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第18回中高生1000字小説バトル Entry8

笑うのは、ひさしぶりだけど

 僕は自分の席が好きだ。そこに座っていれば不自然じゃない。当然の権利なんだ。誰も僕を否定したりはしないし、疎んだりもしない。
 そうだよ。誰も話しかけてくる友達がいなくても。
 でも、とある昼下がり。
 そいつは、突然僕に話しかけてきた。

「やっほー。相変わらず暗いね〜。小林君、だっけか?」
「…?」
 僕は言葉を出さなかったけど、その少女は光風霽月な笑顔のまま言葉を重ねる。
「あ、私わからない? 沢村りえっていうの」
「そのくらい、知ってる」
 当たり前だ。これでも二年間同じクラスなのだから。
 髪を茶色に染めていて、見ているだけでもわかるポジティブな性格で、クラスのムードメイカー。
 僕とは、比較のしようもない溌剌な少女だ。
 何故その沢村りえが僕に話しかけてくるのか、理解できない。
 どう考えても説明ができず、僕は困惑に似た憂いた顔をしていたが、沢村は何の分け隔てもなく続ける。
「あのさ、私、乙女座なんだけどね」
「は?」
「今日のラッキーパーソンがね、『普段話さない人』だったの。でも私、かなり顔広いし? 話さない人って言ったら友達全然いなさそうなあなたしかいなくてさ」
「………」
 僕は何も言わなかった。
「あ、もしかして傷ついた? 意外にデリケート?」
「別に」
 ぼそり。僕は目線を逸らす。
「そうやって会話終わらせないでさ、もっと語尾に?とか使いなよ」
 意図された嫌味なのか? いや、そんなことをする性格には思えないけど…。
 沢村はその表情を見て少し目許を動かしたが、すぐに微笑を零した。
「ま。あなたのおかげで私は今日ハッピーだよっ。ありがとね」
 最後まで笑顔を浮かべたままで、沢村はその場を去っていった。

 星占いは、毎日見ている。
 今日の乙女座にそんなラッキーパーソンはなかった。
 今日の乙女座のラッキーパーソンは、『笑顔で話しかけてくる人』。
 そう、僕は、乙女座。

 彼女は本当に乙女座なんだろうか。
 だとしたら、今、僕が笑顔で話しかけてこそ、彼女は幸せになる。
 うまく笑えるだろうか。いや、笑うのは方法じゃないんだ。
 思うままに、彼女に話しかければいいんだ。

 僕は席を立った。

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