっている途中景色を見ていたらいつもよりクリアに見えて目が離せなくなったからかもしれない。
 私が駅に降り立つと私しか電車に乗っていなかった事に気付いた。駅の構内にはおじいさんが動かず座っているだけで静止している絵画を見ているようだった。私は駅の端まで歩いて黄色の線の内側に立ち空を見上げた。別に理由なんてなくてただ道があって空が見えたから、そこから電車が来る方向に一歩一歩歩き始めた。
 雨はもう止んで曇り空は覆い被さる様に私を圧迫し私の心はは壊れたメロディーを奏で始めた。
 今日は雨だ。そういえば昨日は起きた時すごくいい天気で幸せだったっけ。でもその時は夕方から土砂降りになるなんて知らなくていつもよりたくさんの人におはようって言ったんだっけ。昨日雨に気付いたのはいつだっけ。そうだ、あのバカの家から出た時だっけ。それまでは晴れてて気持ちいい風が吹いてたのに、家から出た途端土砂降りで体が冷たくなったの、覚えてる。あのバカの家にはどれくらいいたんだっけ。昼にあのバカが迎えに来てコンビニに寄ってから家に行って、それからどうしたんだっけ。テレビを見ながらお決まりのパターンでセックスをしてその後何をしたんだっけ。何を話したんだっけ?何を?何を?何を何を何を…
 呼吸を整えてもう一度空を見上げる。少しまた雨が降り始めた。
 あぁそういえば昨日あのバカが私に突き出した紙はこんな色をしてた。黒くないけど、白くない。少しドット模様の様な。私はあのバカにたばこの火をもらってそれを読んだんだっけ。あのバカは私の顔色を伺って動かなかったからたばこの火をあのバカの胸に押し当てて泣いたっけ。あのバカは普段偉そうで
私の言う事なんて聞いた事もないのに抵抗しなかった…っけ。私が何をしても抵抗しなかった…け?私は何をしたんだっけ…?私は何で今日の朝おきれなかったんだっけ…?私は何もしてないよ。だってあのバカを愛してたから。ずーっとずーっとあのバカと一緒だから…
 「あっ!君っ危ないっ!」
 黒くないけど白くない、ドット模様の手紙の右端の本当に端の小さな真実。

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