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第18回中高生1000字小説バトル Entry7

少年A

 久しぶりに学校に来たら、学校の雰囲気は変わってた。クラスの空気が気持ち悪い。『ジュケンセイ』になるかららしい。結構どうでもいい。適当にやってればどうにかなる。
 国語のテストがわかんなくて「天の神様の言うとおり」で決めてイって書いたら、隣の女の子が笑ってた。
「そこ、アが正解だよ」
 囁くとその子はくすっと笑った。僕も笑った。次の日に僕はもっと笑った。
 だってテストが終った次の日の葬式で、その子の名前を知ったんだ。

「奈々がお世話になりました…」
 真っ赤な目をしてその子の母親は手を握った。手は冷たくて、あんたの方が死人だろって言いかけた。あの子は白い菊に埋もれながら、写真でもくすっと笑いを浮かべてた。僕も笑った。二点上げてくれた感謝はしたかった。
「おい」
 担任が陰の方で手招きをしている。テストの点でも悪かったんだろうかと思いながら僕が近づくと、いきなり横っ面を殴られた。
「こんな時に、何をヘラヘラと笑っているんだ!」
 体育教師の担任は激しやすい。僕は口の中に変な味が混ざったのに気付いて、思わず唾を吐いた。赤い血が唾に混じってた。
「この野郎!」
 それを見た担任は何故かもっと怒って、首を締めあげんばかりに僕に近づいた。僕は逃げた。僕が逃げる様子を、あの子はくすっと笑って見つめていた。
 その視線に気を取られて、僕は前なんか見ていなかった。
 ――ドンッ。

 肋骨二本・右膝骨折。
 まだ軽い方だ…と医者が誰かに説明していた。そうだ、母親だ。週一回しか帰って来ない、あの。
「まったく、こんな事ばかりして」
 この人のきつい香水と厚化粧は昔から苦手だ。
「保険がなかったら、どうなっていたか分からないわよ」
 僕は寝たふりをする。
「明日、学校から何人かでお見舞いに来るって」
 彼女は乱暴にドアを閉めた。
 それで僕はいいことを思いついた。

 ぱん、ぱん、ぱん!
 やっぱり驚いてる。僕は嬉しくなった。隠し持ってたクラッカーは効果満点。なのに花束を抱えた女の子は、頭にリボンが落ちると泣き出した。
 看護婦が来る、医者が来る。
 僕は病室から逃げ出した。右足は床に付く度に痛むし、息をするのも苦しい。逃げろ。僕はそのことだけを考えて走った。僕は走る。逃げる。逃げろ。僕は逃げるのは嫌いじゃない。前は見えない。見ない。走る。窓だ。転がり出る。逃げろ。僕は白い建物から放り出されて笑った。

 そう、それから僕は何も覚えてないんだ。

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