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第18回中高生1000字小説バトル Entry4

悪夢

「心」は、あなたにはありますか?
 私はありません。
 なぜって?
 それは私が、造られた機械だからです。機械なんかに、心はないんですよ。
 ところで話は変わりますが、私の御主人様はロスといいます。御主人様はとても女癖の悪い方で、度々女性の方が奇襲しに来るんですよ。武装して。
 先程、奇襲に来られた女性はたしか、モデルをなさっている綺麗な方でした。でも、鬼のような形相で私を睨み付けてきたんですよ。
「ロスはどこ?!」
と。
 私は動じずに、言ったんです。
「御主人様は生憎席を外してますので、後程またアポイントをお取りの上、再度来訪していただけませんでしょうか?」
と。
 そしたら、暴れ始めたのです。手に持っていたライフルを数発撃って、シャンデリアを一つ壊されました。
「殺してやる! 殺してやる!!」
 本当にその女性は、怒りに狂っていらしたみたいです。私はこの方を危険人物と判断し、人体の急所を強打しました。
 女性は倒れ込み、長い髪の毛は、九尾という妖怪の尾のように広がっていました。
 私は警備ロボットを呼び、女性を病院へお連れするよう、指事を出し、御主人様の元へ急ぎました。報告のためにです。
 そして只今、御主人様の部屋の前にいます。大きく深呼吸し、ドアをノックしました。
「どうぞ」
 艶のある、太く綺麗な美声が、私を部屋へと促しました。
 この中に御主人様がいるかと思うと、自然に胸の鼓動が速くなってきます。
 緊張しているのでしょうか? 昔、ご老人にこの気持ちは”恋”だと、言われたことがありました。
「どうだった?」
「早急に処置いたしました。後程、旧型の警備ロボットは、”処刑”致します」
 私は”処刑”という言葉を、口にするのに、全くためらいはありませんでした。御主人様がそれを見るのが好きだと、知っていたからです。
「すまなね。君にはいつも迷惑をかけてばっかりだ」
 御主人様は笑いました。とげのある薔薇のように、華麗に微笑むのです。
 ずるいと、私は心底思いました。どんな残酷なことでさえ、私は御主人様のためにできるのです。
「でも、もうそろそろ買え時かな?」
「え?」
「僕の言ってることがわからないの? 君も、”処刑”してあげるって言ってるんだよ。僕のこの手でね。君なら、僕の頼みをきいてくれるよね?」


 夕方。

 私は、処刑台の上にいます。

 これが、悪夢だったらどんなにいいかと。

 流れることのない涙を、流しながら。

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