←前 次→

第20回中高生1000字小説バトル Entry1

会心の一撃

 勇者は、最終面の最終、ラスボス手前の、長い廊下をひた走っていた。
 嫌らしいくらいに暗く、おどろおどろしいBGMで、セーブポイント無し。
 装備は万端、パラメータも十分に伸ばした、と佐腹太司は考えていた。
 今、自分の部屋でゲームをしている。
 散らかった部屋の所々にチョコやコーラの空き缶が落ちている。これは生活習慣病の必需品。
 佐腹太司は、その名前に相応の体型をしていた。お菓子で形成された人種である。
 脂ぎったコントローラーは今にもその手から落ちそうだ。
 そして、勇者は扉の取っ手に手をかけた。重苦しい音と共にゆっくりと奥が見える。
 おそらく勇者と戦うのであろう魔王は不敵な笑みを浮べていた。
 上等だね、と太司は思った。こっちには剣士が一人と魔法使いが二人がついている。
 「よくぞここまで来たな。命知らずめ。この私に勝てるとでも思ったか。フハハ」
 きっと、この魔王は、勇者のレベルが何であろうとこの言葉を口にするのだろう。
 試合開始の音が鳴った。

 「勇者の攻撃!魔王に76のダメージ!」
 「魔王の攻撃!魔法使いに153のダメージ!」
 「勇者はヒールを唱えた!魔法使いは89の回復!」
 事は太司の考える悪い方向へ向かって行った。
 魔王は勇者より早く攻撃力アップに徹した為、魔王の一撃が痛烈なものとなった。
 只今、魔法使いが一人死に、攻撃役の魔法使いが回復をし、勇者が攻撃している。
 だが。その魔法使いも魔王の拳の前に倒れてしまった。これはピンチである。
 しかし、魔王のHPもそろそろ底をつくはずだ。もうすぐ倒れるはずだ。もう一度攻撃できれば……。
 「魔王の攻撃!」
 頼む。外してくれ。お願いだ。勇者、回避してくれよ……。
 「魔王の攻撃は外れた!勇者は攻撃をかわした」スカッ、という拍子抜けする音。
 「やった!」これは太司の声。
 だが。

 ドスッ

 何かの音がした、と思ったらそれは頭に何かが当たった音だった。何か頭が湿っている、と思ったらそれは太司の血だった。頭が痛い、と思ったら太司の頭は割れていた。目の前がぼやける、と思ったら太司は死んでいた。太司の防御は効き目が無かった。

 鮮血が太司の部屋を静かに染める中で、ゲーム画面だけが、けたたましく鳴っている。
 ディスプレイにはこう表示されていた。
 「魔王の攻撃は佐腹太司に当たった!佐腹太司に370のダメージ!佐原太司を倒した!」
 経験値は獲得しなかった。

←前 次→