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第19回中高生1000字小説バトル Entry10

‘if’

「久しぶりだな、慶斗」
 あたしは今、あんたの事故現場に来ている。墓じゃなく、なんとなく気分で事故現場。
 ココに来るのは、あんたが交通事故に遭った時に一回来たきりだ。それ以降、私はココを訪れようとはしなかった。
 別にあんたの死に顔を思い出すから。とかじゃねえぞ、一様。
「にしても、寂しいとこだな」
 あたしは周りを見回す。
 ココは静かな住宅地にある古びた歩道橋の真下。
 黒いコンクリートに歩道橋の影が降り、さらに暗くなっていた。 
 手には長身の私でも不似合いにな、大きな花束をぶら下げている。
 自分自身でも、信じられない。
 今頃、あいつの事故現場に来ようと思うなんてさ。
 なんたって、事故は三年前。近いようで、遠い昔の出来事だった。
 当時、高校生だった私は、今となっては大学生だ。
 事故現場に向けて、花束をどっと置く。ユリ、カーネーション、カスミ草。なんだか、母の日のプレゼントみたいな花束だ。
 常識がないと言われようと別によかった。
 だって、あたしは常に常識なんて持って無いからな。
 
 パンパン

 神でも拝むようにして(拝むのはあんただけど)、手を叩く。
 ちゃんと成仏したかな。
 とか、
 元気でやってんのかな。
 とか。
 そんな他愛のないことばかり、考えていた。
 ふいに、あんたと恋人として過ごした日々を思い出す。
 怒ると黙り込むあんた。 
 大人数に喧嘩ふっかけられて、逆に一人でこてんぱんにしたあんた。
 頭は悪かったけど、それなりにカッコよくて好きだったな。
「あのな、実はあたしさ、告られたんだ。どうしような?」

 沈黙。

「って言っても、答えてなんかくれないよな」
 自嘲ぎみた声で、こんなこと言うなよあたし。思わず突っ込む。
「あんたもう、死んじまったんだもんな」
 あんたがまだ、忘れられないなんて。
 今、たった今、気付いた。
「もし、あんたが生きてたら、『俺だけ見てろ』なんて言ってくれるか?」
 理解していて、言った。
 ‘もしも’なんて有り得ない。
 期待するだけ無駄なのにな。
 神様なんてもんが現れて、あんたを生きかえらせてくれたら……!
 そんな想像に心踊らせたとしても、所詮は創造物。
 本物ではないのだ。
 でも、‘もしも’なら、どんなによかったことだろう。
「あんたは、『他の男と付き合うのやめろ』って、言ってくれるか?」

 答えのない問い。
 
 あたしはすっと立ち上がる。

 大学へと、着実に一歩、歩き出した。

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